「本っ当にすいません!!」
目の前で頭を下げる女の子にぽかんとする。
予備校からの帰り、ホームからの転落+電車に轢かれるという必死コンボをくらって死んだはずのオレ。
それが、なぜか意識もはっきりとしながら、女の子に頭を下げられている。
これはあれですか、二次創作とかでおなじみの『うっかり殺しちゃった☆』ってやつですか。
そりゃね。好きですよ、転生物。
けどね、自分がなるとは思わんでしょうが!!
「えっと、謝罪はいいから確認させてくれないか? まず君は誰だ?」
「一応、この世界を担当する神です。今回は私どものミスであなたを死なせてしまい、すみませんでした」
「・・・・・・・・・・・・。まぁいい。次に、俺は、死んだよな?」
「はい。電車待ちをしていたら、ホームから落ちて轢かれて亡くなりました。結構グロいですよ?」
見ますか? という素敵な提案を拒否し、気を取り直す。
「次。俺はどうすりゃいいの? 天国にでも行くのか?」
「いえ。その・・・。今回の事故は予定外のものでして。予定外の死をなさった魂は送れないんです。ですから、私の権限であなたを他の世界に送ることになってます」
「テンプレ乙」
思わず呟いた俺は悪くないだろう。
なんかこう、外堀というか逃げ道を埋められていくような感じがあるんだよ。
「それで、送る世界は決まっているのですが。ちょっと危険な世界なので、何か希望の能力を差し上げるのですが。何がいいですか?」
さらにテンプレの展開だ。
けど、行く世界って選択権ないのかよ!?
何この外堀埋められた感!?
ものすごく背筋が寒くなるんですけど!
それよりも問題は、能力か。だが、これは難しい。
まず、どこに送られるのかわからないから、対策が取れない。
「ちなみに、どこの世界に送られるんで?」
「厳正な審査の結果『リリカルなのは』の世界です♪」
「・・・・・・」
どこ、それ?
というか、事故なのに厳正な審査っておかしくないですか!?
言われたタイトルは、聞いたことはある程度だ。
しかし、そのときは別の優先する作品があってノーチェックだった。
聞いた限り、魔法少女モノだったはず。
そういえば、友達がネタを言ってたな。
確か、『少し、頭冷やそうか?』だったか?
何か寒気が・・・・・・。
閑話休題。
となると、自衛のためにも能力は欲しいが、欲しい能力がありすぎる。
『王の財宝』とか『音使い』とか『虚刀流』とか。
ギルとか曲織さんとか好きなんだよ。
ん? そうだ!
「それって、タイトル名指しで全能力っていける?」
「ん? ん~普通は無理ですが、今回は融通を利かせちゃいましょう。はい、いいですよ。さすがに、型月作品とか、数が多くて強力すぎるものは難しいでしょうが・・」
「知ってるのね、その辺は。オーケー。それなら、『影執事マルク』っていう小説のキャラの能力。対価のリスクをなくして、くれ」
「はぁ、『影執事マルク』ですか・・・・・・。ちょっと待ってくださいね」
そういって彼女は端末を取り出し(どこから出した)操作しだした。
そのまま待たされることしばらくして、
「はい、確認できました。審議部の判定もよしです。では、いきますよ?」
ひょいっと指を振る。だが、
「・・・・・・・・・? 終わりか?」
それ以上何のアクションも起こさない神に、呆気なさをおぼえつつ変わった様子のない手の平を見てみる。
「はい。問題なく使えるはずですよ? 足元をみてください」
「え? ・・・・・・おわぁ!?」
思わず素っ頓狂な声が出てしまいました。
だって自分の影が犬の形に変わっているんだもの。
というか、こいつは
「<クフ・リーン>・・・・・・?」
もしかして、と思いながら呟いた声に反応してか、影はにやりと笑みを浮かべた。
「いかがですか?」
「凄いの一言です・・・・・・。実際にこの眼にできるなんて」
喜んでいただけて何より、と笑う彼女を見る目が変わっていくのが分かった。
我ながら現金と言うか・・・・・・。
「そ、そういえば他の世界の候補ってどんなのがあったんですか?」
咄嗟に出た話題としては上等なはず!
