ことりのモノ   作:kielly

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今回はバレンタイン記念回です(激遅)

感想、お気に入り、評価お待ちしております(●・8・●)



*SP.1 ことり chocolate

「行ってきます!」

 

 朝、俺はいつもより少しだけ早く家を出た。

 今日はバレンタインデー。外国では違うらしいが、日本では女の子が男にチョコをあげる日。義理チョコ友達チョコ、色々種類はあるらしいが、主流なのは好きな男へ贈る"本命チョコ"だろう。

 去年まで俺にはあまり興味のないイベントだったが、今年は違う。去年の俺にはなくて、今年の俺にはあるもの、それは……

 

「ことり!!」

 

 彼女(ことり)の存在だ。

 

 意気揚々と、明るい足取りでことりの家まで駆けてきてみたものの、そこには、制服を着て待っている女の子(ことり)の姿はなく

 

「ゴホッ、ゴホッ……うぅ」

 

 明らかに体調の悪そうな、青ざめた顔をした病人(ことり)の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 バレンタイン記念回

 

 ことり chocolate

 

 

 

 

 

 

 

「ことり!?」

 

 この寒空の下、肩にブランケットを羽織って震えていることりの姿を見た俺は、ことりの元へ慌てて駆け寄る。

 

「うぅ、ごめんね一哉くん。ことり、今日熱出しちゃったみたいで……ゴホッ」

「熱って……だったら真冬の寒い朝に、外で待ってちゃダメだろ!? 熱は!? どれくらいなんだ!?」

「今朝測ってみたら、38度5分だったの」

「さ、38度って高熱じゃないか! と、とりあえず家の中に入ろう! 風邪が悪化したらどうするんだ!」

「ごめんね、ゴホッ、ゴホッ」

「謝らなくていいから! だって俺ことりの彼氏でしょ、ことりの面倒見るくらい当たり前だろ!?」

「か、一哉くん……ありがと」

 

 ありがとう、そう言ったことりの顔に映る笑顔はいつもより弱々しくて、それだけで体調の悪さが伺えるほどだった。そんなことりを、俺はことりに肩を貸す形で歩き家の中に入ろうとしたのだが、ことりの足はガタガタと震え、さっきまで家の前で立って待っていたのが不思議なほど。とてもじゃないが、肩を貸しているだけじゃまともに歩けなかった。

 だからなのか、俺の身体は勝手に動いた。

 

「ほら」

「えっ?」

「ほら早くしろ、寒いだろ?」

「……ごめんね」

「いいんだよこれくらい。よっと、ちょっとの間だけ我慢してろよ?」

「うんっ」

 

 膝を曲げ、ことりに俺の背中に乗るよう合図する。要はおんぶだ。ごめんねと申し訳なさそうに、弱々しく謝ることりを急かし、ことりを背中に乗せ、歩き出す。柔らかなその身体からは、熱のせいなのか、激しく脈を打うっているのが伝わる。俺はその脈を感じながら、できるだけことりを揺らさないように、かつ急ぎ目にことりの部屋へ向かった。

 

 

 

「大丈夫か、ことり?」

「はぁ、はぁ」

「息が荒い……まさかさっき外で待ってたからまた熱が上がったんじゃ」

「だい、じょうぶだよ……一哉くん」

「無理して喋らなくていい! 何も言わなくて大丈夫だから」

「学校、遅れちゃうよぉ……?」

「そんなものいい! 俺もことりと一緒に休むから!」

「だめだよぉ、学校、行かなきゃ」

 

 ことりの部屋につき、ことりをベッドに寝かせ布団を被せたまではよかったが、外で待ってくれていたのが悪かったらしく、ことりの息が切れ切れになるほどに熱が上がってしまったようだ。しかしことりは、一緒に休もうとしていた俺に学校へ行くよう言ってきた。しかしその声も今にも消えそうなほど。

 

「何言ってんだ、そんなに弱ったことりを1人にできるわけないだろ!?」

「で、でもぉ」

 

 そんな状態であるにも関わらず、ことりは俺の言葉を否定する。いつものことりなら、むしろ学校へなんて行かせないような言い方や行動を取るだろうに。風邪で弱っているからだろうか?

