踏み台だった野郎共の後日談。   作:蒼井魚

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07:幸福

 シャワーから流れる流水が体中を流れ落ち、温かさを行き渡らせる。

 顔を手で拭うと鏡に血だらけの自分の姿が見えた気がした。溜息を一つ吐き出して、もう一度、鏡を直視すると水滴が流れ落ちる自分の姿、血液なんて見えない。流石に、数年も人を殺していなかったら心にくるものがある。それが、どんな極悪人だったとしても......。

 

「......あんな屑を一人殺しただけで、フェイトとアリシアがプレシアと仲良く暮らせるんだ。それに、これがはじめてじゃない。俺は両手両足の指では数えられないくらいの人間を殺している。今更、罪悪感に襲われるはずがない。一時の気の迷いだ。すぐに元に戻る」

 

 小さい頃が懐かしい、手段を選ばなかった、あの頃が恋しい。

 ......いや、あの頃を忘れたい。俺には、武蔵、ヴィータ、アリシアがいる。昔はそれすら居なかった。孤高の存在で、誰からでも疎まれた。今はどうだ? それはない。俺には、友人で溢れている。小馬鹿に出来る馬鹿に、怒らせると怖いお姫様、すこし天然が入っている妹分。最高じゃないか、これ以上を求めてどうする? 今が、今現在が俺が真の意味で求めていた幸せなんだ。それを捨ててまで、殺人鬼になるつもりはない。俺は、お天道様の加護を受けて、静かに人生を謳歌するつもりだ。

 

「......幸せ者だな、俺」

 

 振り返れば、笑っている仲間がいる。それだけで満足できる。そう、それが幸せなんだ。

 不殺の誓いをするわけじゃないが、理由もなく人を殺したことは一度だってない。俺も、所詮は人の子だってことだ。

 もう、自分の手を鮮血に汚したくはないものだ......。

 

「武蔵、風呂」

「ああ、ゲームが一段落したら入るよ。にしても、フロムのゲームは難易度が高くて困るわ」

「それがフロムのいいところだろ、フロムから難易度を取り上げたら、ただの訳がわからないゲームになってしまう」

「信者なのに辛い評価ですな」

「信者はフロムの悪いところも、いいところも理解しているんだよ」

「なるへそ、意味わからん」

 

 武蔵は篝火でキャラクターを休憩させて風呂場に向かう。

 テーブルに投げ捨てられた新聞を手にとって、社会情勢を確認してみる。すると、ソマリア沖で日本の船が襲われたらしい、今更、海賊が横行するとは、大航海時代の幕開けですかな、とか、思ったりした。

 

「にしても、雨、止まないな......」

「そら、梅雨なんだから止むわけないだろ」

 

 アイスを食べていたヴィータが無表情でそう告げる。こいつには風流も糞もなにもないらしい。

 

「てか、まだ帰らないのか? 正直、八神が突然現れると心臓に悪いから自発的に帰ってくれよ」

「そう言うなよ、ここはわたしの第二の我が家なんだからさ」

「人はそれを居候って言うんだよ......八神の場合は管理局で働いてもらって家賃的なものを払っているだろうが、俺達にとってみたら、普通にタダ飯食らいの居候としか思えないんですけど」

 

 本当、八神は扉を開けたら大阪のおばちゃんか!? ってくらいの勢いで入って来てヴィータを連れて帰るから心臓に悪い。ヴィータが駄々をこねたら嶺上開花製造マシーンになって、俺達をイジメにイジメて帰るから尚更心臓に悪い。あ、でも、ハマグリのガソリン焼きはある程度食べれた。美味くはなかったが......。

 

「でもさぁ〜はやては厳しいんだよ。わたしだってダラダラと輝夫と武蔵みたいに自堕落に暮らしたいんだよ」

「まあ、俺達が自堕落なのは認めるけどさ、それになろうとするのはどうかと思うよ? 他者から見たら確実に俺達はダメ人間な訳で、見本にしてはいけない人間の典型だと思うんだけど」

