ポケの細道   作:柴猫侍

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あけましておめでとうございます


第七十五話 暗いとか関係なしに突進してくるものは怖い

 初めて会った時に見たのは、優しそうな貴方の瞳。

 実際、貴方が優しいという事実はすぐに知れた事だったけれども、一緒に旅している間にそれは確信に変わっていった。

 こんなみすぼらしい私に、『一緒にチャンピオンになろう』と言ってくれた事は、本当に嬉しいことだったの。

 美しい地方として名高いカロス地方を共に歩んで、様々な景色を一緒に見る事ができた。

 

 アルトマーレを旅立った時に一緒だったストライクとヒトカゲ。彼等はもうハッサムやリザードンに進化して、頼りがいのあった背中が更に大きくなった。

 途中でタマゴから孵ったイーブイも、今はブラッキーになって私よりも大きくなったが、性格は孵った時とさほど変わらない。

 そして、トレーナーに捨てられてしまった所為で、臆病な性格に拍車が掛かっていたキモリも、今やジュカインだ。

 メガシンカしたクチートを打ち倒し、クノエジムの攻略に貢献した。

 

 それに比べて私はどうなのだろうか。

 最初のハクダンジム以降、ロクにバトルに貢献できていない。貴方も、他の皆も全然気にしていないような顔をしているけれど、本当はどう思っているのだろうか。

 貴方は皆に平等に接してくれている。活躍している皆にも、活躍できていない私にも。それを時々後ろめたく感じてしまうのは、私が我儘な所為だろうか。

 

 ハッサムは主人が是と言えば是と言う性格だから、私はチャンピオンを共に目指す仲間。それ以上でもそれ以下でもない。私にとっては、その距離感が逆に嬉しかったりする。

 リザードンは良い意味で大人だから、よく面倒を見てもらっているけれど、時々申し訳なく感じてしまう。

 ブラッキーはまだ生まれて一か月ほどだから、とても無邪気で、私のことをお姉さんのように慕ってくれている。

 ジュカインは一度トレーナーに捨てられた経験からか、リザードンとは違う雰囲気で皆に気を遣っていた。

 

 そんな彼等と一緒に居てしまうと、自分が本当に一緒に居ていいのかと疑問に思ってしまうことがある。

 同じ【みず】タイプなら、アルトマーレに居るギャラドスで充分事足りる筈だ。

 寧ろ、私なんかをずっとパーティに入れているよりも、ギャラドスを連れて行っていた方がスムーズに旅が進んだのではないか。

 

 最近は私の進化の事を示唆されて、先行きに希望が見えてきたけれど、私だけこんなことをしているだけでいいのかと申し訳なくなる。

 

 知っている。今の私は、決して皆と足並みを揃えられている訳ではないという事を。

 全員が漸く一緒に歩けるスピードを保っているという事を。

 

 彼等の足並みを遅らせているのは紛れもない、私だ。どんどん大きくなっていく皆の背中に焦りを覚えているのかもしれない。

 どうしようもない焦りを吐露できない私に対し、皆は―――貴方はいつも通り優しく接してくれている。

 だけど何故だか―――その優しさが辛く感じてしまう。

 

 

 

 ***

 

 

 

 15番道路―――通称『ブラン通り』。

 赤く染まった紅葉を散見することのできる、自然の綺麗な道路だ。季節の移り変わりによる景色の変化に定評のあるジョウト地方に住むライトは、このような通りに来たのであれば紅葉狩りでもしたいと考えてしまう。

 だが、生憎そうはいかなそうな雰囲気だ。

 

 実はこの道路、ミアレシティからあぶれた若者たちが屯している事で知られる道路であり、呑気に歩いていればカツアゲされることを待ったなし。

 パンクファッションの男や女が道の外れで煙草を吸っているのがよく見られる為、次なる街である『フウジョタウン』に向かう者達は、絡まれないかとビクビクしながら進んでいる現状だ。

 

 目を合わせなければ比較的絡まれないのだが、目を合わせずとも金を巻き上げてくる者は多く居る者であり―――。

 

「リザードン、“だいもんじ”!」

「うぉおう!? 俺のキリキザンが!! ち、ちくしょー! 覚えてやがれよー!」

(……漫画みたいなセリフだなぁ)

 

