東京レイヴンズ 〜もっと夏目と仲良しで、夜光の記憶が戻っていたら〜   作:かんむり

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夜光ってやっぱり天才だよね

 

呪力は祭壇を包み込み、ついには、御山の頂上から溢れ出した。

読み上げられる祭文に呼応するように、周囲が劇的に変化していく。空気は冷たくなり、地面は地震のように揺れ始める。

まるで世界が今、呼び出されているものを恐れているようだ。

そして、春虎もそれを感じていた。

人間の生死を司る神–––泰山府君。

目に見えたわけでもなく、耳に聞こえたわけでもなく、春虎はその存在を間違いなく感じ取っていた。

 

「こ、これは!?」

「…わかりません!でも、こんなの神様なんかじゃ…」

 

祭壇は空から降り注ぐ霊気に満ちている。

和紙が鈴鹿の前で広がり、そして青い炎を出して燃えた。

そして、

 

「…ああっ!お兄ちゃん!!」

 

祭壇に横たわっていた少年がゆっくりと身じろぎしていた。

春虎は息を飲み、夏目は目を見張る。

鈴鹿の兄はそっと瞼を持ち上げた。

 

「お兄ちゃん!」

「…鈴鹿。」

 

ゆっくり少年は体を起こした。

 

「おにぃちゃん!!」

 

鈴鹿は兄を抱きしめて大粒の涙を流しながら泣き出した。

春虎はガクガクと震えていた。夏目も信じられないという表情で二人を見ていた。

見方によっては兄と妹の感動の再会であるが、それは言いようのない恐怖に満ち溢れていた。

絶対に踏み込んではならない領域。何かが春虎に警鐘を鳴らしている。それなのに、春虎は今の光景から目を離せられないでいた。

 

これが…失われた魂の呪術。

天才、土御門夜光の…咒。

 

「お、お兄ちゃん?」

 

鈴鹿の抱きしめていた腕は兄によって外された。

兄は鈴鹿に顔を向け

 

「鈴鹿。」

「な、なに?」

「足リナイ。」

 

鈴鹿の首を両手で握りしめた。

 

「足リナイ…」

 

どんどんと鈴鹿の首筋に食い込んでいく。

鈴鹿は息を漏らしながら、兄を涙を流しながら見つめる。

 

「待って…あげるから…あたしの命、あげるから…だからもう少しだけ…」

 

涙を流しながら、兄の腕に手を添える。

しかし、兄の力はどんどんと強くなっていく。添えられている手もだんだんと震えてきた。

鈴鹿は涙を流した。

 

「待って…お願い…」

「っくそがあぁぁぁぁ!」

 

自分に怒鳴り、鼓舞する。

立ち上がれと、体を動かせと、身体に訴える。

暴れまわり、髪を振り乱し、がむしゃらに身体を動かした。

先程までビクともしなかった呪符がメリメリと剥がれ始めた。

 

「っおっらあぁぁぁ!」

 

身体を持ち上げた。

呪符と一緒に皮膚が裂ける。あちこちから血が流れ始めた。

 

「息を止めてください!」

 

夏目の声に即座に息を止めた。

 

「邪符を焼き払えっ!喼急如律令(オーダー)!」

 

ついに自由になった春虎は急いで鈴鹿の方へと走り出し、兄へと体当たりをする。しかし、それは兄から出る霊気によって阻まれていた。

春虎は近づいてやっと見えた。

兄に流れている霊気。それは全て、空から注がれていた。兄を動かしてるのはこれだ。

断つしかない。

でも、どうやって…

そんなのっ!

 

「知るかボケェ!!」

 

背負い続けていた笈をその霊脈目掛けて叩きつけた。

箱の中身は土御門秘蔵の呪具。

泰山府君祭は代々土御門が取り仕切ってきたのならこの霊脈を断ってくれ。妨害してくれてもいい!

だから!