彼女は、んー? と人差し指をあごに当てながら見上げて、
「バイオハザードとか、学園黙示録とか」
「『リリカルなのは』でいいです!!」
死しかねぇじゃねえか!?
そんな世界に送るなや!!
厳正な審査、ありがとうございます!!
けれど、なんで世界の選択権ねぇんだよ!!
「さて、これで手続きはすべて完了しましたが、何か、他にあるでしょうか?」
「あー、無いんじゃねぇかな? あ、そうだ! よかったら原作を見せてくれません? 何が起こるのか知っておきたいというか」
「あら? ネタばれオッケーな方ですか?」
「いや、ただ見てるだけならネタばれは死刑なんですけど、実際に体験することになるならリスク管理といいいますか、なんというか」
「まぁいいでしょう。ではこれを」
くすっ、と笑って彼女が取り出したのは大型のモニターと映像機器ならびに原作なのだろう、アニメのDVDが二十枚程度。
「え?」
「それでは一話から逝きましょうか。大丈夫です、この世界でいくら過ごしても次の人生に影響はないですから」
「『いく』の字が違った気がするんですけど! というか何時間あるんですか!?」
「さあ♪ 逝きましょう♪」
「お願いですから聞いて!?」
「それでは、送りますね。またいつか会いましょう」
「・・・・・・ああ」
再び端末を操作する神をみながら俺はため息をついた。
一周するだけでも二十数時間程度。
さらに、一周で覚えきれなかったことを補強するために部分的とはいえ二・三周した結果、重度のグロッキーになっている。
すると、
ガコン!!
「へ?」
突然足場が消え、当然俺の視界が上に流れ出す。
「こんなとこまでテンプレかよ!?」
轟々!! と強くなる風音を聞きながら、
今度会った時に殴ることを決心する俺は悪くないはずだ。
「がんばってくださいねぇ」
上から聞こえた声に殺意を覚えながががっが、ななななな何かかかかおかかあかし
暗転。
side・神?
「がんばってくださいねぇ」
落ちていく彼に向けてひらひらと手を振って見送る。
いやはや、一時はどうなることかと思いましたが、どうにか間に合いましたか。
正直危ないところでした。
神が人生に干渉することは重罪ですからね。
予定外の死者の処理をしたなんて知られたらどうなっていたことか。
と、おや?
なにやら手違いがあったようですね。
・・・・・・うっかりしてました。
コレではわざわざ原作を全編見せた時間が無駄になってしまいます。
せっかく、さっさと送るのを必死に我慢していたのに・・・・・・。
こんなことならさっさと送っとけばよかったかな?
「だからその分・・・・・・楽しませてくださいよ。私のおもちゃさん?」
落ちていく彼を眺めながら、くすくすと私は笑った。
その顔は先ほどまで彼に見せていた清楚な笑みからかけ離れた、悪魔のように邪悪なものだった。
ああ、楽しみだ。
sideout
「・・・・・・。ん?」
眩しさに目を覚まして、俺はさっきまで見ていた夢に首を捻った。
「なんだったんだ、さっきの妙な夢?」
まるで自分が作り変えられるような感覚を味わわされるという、なんとも言えぬ不気味な夢。
なんとはなしに、自分を確認してみる。
「名前は『榊 雄一』。家族でここ海鳴に住んでいる、私立聖祥大学付属小学校に通う九歳児。・・・・・・おかしなところは無いな」
ベッドから降りて、鏡を見てもそこには物心ついてからいい加減見慣れている顔があった。
だというのに、違和感は胸の奥で大きくなっている。
「なんだ、これ?」
違和感に首を捻っていると、母さんが階下から呼ぶ声がした。
違和感のことはひとまず置いていき、朝食のために俺は部屋を後にした。
その足元でゲラゲラ大笑いしている山犬の形を描くという非常識な影に気がつかぬまま。