「でも、偶に仕事してるじゃん」

「アレは管理局から無理矢理押し付けられてるの、自発的に仕事をしたことは両手の指にも満たないぜ。それに、どうしてもの場合は管理局がギリギリ払える限界の額で働いてるし」

「へぇ〜一回の出撃でどれくらい貰ってんだ?」

「あ、まあ、二人合わせて三億円くらいがラインだな、最近は日本円が枯渇しているらしく、ミッドチルダの銀行に日本円に換算して十二億円くらいは入ってるぜ」

「すげぇーボッタクってるな......」

「馬鹿言うなよ、俺達は二人で管理局の精鋭が出動しなければならない程度のテロ事件を精鋭の十分の一の時間と労力で終わらせるんだ、多少高額でも使うに決まっているだろ。あちらさんもエリート魔導師を失いたくないだろうからな」

 

 火照る体を冷却するために冷凍庫から棒アイスを一本取り出して、包装を破り捨てて口の中に突っ込む。火照ったからだがスーッと冷却される。これぞ、アイスの一番美味い食い方だ。

 ヴィータもハムハムと小さな口でカップアイスを食べている。物を食べている時は普通に美少女なのだが、一度口を開くと毒しか吐かないから困ったものだ。これは絶対に八神の躾が悪いのだ。あいつは人材を育てるのに向いていない。教師になったら一年で辞めさせられるな。

 

 アイスを食べていたらヴィータの携帯電話が鳴り響いた。

 

「もしもし、あ、はやて? ん、輝夫? ああ、目の前にいるけど、ああ、わかった」

 

 ヴィータは無言で携帯電話を俺の方に向ける。可能性は二つ、叩き割ってください、か、電話に出ろということなのだろう。

 

「もちもち、輝夫ちゃんです」

「なあ、くしゃみが出たんやけど、わたしの悪口を言わんかった?」

「いや、口に出してはいない。だが、心の中で物凄く罵倒したのは確かだ......って、おまえはエスパーか!?」

「明日は土曜日......遊びに行くわ......」

「おまえってさぁ、武蔵は普通より酷いくらいだけど、俺には極悪超人も吃驚なくらいの態度取るよね? 残虐ファイトは趣味じゃないんだよ」

「だって、腐ったみかんはわたしにとってヨシヒコやん」

「腐ったみかんでオランダ出身の地獄の墓掘り人形、って......泣いていいですか?」

「オランダ・バッドアスの異名もあるで」

「やっぱり、本名:坂井 ヨシヒコさんのことでしたか......」

 

 八神さんは本当に博識でツッコミに困りますよ......。

 てか、中学一年生がなんでヨシヒコ知ってんだよ、超マイナーだけど、超有名なレスラーだよ、ヨシヒコはすぐに対戦相手に合わせちゃうからな、とても紳士だ。でも、脳みそが出ようが、腕がもげようが、足が変な方向に曲がろうが、絶対にギブアップをしない不屈の闘志を持っている。超軽量級なのに重さは超重量級、もう、ヨシヒコだけでいいんじゃないか?

 つか、ピチピチの女子中学生とプロレスラーを名乗るダッチワイフの話で花を咲かせるのはどうだろうか? 普通の女子中学生ならヨシヒコとか絶対に知らないよ、知ってたら凄いよ......まあ、八神だから、博識だからわからなくもねぇけど。

 

「で、いつまで腐ったみかんと呼ぶわけ? 俺、性格は腐ってるけど、行動まで腐ってませんよ」

「脳みそは腐ってるよ」

「おまえなぁ......おまえが男だったらハッテン場に投げ込んでやってるよ......」

「あ、借りパクしてたヤマジュン・パーフェクト返した方がええ?」

「無いと思ったら、おまえが借りパクしてたのかよ......」

「最高のギャグ漫画やったわぁ〜」

「あれはギャグ漫画、薔薇漫画ではありません」

 

