「さて、むさ苦料理のお時間がまたやってきました。今回のアシスタントも武蔵くんでお送りします」
「じゃあ、残りの料理に取り掛かりましょうか」
「まあ、後は天ぷらとムニエル、香草焼きだけだから、三十分と少しでどうにかなる」
冷蔵庫から背開きで若干の下味をつけたオイカワ、四等分にしたニジマスを取り出して、事前に作った衣に付けて、一定の温度のでカラッと揚げる。
「天ぷらとかどこで覚えたの?」
「俺、実を言うと料亭で働いてたんだけどさ、自分で作るまかないがクソ不味くてさぁ、出来る限りの努力を重ねたら知らないうちに大将の右腕って言われてた」
「おまえさぁ、死ななかったらそれなりに良い人生を送れたんじゃない?」
「わからん、でも、大将に自分で店を持った方が稼げるぞ? って言われたのは確かだけどさ」
五匹揚げたら直ぐに武蔵に持って行かせる。揚げたてが美味いのだ、天ぷらという料理は。
「これがオイカワっていう魚なの?」
「ああ、今日釣れた新鮮で美味しいオイカワです」
「見た目は普通に天ぷらやね」
「ダシとお塩で食べてくれ、だってさ」
「じゃあ、わたしは通にお塩でいただくわ」
アリサはオイカワの天ぷらを食べた瞬間に信じられないという顔になる。そして、一口、また一口と天ぷらを口の中に頬張るのだ。
それに釣られて他の奴らも天ぷらを口の中に入れる。すると同じようなリアクションを見せる。
「絶妙なサクサク感、素材を最大限生かした下味、川魚特有の淡泊な味わいを最大限に引き出しているわ!」
「ダシは少し濃くして、温かさを消さないために熱湯で割ってる。ダシを濃ゆくしたのは正解やね、食材の淡泊さを和らげて、ホクホクとした食感を楽しませてくれる。それにしても、衣はダシにつけてもサクサクやね~」
「そのまま食べても美味い! 衣のサクサク感と下味と衣の塩気、絶妙だよ!!」
「流石は武蔵、毛嫌いされがちな川魚の持つポテンシャルをここまで生かすとは。淡泊さを味わえる人なら塩、それが少し苦手な人ならダシを使って調整する。これはワザマエ!」
揚がったオイカワとニジマスは即座に姿を消してしまった。
じゃあ、次はニジマスのムニエルとウグイの香草焼きを作るか。
「さて、次の料理は何ですか?」
「ニジマスのムニエルとウグイの香草焼き」
「どっちも食いたいな、俺、あっちの方で座ってていい?」
「いいぞ、この料理が終わったら基本的に暇になるから」
香草をまぶしたウグイをに粉のようにきめ細かくした塩を一定量ふりかけて、アルミホイルにバターと一緒に包んでオーブンにシュートする。もちろん、味わい深くするために超低温でじっくりと、だ。
「さて、ムニエルはウィスキームニエルにするか」
ニジマスの切り身をウィスキーの入ったボウルの中に入れて、取りだしたら、そのまま塩と胡椒を適量ふりかけて、小麦粉を付ける。後は大量のバターをフライパンに溶かして、溶けたバターをスプーンですくっては上にかけて、すくっては上にかけて、バターの風味を染み込ませる。
「うーん、バターとウィスキーの香しい香りが堪らないぜ」
仕上げに乾燥パセリをふりかけて、完成。
「ムニエルと香草焼き完成」
「おー、これは美味そうだ」
「運んでくれ」
「了解!」
テーブルの上に並べられる香草焼きとウィスキームニエル。
「ニジマスのムニエルとウグイの香草焼きです」
「これは美味そうだな、はやてが天ぷらをガツガツ食べるから」
「ごめんごめん、久しぶりに美味しい天ぷらを食べたから」
「俺も食わせてもらうぜ、正直、ニジマスのムニエルは一皿は絶対に俺のだからな」
「何でよ!?」
「俺が釣ったんです! 一皿は俺にください!!」
各々がウィスキームニエルと香草焼きに手を付ける。
「――!? 美味い......このムニエル、衣を多く纏わせる為に洋酒、そうだな、ウィスキーを付けてある。その風味が塩と胡椒、そして、バターの風味を底上げしている。それに付け加えて、マス科の魚独特の風味を消すことなく、完全に焼き上がっている。こんな美味いムニエルは初めてだ......」
