踏み台だった野郎共の後日談。   作:蒼井魚

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16:お菓子

 両手両足をロープで縛り付けられている。正直な話しをするとここがSM風俗だったら余裕で受け入れられるわけなのだが実を言うと、いや、言わなくてもわかるだろうが自分の家で特別親しくもない子狸に拘束されている。え、なんで? ヴィータにドロップキックくらって一瞬で拘束されたからいまいちわかってない。

 

「あの、えっと……何なんですかねこれ……」

「わたしは思ったんや……」

「え、何がですか?」

「あんたに勝ちたい」

 

 え、この子なに言ってるんですかね?

 

「わたしの得意分野に無理やり引きずり込んで勝つよ……」

「やだ、この子こわい……」

「というわけで審査員はこの四人!」

 

 ゾロゾロとお嬢様コンビとヴィータ、なぜだか顔が腫れ上がっている武蔵(手錠付き)が入ってくる。これは確実に自分の策で自滅するパターンですね。もうね、わかりきってるんですよ、このパターンは戦を仕掛けた方が確実に負けるんです。

 

「今日はお菓子作りで腐ったみかんをギャフンと言わせてやるんや」

「ほう? お菓子作りとな……いいぜ、小娘風情にあーしのクッキング技術で翻弄してやる」

「輝夫、ちゃんと手を洗って作りなさいよね」

「流石はバニングスの姉御! 言葉がキツイ!!」

 

 とりあえずロープを解いてくれたのでお菓子作りの材料を揃えに出かけようとするが子狸に足を引っ掛けられる。そして見事に顔面ダイブで鼻血ダラダラなのである。痛いのである。

 

「なにすんじぁい!?」

「わたしはもう素材そろえたんやけど?」

「え、俺に素材を買いに行く猶予を与えないとのことですか……」

「うん!」

 

 うっわ、満開スマイルで言い切りましたよこの子……。

 それにしてもお菓子作りで材料の差をつけられたら結構やばいな、凝った菓子類は大量の材料を使用するわけだし家の中にあるような素材で手頃で美味い甘い物は難しいよな……。

 

「じゃあキッチン借りるね♪」

「……畜生、金持ちになったから最高級のキッチン装備を整えたせいで結構無理ゲーかも」

 

 高性能オーブンだとか泡立ての機だとか、もうね、フレンチレストランの厨房並の装備が整ってるから確実にケーキ類を作られたら負ける。どうすりゃいいんだよ……。

 冷蔵庫を開いたと同時に八神は買い物袋から大量の材料を並べ始めた。いちごのショートケーキだな。

 

「……甘い材料はあんこくらいか」

「残念やったね、昨日二人とあんみつを食べに行ったんや」

「つまり和風は少し不利か……」

「フッフッフッ」

 

 和風はあっさりした味わいだと思われるが実は結構甘い。とくにあんこは最高級品と廉価品の味の開きが少ない。確かに最高級のあんこはコクだとか旨味だとかで廉価品よりは確実に上なのだがあんこという食材が毎日食べたいと思う程の中毒性があるわけじゃないから差は少ない。

 まあ、使える食材がこれだけならこれを使うしかないよな……。

 

「よっし……腹をくくるか!」

 

 とりあえず棚からお茶っ葉を二種類取り出す。ほうじ茶と緑茶だ。今回の課題はあんこという食材をどうあっさりと食べさせるかというのが課題になる。そうなると香ばしいほうじ茶とほろ苦い緑茶の選択肢は大切だ。

 

「……緑茶にするか」

 

 奇をてらってほうじ茶で攻めるのも悪くないがほうじ茶は冷やして飲むと少しだけクドさが入るわけだからな、冷たい緑茶の方が和風デザートだと確実に一歩上だ。

 お茶の選択肢ができたところで八神の方を見ると鼻歌を歌いながらスポンジの生地をかき混ぜている。うっわ、美少女のお菓子作りとか萌え要素満載なのに萌えねぇ……。

 

「失礼なこと言わんかった?」

「滅相もございません」

 

 とりあえずあんこを使用した王道はぼた餅だろう。これは俺の得意料理、婆ちゃん……婆ちゃんの秘伝を使わせてもらうぜ……。

 もち米とうるち米を用意して慎重にもち米とうるち米を配合する。もち米の柔らかさとうるち米の甘みを強調させる配合、これは前世の婆ちゃんの直伝だ。

 

