平凡な俺と巫女のきみ【完結】   作:うたたね。

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のんびり更新しましょう。



第三話 平凡な俺と鬼畜巫女

 もう8月の終わり。ツクツクボウシの鳴き声があたりから聞こえてくる。

 ほんの少しだけ涼しくなったけど、やっぱり夏は暑い。まあ、そんな暑さが夏の魅力でもあるんだけどね。

 

 でもねぇ。夏がもう終わるのかぁ。確かに夏は暑い、蒸し暑いけれど、夏は嫌いじゃないんだ。川で水遊びをしたり、星空を眺めたりと、楽しいことがたくさん有るんですよ。

 夏の終わりも近づいているし、みんなで花火でもしたいな。

 

「ねぇ? 霊夢」

「死ねええええ!!」

 

 霊夢の綺麗な脚から繰り出される鋭い蹴りを一歩下がって躱す。

 ……まったく。平凡な俺に向かって、妖怪退治の専門家が蹴りなんて繰り出しちゃあいけません。

 いやまあ、確かに俺が悪いっちゃあ悪いんだが。

 

「な、なあ霊夢? 少し落ちこうぜ。暴れてたらおちおち話もできないじゃないか」

「うるさい! あんたが私の着替えを覗いたのが悪い!!」

「だからごめんって……わざとじゃないんだよ。神社に入ったら偶然きみが着替えてたんだ。だからね? 機嫌なおしてくれないかな?」

「見たのは事実でしょうが!」

 

 仰るとおりで。

 

 しかしねぇ、霊夢さん。これに関しては仕方ないと思うよ? 俺もまさかきみが着替えの途中だったなんて思いもしなかったんだから。今までもそんなことなかったし。

 

「だいたい何で私の攻撃をそんなに易々と避けれるのよ!? これでも体術には自信があるんだけどっ!!」

「おっと危ない……。俺にはそれぐらいしか取り柄がないからねぇ。避けるぐらいが精一杯だよ」

「全然そうには見えないけどね!」

 

 そう言って霊夢は俺に向かって拳を放つ。それを横に動くことで避けるけど、霊夢はやっぱり止めてくれない。

 うーむ。これはもう一発でも食らってあげた方がいいのかも。それくらいしないと、霊夢の機嫌はなおらないだろうし。

 

「な、なあ霊夢」

「……何よ」

「どうしたら機嫌をなおしてくれる?」

「あんたに一発入れたら」

 

 ………。

 

 仕方がない。食らってあげよう。

 

「はぁ……いいよ、霊夢。一発食らってあげるよ」

「最初から素直にそうすればいいのに」

 

 事の始まりは俺の所為なんだ。一発くらい、受けてやろうじゃないか。たぶん優しい霊夢のことだ。少しくらいは手加減してくれるだろう。

 

 すると、霊夢はにこやかに笑い、

 

 

「じゃあ今から本気で殴るから──歯、食いしばってね☆」

 

 

 ……やっぱりちょっと待っ………ッッ!!

 

 その瞬間、右頬に激しい鈍痛を感じ、俺は青空を仰ぎ見た。

 

 

 空、綺麗だなぁ。

 

 

 そして追い討ちを掛けるが如く踵落とし。

 

 

 こいつマジか………

 

 

 

 

×××

 

 

 

 

 罰として境内の掃除をさせられてます。

 

 それにしても、殴られるのは別にいいんだ。あ、いや、俺が殴られて興奮するとかそんなんじゃないよ? ……えと、俺が言いたいのは、今回悪いのは俺だから、そういう罰は当然だということだ。でも、最後の踵落としは余計だと思うわけ。

 しかも霊夢の奴、俺の鳩尾に思い切り極めやがった。まだ痛いぞこんちくしょー。

 

「まったく、鬼畜脇巫女め」

「なんか言った?」

「楽園の素敵な巫女って言ったんだよ」

 

 きみ、地獄耳持ってるの? その笑顔、少し怖いぞ? 紫さんの時から目が笑ってない笑顔はトラウマだから止めてくれ。

 

 俺はこの幻想郷に十七年間暮らしているが、わかったことがある。此処に住む女性を怒らせるのはいけないということだ。特に霊夢と紫さんは怖い。幻想郷トップクラスの怖さだ。

