ポケの細道   作:柴猫侍

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第七十九話 転倒は注意してどうにかなるものでもない

 

 

 

 

 

 

「うぅ~、寒い……ここが会場なのかぁ。結構人が一杯……」

「でしょ? でも、やっぱりトップオブスカイトレーナーのガーベラちゃんの地元で大会が開かれるっていうのもあると思うわ」

 

 ブルっと身を震わせるライトに、ビオラは大会の為に各自ウォーミングアップしている者達を指差して解説する。

 今回の大会はスカイリレーであって、スカイトレーナーのみの大会では無い為、昨日見た飛行服を着ている者が大勢いるという訳ではない。

 だが、ちらほら見えているというのも事実だ。

 

 ビオラが観戦する為の席に案内するまでの間、コルニはブルブルと身を震わせながらワカシャモを抱き上げている。

 ビオラから貸してもらったジャンパーを着ているものの、雪がしんしんと降り積もっている場所では流石に心もとないといったところか。辛うじて【ほのお】タイプであるワカシャモを有していた為、湯たんぽの様な扱いをして寒さを凌いでいるものの、湯たんぽ替わりにされているワカシャモの気持ちは如何に。

 

 しかし、見る限り嫌そうな顔をしていない辺り、さほど嫌ではなさそうだ。

 寒さの問題はとりあえず解決したとして、このように北風が吹きすさぶ中、飛ぶポケモン達のことを思うと背筋がぞっとする。

 

(絶対寒いだろうなぁ~)

 

 ふわふわの羽毛があるとはいえ、タイプ相性的には【こおり】が苦手な【ひこう】ポケモンには厳しそうな環境。

 だが、だからこそ指示を出すトレーナーの実力が輝くといったところだ。

 ウンウンと頷くライト。しかし、彼の恰好はクノエを発った時から一切変わっていない。ちらほらライトを一瞥した者達は、『寒くないのかな』と呟いている状況であるが、当の本人は一切気付いていなかった。

 

―――カタカタッ。

 

「ん? うわっと!?」

「あら?」

 

 ベルトが揺れる感覚を覚えたライト。次の瞬間、揺れたボールが一人でに開き、中に収まっていたハッサムが飛び出してきた。

 思わぬ行動に出たパートナーに主人が驚く一方、よく育てられた【むし】ポケモンを目の当たりにしたビオラは、ポケモンセンターで散々撮影したのにも拘わらず『いいんじゃないの!?』とシャッターを切る。

 

 だが、そんな周囲の者達には―――正確に言えば、ライト以外の者には気にも留めていないハッサムは、ちらりとライトにアイコンタクトをとった後に、北を見遣った。

 その先にあるのは―――。

 

「ライト君のハッサム……フロストケイブが気になるのかしら?」

「フロストケイブですか? 確かフロストケイブって、【こおり】タイプのポケモンが生息してるところですよね? 別にハッサムが気にするような場所じゃないと思うけど……」

 

 一体どうしたのかとハッサムを見遣るライト。

 未だ洞窟が在る方角から視線を逸らさないパートナーを目の当たりにしたライトは、フッと微笑んでハッサムの肩をポンッと叩いた。

 

「きっと何かあるんだよね?」

 

 コクン。

 

 フロストケイブに行くことを了承するかのような言い回しのライトに頷くハッサム。

 その反応を見たライトは、カメラを構えるビオラと未だ寒さに震えるコルニを一瞥し、ニッと笑ってみせた。

 

「ちょっとフロストケイブまで行ってきます!」

「そう? ふふっ、分かったわ! 大会が始まるまで時間があるしね。二時間くらいを目安に戻ってくれば、ちょうどいいと思うわ!」

「はい! コルニはどうする?」

「アタシはビオラさんと一緒にいるよ! ……洞窟、寒そうだし」

「そっか」

 