「とりあえずケーキは時間がかかるわけだしじっくり行きますか」

 

 配合した米をミネラルウォーターに浸して20分放置、急速炊飯で10分、とりあえず八神が生クリームを塗る頃には確実に炊きあがるだろう。

 

 

「あのーぼっくんはどうして未だに拘束されてるんですかね?」

 

 手錠をガチャガチャしてお姫様に懇願するが鍵を無くしたとか言って放置プレイに徹してくれています。正直ね、正直な話しをするとね、なんで自分の家で拘束プレイされるんですかね!?

 

「あーあ、どうしてぼっくんとてるをきゅんは面倒くさいことに巻き込まれるんですかね」

「昔ほど面倒くさくなくなったからじゃない」

「バニングス様、一つだけ言いますけどぼっくんとてるをきゅんは君達を嫁だとか言って追いかけ回してたんですよ、もう少し嫌っていただけますかね……」

 

 女心は秋の空とは言いますけど流石にここまでフレンドリーにされると困惑するんですわ。

 そういえば……輝夫が負けたら何されるんだろ……?

 

「輝夫が負けたら俺達どうなるわけ?」

「うーん、いつもみたいにセンブリ茶のデスソースじゃないか」

「……うわーん、もう辛苦いの飲みたくないよぉー」

 

 正直、料理の対決で輝夫が負けるとは絶対に思わないけど何かに理由をつけて確実に罰ゲームを仕掛けてくる子狸とお姫様には抵抗できないんだよ、だから輝夫は押入れに入ってドラえもんを懇願して俺はタイムマシーンを召喚するために机の引き出しを必死になって探すんだよ。

 

「うぇーい、今日は台が一台も空いてなかったんで帰りましたわぁ……」

「あ、バルくん久しぶり」

「おお、月村とバニングスのお嬢はん久しぶりやなぁ! あれ、ご主人はんは?」

「今ね、はやてちゃんとお菓子対決してるの」

「ほへぇ……また面倒くさいことに巻き込まれてますなぁ」

 

 バルは手錠で拘束されている俺のことをチラリと見て指を四本立てた。こいつ……俺に金を露骨にセビリやがったぞ……。

 

「まあ、武蔵はんがいいって言うならワイは構わんのですがね」

「てめぇ……本当に輝夫のペットか……?」

「武蔵はん……金は命より重いんですわぁ……」

「……払う! 払うから!!」

 

 バルはどこからか針金を取り出して手錠の鍵穴をほじる。すると二分で両手の手錠は外れた。これで輝夫を生贄に逃げることができる。ああよかった、今日は親友が泣くだけで終わるんだ。俺への被害はゼロになるんだ。

 両手に冷たい手錠の感覚が戻る。

 

「なんか逃げ出しそうだから付けとくぞ」

「……うわぁーん!!!」

 

 

 さて十分に水を吸った配合米は完璧だ。

 一方、八神の方はスポンジの様子を体育座りしながら眺めている。

 とりあえず妨害工作は見られなかったから一応は正々堂々と料理対決はしてくれるみたいだ。

 

「……よし、行って来い」

 

 炊飯を開始して後は祈るだけだ。

 

「子狸さぁ、もう少しぼっくん達の扱いに気をかけていただけませんかね? 俺と武蔵は君達と仲良くなりたいわけじゃないんですよの。どちらかというと顔見知り程度の関係になりたいのにどうして君達はぼっくん達に絡んでくるわけ」

「サンドバッグって結構高いし置き場所に困るんよ」

「……ぼっくん達は生きてるサンドバッグですか」

 

 どうしてだろうか、三年くらい前だったらご褒美ですワン! とか言いそうだけど事今に至っては全然うれしくないワン! なんでこの子達は高町みたいに俺達のこと嫌いになってくれないのよさ……。

 

「それに……憎めないバカっておるやん……」

 

 憎めないバカねぇ……正直なところ全力全開フルパワーで憎んで欲しいところなのですが……。

 でも、今のヒロイン達にとって俺と武蔵ってのは親しい男友達って位置づけなのかね? 好きだけどLoveじゃなくてLikeの方、嫌味なく付き合える男友達って感じなのか?