 まあ、下手な同人誌を読ませるよりは教育に悪くない、と、思う。

 

「で、土曜日に本当に来るわけ? もう麻雀卓と牌は押入れに収納したから打たんぞ、トラウマを植え付けられるからな」

「え〜新しい罰ゲーム思いついたのに〜」

「おまえは絶対に幸せな死に方はせんぞ......」

「出来れば、可愛い孫に看取られて死にたいんけど」

「見える、私には見える、おまえがキャリアにしがみつき婚期を逃して、気がつけば七十代、老人ホームに入って、介護師に見苦しい死に様を見せつけて死ぬ姿が見える」

「土曜日は首を洗って待っといてな......楽には殺さへんから......」

「へっ、魔導師適正A+の俺に勝てない魔導師適正S−さんが吠えますねぇ〜」

「キィィ! 絶対に殺すんやからな!!」

 

 プツリと通話が終わる。

 

「ああ、八神をおちょくるのは楽しいな。ペースを乱したらこっちの勝ちだ」

「でも、はやては怒らせると怖いぞ?」

「大丈夫、もしもの時は逃げるからさ。こう見えて逃げ足だけは早いんだ」

「まあ、頑張れよ」

 

 変わらない日常、そう、これが俺が望んでいる生活。

 管理局の犬になって戦場で死ぬのは御免だ。俺は、生温い、だけど、温かい、この生活を謳歌するんだ。

 

「ふぅ〜久しぶりに長風呂したら気怠いわ〜」

「慣れないことしないことさね」

「うぃ〜」

 

 武蔵も俺と同じように冷凍庫からアイスを取り出して包装を破り、口に加える。

 日常という名の幸せ、ダラダラとした、でも、温かい幸せ。そう、これが俺の求めていた温かい何か。

 

「フハハハ! 今日は大量でっせ!!」

 

 玄関から聞こえる奇声に近いバルの声。

 

「体が元に戻ったからってパチンコ屋に毎日通いやがって、またアリーヤにしたろうか?」

「ご主人はん......ワイはパチンコが無いと死ぬんどす。そんなけったいなことせんといてぇな......」

「一週間パチンコしないでも生きてただろうが」

「もう、ご主人はんの馬鹿! 着信拒否にしたるんやから!!」

「おまえと俺は基本的に念話で話してるだろうが......」

 

 バルはコンビニから買ったのだろうか、パチンコ攻略雑誌を床に座って読みはじめる。こいつのパチンコ中毒は将来的に、俺の命を奪うと思う......。

 

「ったく、このパチンカスネクストが......」

 

 一人と一機で暮らしていた家が、二人と一機、そして、三人で一機になった。会話が絶えない、明るい生活。退屈しないし、退屈をさせない。互いに互いのことを深く理解していて、わかりあい、わかちあえる。誰も俺のことを気にしない。何故なら、すべてを知っているからだ。だから、俺も三人のことを気にしない。気にする前に助けてしまう。

 言ってしまえば――家族、なんだろうな......。

 幸福、そう、幸福。こんな風に仲間と一緒に馬鹿やって、アイス食べて、時々喧嘩して、仲直りして、笑って、飯を食いに行って、美味しやら、不味いやら、会話に花を咲かせる。これが、これが幸福じゃないと言うのであれば、何と言うのだろうか?

 少なからず、両手に血の臭い染み付いた俺でも、この、幸福を味わう権利くらいはある筈だ。

 だからこそ、言わせてくれ......。

 

「......幸せだな、俺」




【ハマグリのガソリン焼き】
 言わずと知れた北朝鮮名物。味は普通にハマグリらしい。

【作者から】
 この作品を見て不快に思った方がいらっしゃいましたら、この場で深く謝罪申し上げます。誠に、申し訳ございませんでした......。

投稿ペース

  • 一秒でも早く書いて♡
  • ネタの品質を重視してじっくり!
  • 冨樫先生みたいでええよ~
  • 絵上手いから挿絵積極的に
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