 如何にも寒そうな洞窟にはいきたくないと告げるコルニの言葉を聞いたライト。一先ずハッサムをボールに戻し、別のボールを放り投げてポケモンを繰り出す。

 一瞬の閃き。雪降る中に現れたのは、しんしんと降り積もる雪を溶かす炎を尻尾に灯すリザードンであった。

 すると徐にライトは、リザードンに背中を向ける状態でリザードンの手首を掴む。一体何をするのかと目を見開くコルニであったが、

 

「リザードン。フロストケイブまでひとっ飛びよろしく!」

「ぶえっ!?」

 

 大きく翼を羽ばたくリザードン。それに伴い舞い上がり雪を顔面に浴びるコルニとワカシャモ。

 その光景に軽く『ゴメン』と呟くライトであったが、御立腹らしい二人は地面からぎゃーぎゃーと騒ぐ。

 しかし、リザードンの手首を掴み掴まれるという状態で空を飛んでいるライトは、『あとでね!』と叫んだ後、フロストケイブへと目を遣った。

 

 降り続ける雪で遠方まで窺うことはできないものの、少しだけ高い山がある。その山の中にフロストケイブがあるのだろうと考えるライト。

 

「へ……くしょん! あ゛~……寒い」

「グォウ……」

「流石に高所は寒いね……この中を飛ぶんだから、スカイトレーナーって凄いね」

「グォウ」

 

 最近行えるようになった空の飛び方でフロストケイブまで向かうライトは、改めてスカイトレーナーの凄さをその身で感じ取る。

 高所が寒いというのは万国共通。高ければ高い程寒いのはどこに行っても同じことであり、寒い場所で空を飛ぼうなら骨の芯まで凍えそうな気分にさえなれる。

 だが、【ほのお】タイプであるリザードンが居れば、凍死などはよっぽどのことがなければないだろう。

 

 一度遭難経験のある者が言うと、説得力に欠けるが。

 

 雪の降る中を突き進んでいくライトは、肌に突き刺さるような寒さをその身に覚えながら、あっという間にフロストケイブの入り口前までたどり着いた。

 

「うっ……!」

 

 洞窟内から吹いてきた凍えるような風に、思わずリザードンに抱き着くライト。流石にこれはジャンパーやコートを着てくるべきであったかと思案を巡らせるも、今更面倒だという感情の方が先立ち、そのまま洞窟の中へと進んでいった。

 幸い、まだ昼である為か洞窟内は薄暗い程度で済んでいるものの、暗所が苦手なライトにとっては足が竦んでしまうような場所。

 リザードンを横に連れて、尻尾の炎を松明替わりにライトは歩み進めていく。

 

「あっ、そうだ……ハッサム」

 

 ハッと顔を上げたライトは、ふと思い出したかのようにハッサムを繰り出す。

フロストケイブに行きたいという意思を見せたのはこのポケモンだ。ならば、一応外に出したままにしておくというのが筋ではないだろうか。

 そのような考えで出したライトは、あちらこちらが凍りついている洞窟内を見回しながら質問してみる。

 

「ねえ、ハッサム。どうして此処に来たかったの?」

「……」

「……ん? メガリング?」

 

 無言のまま、鋏でライトの左腕に嵌められているメガリングを叩くハッサム。こんなに寒い中であればキンッキンに冷えているだろうメガリングを触っても尚、同じぐらいキンッキンに冷えているハッサムは、顔色を変えないままだ。

 メガリングを叩かれて、暫し茫然と立ち尽くすライト。

 しかし、何か思いついたのか、『ああ!』と声を上げてハッサムの顔を見つめた。

 

「もしかして、此処にハッサムのメガストーンが―――」

「きゃあああああ!!!?」

「あぼんッ!?」

 

 突如、ライトの背中に奔る衝撃。同時に、カチンコチンに凍った床も相まって、滑らかに地面を滑っていくライトは、背中にぶつかってきた人物と共にスィ~と洞窟内を滑っていき、大きめの氷柱に激突した辺りで止まる。

 

「てててっ……」

「す、すみませんわ! ちょっと足を滑らせて高い所から滑落してしまって……って、え? あ、ライトじゃありませんの!?」

「その声、は……ジー……ナ、うっ」

「ああああ、ライトォ~!?」

 