 と思ったが、何か言いたげにしていることりを見てそうでないことに気づく。

 

 「今日は、バレンタインだもん。きっと、一哉くんはチョコ、たくさんもらえるよ」

 

 何かと思えばそんなことだった。確かに今朝は俺も期待していた、でもそれはあくまでことりから貰えることを、だ。そのことりがこんなにも苦しんでいるというのに、自分だけバレンタインを楽しもうだなんてとてもじゃないが思えない。

 

 「そんなことより俺はことりのことが心配なんだよ!」

 「そんなことって言っちゃダメぇっ! ッゴホッ、ゴホゴホッ」

 「っ!? こ、ことり、大声出すんじゃない! 俺が悪かったから」

 「はぁ、はぁ……」

 

 俺の言葉に珍しくもことりは大きな声で俺を叱ってきた。咳き込んで苦しみながらも、その表情には少しだけ怒りの色も見える。

 

 「ダメだよぉ……今日は、女の子にとって大事な日だから」

 「で、でもことりが苦しんでいるのに」

 「それに、ことりも一哉くんのためのチョコ、作らなきゃ」

 「えっ!? ダメだことり、今日は安静に!」

 

 ことりが言いながら身体を起こしてきたため俺は慌ててことりを止める。しかし今日のことりは、なぜここまで……

 

 「一哉くんお願い、ことりは1人で大丈夫だから」

 

 

 俺を束縛しないんだろう(・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ええっ!? ことりちゃん風邪引いちゃったの!?」

 「うるさいです穂乃果! それは私も驚きましたが穂乃果は驚きすぎです!」

 「えぇ〜? だってだって! ことりちゃんが風邪引くなんて!!」

 

 学校でことりが休みだということを知った高坂は大騒ぎ。園田も園田で、高坂にうるさいと言っていながらも結構大きな声をだして驚いている。でもそれも仕方のないことで、ことりが風邪を引いて休むだなんて少なくとも俺がことりと出会ってからは1度たりともなかった。2人の反応を見るに、たぶんそれ以上の期間ことりが風邪を引いたことなんてないのだろう。

 2人は驚いた様子はそのままに、俺にちょっと遠ざかり、何かを話しだした。

 

「ちょっと、2人とも何を話してるの?」

 

 俺は、2人が俺だけを除け者にして話すようなその振る舞いにショックを受けつつ、2人が何を話しているのかを聞いた。すると2人はチラリと俺を見ては、2人見つめ合い頷き、再び俺の方を向く。

 

「一哉くん!」

「今日は何の日ですか?」

「えっ?」

 

 ほんのり頬を染める2人に聞かれ、俺は何のことか一瞬分からず考える。今日、今日は2月の14日……あっ。

 俺は今朝のことりとのやりとりを思い出した。

 

『ダメだよぉ……今日は、女の子にとって大事な日だから』

 

『それに、ことりも一哉くんのためのチョコ、作らなきゃ』

 

 

『今日は――――』

 

 

「バレンタイン……」

「正解、だねっ」

「ということです。ですから私たちからも」

「はい一哉くん、いつも穂乃果たちと一緒にいてくれてありがとうっ!」

「ことりがいない間に、なんて、少し厚かましいかもしれませんが、気持ちだけでもと思いまして」

 

 2人から手渡されたのは、袋に入ったチョコが高坂と園田からそれそれ1つずつ。高坂は笑顔で、園田は顔を赤らめながら恥ずかしそうに。俺はその2つを受け取った。

 

「2人とも……わざわざありがとう、嬉しいよ」

「えへへ」

「……やっぱり、こういうのは恥ずかしいものですね」

「でも残念だなぁ」

「残念? どうして?」

「実は、ことりちゃんと3人で一緒に一哉くんにチョコを渡そうって話してたんだよ!」

「ですがことりは風邪をひいてしまったので……」

「…………」

 

 ことりが今朝、俺を少し強引めに学校へ向かわせた理由、これが理由だったのか。高坂と園田の2人のおかげで、今朝のことりの様子がいつもと違った理由が分かった。

 

『だめだよぉ、学校、行かなきゃ』

 

 ことりのあの言葉はきっと、高坂と園田が今日、俺にチョコを渡せるようにああ言ったんだ。ことりは優しい女の子、でも同時にすごく寂しがり屋な女の子。寂しいのを我慢して、高坂たちが予定通りにチョコを渡せるように俺を学校へ……それを考えただけで、俺はことりが恋しくなってしまった。

 しかし、俺はまだ気づいていなかった。2人が俺にチョコを渡したところを、クラスの人から見られていたことに。

 

「えっ!? 穂乃果と海未ちゃんが一哉くんにチョコ渡したよ!?」

「あっ、そっか! 今日はことりちゃんが風邪で休み、ってことはこれってチャンス!?」

「一哉くんーっ、私のチョコ食べてーっ!!」

「あっ、ずるい! 私のも!!」

「私も!」

「えっ、あ、あぁっ!?」

 

 近くにいた人たちが俺の元に集まってきてそれぞれがチョコを差し出してきた。ここ音ノ木坂は共学化したとはいえ男子生徒はほぼゼロに等しい。その証拠に、俺たちのクラスには俺以外の男は存在しない。だからなのか、クラスの人たちはやたらと俺にお菓子をくれたりしてくれている。去年のバレンタインもみんなからチョコをもらった。しかし去年から俺はことりと付き合いだした。それをみんなも知っていて、かつことりがずっと俺のそばにいるからだろう、いつもお菓子をくれていた人たちも俺たちから少し距離を置いていた。

