東京レイヴンズ 〜もっと夏目と仲良しで、夜光の記憶が戻っていたら〜   作:かんむり

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遂に2巻突入!
がんばりますよぉ!


都会に行くと自然に上を見ちゃうよね

 

 

「デケェな。」

「ああ、デカイ。」

 

春虎と冬児は国内有数の陰陽師育成機関、陰陽塾の前にいた。

その陰陽塾は春虎の思っていた古臭い建物とは違い、都会に合った無駄のないデザインビルだった。窓とかピカピカ。

 

「歴史のある塾の筈なんだけど。」

「陰陽塾自体は、半世紀近い歴史があるが、こいつは去年完成したばかりの新塾舎だ。」

「中の設備まで最新式か?今の陰陽師って実は儲かるのか?」

「さあ。」

 

春虎はやや引き気味に、冬児は気のない様子で返事をした。

二人は共に陰陽塾の制服を着ている。

今日から二人ともこの塾の塾生となるのだ。

 

「…まさか俺がここに入るなんてな。」

「いい加減腹くくれ。」

 

春虎の言った意味は違う。

まさか自分が作った塾に自分が塾生として入るとは思ってもみなかった。なぜか変な気分になる。

 

あの日、土御門夜光としての記憶が蘇った日から二週間。両親には記憶が戻ったことは伝えたが、冬児や夏目にはこの事は話していない。

どうしてかと言われれば、答えにくいが、これを言うことによって色々なことがこう、ぐちゃぐちゃになるからだ。

だからもう少し、落ち着いてから話すことにした。

 

「凄く遠くから来たもんだな。」

「まだ来ただけだけどな。」

 

春虎は実は冬児の霊災の後遺症を治したいと思っていた。

けど、冬児が陰陽塾に入り、自分でどうにかすると言ってからはその考えを改め、力になることだけにした。

 

「やっとスタートラインに立ったわけだが、春虎。」

「ん、なんだ?」

「やけに静かだな。もう少し怖気付くと思ってたのに、ちゃんと冷静なんだな。」

「まあ、なんだ。一周回ってってやつだよ。もう、周りの目が怖い。この塾の時だけ土御門って名前を捨てたい。」

「それは無理な話だな。入ってすぐ自己紹介だろうよ。」

「最悪だな。」

 

二人でそう言いながら、春虎と冬児は塾舎の入り口へと向かった。

学校っていうより、オフィスだなこりゃ。

塾舎内に入ると霊気が安定した。

こりゃあまた手の込んだ呪術だな。塾舎全部に施してるんだろう。

そして、目の前に置かれている式神。

冬児がもの珍しそうに狛犬を見ていた。

 

「こりゃあ、陰陽塾らしいな。動くかもしれないぜ。」

「うむ。その通りだ。」

 

冬児はぎょっとした様子で目を丸くした。

春虎はわかっていたので、それほど驚かない。

つーかそれ、俺が作ったやつじゃん。

 

「我ら、塾長自ら呪力を吹き込まれし高等人造式、アルファとオメガである。主の命により、陰陽塾開塾以来、その番を司っておる。」

 

それ俺の命な。

と心の中で相づちを打ちながら話を聞いている。

 

「汝らのことはすでに聞き及んでおるが、我らの任を全うせねばならぬ。まずは己が名を、名乗るがよい。」

「はいはい、俺は土御門春虎。」

「阿刀冬児だ。」

 

アルファとオメガは一瞬石像に戻り、動きを止めた。

それも一瞬のことで再び口を開く。

 

「よろしい。お主ら二人の声紋と霊気を確認し、登録した。」

「我らは汝らを歓迎する。良い陰陽師となるために精進するがよい。」

 

その後にアルファはこう口を開いた。

 

「汝の式神も共に登録した。次からは、そちらから申告せよ。」

「ん?ああ、すまない。次からはそうするよ。」

「春虎、お前式神なんか持ってたのか?」

「ああ、親父から。」

「親父さんからなら凄い式神なんだろうな。」

「そうだな。すごい(・・・)式神だ。」

 

そのまま塾舎へ入ろうとするとオメガが俺たちを呼び止めた。

 

「待て、我らが主が、汝らをお呼びだ。直ちに塾長室へ向かうがよい。」

 

 

 

 

塾長室があるのは最上階。

エレベーターで上へ登り、エレベーターを降りると壁の横に色々な呪物や呪具が飾られていた。

その一つ一つを観察しては、ここに置いておいて大丈夫かと思っていたが、よく見ればしっかりと取れないように『封』をされてあった。ならここに飾るなよ。

廊下を渡れば塵ひとつなく、完璧な廊下だった。

 

「…向こうの俺の部屋も式神に掃除してもらおうかな。」

「やめとけ、お前の趣味がバレるだけだ。」

「そ、そこは触らせねぇし!」

 

俺のベッドの下は誰にも触らせねぇ!