 ぶつかってきたのは、知り合いだった。

 

 

 

 ***

 

 

 

「それで……イーブイをグレイシアに進化させたいから、フロストケイブに来ていると?」

「ええ。このフロストケイブのどこかにある大きな氷でできた岩……そこへ連れて行けば、進化させられるという手がかりを得ましたの!」

 

 ハキハキとした口調でライトに語りかける少女。彼女こそ、プラターヌの助手であり、尚且つライトと同様ポケモン図鑑を託された人物の一人―――ジーナだ。

 先程の事故もあってやや意気消沈しているライトであったが、ジーナの勢いに元気づけられ、だんだん顔色は良くなってきている。

 だが、彼の視線はジーナの太腿に向けられていた。所謂、絶対領域と呼ばれるボトムスとニーソックスを着用した際にできる、太腿の素肌が露わになっている部分。

 元々であろうが、健康的な褐色の肌をしているジーナの素肌は、周囲が雪や氷で白いフロストケイブではよく映える。

 

 そして、自分の絶対領域を見られている事に気が付いたジーナは、赤面した顔を赤色のマフラーで隠しながら眉を顰めた。

 

「……何を見ているんですの」

「……太腿寒くないの?」

「それは……寒いですけど」

「じゃあなんで長いの穿かないの?」

「い、一応理由があるんですの!」

 

 至極真面目な顔で質問してきたライトに、少しでも目の前の少年が下心を持って眺めていると思っていた自分の考えに恥ずかしくなったジーナは、声量を上げながら解説し始める。

 

「ほどよく寒いと、代謝が活発になって健康にいいんですの! 代謝がよくなればスタイルもうんたらかんたらで……」

「……つまり、女の子が冬とかでもスカート穿いてるのって、痩せる為ってこと?」

「いや、そういう目的の人も居るっていう訳であって、お洒落の為にスカートを穿いてる人も勿論居ますわよ! それに今あたくしが穿いているのはショートパンツであって、スカートではありませんのよ!」

 

 ショートパンツを穿いていると豪語するジーナ。ぶっちゃけどうでもよい発言に、なんと返せばいいのか分からず暫し硬直するライトであったが、そんな彼を見かねてハッサムが二人の前に躍り出た。

 それを見たライトは、『あっ、そうだ』と手を叩きハッサムの後を追っていく。

 

「ハッサム、わかるの?」

 

 ポンと肩に手を置けば、ハッサムは瞳を閉じたまま頷く。

 なにか、ハッサムにしか分からない波長のようなものを感じ取ってでもいるのだろうか。リザードンがリザードナイトから発せられる波長を感じる通り、ハッサムもまた、ハッサム専用のメガストーン―――『ハッサムナイト』の波長をこのフロストケイブの内部から感じ取っているのかもしれない。

 足早に洞窟を駆けて行くハッサムに伴い走るライトは、メガリングに嵌められているキーストーンを眺める。

 

 そんなライトの後ろからは、足を滑らせないように細心の注意を払いながらジーナが駆け寄ってきた。

 

「ちょっと、なんですの!? 急に走り出して……」

「この洞窟のどこかにハッサムのメガストーンがあるかもしれないんだ」

「あら! なら、あたくしのイーブイを進化させるついでに、一緒にメガストーンを探しましょうか」

(ついでなんだ……)

 

 プラターヌの助手としてはメガストーンを優先するべきではないかと考えたライトであったが、この旅はプラターヌに好きにするよう言われていたことを思い出す。

 そして、一緒に探すと言ってくれているのであれば、その好意に甘えるのがいいのではないかとも考え、一つ提案を挙げてみる。

 

「じゃあ、先にイーブイを進化させられる場所に行ってみよっか。それでいい? ハッサム」

 

 所謂、レディーファーストに準じた提案。レディーよりは、ガールの言葉が似合いそうなジーナにそういった提案をすると、『あら』と声を上げてジーナは嬉しそうに笑う。

 一方ハッサムは、『ライトがそう言うのであれば』という雰囲気で頷いた。

 フロストケイブを探索する上での指針が決まったところで、意気揚々と進んでいくジーナを先頭に、二人は凍てつく洞窟の中をどんどん突き進んでいく。

 