 リザードンの“だいもんじ”を喰らって戦闘不能になったキリキザン。全身刃物のようなポケモンをボールに戻した不良然とした男は、予想以上に強い子供に怖れを無し、全力ダッシュでどこかへ逃げていく。

 それを見届けたライトは、『ナイス』と声を掛けてリザードンの首を撫でる。

 しかし、その表情はどこか浮かない。

 

「はぁ……今日で十回目だよ……」

「全戦全勝……調子いいんじゃない!? ポケモンの経験値になるし!」

「気楽に言ってくれるけどさぁ。そろそろ皆も疲れてきたよ?」

「じゃあ、次からアタシ達がバトる?」

「……いや、いい」

「じゃあ、頑張れライト!」

 

 コルニの申し出を数秒悩んだライトであったが、トレーナー相手に経験を積めるということを考慮し、以後もバトルを請け負う事を明言する。

 今日で不良に絡まれること十回。全て、ライトがポケモンバトルで返り討ちにしたのだが、如何せんポケモンにもライトにも疲労が溜まってきた。

 最初こそ、いい経験値だとバトルをしていたが、こう何度も絡まれると肉体的も精神的にもキツイものがある。

 

 そして、相手の目的はライトのようにスポーツマン然としたものではない為、数回人間同士のリアルファイトに発展しかけた。

 だが、途中でハッサムという名のボディーガードが出現し、殴りかかろうとしてきた不良を返り討ちにしようとする。実際に返り討ちにはしないものの、顔の横スレスレに放たれる“バレットパンチ”に怖れを為した相手は、尻尾を巻いて大急ぎで逃げていく。

 その後も主人に手を掛けた不届き者をしばこうとするハッサムであったが、そこはトレーナーのライトが体を張って止める。

 

 こういった事が何度もあり―――。

 

「ヘットヘトだよ、もう……あぁ~、ブラッキ~」

「ブラァ~~~」

 

 突然襲われた時用にボールの外に出ているブラッキーの体をわしゃわしゃと撫でまわす。短い体毛を掻き分けて全身を撫でまわすライトの指に、気持ちよさそうに顔を緩めるブラッキー。

 その光景にクスクス笑っていたコルニは、小さいバッグを背負っているルカリオに目を遣ってからライトに話しかける。

 

「じゃあ、休憩しよっか! 休憩するがてらに……うん? どうしたの、ルカリオ?」

「バウッ!」

「あ、ちょ……どこ行くの!?」

「走ってった……」

 

 ブルーシートを取り出そうとしたコルニであったが、突然耳をピョコピョコと動かしてから東へ走っていくルカリオを見て、その後を追って行った。

 結構な速さで走っていく二人を黄昏た目で見ていたライトは、重い腰を上げてブラッキーと共に先に行ったコルニ達を追いかけていく。

 心安らぐ川のせせらぎも、落ち葉を踏みしめる足音によって掻き消されていく。

 

 数百メートルほど走った所だろうか。

 木製の橋を渡った先に、泣いている幼女を必死に宥めている女性が居た。幼稚園児にも満たないような年齢に見える幼女を宥めるのは、紫色のワンピースを着ていて不気味な雰囲気を漂わせる、所謂オカルトマニア風に見える女性だ。

 ワンワンと癇癪を起こす幼女の下に駆け寄るルカリオ。不意に駆け寄ったポケモンに驚く幼女と女性であったが、すぐに後を追ってやって来たコルニを見て野生のポケモンでないことを理解し、ホッと息を吐く。

 

「あぁ……この子は貴方のポケモンなの?」

「そうです! えっと……その子泣いてるみたいですけど、どうしたんですか?」

 

 ルカリオの隣にやって来たコルニ。パッと振り返れば、すぐ後ろにまでライト達が来ているのが見えた為、このまま話を進めてしまおうと疑問を投げかけてみる。

 すると、泣き喚く幼女の代わりに、オカルトマニア風の女性が口を開いた。

 

「……私達は姉妹なの。普段はフウジョタウンに住んでいるのだけれど、私と違ってこの子は【フェアリー】タイプのポケモンが好きで、この道路に生息しているクレッフィを求めてやって来たの」

「ほうほう!」

「だけれども、不良みたいな男が私達にポケモンバトルを仕掛けてきて……それで負けちゃった私達は、その男にポケモンを盗られてしまったの……」

「えぇ~!? ポケモンをとったら泥棒! トレーナーとして信じられない!」

 