 だが、今日はそのことりがいない。

 俺は高坂と園田の哀れむ目を見ながらも、クラスの人たちからポンポンと口の中にチョコレートを放り込まれ、あまりの甘さに喉が焼けるのをただただ必死に耐えるのであった。

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 キーンコーンカーンコーン。

 俺は1日の終了の鐘の音を聞いてすぐ、ことりの家へと走った。本当は途中で早退でもしようかと思っていたのだが、ことりから『学校サボっちゃダメだよ』のメッセージを受け取ってしまっていたため、こうして1日きっちり学校で授業を受けた上でことりの家へ向かっているのだ。

 ことりの家が近づくたび、今朝震えながら外で待っていたことりの姿、部屋で、休もうとする俺を必死に学校へ行かせようとしていたことりの辛そうな顔が浮かんでくる。浮かぶたび、俺はさらに急ぐ。

 

「ことり!」

 

 今の俺には、ことりしか見えていない。

 

 

 

「はぁ、はぁ」

 

 全力疾走でことりの家のドアの前まで来ることができたが、久しぶりに全力で走ったためか思った以上に疲れてしまい、思わず膝をつき息継ぎを繰り返す。

 

「よし」

 

 ある程度落ち着いたところで、俺は家のベルを鳴らす。

 

 ピンポーン、ピコーン。

 

 ベルの音とほぼ同時にメッセージアプリの通知音。スマホを取り出し確認すると、ことりからだった。

 

『ドアの鍵開けてるから、そのままことりの部屋まで来て』

 

 ベルを鳴らす前から、今このタイミングで俺が来ることを分かっていたような内容に少し驚きつつも、俺は言われたとおりドアを開け、靴を脱ぎ、そのままことりの部屋へと向かった。

 

 コンコン。

 

「ことり、入るよ」

 

 一応ノックして確認し、部屋のドアを開けた。

 

「ことり、体調はどうだ――――」

 

 俺はベッドの上にいるはずの(・・・・・)ことりに向かって声をかけた。

 

 しかし、ベッドの上にことりはいなかった(・・・・・)

 

「ことり!?」

 

 驚きで思わず声を上げてしまった。

 その時だった。

 

「うわっ!?」

 

 何かから強く押され、バランスを崩した俺は思わず倒れこむ。そして倒れた俺の背中にずしりと重く、そして感じたことのある柔らかい感触が。

 

「一哉くん……はぁ、はぁ」

「ことり!」

 

 分かってはいたが、それはことりだった。はぁはぁと荒い息を吐きながらも俺を逃すまいと必死に抱きついてくる。その身体からはまだ、通常のものではない温度を感じる。

 

「ことり、まだお前熱下がってないんだろ!? 寝てなきゃダメだろ!」

 

 しかしことりは俺の言葉など聞いちゃいないと言わんばかりに、俺の身体を仰向けにするため強引に俺の身体を転がすように反転させ、仰向けになった俺の上に馬乗りになる。

 

「いっぱいチョコの匂いするね……これって穂乃果ちゃんと海未ちゃんの分だけじゃないよね、一哉くん?」

「あ、あぁ。実はクラスメイトから無理やり食べさせられてさ」

「ふふっ、やっぱり一哉くんはモテモテなんだぁ」

 

 熱で赤らんだその顔をさらに少し赤くさせながら、両頬に手を当て、うっとり顔で俺を見ることり。いつもの"怖い"と思わせる雰囲気は今のところ感じないが、それでも俺には、「あぁ、いつもどおりのことりだ」と安心するには十分なほどだった。

 ことりの口から名前が出たのをきっかけに、俺はことりに高坂たちの件を聞く。

 

「ことり、今日本当は高坂たちと3人で俺にチョコをくれる予定だったんだってな?」

「うん、でも熱出しちゃった。ごめんね一哉くん」

「いや、それは仕方ない「だからね一哉くん!」っ!!」

 

 仕方ないさ、そう言おうとした俺にことりは、急に顔をぶつかるほど近づけてきた。少しでも動けばことりのその柔らかそうな唇に触れてしまいそうなほど、それほどに顔を近づけてきたことりは、そのまま俺の目を見つめる。

 

「だから一哉くん」

 

 はぁはぁと、荒い息はそのままに。その声色が艶っぽくなっていく。

 

 

「チョコじゃなくて、ことり(・・・)を食べて……?」

 

「ことり……」

 

 

 その声、その表情。その全てに魅了されてしまった俺は、ことりの求めるがままに、風邪を引いていることすら忘れて。

 

 2人でそのまま、愛し合った――――――――

 

 

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