 吐息が白くなるほどの寒さ。余り長居はしたくないとばかりに二人の歩幅は大きくなる。

 

「あ、そう言えば」

「どうしたんですの?」

「そのマフラー、フウジョタウンで買ったの?」

「そうですわよ。ヒーローっぽくてカッコいく思いません?」

 

 首元に巻くマフラーを誇らしげに振り回すジーナ。特撮ヒーローが着用していそうなマフラーだが、

 

「いくらぐらいなの?」

「さあ? デクシオに買ってもらいましたもの」

「……え、なに? そういう関係だったの?」

「ち・が・い・ま・す。バトルしてあたくしが勝ったから、ブティックで買ってもらったんですの」

「あ、そうなんだ……」

「なんでちょっと残念そうな顔をしているんですの!?」

 

 シュンと目尻を下げるライトに、声を荒げるジーナ。

 ライトとしては、同じタイミングで旅に出たり、一緒に居る状況が多く見受けられた二人がそういう関係であってもおかしくはないと思ったのだが、ジーナのドスの効いた声を聞いて信じざるを得なくなった。

 すると、キッとした瞳を向けてくるジーナが『じゃあ』と声に出し、ライトに詰め寄ってくる。

 

「ライトには、仲が良い女の子は居ませんの? コルニちゃんとかはどうですの?」

「まあ、仲はいいと思うけど……なんていうか、友達だし」

「じゃあ、幼馴染は居ませんの?」

「幼馴染は居るよ」

「成程……付き合えばいいんじゃないですの?」

「なんで!?」

 

 突拍子のない提案に、目を見開くライト。

 そう言えば最近電話していないな、と考えながら浮かべる幼馴染の顔は勿論カノンであるが、彼女と付き合えと言われたライトは両手を横に振って、交際に対しての躊躇いを必死に表現する。

 

「因みに幼馴染は年上? 年下?」

「え? 確か……一つ年上」

「あらまあ。じゃあ、いずれ年齢を重ねた時に『もう、私より身長高くなって……』っていうシチュエーションができるじゃありませんの」

「いや、それはもうジーナの妄想じゃん!?」

「果たしてどうでしょう」

「意味深な感じで言わないで!」

 

 演技を交えながら、交際して暫くたったら起こり得るシチュエーションを口にしてみるジーナに、ライトは終始赤面してツッコみ続ける。

 因みに、現時点ではまだカノンの方の身長が高い為、実際に起こり得ることであることだということを、ここに追記しておこう。

 

 そのような会話はさておき、先程まで周囲に警戒しながらライト達の背後に付いていたハッサムが急に前に飛び出し、キョロキョロと辺りを見渡し始めた。

 

「っ……どうしたの?」

 

 少しだけ緊張感が辺りを支配する。

 次の瞬間、ハッサムは最奥部に行くために坂となっている道を大急ぎで駆けて行った。

 

「そっちにあるの!?」

 

 聞こえる様にライトが叫べば、ハッサムは坂の途中で振り向いて頷いた。それを目の当たりにした二人は、イーブイの進化する場所よりも前に、メガストーンの回収に向かうことを同意するように、互いに頷く。

 軽快な足取りで坂を上っていく二人と一体。

 途端に空間が開け、二人の目の前には四方八方が凍りついている幻想的な空間が現れた。まるで映画のワンシーンにでも出てきそうな程、純白に染まった空間。

 しかしハッサムは、その空間を楽しむ様子もなく駆け出し、ツィーっと氷の床を滑って奥の方に見える部屋へと向かって行った。

 

 それを追うように二人もまた駆けて行くが、スケートをやったことがないライトの足取りは如何せん頼りない。

 対してジーナは、慣れているのか軽やかに前方へと滑り進んでいく。

 そう言えば、コルニにローラースケートを借りた時も真面に立つことができなかったことを思い出し、自分には滑る系のスポーツができないのだと改めて認識するライトは、仕方なしとばかりにゆっくりゆっくり確実に一歩ずつ進んでいった。

