梅雨が明け、季節は夏。太陽がジリジリと照りつけてくる。
もう夏が来たかと思うと、げんなりとしてくる。しかもただ暑いだけじゃなくて、蒸し暑いときた。氷妖精でも捕まえてこようかしら?
確か一度だけ、氷妖精を捕まえて部屋に吊るしたことがあったが、あれは本当に涼しかった。まぁ、すぐに逃げられたけど……。勝手に逃げてんじゃないわよまったく。
「やぁ霊夢。こんにちは」
そんな声が聞こえた。
声が聞こえてきた方を見ると、黒髪黒瞳のアホ毛をぴょこぴょこ動かしてるアイツがいた。
コイツは此処に来る以外で何かすることはないのだろうか? 魔理沙も此処にはよく来るけれど、毎日来るほどではない。かなりの頻度では来るんだけど。
コイツの場合、毎日のように此処に来る。いつものように軽く笑って、私に会いに来る。
「あんた、他にすることないの?」
「あはは、こんにちはって言ったんだから、きちんと返してくれよ。きみは本当に昔から変わらないねぇ」
「そういうあんたもね」
私たちは俗に言う幼馴染というヤツだ。と言っても、家が隣同士なわけでもない。私は昔から此処に住んでるし、この神社の周りには家はない。コイツはわざわざ、人里の方から30分ぐらいかけて此処まで来るのだ。なんでそんなに此処に来たがるのかしら? そう聞いてみたら、『きみに会いたいからだよ』と言ってきた。さすがにアレは恥ずかしかった。
「毎度毎度思うんだけど、あんた、人里に友達とかいないの?」
「うん? いるにはいるけど、きみといた方が楽しいからね」
「………」
「照れてるの?」
「………」
「いや、悪かったよ。だからさ、脛を蹴るのはやめようぜ?」
……これだ。時々こんな事を言うから恥ずかしい。私は別にコイツに対して恋愛感情は抱いてないけど、突然そんなことを言われたら、気恥ずかしくなるに決まってる。しかもそれが本音だからタチが悪い。顔が赤くなってるのが自分でもわかる。
そんな私の反応を見て、コイツはカラカラと笑う。
ちょっとイラッと来る。少しは恥ずかしがりなさいよ。
「うん、いや、悪かったよ。だから、そんなに怒らないでくれ」
「……その代わり、今日の夕飯を作りなさい」
「それは別に構わないよ」
コイツはまた軽く笑った。
本当に笑顔が似合う。
「ねえ、霊夢」
「何よ?」
「いや、そんな重大な話でもないんだけど、あんたあんただけじゃなくてさ、昔みたいに
そんなことを気にしてたの? うーん、確かにいつの間にか奏って呼ばなくなってた気がするわ。
本当にいつ頃からだったかしら?
「きみがほら、思春期に入ってからだよ。ちょうど一年前」
「自然に心を読まないでよ」
「きみと何年一緒にいると思ってるんだ。きみが考えてることくらい、だいたいわかるよ」
「何それこわい」
一年前……ああ、あの時か。無性に男からの視線が気になるようになってきたのよね。それでコイツにもツンツンしてたんだった。今はそんなことないけど。
よくよく考えてみれば、コイツとは兄妹みたいな感じ。そこまで深く考える必要はなかったかも。
「こわいって……霊夢も俺の考えてることぐらいすぐわかるだろ?」
「これだけ長く一緒にいれば、ねぇ」
十何年も一緒にいると、だいたいコイツが考えてることくらいはわかる。
実際、こいつが奏って呼んで欲しいのは本当なんだろうし。
「か、奏、とりあえず、座ったら? 私の前に突っ立ってないで」
一年ぶりに名前で呼ぶから、ちょっと違和感がある。慣れというものはおそろしい。
「そうさせてもらうよ」
そう言って奏は私の横に一個分間を空けて座った。昔からずっとこうだ。私の横に間に一個分間を空けて座り、空いたところに和菓子とお茶を置く。それが私と奏の位置関係だ。昔から全然変わらない。
奏にお茶を入れてあげると、いつものように笑ってありがとうと言う。こんなやり取りももう何千回も繰り返した。それもそうよね。奏の場合、毎日此処に来てるから。
