踏み台だった野郎共の後日談。   作:蒼井魚

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02:麻雀

オープニング

 

 ――今宵、戦ははじまる。

 点棒を毟り合う凶悪な戦い。そして、敗者には信じられないくらいに無情な罰が待ち受けている。それを回避出来るのは神の加護を手に入れた人間のみ。さあ、法螺を吹け!!

 

「カン、もう一個カン、カン、カン、ツモ、四暗刻、四槓子、ダブル役満、四暗刻は単騎になってるから、三倍役満やね!」

「残念だったな……その役満、待っただ――槍槓国士無双、役満だ」

「腐ったみかんは本当に容赦無いな~直撃に身を震わせろ……」

「中二を発病するには、あと一歳たりないぜ……八神お嬢さん……!」

 

 小狸はこの過酷な対局において最も危険な存在だ! 下手すると全員が吹き飛ばされる危険性がある……! だから、真っ先に潰す必要性がある。どんな手を使っても叩き潰す! この中身嶺上開花製造マシーンが!?

 話は小一時間前に遡る。

 

 

 朝七時目が覚めた。本来なら十時くらいに目が覚める筈なのだが、どうしてか今日に限ってこの時間に目覚めた。眠た眼を擦り、ベッドの外に出る。

 カーテンを開いてみると酷く綺麗な青空が広がっていた。こんな天気の良い日は散歩をしようかな? なんて、思えるくらい天気がよかった。

 

「さーて、ご主人はんが起きる前にホールに出発せんといけんなー、今日はCRとある少女の戦車道を打つでぇ! 導入三日目やからまだまだ釘も甘々やろなぁ~」

 

 リビングに降りるとルンルンとタブレット端末でパチンコ台の性能を吟味しているバルの姿があった。

 テーブルにはそれなりに膨れた財布も置かれている。こいつ……これで二ヶ月連続休み無しでパチンコ屋に通うつもりなのだろうか……。

 

「おい、バル、こんな朝っぱらから背広を着てどこに行くんだ? 今日は天下の日曜日だぞ」

「あれ? ご主人はん……今日はえろう早起きやね。健康的でよろしいなー」

「財布を渡せ、その気色悪いアルゼブラ製の頭部パーツを破壊するぞ?」

「昆虫っぽいって人気なんやけど……」

 

 バルは財布を胸に抱え、イヤイヤと身振り手振りで財布は渡さないぞと交戦の意志を顕にする。

 

「おまえさぁ、なんでそんなにパチンコ好きなの? 君、機械でしょ、ロボットでしょ、アーマードコアでしょ、ネクストでしょ、なんでネクストがパチンコ打つのよ!?」

「ワイは傭兵や! 命を賭け金にして戦い、報酬を得る職業……! やから、毎日がギャンブル、カジノやったんや!! やけど、この世界に来てからは雑魚の小娘とご主人はんのお相手ばかり!? 全然楽しゅうない!!」

「おまえ、俺と戦って一度も勝ったことないだろ……」

「ある日、ワイは運命の出会いを果たすんや。暇で暇で堪らんかった昼下がり……ご主人はんに銀行からお金を下ろしてこいと言われた帰り道! ワイはパチンコに出会うんや!!」

「つまり、悪戯半分でパチンコ屋に入ったんだな……」

「戦場に響いた銃声にも似た爆音が響き渡る店内、ワイは唖然としたんや! そして、死の恐怖を感じながら――一台と運命の出会いを果たすんや!!」

「どの辺りに死の恐怖を感じるんですか?」

「川物語! あの台があったからこそ、ワイは傭兵の頃の緊張感と快楽を取り戻せんたんや!!」

「それさぁ? 死の緊張感じゃなくて、金が減るという緊張感だから。快楽は金が増えるという射幸性だから。傭兵の緊張感と快楽とは別物だからね? 相容れない存在だからね?」

 

 バカロボットの演説を聞いていたら、ヴィータがダラダラとウサギの人形を抱きながらリビングに降りてきた。こいつは本当に居候だな……。

 冷凍庫の中からアイスを一本とりだして、チロチロと小さな口で食べはじめる。妙にアイスの残弾が少ないと思ったら、こいつの仕業だったのか……早起きしてたんだな……。

 意識朦朧なお目々が向けられて、

 

「あれ、なんで輝夫起きてるんだ?」

「珍しく目覚めが良いんだよ。あと、バルから財布を取り上げる必要がある」

「ワイの財布は絶対に渡さへんで!!」

「つか、バルは今日も懲りないでパチンコに行こうとしてるのかよ、大人として恥ずかしくないのか? はやてが言ってたぞ、パチンコは人間をヒトモドキにする悪魔の機械だって」

「残念やけどな、ヴィータのお嬢ちゃん。ワイはロボットやからヒトモドキにはならへんで、だからパチンコをしてええんやで」

「すごい説得力だな、おい」

「同調するな、付け上がるだろ。この腐れネクストが……」

 

 ジリジリとバルに接近し、財布を渡すように右手を差し出す。

 