 

 ハッサムとジーナがジッと待っている場所まで、二分ほどかけて辿り着いたライトは、少しばかり疲弊した表情でハッサムの肩を掴む。

 

「はぁ……つ、疲れたァ」

「ふふん。ライトって、平衡感覚が意外にないんですのね」

「それは……うん、認める」

 

 苦笑を浮かべて平衡感覚がないことを認める少年に、ジーナは勝ち誇ったような笑みを浮かべて、タッタっと奥の部屋へ向かっていった。

 それを追って行けば、先程の空間よりかは小さいものの、大きな氷柱から小さな氷柱まで数多く並んでいる広間に辿り着く。

 自然が作りだした幻想的な空間というものは、人の目を奪うものであり、暫し二人は感嘆の息を漏らしながら部屋を見渡す。

 

 その間に、ハッサムは少し瞳を閉じながら、とある方向へと悠然と歩み進めていく。

 

 コツコツと綺麗に響く足跡。氷を踏みしめて前へ進むハッサムは、一つの氷壁の前で立ち止まり、

 

「―――ッ!!!」

 

 “バレットパンチ”。

 氷壁を打ち砕くほどの威力の鋏を振るった。人間で言うところの肘の関節まで氷壁にめり込んだハッサムの腕を見た二人は、唖然と口を開けていたものの、『バキッ』と音を立てて鋏を引き抜いたハッサムを―――否、鋏に挟まれている物体を目の当たりにし、息を飲んだ。

 紅色と藍鉄色が絡み合うかのような模様が、玉の中心に存在する石。

 まるでハッサムの体色そのものの色を取り込んだ石に、ライトはゴクリと唾を呑み込んだ。

 

 ドクンッと左腕から伝わってくる鼓動。リザードンの時と同じ、左腕にもう一つの心臓と脳が生まれたような感覚。

 まさしくそれは―――。

 

「メガ……ストーン」

 

 嬉々とした笑みを浮かべて呟くライトに対し、自分の鋏とメガストーンにこびり付いた氷をピッピッと払うハッサム。

 表情こそ、鋼のように変わらないものの、長年連れ添ってきたライトには分かる。彼も喜んでいると。

 そのようなハッサムに笑顔で駆け寄るライトは、はにかみながら左腕を掲げてみせる。

 

「やったね!」

 

 ハッサムが鋏で挟んでいるメガストーンに、自分のメガリングに嵌められているキーストーンをコツンと当ててみせた。

 その光景に、少し離れた場所で眺めていたジーナは、マフラーで隠れた口角を吊り上げる。

 

「ふふっ……ライト! じゃあ次は、あたくしの方を手伝ってもらいますわよ!」

「うん、オッ」

 

 

 

 ドシィィィン!!!

 

 

 

 直後、ライトとハッサムの目の前に現れる巨大な影が一つ。まるで大木を目の前にしたかのような威圧感に、ライトの言葉は途中で途切れた。

 途端に冷えはじめる空気に、ライトもブルッと思わず身を震わせ、目の前に現れた陰に目を遣る。

 

「……雪男?」

「ユキョォオオオ!!」

 

 惜しい。

 ライトの予想は外れたが、ポケットの中に図鑑がロトムによって起動し、目の前のポケモンの情報を読み取る。

 

『ユキノオー。じゅひょうポケモン。ブリザードを発生させてあたり一面を真っ白にしてしまう。別名、アイスモンスター』

 

 次の瞬間、ユキノオーは大きな口から途轍もない冷気を含む風を吐き出し始める。肉も骨も凍りついてしまうかのような冷気に、避けようとしたライトの体も止まってしまい、まんまとユキノオーの“ふぶき”の攻撃範囲に留まってしまった。

 『やばッ……!』と呟く間もなく、どんどん“ふぶき”の勢いは強まっていく。

 それを目の当たりにしたジーナは、何とかせねばとボールに手を掛けていたが、既に状況は移り変わっていた。

 