 

「もう掃除や洗濯の上手い家事専用の式神なんてのもいるかな?」

「用途を限らない汎用式なら市販されてるな。もっとも甲種呪術は資格がいるからな。プロ専用だ。家事専門の家事式なんて作ったって、売れないんじゃないか?」

「…そうか、今はまだなのか。」

「まあいつかは生まれるだろう。」

「そうだな。」

 

話している内に塾長室の前に辿り着いた。

素っ気ないドアには塾長室と書かれているプレートが付けられていた。

ドアをノックするが返事はない。

もう一度しようとするが、

 

「どうぞ。」

 

その返事が足元からした。

春虎と冬児は驚いてドアから離れた。

足元には一匹の三毛猫が座っていた。

 

「開いていますよ。お入りなさい。」

「…これって今の塾長の趣味か?」

「しるか。」

 

そう答える冬児をみて、春虎はドアノブを掴んだ。

 

「失礼します。」

 

入ってすぐに春虎は妙に懐かしいような感じがした。

部屋の中の雰囲気が、外の廊下とは違い、まるで大正時代のカフェのような落ち着いたレトロな雰囲気だったからだ。

 

その部屋の奥に椅子に腰掛ける品のよい老婆が座っていた。その老婆は本を閉じて眼鏡を外し、春虎たちを見た。

 

「ようこそ。お待ちしておりましたよ。」

 

春虎はこの老婆を何処かで見たことがあるように思えた。

 

「土御門春虎さん。それに、阿刀冬児さん。初めまして、塾長の倉橋美代です。」

 

そこで春虎は気がついた。

いつも自分の横で座っていた小さな少女のことを。いつも将棋をして負けていた。あの少女のことを。

倉橋、美代。こんなにも老いてしまったのか。あの時のあんな小さな少女が。

 

「なるほど。あなた達が夏目さんの飛車丸と角行鬼なのですね。」

 

物思いに耽る間に塾長がそう言ってきた。

 

「夏目さんから聞いていますよ。あの子は律儀ですから、あなたの入塾が決まった時に、土御門の式神になっていることを、報告してくれましたよ。それに、私はこの夏の事件についても知っています。大蓮寺鈴鹿さんとのことを。こちらは陰陽庁にいる知り合いからですけど。」

「ということは、今回入塾出来たのは、確実な口止めが出来ることが一番の要因ってことですか?」

 

冬児が挑発的な口ぶりで尋ねた。

 

「そういう一面があることも、否定はしませんよ。」

 

塾長は悪びれることもなく認めた。

 

「だからといって、あなた達に素質がないというわけではありません。たとえば春虎さん。あなたは霊力のコントロールが素晴らしい。あの平均を超える霊力をあそこまでコントロールしているのは凄いです。」

「あ、ありがとうございます。」

 

教え子に褒められるとは妙なことになったもんだ。

とはいえ、俺が生きている時に使っていた呪術は大半が今は使えないらしいので、どれを使っていいのかわからないから適当にやっていただけである。

筆記のテストは散々な結果だった。夜光としての記憶がある訳だが、今の時代の呪術の解釈と、俺が夜光として生きていた時代との解釈に完璧な差があった。

時代が進んだことを痛感させられた。

 

「あなた達の入塾を認めたのは、あなた達が立派な陰陽師になる素質があると判断したからです。これからどんな結果になるかは、あなた達次第です。」

「…そうですか。」

 

いい老婆になったもんだな。

随分明け透けに言う老婆に育ったが。

 

「あと、これは老婆心からのアドバイスです。」

「なんです?」

「お二人は夏目さんに対する噂はご存知ですね。」

 

ああ、夏目が夜光だっていう噂か?

なわけねぇだろ。

俺だ俺。

そんなことも言うわけにもいかず、塾長の話を聞いていた。

 

「あの噂のせいで夏目さんは特別な関心を持たれているわ。そしてそれは、あなた達へも向かうでしょう。何か困ったことがあれば相談に乗ります。私に言いにくいことであれば担任の先生、これから紹介する大友先生という方に相談してください。」

「大丈夫ですよ。」

「…どうしてですか?」

 

塾長が春虎のことを見る。

春虎は胸に手を当て

 

「俺が夏目を護りますから。」

 

そう言って春虎は笑った。

塾長はその笑顔を見て、少しだけ目を大きくした。

そしてふっと笑った。

 