 

「頼むっ!」

 

新しく土御門として名を連ねた未熟な式神のために。

そして、笈が当たった瞬間、巨大な光が春虎を包み込んだ。巨大な霊気。神々しい、霊気の波紋。

春虎の左目の下にある五芒星が熱く熱く、そして輝いていた。

 

パリンと何かが割れる音がした。

 

身体に、脳に、細胞に、全てに電流が走るような感じがした。

そして、全てを理解した。

夏目は俺の側に来た。

 

「バン、ウ––」

「バン、ウン、タラク、キリク、アク!五行連環!喼急如律令(オーダー)!」

「は、春虎君!?」

 

夏目が俺の方を見て驚きの声を上げた。

頭上に五枚の呪符を投じる。呪符は光で繋がり、空中に綺麗な五芒星を描き出して、障壁を作り出した。

俺は即座に夏目を押し倒した。

 

「は、春虎君!?」

「見るな!魂を持ってかれるぞ!」

 

力の波動が遠ざかっていく。

俺と夏目は互いに抱き合ったままずっと耐えていた。

永遠とも思える一瞬を俺たちは二人で。

神よ、御無礼をお赦しください。

 

 

 

霊気が消えているのを確認すると、俺は身体を起こそうとするが、身体に重みを感じた。

夏目がまだ俺にしがみついている。俺はその夏目の頰をゆっくりと撫でた。

夏目はんんっと息を漏らしてからゆっくりと目を開けた。俺と目があうと、夏目は顔を赤くして、飛び起きようとしたが

 

「痛っ!」

「痛い!」

 

おでこがぶつかって二人して悶えていた。

目の端に涙を浮かべながら、夏目はゆっくりと起き上がった。

 

「…終わったんですか?」

「…ああ、終わった。」

 

夏目の疑問に春虎は答えた。

その端で鈴鹿は身を起こした。

夏目はギクリと身構えるが、春虎は優しい目で鈴鹿を見ていた。

 

「…どうして…」

 

鈴鹿は泣き始めた。

春虎はそっと鈴鹿から視線を外した。

もう、戦う意思はない。

空には、綺麗な月と金色に輝く竜が空に浮かんでいた。

 

 

 

春虎は携帯に電源を入れ、冬児に連絡した。

まあ、本気で怒ってるみたいだから、本当に怖い。

 

『春虎。』

「ん?なんだ?」

『ちゃんと護れたのか?』

「…ああ、護れたさ。」

『ふん、ならいい。俺も呪捜官と一緒にそっちへ向かうから待ってろ。』

「了解。」

 

プツッと電話を切る。

ふぅと息を吐き出すと、俺の横にいた夏目が疑問を顔に浮かべながら俺を見ていた。

 

「なんだ?」

「…あの時の『五行連環』はなんです?」

「…あれか?あれは親父の部屋に入った時にたまたま見つけた本にこの呪文?呪術?が書いてあったんだよ。」

「…本当ですか?」

「ああ、本当だ。信じてくれ夏目(・・・・・・・)。」

「…わかりました。信じます。春虎君の言うことは信じてあげましょう。だって私の式神ですからね!」

 

夏目は笑顔でそう言った。

俺はそんな夏目をこちらへ寄せ抱きしめた。

 

「は、春虎君!?いきなりそんな…」

「ごめん、ごめんな夏目。」

「ど、どうしたんですか!?」

 

今は謝ることしかできない。

そんな俺を許してくれ。そんな式神を許してくれ。

夏目、お前に信じさせて(・・・・・)しまった俺を許してくれ。

俺は強く、夏目を抱きしめた。

 

 

 

 

夏目は俺を置いて御山を降りて行った。なんでもしきたりらしい。

そして俺は鈴鹿の近くに立っていた。

 

「なによ…」

「起きてたのか。」

「寝てねーよ。」

 

鈴鹿は膝を抱えた姿勢のまま答えた。

俺は鈴鹿の頭に手を乗せた。

 

「兄貴の葬儀、ちゃんとやってやれよ。」

「…うん。」

 

また鈴鹿は泣き始めた。

春虎はなにも言わず、ただ鈴鹿の頭をずっと撫でていた。

 

 

 

呪捜官達と冬児が一緒にやって来てから、また慌ただしくなった。鈴鹿は拘束され、俺も一緒に呪捜官に連行された。

冬児は俺が連行されるのに何か言っていたが、俺が仕方がないと言うと黙って俺を見送っていた。

そして、朝になってやっと俺の両親が俺を迎えに来た。拘束されていた俺を引き取りに来たらしい。そして、親父はなにも言わず俺を殴った。凄く痛かったが、俺の左目の五芒星を見ると母は突然泣き出し、親父も絶句していた。

この二人はこの五芒星の意味を分かっているらしい。

 

俺は家に帰ってから、両親と向かい合って話をしていた。

親父は胡座をかいて座り、母は正座をして座っていた。俺もその二人の前で正座をして座っていた。

 

「…記憶が戻った。」

「…そうか。」

 

親父は目を瞑り、息を一つ吐いた。

 

