ベル・クラネルはちょっと風変わりな女の子(TS)   作:抹茶ゼンザイ

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TS注意


プロローグ

 ギルド。円形に広がる都市の中央にそびえ立つ白亜の巨頭バベルの直下にあるダンジョンと、それを経済基盤とする迷宮都市オラリオを管轄する組織。

 その本部であるバベルから伸びる八本のメインストリートの内の1つ、北西のメインストリートに面した万神殿(パンテオン)の内部。巨大な神殿を思わせるその建物の一角。

 開け放たれた面談用ボックスの一室に設置されたソファーに1人腰かけて、ギルド所属のハーフエルフであるエイナ・チュールは、盛大な溜息を(こぼ)していた。

 理由はたった一つ。彼女がアドバイザーを勤める少年、ベル・クラネルのことだ。

 

「あんな真っ赤な体で来ちゃ駄目だよ、ベル君……」

 

 唇から漏れた言葉は呆れ半分、安堵半分だった。

 どうやら上層には居てはならない中層のモンスター、ミノタウロスに殺されそうになった所を、すんでのところで【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインに助けられた際に、惨殺されたミノタウロスの返り血を全身に浴びてしまったらしい。

 

 まだ中層の安全階層(アンダー・リゾート)にいけるわけもなく、バベルなどに備え付けられた有料のシャワーは、駆け出し冒険者である少年には懐が痛む話だとはいえ、流石にそのままで来ちゃ駄目だろう、とも思う。

 その結果、現在エイナが貸し与えた金でシャワーを浴びにいかせていた。

 

「それにしてもベル君遅いなぁ……ん、なんだろこの騒ぎ」

 

 ボックスの外。冒険者がたむろするギルド本部である万神殿(パンテオン)の広間。

 冒険者達が集い、魔石の交換やクエストの受注を行うそこが、にわかにざわめいていた。

 血まみれの冒険者ベルが居たときよりもはるかに上回るその騒ぎに、エイナは一体なんだと顔を覗かせた。

 

(あれは……女の子?)

 

 視線の先、何かを取り囲むように立つ冒険者達の隙間から覗けたのは、困り顔を浮かべる女の子。

 絹のような白い髪は腰にまでかかり、紅い目は濁りが一切見えない澄んだ瞳をしている。

 傷一つない、本来色白であろう肌はほんのりと上気していた。

 

(うっわー……かわいなぁ)

 

 女性であるエイナから見ても、思わず見とれる容姿。

 整った顔立ちはなにより、なんというか放っておけない何かがある。

 美の女神の【魅了】にかかったように視線が動かせないでいると、ふとその少女と目が会った。

 

「──ッ!」

 

 目が合った少女は、迷子の子どもが親を見つけるように、ほっとした笑みを浮かべる。

 眦にはすこしばかり涙が浮かび、胸の辺りに手を置いて安堵している。

 そんないたいけな少女の表情に、周囲の冒険者は老若男女皆どよめいた。

 

「エイナさん!!」

「へ?」

 

 意識がわずかに奪われていた間、気がつけば少女が人垣を必死に抜けてこちらに向かって駆け寄ってきていた。

 どうしてだろう、なぜかデジャブな感覚だ。

 だがそんな考えも、笑顔で手を振りながら走る少女の前に霧散する。

 

「え、えっと、どうかされましたか?」

 

 エイナは頬を赤らめながら言った。

 少女は途端に悲壮な顔を浮かべ、エイナの手を取る。

 

「え、エイナさん、ぼ、僕です!」

「……?」

 

 困惑の表情を浮かべたエイナは、小首を傾げる。

 いってはなんだが、こんな守ってあげないといけないような雰囲気の女性と出会っていれば、エイナだって忘れたりはしないだろう。

 少女は叫んだ。

 

「僕ですよ! ベル・クラネルです!!」

「……」

 

 しばしの困惑。少女の泣きそうな顔。

 周囲の冒険者達の自分達をうかがう視線。いつの間にか居る神々の「ボクっ娘きたぁー!」の喧騒。

 エイナはまじまじと少女の顔を見つめる。

 

「……うそ」

「ほ、本当です!! シャワーから出たらこうなっちゃてて……」

 

 体に合っていないぶかぶかな服は、確かにベルが着ていた服と同じ物だ。

 バックパックも、エイナが少しばかり贔屓して用意した物とそっくり。

 短刀も、鎧も、ベルのものと一緒。

 極めつけは、白い髪にルベライトの紅い瞳。

 

「……本当に、ベル君なの?」

 

 声が震える。少女はぶんぶんと頷く。

 ぐいっと、少女の手をひっぱってボックスの中へと連れて行き、ドアを閉じた。

 

「うそでしょぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」

 

 完全防音を突き破ったエイナの叫び声が、ギルド中に響いた。




五話前後で終わる予定です。
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