 これって良好な関係かもしれないけど俺達みたいに冷めてないと生殺しなんじゃないですかね?

 

「もし、俺と武蔵が今の生活に嫌気が差して県外の誰も知らないところに逃げたらどうするよ」

「――それは駄目!!」

「……らしくねぇな」

「……友達がおらんくなるのはもう嫌やなんよ」

 

 友達、友達ねぇ……。

 よし! 日頃の恨みを晴らすためにそのうち一週間くらい誰にも報告入れないで旅行に行こう!!

 

「……今、確実に誰にも言わないで一週間くらい旅行に行って驚かしてやろうとか考えたやろ」

「なんでわかるの?」

「……最低」

 

 炊飯完了の音が鳴り響いたと同時に炊飯器から中身のもち米を取り出してボールに移して団扇で熱を冷ましていく。粗方の熱がとれたら小さいすり鉢に塩を適量入れて塩をできる限り粉末にする。

 塩って砂糖と同じくらい重要な素材でね、色んな料理の味を整えるわけなんだけどこと甘い物に限っては甘さを強くする効果があるのさ、そしてあんことお塩の相性は◎で完璧。

 

「ほいほい」

 

 八神の方もスポンジが完成して最後の仕上げに入っている。

 俺もビニール手袋をつけてこしあんともち米をなじませてぼた餅を構築していく。

 

「完成!」

「とりあえず品は完成てるかね」

「じゃあ、先行はわたしがもらうね」

「どうぞどうぞ」

 

 まあ、負けてもどうせセンブリ茶&デスソースだしいつものことか。

 

 

「はーい、みんなおまたせ」

 

 綺麗に切り分けられたいちごのショートケーキ四個、流石は八神一家の厨房を仕切っている女だけあって料理の腕は素晴らしいの一言に尽きる。武蔵の方を見ると八万円は高いよなとか言いながら放心状態に入っている。

 

「ご主人はん小遣いください」

「死ね」

 

 金をせびるバルに暴言を吐き捨ててとりあえずは八神のケーキの採点を見守ろう。

 

「はやてちゃんのケーキすごいね」

「悔しいけど家より器具が揃ってたから綺麗に作れたんよ」

「うーん、見た目は完璧ね」

「……八万円のケーキ」

「美味い!」

 

 ヴィータはもう口の中に放り込んでいるが三人は点数を考えるために少しずつ口の中にケーキを入れていく。

 

「生クリームのコクとスポンジのしっとりとした柔らかさ、本物のケーキ屋さんのケーキと同じくらいしっかりとした仕上がりね……」

「はやてちゃんの優しい心が感じられるね……」

「八万円のケーキ……」

 

 とりあえず四人は食べ終えて小さなホワイトボードに点数を書いていく。

 

アリサ「6点」

すずか「7点」

武蔵 「10点」

ヴィータ「8点」

 

 うん、お嬢様とヴィータはそのくらいだよな……あれ?

 

「おいぃいいい!!?? むさしきゅん!? どうして10点なんですかねぇ!!」

「だってさぁ、だってさぁ……女の子の手作りケーキなんだぜ、子狸でも超美少女の手作りケーキなんだぜ……八万円の価値あったわ……」

「わかってるよむさしきゅん!! でもね、でもね!! この勝負にまけたらお決まりのセンブリ茶&デスソースの刑なんですよ!!」

「いいんだ、俺はもう受け入れてる」

「むさしきゅんの浮気者!!」

 

 ああ、受け入れよう。もう逃れられない。

 でも、一応は勝負ってことだし自分も作った料理を提供しなければ。

 

「じゃあ、とりあえず俺のぼた餅です」

「ぼた餅久しぶりに食べるかな?」

「綺麗に作ってるわね」

「食っていいか?」

「ちょっと待ってくれ、こいつの最高に美味い食べ方を教えてやる」

 

 かち割り氷の入った湯呑に濃ゆい緑茶を注いで一人ひとりに手渡す。

 

「濃ゆいから少し苦いけどこれを飲むからこのぼた餅が最高に美味く感じるんだ」

「……いただきます」

 

 警戒しながらも濃ゆく煮出したお茶を一口飲んでからぼた餅を口に入れるバニングス。そしてその味に一瞬で目を見開く。当たり前だ……これは婆ちゃん直伝の伝説のぼた餅なんだからな……。

 