 “ふぶき”による冷気の奔流を真面に喰らいそうなライトの目の前にハッサムが躍り出て、主人を庇うように腕をクロスさせながらユキノオーの前に立ちはだかる。

 瞬く間にハッサムの体は凍りついてしまうが、ハッサムによって冷気が阻まれ、一瞬の自由を取り戻したライトは、キーストーンに指を当てた。

 直後、キーストーンとメガストーンから―――。

 

 

 

「光と結べ! メガシンカッ!!!」

 

 

 

 眩いばかりの光が、空間を照らし上げた。

 瞬間、“ふぶき”の音に紛れて重く鈍い音が空間に響き渡ると同時に、次第に“ふぶき”の勢いが衰えていく。

 “ふぶき”を放つことを止めた―――否、止めざるを得なくなったユキノオー。鳩尾に叩き込まれた重い一撃に暫し呼吸困難に陥ったユキノオーは、ドスンドスンと後ずさりをし、自分に攻撃を叩きこんだ相手から距離をとった。

 

「あ……あれは……!」

 

 ユキノオーが退けることによって見る事ができるようになった姿。

 全体的に丸みを帯びたシルエットから、鋭いシルエットへと変わったハッサム。最大の武器であった鋏は、更に厚みを帯びると同時に鋸の歯のようにギザギザとなっていた。

 肩や腰の付け根にあたる部分は、重厚な鎧を思わせる様に鈍色に変化し、額の部分にも似たような色の甲殻が出現している。

 そして、光に包まれる以前はしっかりと大地を踏みしめていた足が、今はコンパスのように鋭く鋭敏となっており、『足を着ける』というよりは『足を突き刺す』という状態でハッサムは踏ん張っていた。

 

「あれが……メガハッサムなんですの!?」

「ユ……ユキュ、キュゥウウ……」

「あ、逃げましたわ」

 

 メガハッサムの一撃を貰ったユキノオーは、力量差を理解したのか、大急ぎでどこかへと逃げていく。

 それを見届けている間、ハッサムの体に付着していた氷は急激に溶かされ、あまつさえ蒸気となって白い煙を発生させる。

 それだけメガハッサムの体温が急上昇しているということだろう。

 

「ありがと、ハッサム」

 

 一声かけてから意識を集中させてメガシンカを解くライト。図鑑の説明では、ハッサムは背中の翅で体温調節をしているという旨の説明が見受けられる。

 そして、メガシンカした後のハッサムは、普通のバトルではそれほど羽ばたかせない翅をこれでもかというほどに羽ばたかせていた。

 つまりそれは、メガシンカによって常に熱を放出しなければならない程のエネルギーを得てしまったということ。

 

 パワーは充分。しかし、それだけその身にかかる負担は大きい。

 

(トレーナーとの絆の象徴のメガシンカだけど……あんまりさせてあげない方が良いのかな?)

 

 普通の姿に戻ったハッサムの体をポンと叩けば、以前どおりの体温に戻っている事に安堵して、ホッと息を吐くライト。

 リザードンの件で既に理解していたが、トレーナーが思うよりもメガシンカによるポケモンへの負担は大きい。

 その力の大きさを自覚しなければ、身を滅ぼすのは自分自身。

 

「……僕もまだまだだよね。ジム戦とかも、いつも君に頼っちゃうし」

 

 ニッと笑いながら、バッグの中から取り出したオボンの実を差し出すライトは、自分の技量の未熟さを改めて感じながら、ハッサムの事を労う。

 

「よしっ! ジーナ! じゃあ、次はジーナの目的地に行こっか!」

「え? あ、ええ!」

 

 暫し、メガハッサムの強さに茫然としていたジーナであったが、少し離れてきた所から響いてくる少年の声によって我に返った。

 そして、ふとフシギバナが入っているボールを見遣る。

 

(……もっともっと頑張らなきゃ、ですね)

 

 カタカタ、と震えるボール。

 それだけの反応でジーナは満足し、フフンと鼻を鳴らす。

 

 

 

「さ、レッツゴーですわ!」

 

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