「春虎。お前に渡したい物がある。」

「渡したい物?」

 

それは突然の再会だった。

 

 

 

 

そして、時間が経ち。

俺はガヤガヤとした都会の中心街にいた。

人の多さに目が回る、というか回っている。

俺の後ろの忠犬ハチ公もさぞ目を回しているだろう。

 

「にしても、遅いな夏目のやつ。」

 

あの後、電話やメールで何度も連絡を取り

 

「いいですか?春虎君は私の式神なんです。式神は常に主人の側にいるものなんです!わかりましたか春虎君!」

「…あいあい。」

「なんですかその返事は!」

 

ということがあったのだ。

まあ、夏目らしい照れ隠しってやつだろう。スマホを見る。スマホにはいつ撮ったのか。夏目の巫女服の姿が映っていた。

似合うな。

それを眺めながら待っていると。

 

「春虎!」

 

と高い声で名前を呼ばれた。

そして、歩み寄ってくる人物は、優れた容姿もさることながら、着ている服が烏羽色をしたそれは陰陽塾の制服だった。

 

「ひ、久しぶり!といっても二週間くらいだけど…まあぼくもちょっとね、ああ、そのね。でも、もう大丈夫。覚悟は決まったからね。」

 

春虎の前に立っていたのは、頰を紅潮させた土御門夏目だった。

春虎の幼馴染。

その幼馴染が着ている制服は男子の制服だった。口調も男性のようだった。髪の毛も祭りの日に取ったピンク色のリボンで纏めていた。

 

「なにやってんの?」

「なにとはなんだよ。春虎を迎えに来てやったんだろ?」

「…なにその喋り方。」

「その喋り方って…まさか!?ご両親から聞いてないんですか!?」

「うい。」

 

頷くと夏目は信じられないといった表情をして俺を見た。

 

「『土御門家の跡取りたる者、他家に対しては、男子として振る舞うべし』。本家に伝わる『しきたり』です!」

「はあ?そんなの作ったというか、あった記憶も…」

「なんですか?」

「っ!?な、なんでもない!!」

「小父様と小母様にお願いしたのに!」

「…多分、忘れてたと思う。」

 

この数日間はバタバタしてたし、俺のこともあって凄く忙しそうだった。というかそんなしきたりあったかな?俺が生きている時代にはなかったしきたりだな。

まあ夏目にとったらここでは俺が態度を合わせる筈だったのに全然そんなことなかったからびっくりしただろうな。

夏目もなんかどうしたらいいかわかってないようだし。まあ、そんな事より

 

「夏目はなんでも似合うな。可愛いぞ。」

「か、可愛い!?」

 

写真を撮っておく。

写真を撮ると、夏目が気づいたようで俺のスマホを取ろうとしてくる。

 

「な、なんで撮ってるんですか!?消してください!!」

「やだよ。なんでだよ?こんな可愛いのに。」

「可愛い可愛い言わないでください!春虎君は私の式神なんですから主人の言うことは聞くものですよ!」

 

夏目も素に戻って、春虎のスマホに手を伸ばす。

春虎もスマホを上に持って行き、取らせないようにする。

 

「なに朝っぱらからいちゃついてるんだバカ虎。」

「ん?おお。冬児、お前も遅かったな。」

「…えっ?」

 

夏目は冬児を見て、頭の上にハテナマークを浮かべている。

 

「どうして冬児君が?」

「あれ?言ってなかったっけ、冬児も一緒に陰陽塾に入るんだよ。」

「えっええ!?」

「久しぶり、土御門夏目さん。面倒だから夏目でいいか?俺も冬児って呼んでくれ。冬児君なんて言われるような奴じゃないんでな。」

「で、でも冬児く…冬児は素人じゃ。」

「俺はもともと、見鬼なんだ。」

 

夏目がまたも絶句した。

 

「霊災に巻き込まれてな、その影響で。いまも陰陽医に通ってるんだが、良い機会だから、テメェの面倒はテメェで見られるようにってな。それで陰陽師を目指すことにした。」

「そ、そうなんだ。」

「夏目、男のふり。」

「はっ!…ごほん、春虎に冬児は陰陽塾じゃぼくより後輩なんだからな!敬えよ!」

「へーい。」

「うーっす。」

「なんだその返事は!ったく、もう行くぞ!」

 

夏目は東京の街を歩いていく。

俺は急いでそれを追いかける。

 

こうして土御門春虎の新しい陰陽師としての歴史がまた始まった。

 

 

 

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