 どうやら、ポケモンを奪われてしまったという姉妹。彼女達のポケモンを奪ったという男の話にコルニが憤慨したところで、ライトが隣までやって来た。

 

「ふぅ……コルニ、これは一体どういう―――」

「ライト! 出番だよ!」

「へ?」

 

 

 

 ***

 

 

 

「なんで~? 僕が~? 懲らしめる感じに~? なってるの~?」

「ポケモン盗った人の事、ライトは許せるの!? ライトならポケモンバトルで懲らしめるなんてちょちょいのちょいでしょ?」

 

 15番道路と16番道路に跨る廃墟―――通称『荒れ果てホテル』。何やら悲劇的な事があって寂れてしまったホテルは、今や廃墟となって不良たちのたまり場となっている。

 そこに潜入しているライトとコルニの二人。彼らの目的は、ここに屯しているという不良から、表に居た姉妹のポケモンを取り返す事だ。

 

 普段から正義感の強い二人であれば、取り返しに向かう事自体はなんら疑問の無い行動である。

 しかし、ライトの表情は終始こわばっていた。

 ガタガタと震えながらコルニの肩を掴むライト。もうコルニのまとめた髪の部分に顔が埋もれているのではないかという程、コルニの真後ろを陣取るライトは、忙しない挙動でホテルの中を進んでいく。

 

 辛うじて電気は通っているのか、点灯と消灯を繰り返す電灯。

土足で踏み回されて、ぐちゃぐちゃと汚れてボロボロになっている絨毯。

廃品でも入れているのだろうか。幾つも廊下には段ボールで築かれた塔が積み上がっている。

 白かっただろう壁には、スプレーを噴射して描いたのだろう落書きが無数に散見できるものの、点滅する光源の為、その全てを確認することは難しそうだ。

 

 如何にも廃墟な雰囲気のこのホテルは、地下に存在している。正確には、地下より上は既に崩れてしまっている為、ホテルとしての面影が残っているのがこの地下空間であるということだ。

 そんな地下空間では、窓から外の光が差し込む事は無い。故に、光源は点滅し続けている電灯のみ。

 

 余りにも頼りがいのない光源の中、震えるライトはこう叫ぶ。

 

「ここ……暗いよォ~~~!」

「モシッ?」

「あ゛あああああああああ!!?」

「モシィ~~~!?」

 

 ピョコッと部屋から廊下に顔を出したヒトモシ。その姿を見たライトは、コルニが耳に手を当てるほど絶叫する。

 驚くライトに更に驚いたヒトモシは、頭の青い炎を揺らめかせながら奥の方へ『ピューン!』と逃げて行った。

 

「ちょ……ライト。そんなに駄目なの?」

「……」

「ライト!? しっかりしてぇ~~~!!」

 

 フッと振り返ったコルニの目線の先に居たのは、口の中から魂のようなものを吐き出しているように見えるほどの放心状態であるライトの姿であった。

 何度声を掛けても反応しない少年は白目を剥いて、どことも知らない場所を見つめている。

 そんなライトの肩を掴んで思いっきり振るうコルニ。それは功を奏したのか、数秒後にはライトは『はっ!』と我に返り、先程よりも顔を青くしてコルニの肩を掴む。

 

「もぉヤダァ……おうち帰りたぁい……」

「ダメ! きっちりポケモン返してもらわないと!」

「ぐすんっ……」

 

 若干幼児退行が見られるライトに喝を入れたコルニ。だが、暗い所が苦手なライトが早々『はい、そうでしたね』と行ける筈もなく、覚束ない足取りで先行くコルニを追って行った。

 先にどんどん進んでいくコルニ。しかし、後ろから足音が聞こえなくなったため、流石に心配して振り返ると、

 

「……なにソレ?」

「……防御の布陣」

 

 手持ちを総動員させて自分を囲わせているライトが居た。

 リザードンの背中にがっしりと掴まるライト。彼の右にはハッサム、左にはジュカインが佇んでいる。そして肩に掛けているバッグの中から顔を覗かせるヒンバスは、後方に注意を向けていた。ブラッキーはというと、ライトの背後に位置取っており、背後の警備を厳重なものとしている。

 余りにも厳重すぎる布陣を見たコルニは、柄にもなく苦笑を浮かべて少年に呆れを見せていた。

 