 たぶん、妖怪なんてものより、怒った女性の方が怖いと思うんだ。

 

 怒っても怖くない女性なんてこの幻想郷にはいないんじゃないかな。

 そんなことは、口が裂けても言わない。言うわけにはいかない。もし、言ったら、俺に明日はない。

 

 なんて莫迦なことを考えていると、霊夢が気怠そうに言ってきた。

 

「もういいわよ〜」

「やっとか……」

 

 掃除を始めてかれこれ三時間。まだまだ空は明るいけれど、太陽の位置を見る限りもう5時半くらいだろう。まあ、そこそこの時間だね。

 

「あんたも今度からは注意しなさい」

「きみも俺が来ることを予測してから着替えなさい」

「………」

「わかった、悪かった。だからそのお札はしまってくれないかな? 俺は妖怪じゃなくて人間だよ?」

 

 割と本気で謝ると、霊夢はお札をしまってくれた。俺は凡人でなんの特別性もない人なんだからさ。対妖怪用のお札なんて食らったらひとたまりもない。

 まあ、きみがそんなことをしないってのはわかってるけどね? でも、やっぱり怖いものは怖いんだよ。

 

 

「んじゃ、そろそろ帰らせてもらうよ」

「ええ。今度来る時は覗かないでよ?」

「だからわざとじゃ無いって……うん、まあ、気をつけるよ」

「気をつけなさい」

 

 ちょっとだけふざけようと思ったが、霊夢の目が怖かったのでやめました。きみの勘は鋭いものね。俺がふざけようとしたことを勘で見抜いてくるとは……霊夢怖いよ、霊夢。

 

 ジト目で霊夢が此方を見てくる。

 

「また失礼なこと考えたでしょ?」

「いや、そんなこと無いよ」

「どうだか……」

 

 少しは信じてあげようよ。俺、一応きみの幼馴染だぜ?

 やっぱり人を信じることは大切だと思うんだ。

 

「またね、霊夢」

「ええ。また明日」

「うん」

 

 “またね”って言葉は、人間が日常的に使う小さな約束事。“さよなら”だと、其れでお別れみたいだろう? “またね”は、また会おうって意味だから、俺はこの言葉が好きだ。

 

 霊夢が小さく手を振り、俺も軽く笑って同じように小さく手を振る。

 それじゃあ、また明日。

 

 

 

 

 

 さてと。博麗神社から出たものの、ちょいと暇だね。まだ彼処にいてもよかったが、今日は少し早く帰る気分だった。その日の気分によって、神社にいる時間は変わるんだよね。早いときは一時間程度。遅いときは泊まることもある。霊夢が思春期に入ってからは、泊まってないけど。

 

 いや、でもその気持ちは分からんでもなかった。俺が15歳の時も、霊夢と話すのがちょいとだけ恥ずかしかったりした。

 ほら、霊夢って美人で可愛いだろう? そりゃ、思春期に入ったら意識しちゃうよ。ドキドキするよ。

 ちなみに俺と霊夢は二歳年が離れてる。俺が十七歳で霊夢が十五歳だ。だから、霊夢が思春期に入ったときの気持ちがわかるんだよ。

 

 むぅ、やっぱりこの階段は歩きにくいな。ま、下駄履いてるから仕方ないんだが。

 俺の私服は基本的に浴衣と下駄だ。色は藍色。何故藍色かと聞かれれば、好きな色だからとしか答えようがない。藍色って見てたら落ち着くんだよな。

 

 俺は結構動き回る方だから、霊夢からも歩きやすい格好をしろとよく言われる。でもなあ、浴衣が一番着てて落ち着くから他の格好をしたくないんだよねぇ。霊夢だっていつも巫女服着てるし、それと同じだよ。

 というか、基本的にここの住人は同じ服しか着てない気がする。俺と霊夢だけじゃなくて、紫さんも魔理沙も同じ服だ。思い入れがあるのだろうか。

 

 そう思うと笑いが込み上げてくる。ホントに変わり者が多いよね、幻想郷は。

 

 

「ま、そんなところが幻想郷らしいっちゃらしいんだけどね」

 

 

 一度立ち止まり、チラリと博麗神社を見て、また歩を進める。そして階段を踏み外し、俺はそのまま転げ落ちていった。

 

 

 

 

 

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