風が吹き、奏のアホ毛がぴょこぴょこ揺れる。
奏のアホ毛は昔からある。直さないの? と聞いたこともあるが、これが僕のトレードマークだからと直そうとはしなかった。
背丈は大きくなっても、声代わりを迎えても、このアホ毛だけはずっと変わらない。
「霊夢が入れてくれるお茶、やっぱり美味しいね」
「毎回言ってるわよね、それ」
「その返しも毎回言ってるよね」
奏は私が入れたお茶を飲んだら、いつもそう言う。私もいつもそう返す。
自分が入れてくれたお茶を奏はいつも美味しいと言ってくれる。お茶を入れた私も、その言葉を聞いただけで満足だ。
適当なことを言って私を揶揄ってくる奏だけど、こういう言葉は本心で言ってくる。そういうところはズルいと思う。
ふと横を見ると、奏は和菓子をポイポイ口の中に放り投げていた。そして美味しそうに頬をほこらばせる。
奏は私にとって、兄みたいな存在だけど、こういう姿を見ると、弟みたいな感じがする。いつもは余裕のある大人みたいな感じ。でも、時々こういった幼い様子を見せてくる。
だからかな? 奏といると安心感がある。
「あんた、醤油せんべい好きよね」
「うん。甘辛い味が結構好きなんだよ。まぁ、おはぎとかの方が好きなんだけど」
「甘いもの好きだものね」
奏の甘いもの好きは異常だ。おはぎを30個食べるとかちょっとおかしい。
すると、奏がせんべいを食べる手を止め、私に言ってきた。
「今度さ、みんなで花火しないか?」
「えぇ……花火した後、毎回宴会するじゃない。片付けするのが面倒臭いったらありゃしない」
「そんなこと言わないでさぁ。片付けくらい、俺が手伝うよ。それならいいだろう?」
「それなら別にいいけど……」
「そりゃあ良かったよ」
ニコニコと嬉しそうに笑う奏。
大人っぽいくせに、どこか子供っぽい。
「お? ちょうちょだ。ちょっと捕まえてくるよ」
私の返事を待たずに奏はちょうちょを追いかけていく。ちょうちょを捕まえてくるってなんだよ。子供か。
それにしても、今、奏は浴衣に下駄でちょうちょと鬼ごっこをしてるけれど、そのうち転けないだろうか?
あんたはちょっとだけドジなんだから、走り回るのは止めなさい。
「大丈夫だよ、霊夢。これくらい全然……痛っ!」
「ほら、言わんこっちゃない」
こんなことはいつものことだが、やっぱり心配である。此処に来るための階段なんかで転けそうで本当に心配。
「いたた……やっぱり下駄で走るもんじゃないな」
「本当よ。もう止めておきなさい」
「そうしておくよ。さすがに霊夢に心配かけるのはよくないからね」
「心配なんてしてないわ」
「顔、赤くなってるよ。図星?」
………。
「痛い痛い! わかったわかった。俺が悪かったよ。だからさ、脛を蹴るのは止めてくれないかな?」
「ふん!」
コイツは本当に一言多い。しかも笑いながら言ってくるもんだから、さらにイラっときてしまう。悪気はないんだろうけど……。
「転けたのより霊夢に蹴られた方が痛かったよまったく……」
「あんたが悪いのよ」
「わかってるよ」
軽く笑いながら、私の方を見てくる。
な、なによ……。
「そろそろ夕飯の時間だ。ご飯、俺が作る約束だろ?」
気がつけばもう夕方。夏だから太陽が沈むのが遅い。そのせいでもうそんな時間だということに気がつかなかった。よく気がついたわね。
「何が食べたい?」
「普通の料理でいいわよ」
「じゃあもう夏だし……素麺でもしよっか」
「それにしましょう!」
縁側でお茶を啜ってお話をする。
そんな普通だけれど、大切な日常を、私は案外気に入っている。
前を歩く奏の背中を見つめながら、私は小さく微笑んだ。
初めての東方作品。うまく書けたかな?
次の更新は、早ければ3日以内。遅ければ一週間後です。
試験が来週あるので、まぁそれくらいでしょう。
それでは!