「香草焼きはウグイの臭みを完全に消してるね。それに、塩加減が絶妙、少しの量で塩気を感じられるように、粉にした塩を使ってる。でも、香草と塩だけじゃあ、少し味気ないから、バターを一切れ入れて食材のコクを高くしているよぉ~」
こちらの料理も受けが良いようだ。
「お米が欲しくなった」
「お米はナマズ丼の分とこいつの分しか焚いてないからな」
「次の料理は......あれ? それは!?」
「寿司だよ」
「あー、スーパーでネタ買ってきたからな」
「まあ、鮪とタコ、カンパチとブリ、サーモンくらいしか無かったが」
「つか、寿司も握れるの?」
「ああ、普通に握れる。というか、前世では調理師免許持ってたし、フグも捌けた」
少し冷ました酢飯を素早く一定量取り、空気を含ませるように握り、ネタを乗せる。
久々に作ったのだが、慣れというものは恐ろしい限りだ。
「はい、正直、輝夫さんのポテンシャルに驚きはじめていますが、寿司を握られました」
「腐ったミカンはお寿司も握れるんか......信じられん料理スキルやな......」
「まあ、寿司は手の温度が高い女が握ったらダメという暗黙の了解があるから、落ち込むなよ」
八神が鮪の握りを口に入れた瞬間に涙を流した。
「......わたし達が食べてきた回転寿司は偽物やったんや」
「ど、どうしたのはやてちゃん?」
「......久しぶりにこれだけのお寿司を食べたわ。これ、有名な寿司屋の大将が握るレベルのお寿司よ。ネタはスーパーで買ってきたものだとわかるけど、シャリは本物、口に入れた瞬間に解ける。そして、ネタの風味とシャリの甘味がぁ~あぁ~」
「あ、アリサちゃんまで......んッ!? んぅん~♪」
「すげぇ、食通だろうお嬢様二人まで魅了する料理を作るとは......うん、マジで美味い」
「あー疲れた、俺も混ぜてくれ。腹減った」
流石に料理を作るのも飽きてきたので、自分も宴会の席に混ざる。
「どこでこんな料理を覚えたの?」
プレシアが不思議そうにそう尋ねてくる。
「いや、まあ、色々とやってたからな」
「それにしても、スーパーの切り身で売られているネタの筈なのに、すごく美味しいのよね......不思議だわ......」
「ああ、それはカッターナイフで捌いたからだ」
「カッターナイフ!?」
「ああ、刺身や寿司ネタは切った包丁の種類によって味が変わる。鋭利な方が味がいい。だから、研いで元々鋭利なカッターナイフを更に鋭利にした物を使って捌いた。これは家に住んでる連中なら知ってる事実だ」
「ああ、知ってた」
「うん、カッターナイフで切られた刺身は美味いんだよな」
「し、知らんかった......わたしも試してみようかな?」
しれっとキンキンに冷えた発泡酒を取り出して、武蔵と一緒に乾杯する。
「ふぅ~やっぱり料理の後はこの一杯だな、これが無いと生きていけない」
「ああ、美味い料理に美味い酒、これ、幸せだと思います」
「あ、私にも一缶いただけるかしら」
「ああ、キンキンに冷えたの持ってくる」
「私もいただこう......」
「ザッフィーも一本ね」
「じゃあ、私にも」
「私もお願いするわ」
「シグナムの姉御とシャマルの姉御も一本ね」
四本の発泡酒を冷蔵庫から取り出して、注文した四人に届ける。
未成年組は寿司に呻いている。
「つまみが欲しいな、煮つけと鯉こくを出すか」
「弱火で煮込んでたっけ?」
「ああ、酔ったら美味くなるだろ」
皿に鯉こくと煮つけをよそって、テーブルに並べる。甘くて懐かしい香りが漂う。
「鯉こくってどう食べるんだっけ?」
「基本的に汁を楽しむ食い物なんだが、酒が入れば身も食えないことはない」
「なるへそ、じゃあ、いただきます」
鯉こくに口を付ける。鯉の出汁のよく出た濃厚な味噌汁と言えばいいのだろうか? 即座に血抜きと内臓を取り出したから臭みが少なく仕上がっている。まあ、食えないものではない。