「そうですか。なら大丈夫ですね。」

「はい。」

「ところであなた達は土御門夜光に対してどのような印象を持っていますか?」

 

本人も前でそれを聞きますか。

俺と言われても、あまり頭に浮かばない。

 

「天才でしょ。やっぱり。」

 

横で冬児が言った。

そ、そんなこと言われても、て、照れるだろおい。

 

「–––将棋が好きだったんですよ。」

 

塾長は唐突にいった。

俺は思わず塾長の方を見た。

 

「でも、弱くてねぇ。ヘボ将棋っていうのかしら。弱いのにしようしようって、負けたら拗ねるもんですから。みんな迷惑してましたよ。」

「そ、そうですか。」

 

そ、そんなに言わなくても、いいじゃないか塾長。へ、ヘコむぞ!拗ねるぞ!

 

「…でもね、私は感謝しているんですよ。」

「どうしてです?」

「だってあの人が無理矢理教えてくれなければ、たぶん生涯将棋なんてわからなかったでしょうから。」

 

笑いながら塾長は言った。

 

「…そうですか。それはよかった。」

「ええ、よかったです。」

 

塾長は遠くを見ながらまた話し始めた。

 

「夜光はあなたたちと同じ普通の人間なんですよ。笑もするし、泣きもする普通の人。」

「普通の…」

「でも、夜光を英雄視して、神格化している人達もいるんですよ。いわゆる、夜光信者たちです。」

 

そんな名前初めて聞いた。

たぶん俺のファンってところかな。

 

「夜光を盲目的に祭り上げ、夏目さんにまで接触を試みようとした人までいるんです。」

「夏目に!?」

「春虎さんは先ほど夏目さんを護ると言いましたね。あなたはそういう人達からも夏目さんを護らなければならないんです。色々大変だと思いますけど、頑張ってくださいね。」

 

塾長の話が終わったのと同時にドアのノック音がした。

部屋へ入ってきたのは妙に枯れた雰囲気のある野暮ったい眼鏡をかけて、着古したワイシャツとネクタイに、安物のジャケットをよれよれのスラックス姿だ。

右足からは木製の義足が伸びていた。

隻脚とは陰陽師としては良いことの一つだな。

 

「かっちょええやろ。塾講師とはいえ、僕も陰陽塾の端くれやさかいな。」

 

うん、この陰陽師。信用出来へんな。うさんくさい。

体から出ている霊気は本物だからな。実力は確かだろうけど、うさんくさい。

 

「大友陣先生です。あなた達のクラスの担任をしてくださいます。こう見えてとても優秀なのですよ。」

「こう見えてって、それはないでしょ塾長。まあ、ええです。そういうわけやから、二人ともよろしゅうな。仲良くやっていこうやないか!」

 

胡散臭さが増した。

どうにも信用出来ないんだよな…

 

「とにかく行くで。失礼します。」

 

 

 

 

「おっかなかったやろ〜、あのバア様、あんな形してこの業界の裏の元締めやさかいな。気いつけえよ。」

「そうですか。」

 

あいつがそんな所にまでいるのか。

歳は食えば食うほど、上にいけるもんだねぇ。

 

「ほら着いたで。ここや。」

 

一つのドアの前で立ち止まった。

同年代の陰陽師がここに集まっているのである。まあ俺にとっては雛鳥のようなものなのだが。

大友先生がドアを開けた瞬間、生徒達の騒めきがドアから溢れてきた。

 

「転入生をつれてきたで〜。ほら、入って入って。」

 

言われるがまま教室に入る俺たち二人。

視線が俺たちを包み込んだ。

ていうか、視線が痛い。やめて、そんな見ないで。

 

「土御門春虎クンと、阿刀冬児クンや。ほな、自己紹介頼むわ。」

「…土御門春虎です。」

「阿刀冬児です。」

「…そんだけかいない。もっとなんかあるやろ。ほらアピールせな。」

 

そう言われてもな。

別に何も言うことはないし、そう思いながら周りを見ると、目の端に心配そうに俺たちのことを見つめる奴がいた。

…夏目。

ここには俺の幼馴染がいる。俺の護るべき存在が。

春虎は待たせたなと言わんばかりの笑顔を夏目に見せた。

夏目はそれを見るとボッと顔を赤くして、顔を下げた。

というかあれでよく女って分からないもんだな。周りのみんな目が腐ってるんじゃないか?あんな可愛いのに。

 

「とにかく、色々教えてやってや。仲良うするんやで〜。」

 

大友先生はニコニコしながら話を終えた。

これでやっと席につけると思っていたが、突然真っ直ぐに挙手された白い腕があった。






ぐふふふ…式神ってなんなんでしょうね。ぐふふふ…
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