 『SPか』とツッコみたくなる光景を一瞥したところで、二人はホテルの最奥部に居るであろう、ホテルをたまり場としている不良たちのボスの下へと向かう。

 少々、相方的な存在である少年が情けない姿を見せているが、もしもの時は自分がバトルすると意気込んでいるコルニは、横に連れたルカリオと共にドンドン前へ行く。

 

「ちょ……待ってよぉ……」

 

 そんなコルニを、情けない声を上げて追いかけていくライト。ぞろぞろと手持ちポケモンを引き連れていくライトもまた、恐怖心を必死に正義感で抑えながら進んでいくのだが、

 

―――……ケテ。

 

「っ!? な、なに今の声!?」

「ん~? どうしたの?」

「なんかの声が聞こえた! け……『ケテ』って!」

「ケテ? そんな声聞こえてないって。気のせい気のせい! ほら、先に行こう!」

「えぇ~!?」

 

 ふと聞こえてきた不思議な声についてコルニに語るライトであったが、気のせいだと断言され、不承不承といった様子で再び前に歩んでいく。

 五体のポケモンに囲まれている状態であっても恐怖心は収まらないのか、常時ガタガタと震えており、掴まれているリザードンは呆れ顔を浮かべていた。

 情けない姿の主人を見て溜め息を吐いたリザードンは、前を行くコルニを見失わないように足を進め―――。

 

 チーン!

 

「うわあっ!? 何の音!? コ、コルニ!」

「今のは聞こえた! レンジ……ううん、オーブントースターかな?」

「なんで廃墟のホテルでオーブントースターの音が鳴るのさぁ……」

「……誰かが料理してるとか! 人が居るかもしれないし、レッツゴー!」

「えぇ!? ちょ……!」

 

 静寂に包まれていたホテルの内部に響き渡った音。

 その音源を探るべく駆け出していくコルニを目の当たりにして、ライトは只でさえ青い顔を更に青く―――というより、だんだん白くしていきながら、ゆったりと追いかける。

 オーブントースターは調理器具。ならば、あるのは必然的に厨房のような場所にある筈だ。

 二人が考えていた事は同じであるらしく、ライトがふと見つけたホテルの厨房の中には、既にコルニとルカリオが佇んでおり、『うーん』と首を傾げていた。

 

「……なにかあった?」

「おっかしーなぁー? このオーブントースター、絶対壊れてるのに……コンセントも繋がってないし……」

「壊れてるオーブントースターが勝手に鳴ったと?」

「うん」

「帰っていい?」

「駄目! もしかしたら、別の所で鳴ったのかもしれないし……」

 

 ボロボロの厨房というだけで既に気絶しそうな程恐ろしかったライトは、すぐさま表に出たいという衝動の赴くまま提案するも、食い気味に却下されて落ち込む。

 そして恐ろしさの余り、ブルブルと体を震わせ―――。

 

「……あれ? なんか寒くない?」

「言われてみれば、なんか肌寒いみたいな……地下だから?」

「ジュカ!」

「どうしたの、ジュカイ……」

 

 ふと肩を叩かれて振り返るライト。ジュカインが指差す場所に目を向けたライトの視界に入ったのは、一つのボロボロな冷蔵庫。

 中身は野生のポケモン達に食い荒らされたのか、ほとんど残っていないものの、内蔵されている電灯がパチパチと点滅している。

 観音開きの冷蔵庫からは、鳥肌が立ってしまう程の冷気が溢れているが、ライトはそれ以上に何故急に冷蔵庫の電源がついたのかと考え、ゾッとした。

 

(入って来た時は電源なんてついてなかった筈なのに……!)

 

 ガタガタガタ!

 

「びゃあああ!!?」

「今度は向こうから!? よし、行ってみようルカリオ!」

 

 廊下から響いてくる何かの振動する音。突如として響き渡ったその音に、ライトは叫び声を上げ、コルニは風の様に音が鳴った場所へと走っていく。

 何故そんなにも異変の元凶の下へ行こうとするのか、ライトにはコルニの事が全く理解できなかった。と言うよりも、本来の目的はポケモンを取り返すことなのだから、ポルターガイスト紛いの異変の下に行く必要など無いのだ。

 ならば、出来るだけ異変のことは無視して、本来の目的を達成してさっさと表に行きたい。

 