「さあ、怖くない、怖くない、パチンコをしないことは怖くない」

「い、嫌や! ワイはパチンコが無いと生きていけんのや!!」

「パチンコを絶対にするなとは言わん。だが、最低でも週三にしましょ?」

「週六! 休日に遊びでパチンコ!!」

「それを人は毎日パチンコに行くと言うんだよ!? それにパチンコは仕事じゃない!!」

 

 財布を奪おうと飛びかかろうとした瞬間にインターフォンの音が家の中に響いた。

 チッ、こんな朝早くから宅配便とか……非常識だろ……。

 

「宅配便だろうな……どうせ武蔵がピンクグッズ買ったんだろ……」

「お客様なんやから! はよ行かなアカンやろ? さあ、はよ行きなはれ」

「逃げるなよ、逃げたらアセンをフラジールにするぞ」

「あのダサイ中華包丁みたいなコアは流石に無理やわ……」

 

 バルを睨みつけて玄関の方向に向かう。

 オープンザドア。扉を開けてみると狸、いや、小狸、あ、これも違って八神がどうもと一つ声をかけてズカズカと家の中に入ってくる。

 十中八九目的はヴィータだろう。

 

「ヴィータ、お家に帰るよ」

「え、嫌だよ。こっちの家の方が過ごしやすいし」

「それは自堕落な引き籠もりニート共と一緒やからや。ニートは人間をダメにする。みかんは腐ったみかんを通じて腐っていくんよ?」

「おい、小狸、おまえ……酷くね……?」

 

 金八先生も真っ青なレベルの暴言を吐きましたよ……!

 この小狸が!? 普段温厚な俺でも腐ったミカンは流石にトサカにくるぞおい!!

 この中身嶺上開花製造機! 槍槓してやろうか!?

 

「つか、バルはどこに消えたよ」

「あ、窓から逃げたぜ」

「フラジールになるよりパチンコかよ……」

 

 溜息を吐き出して、ソファーに深々と座り込む。

 自分のペットとは言えど毎日パチンコ三昧になってくるとノイローゼになってしまいそうだ。

 そのうち生ゴミ? いや、アイツは機械だから粗大ごみかね。性根が腐ってるから生ゴミに分類されそうだが……。

 

「話が早くて助かる。女の子一人だけをむさ苦しい男二人の家に置くのはダメだからな、連れて帰ってくれ」

「話が早い腐ったみかんやね♪」

「ヴィータ、おまえはうちの子だ。こんな小狸と一緒に居たら頭が固くなる。そうだ! アイスを買いにスーパーまで散歩に出ようか」

「マジか!? ごめんはやて、わたしはこの家の子らしいんだ」

「はいはい、腐ったみかんの言うことを聞かない、聞かない」

「おまえさぁ、なんで俺のことを腐ったみかんと称するの?」

「だって、ヴィータを腐らせる存在やから」

「……もうやだ、この子」

 

 ヴィータは少し考えて、ピコリンと豆電球を頭上に光らせ、タタッと駆け足でどこかに向かっていった。

 本当になんで他人の家の構造を知り尽くしているのですかね……?

 

「……お茶でもいかが?」

「わたしは紅茶、腐ったみかんはセンブリ茶やね」

「おまえさぁ、その腐ったみかんってアダ名……絶対に気に入っただろ? 性格悪いな、おい。てか、センブリ茶なんて置いてねぇよ!?」

 

 仕方なく温かい紅茶と緑茶を用意する。ヴィータと武蔵は万年冷たい麦茶派だから、起きたら渡せばいいか。

 しばらく無言の早朝ティータイムを繰り広げていると麻雀牌を持ってきたヴィータがにこやかに戻ってくる。あとついでと言わんばかりにグッタリとした武蔵も絞首刑と表現できる姿で引きずられてきた。

 

「はやて、わたしは麻雀というゲームを覚えた」

「へーそうなんやー」

 

 頬にもみじをこしらえた武蔵がソファーにぐでっと座る。

 あと、何故か麻雀卓と麻雀牌が広げられた……何してるのこの子達……?

 

「はやて、単刀直入に言う! わたしと麻雀で勝負だ!!」

「ええよ」

「もし、わたしが勝ったらもう少しこの家にいる」

「なら、わたしが勝ったら家に帰ってお尻ペンペンやね」

「「いや、スゲー嫌な予感する……」」

 

ざわざわ……ざわざわ……

 

 俺と武蔵は小声で会議を開始する。

 これは絶対に理不尽な暴力が雨あられするやつだよ……。

 

「おい、嶺上開花製造マシーンと闘牌とかどこの咲ちゃんだよ……俺は和ちゃん推しだ」

「そうだよな、嶺上開花製造マシーンと闘牌とかどこの咲ちゃんだよな……あ! 俺は優希ちゃん推しだ」

 

 ヴィータと八神はもう卓に座って、四枚の字牌を中央に置いている。これ、俺達も参戦するパターンだわ。

 

「早く座れよ、あ、輝夫が負けたらハマグリのガソリン焼きな」

「北朝鮮名物かよ……」

「お姉ちゃんと違って影が薄い方の超弩級戦艦が負けたらセンブリ茶にデスソースをたんまりと」

「武蔵もけっこう活躍したんだぞ! てか!? 超ぉ苦ぇお茶に、超ぉ辛ぇソースを入れてどうするんだよ……」

 