「濃ゆいお茶の苦味を完璧に消し去る奥深いあんこの甘さ、でも舌に残るピリッとした塩気、そしてもち米のふんわりとした風味……」

「滑らかなこしあんの上に少しだけ乗ってる粉末状のお塩が甘みを引き立てて苦かったお茶がすごく美味しく感じるよ……」

「「うまい! もう一個!!」」

 

 とりあえず守備は上々だが武蔵の出した10点は確実に取り返せないよなぁ……。

 四人は吟味した上で静かに点数を書き記した。

 

アリサ「8点」

すずか「8点」

武蔵 「7点」

ヴィータ「8点」

 

「日本の柔らかい美味しさを感じられたわ」

「すごく美味しかったよ輝夫くん」

「まあ、輝夫の料理に不味いはないからな」

「もう無いのかよ……余分に作っておけよな……」

 

 ああ、敗北したなぁ、またセンブリ茶とデスソースかよ……。

 えーっと、6+7+10+8で31、俺が8+8+7+8で……31?

 

「「……同点?」」

 

 ああ、婆ちゃんありがとう……俺は罰ゲームを回避することができました……。

 

「じゃあ、両方ともに罰ゲームね!」

「「え?」」

「だって同点なら罰ゲームしないと」

「「えぇ……」」

 

 ああ、逃れられないのか、俺はアレをまた飲まなくてはならないのか……。

 

「じゃあ、罰ゲームは……好きな人に愛の告白電話で!」

 

 バニングスが唐突に罰ゲームを提案してきた。愛の告白電話? そんなのでいいの!?

 俺は速攻で携帯電話を取り出して電話帳の中から一人を選択する。

 

「愛の告白をしたらいいんだな! それでセンブリ茶&デスソースを回避できるんだよな!?」

「なんで愛の告白でよろこんでるん!?」

「だって、だって……センブリ茶&デスソースより愛の告白の方が体に負担が無いもん……」

「……お先にどうぞ」

 

 俺の世界で一番愛している人……そんなの決まっている……。

 俺のことを世界で一番無下に扱って嫌ってくれていて……。

 いつもいつも気持ち悪い奴みたいな目で見てくれて……。

 心の底から俺のことをゾクゾクさせてくれる最愛の人……。

 ――それは!

 

「修一郎しゃま! ぼっくん君のことがラブアローシュート! 大好きすぎてドキがムネムネ!! ムラムラハートでドッキング準備完了!! ああ、修一郎しゃま大好きだお!!!!!!!!」

 

 ツーツーツーと響き渡る携帯電話、俺は素晴らしくいい気分になった。

 ああ、今日は素晴らしい一日になり……ゴハッ!?

 くの字になって吹き飛ばされる。そしてバニングスとヴィータが蔑みの表情で何度も何度も俺のことを踏みつける。どうしてだろう……俺がこの世界で一番愛してる人に愛の告白しろって言われたからこの世界で一番愛してる人にイタ電かけただけなのに……。

 

「あんたね……もう少しまともな脳みそにしなさいよ……」

「だって私が愛してるのは修一郎様なの! この心に嘘はつけないの!!」

「俺との関係は嘘だったのか!? アレだけ愛してるって言ったのに……」

「むさしきゅん!? だって……だって……! むさしきゅん最近つめ――ゴバガッ!?」

「「死ね」」

 

 とりあえず体中が青アザになるくらい蹴られたところで八神が顔を真赤にしながら電話を耳に当てた。すると俺の携帯電話もほぼ同時に鳴り響く。

 

「……いつも馬鹿にしてるけど、あなたのことは嫌いじゃありません」

「………………」

「……逆に、いつも友達がお世話になってて」

「………………」

「……少しだけ羨ましいと思ってます」

「………………」

「そ、それじゃあ! き、きるね!!」

 

 ………………。

 

「えぇ!? 修一郎様もぼっくんのことがしゅきなお?? ぼっくんも大好きだお!! じゅっと隠してたんだね!! でも、これで相思相愛のラブラブ関係だお!」

「「「死ね!!」」」

 

 死にたい。




 ちょっと原作見返してくる。

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  • 一秒でも早く書いて♡
  • ネタの品質を重視してじっくり!
  • 冨樫先生みたいでええよ~
  • 絵上手いから挿絵積極的に
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