「ミ! ミ!」

「ブラァ!」

「ん、どうしたの? 二人と」

 

 背後に注意を払っている二体が突然鳴き始める。既に涙目のライトは、震えた声で応えながら振り返り、紡ごうとした言葉を途中で止めてしまった。

 耳を澄ませば、『ギャギャギャ!』というモーターに何かが絡まっているかのような音が、廊下に響いているではないか。

 ジッと廊下の奥を凝視する一人と五体。

 すると、草刈り機がボロボロの絨毯を複数の刃に絡ませながら、ライト達の方向へと向かっているのが見えた。

 

「ぎゃあああああああ!? なんで!? なんで!!?」

「ッ―――!」

 

 人が押して動いている訳ではない。一人でに動く草刈り機を目の当たりにし、パニック状態に陥るライト。

 真面に指示を出せる様子でもなく、それを見かねたハッサムが瞬時に動き、自分達に向かって突き進んでくる草刈り機を鋼鉄の鋏で打ち砕いた。

 長年放置されてボロボロだった草刈り機は、ハッサムの鋏の一振りでバラバラに砕け散り、無数の残骸を廊下にまき散らす結果となる。

 

 再び動くのかと身構えるライトであったが、バラバラの残骸になってからはピクリとも動かない草刈り機を見て、一安心とばかりに息を吐いた。

 

「あ゛りがと……ハッサム」

 

 安堵の息を吐いたライトは、迅速な対処をとったハッサムに礼を言った。暗所や幽霊のことになるとへっぽこになるライトの事を知っているハッサムは、礼を言う主人に対して『もう何も言うな』というような雰囲気を漂わせて無言で頷くばかりだ。

 手持ちに慰められ、自分の情けなさに顔を覆うライト。

 そのまま深呼吸を数度して、漸く心に落ち着きを作ったところでバッと顔を上げる。

 

「よし、じゃあ……あれ、コルニ?」

 

 誰も居ない廊下。先程まで前を歩んでいた少女の姿を見つけることはできない。

 まさか、と考えてじっとりと額に浮かぶ汗を拭うものの、汗は止まる気配を見せない。

 

(……逸れた?)

 

 人数が多ければある程度恐怖は抑えられるだろうと踏んでいたライトに対する追い打ちなのだろうか。

 先行くコルニは、何時の間にかにライトの視界から消えていったのだ。

 どこか遠い目を浮かべる主人の肩を叩くのはジュカイン。しかし、主人から反応が返って来る事は無い。

 

―――……ケテ。

 

「ひっ!? また……どこから!?」

 

 再び聞こえてくる声に肩を跳ねさせるライト。瞬時にポケモン達も、どこから声が響いているのだろうかと周囲に警戒を払う。

 心臓の鼓動がどんどん早まっていく中、ライトは自分の太腿辺りに違和感を覚えた。

 ズボンの右ポケットに仕舞っているのは、プラターヌに託されたポケモン図鑑。それがチカチカと点滅していたのだ。

 

 嫌な汗が頬を伝う。

 

 そーっと図鑑を取り出し、一度電源を入れてみるも、普段のような反応を見せる事は無い。

 壊れてしまったのかと思うライトであったが、次の瞬間、図鑑から音声が響いてくる。

 

『ピ、ュウ、カイ―――ゥ、ドラン。―――ジョン、コダッ、ット、プ』

「え、なに……これ? 図鑑……壊れちゃったの?」

 

 ポケモンの名前らしき音声を延々と流し続ける図鑑に、ライトのみならず全員が図鑑へと視線を向ける。

 すると、ランダムにポケモンの姿を映しだしていた画面が、急に砂嵐のように『ザザァー』と音を立てて何も映らなくなってしまった。

 暫し黙って見つめていたライトであったが、不審に思って図鑑をトントンと手で叩いてみる。かなり昔ながらの方法ではあるが、叩いた瞬間に画面には何も映らなくなった。

 

「……えっ……ちょ」

「ケテケテケテェ―――――ッ!!!」

「ほんぎゃあああああああああ!!?」

 

 刹那、画面から飛び出してくる『光』は、鳴き声を上げながらライトの眼前に飛び出してきた。

 肌を突き刺すようなピリッとした痛みと、不意に出現した光を目の当たりにしたライトは、

 

「きゅぅ……」

 

 気絶するのであった。

 

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