「煮つけも完璧に出来上がってる。なんと表現したらいいのだろうか? そう、魚の旨味がジワリジワリと酒のペースを早くしてしまう......」
「魔性の料理ね......嫌いじゃないわ......」
三本目を開けたところで、流石に未成年の俺達が発泡酒の缶を握っていることを怪しむ奴が現われる。
「ねえ、なんでアンタ達はビール飲んでるの?」
「ビールじゃない。発泡酒だ。ビールは高いからな」
「み、未成年だよね?」
「酔わなければ大丈夫だ。それに、酔っても俺達は黙り下戸だし」
「ああ、輝夫と武蔵は酒が入るとすげぇー静かになるんだよな」
「まあ、宴会の席だから無礼講よ」
「輝夫と武蔵らしいね......」
寿司がなくなったと同時にナマズ丼を作り始める。
「武蔵、団扇で仰いでくれ」
「了解、了解、ナマズも輝夫が捌けばウナギだな」
「味は脂っこくないウナギらしいぞ」
武蔵に手伝ってもらって七輪でもう一度、ナマズを香ばしく焼いて、綺麗な色になったら白米の入ったお櫃にシュート、後は香味と出し汁と煎茶を用意して、ナマズのひつまぶしの完成です。
「うぉー、完全にウナギだわ、これ」
「多分、今日の料理で一番の完成度だわ、これ」
お茶碗によそって、そのまま食べてみるとあっさりとしたウナギ、ナマズと言われなければウナギと錯覚してしまうだろう。
「お茶漬け風に食べると美味いな」
「普通に食べられるから驚きだわ、これ。ああ、酒が進む」
「輝夫と武蔵の家にわたしも住もうかな? こんな美味しい料理を毎日食べられるなら」
「お姉ちゃん、お母さんが泣いてるよ......」
「......ダメな母親ね、私は」
ダラダラと酒とひつまぶしを食べていたら、あっという間につまみが消えた。
「......つまみが消えた。そうだ、魚屋で買ったフグがあるんだ。捌いてもらって熟成させたのが」
「おお、フグまで用意してたのか」
「ああ、今日の晩酌のつまみにする予定だったんだ。まあ、ある程度の量があるから捌いてくるよ」
キッチンペーパーの中で昆布と一緒に熟成させたフグのブロック。捌く免許は持っていたのだが、今現在は所持していないので、魚屋で売られていた物を使って薄く皿に盛りつける。
「薄く切るのが面倒くさいんだよな......まあ、そこはかとなく薄く切れたわ」
「おぉー、まるで白い薔薇のような完成度、これ、お高いんでしょ?」
「ん? 一匹四千円だったから妥当な領域じゃないんですかね」
「技術を合わせたら八千円くらいかな、まあ、美味そうだから食おうぜ」
ビールを嗜みながら、ゆっくりとフグを食べる。そして、夜が更けて。
「ご主人はん! 今日は久しぶりに負けてもうた!! お金を恵んで......あれ? 今日は宴会やったんですか?」
「ああ、まあ、宴会だった。ほら、三万でいいか?」
「およ......ご主人はん酔ってますね? まあ、酔ったご主人はんは優しいからええけど」
「バルが帰ってきたってことは、もうお開きの時間だな」
「そうやね、じゃあ、みんな帰ろうか」
「俺が月村とバニングスを送る。武蔵はテスタロッサ一家を頼む」
「頼まれた」
こうして、今宵の宴会は終わりを告げた。
こういう風に人を呼んで宴を開くのも悪くない。
【カッターナイフ】
この世界で最も鋭利な刃物の一つ。刺身を作る時に使ってみてください。
【作者から】
魚が食べたい。
投稿ペース
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一秒でも早く書いて♡
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ネタの品質を重視してじっくり!
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冨樫先生みたいでええよ~
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絵上手いから挿絵積極的に