 

 で、現在に至っている。

 

「武蔵、ルールは最初に三回ラスになった奴の負けだ。別にヴィータが帰ってしまっても構わんし、いても構わん。つまり、圧倒的に俺達に不利益なルールを提示されてしまった」

「それくらい馬鹿な俺だってわかるさ。なら、共闘するのが策、ヴィータと八神を全力で叩き潰すぞ」

 

 言うなれば運命共同体。

 互いに頼り、互いに庇い合い、互いに助け合う。

 一人が一人の為に、一人が一人の為に。

 だからこそ戦場で生きられる。輝夫と武蔵はブラザー、輝夫と武蔵は家族。

 

 嘘を言うなっ!

 

 猜疑に歪んだ暗い瞳がせせら嗤う。

 無能、怯懦、虚偽、杜撰、

 どれ一つ取っても対局では命取りとなる。

 それらを纏めて無謀で括る。     

 誰が仕組んだ地獄やら。      

 ブラザー家族が嗤わせる。     

 

 お前もっ!

 お前もっ!

 お前もっ!

 だからこそ、

 

 俺の為に死ねっ!

 

『すまないな、武蔵。俺はおまえがセンブリ茶&デスソースを飲み干す様を見たいんだ……』

『ハマグリのガソリン焼きってどんな味なんだろうか? いや、絶対に食いたくない。だが、輝夫が食う姿は見たいな……』

 

 さあ、全力の潰し合い、俺は武蔵の苦しむ姿をみるんだ!

 

「カン、もう一個カン、カン、カン、ツモ、四暗刻、四槓子、ダブル役満、四暗刻は単騎になってるから、三倍役満やね!」

 

 即座に山に仕込んだ国士無双を燕返しで作り出し、手配を倒す。

 チッ! どうにも西が無いと思ったら絶対的運命力で崩されたか!? こいつなんなんだよ!!

 

「残念だったな、その役満、待っただ――槍槓国士無双、役満だ」

「腐ったみかんは本当に容赦無いな~直撃に身を震わせろ……」

「中二を発病するには、あと一歳たりないぜ、八神お嬢さん」

 

 武蔵と共に冷や汗を流す。こいつ、本物の嶺上開花製造マシーンだ。信じられない。サイン貰おうかな?

 って!? ボケほ披露する場合じゃねぇよ!! この状況は非常に悪い。天和よりヤバイ瞬間を間近で見せつけられたぞオイ!

 

「兄弟、ここは共闘しよう。ハマグリのガソリン焼きはゴメンだ」

「センブリ茶&デスソースなんて、精神汚染してまうわ」

 

 俺達は言葉通りに互いに互いを庇い合い、助け合った。迫り来る八神はやてのカンの連鎖、四槓子の恐怖、ドラ表示牌を捲る瞬間の息詰まる空気、もう二度と体験したくない!

 そう、心の底から叫ばせる恐怖。俺達は震えた。

 そして、死を覚悟した。

 ――だが、勝利した!!

 

「ロン……大車輪。八神、おまえの負けだな」

 

 俺達は辛い勝利を手に入れた。

 

「ふぅ~流石に毎日牌を握ってる人達には敵わないなぁ~」

「そ、そら、そうだろー俺達は麻雀の達人だからなー!」

「将来はプロ雀士として食っていくつもりだもんな!」

 

 ざわざわ

 ざわざわ

 ざわざわ

 

「ガン牌やろ、燕返しやろ、カッパ抜きやろ、爆弾に……あ! エレベーターもやっとったな〜」

 

 俺達は冷や汗を体中からダラダラと滝のように流す。

 

「しょ、証拠は? 俺達がそんなことをやったっていう証拠はあるのかよ!?」

「そうさ、サマなんてやってねぇよ!」

「はい、写真」

 

 携帯電話に写された俺達がエレベーターをしていた確固たる証拠、写真!

 

「あ、あの……俺の手って、もうちょっと綺麗な筈なんですけど? これ、違う手だと思うんですけど」

「俺の手はもう少しゴツゴツしてて、男らしい筈なんだがなぁ〜」

「あ、デスソースあったぞ!」

「センブリ茶は流石にないなぁ〜しゃーない、物凄く濃ゆい緑茶で代用やな」

 

 その日、俺達は二度目の死を体験した。

 だが、ゴキブリ並みの生命力が俺達の肉体を助けてくれた。

 もうやだこの世界!?




【バルバロイ】
 アルゼブラ製のパーツで構成された機体。中身は人類の天敵、性格はパチンカス。性能はピカイチで輝夫以外には敗北したことがない最強のリンクス。パチンコの勝率は80%程度らしい。基本的に背広を着ていて、海鳴の近所のホールを回っていたら出会えるマスコット的な存在になりつつある。

投稿ペース

  • 一秒でも早く書いて♡
  • ネタの品質を重視してじっくり!
  • 冨樫先生みたいでええよ~
  • 絵上手いから挿絵積極的に
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