見上げた空は晴天。
陽気の心地よい日でこんな日はのんびりと昼寝をするのもいいだろう。
今日はなのは達の誘いで、少年サッカーの試合を見に来ていた。なんでも士郎さんがオーナーをやっているらしく、なのはの友人であるすずか達にも話がいき、俺にもどうか、ということだったはずだ。
なのに、
「どうしてこうなった?」
ため息をついて経緯を振り返った。
「サッカーの試合?」
「うん。なのはちゃんのお父さんがオーナーをしている『翠屋JFC』の試合が明日あって、誘われてるんだけど、雄一君もどうかな、と思って」
「ふぅん?」
ちらり、となのはに視線を向けると、ビクッと体を震わせて睨んでくる。
やっぱり神社でのやりとりが溝になっているな。
あまり刺激するのもどうか、と思うし。
「すまないけど、パス。なのは達にもそう言っておいてくれ」
「・・・・・・うん、分かった。伝えておくね」
間があったが、すずかは苦笑しながら納めてくれた。
そのやりとりはそれで済んだはずだった。
翌朝。
アリサの執事である鮫島さんに拉致されてあれよあれよという間に連れてこられさえしなければ。
どういう事か、と問うたら、アリサ曰く「すずかが『雄一は来る』って言ってたのに、来ないから鮫島を向かわせた」とのこと。
すずかに視線を向けると素知らぬ顔で微笑みながら首を傾げてくれた。
確信犯だったらしい。
その後、なのはの父親、高町士郎さんに挨拶し、なのは達同様観客に徹していた。
しかし、選手の一人が怪我をし、不幸にも士郎さんの目に留まってしまったらしい俺が代理で試合にかり出されることになった。
回想を首をやれやれと動かすことで振り切る。
すると、
「――――、――、―――」
「―――、―――、――」
「ん?」
微かな声に目を向けると、向こうのチームのメンバーがこちらを見てひそひそと話している。
あまりほめられた事じゃないが、<デル・ドーレ>で聴力を上げて聞き耳を立て
「おいおい、見ろよ、新しく来た奴」
「ちっこいなぁ! あれじゃ、楽勝だろ」
「あんなのしか入れるやつがいなかったんだろ? あっちも人がいないって事だ」
「せいぜいぶつかって泣かれないようにな。ファールとられたら面倒だ」
「構やしねえって。とられたってペナルティは防げるだろ? むしろ一人減って大助かりだって!」
聞こえた陰口に口角を釣り上げた。
「・・・・・・上等」
ずいぶん舐めた口を利いてくれる。
だったらせいぜい後悔させて、いや、
「後悔スル暇サエヤラネエ」
ゴゥン!!
「グェッ!!」
「ギャッ!!」
風切り音とほぼ同時に人の悲鳴が二つ上がった。
音の先を振り返った人々は顔を青くしながらそれを見た。
ゴールネットに身を預ける形で崩れ落ちる敵チームのフォワードとキーパー。
フォワードの腹にめり込んでいたボールが静かに落ちて、コロコロと虚しく転がった。
周囲が静まり返った中、審判の吹いたホイッスルが虚しく響いた。
「両チーム、礼・・・・・・を」
「「あ、ありがとうござい、まし、た・・・・・・」」
気まずげな審判の声で歯切れの悪い礼が行われた。
得点は5ー0。
スコア上ならこっちは大喜びでもよかっただろう。
だが、怪我人四名。うち味方一名、というか俺が代理として出る原因になった選手だった。
あの後さらに一人が犠牲になったのだった。
まあ、こっちもすっきりしたし、いっか。
なのは達の所へ歩いていくと、なのはだけでなくアリサとすずかも顔をひきつらせていた。
「どうかしたのか?」
尋ねるが三人とも顔を横に振った。
どうしたのやら。
そうしていると、士郎さんがこちらへ近づいてきた。
「雄一君、今日はその、お疲れさま。悪かったね、代理なんて頼んでしまって」
「いえいえ、いいですよ。やっていて楽しかったことですし(士郎さんにも何か意図があったようですし)」
小声で話しかけると、士郎さんは驚いたように目を丸くした。
「(気がついていたのかい?)よかったらこの後祝勝会をするんだけど、君もどうかな?」
士郎さんの誘いに少し考え、
「すみません。遠慮しておきます」
首を横に振った。
「どうしてだい?」
「さすがに相手チームをめちゃくちゃにした奴と一緒で祝勝会とはいかないでしょう。祝勝会に水を差すわけにはいきませんから」
答えると、すぐに背を向けてサッカー場をあとにし家路に着いた。
異変は家に帰って、本来の用事であった買い物に出ているときに起こった。
『っ!? 気をつけよ! ジュエルシードが発動しよった!』
「どっちだ!」
『あっちじゃ!』
カナメの指す方向。
<バーラ・ルー>で見ていくと、少し先の交差点に先ほどの少年がいるのが見えた。
彼の手には青い宝石。
その宝石から光が溢れ、彼と一緒にいた少女と一緒に、取り込むような樹が現れた。
樹は大きさを増していき、伴って伸びる根が街を破壊していく。
「これは、急ぐぞ!」
『ま、待て! 今踏み込むのは危険』
カナメの制止を聞かず、<デル・ドーレ>で強化した脚力で走る。
だが、
『っ、避けよ!!』
カナメの叫びと同時にコンクリートを突き破った木の根に吹き飛ばされた。
「ぐっ、ぁ!!」
『雄一、無事か!』
「大、丈夫だ!」
カナメに答えつつ、空中で体勢を整え足から降りる。
「くっそ、油断した・・・・・・」
『確かにな。単純な攻撃だったのが救いか。怪我は?』
「もう治った」
事実、<デル・ドーレ>によって傷は欠片もない。
問題は、ジュエルシードからだいぶ離されている現状だ。
先ほどの一撃で思った以上に離されてしまった。
こうしている今も、街のあちこちに大樹が生まれ、根がコンクリートを喰い破り、自動車を跳ね飛ばしている。
打開策を考えるため、念のためと、一応カナメに聞いてみる。
「カナメ、ここからジュエルシードの封印ってできる?」
『できる、と言えれば良かったが無理じゃな。私では封印は至近距離まで近づく必要がある。逆に聞くが、おぬしはジュエルシードに近づけるか?』
「たぶん無理、だな」
転がっているコンクリート片の一つを引き寄せると、<ルー・グー>で加速して撃ち出した。
弾丸となったコンクリート片は根の一部を粉砕したが、根は傷から新しい根を伸ばし再生して見せた。
「この有様だ。この根をいくら破壊しても切りはないだろうし。たぶんジュエルシードを一撃で潰さなきゃいけないんだけど・・・・・・」
『打つ手、なしか』
歯噛みするように呟くカナメに苦々しく同意する。
せめて、<バーラ・ルー>が使えれば、否この街中で使えば犠牲者を出す恐れがある。
せめて、<ルー・グー>が連射が利くのならば、否破壊するさきから再生されるだろう。
手詰まりを感じていると、後方のビルから魔力が吹きあがった。
「あれは・・・・・・なのはか?」
『そのようじゃな。ふむ、あの娘なら可能か』
カナメが何か思いついたらしい。
考え込むように沈黙し、
『雄一、ジュエルシードに届かなくても構わぬ。ここから、ジュエルシードを派手な技で狙えぬか?』
「・・・・・・? なるほど、そういうことか」
意図に思い至り、ポケットから投擲用のナイフを取り出し構える。
「行くぞ」
――上等だ、相棒――
「駆け抜けろ、<クフ・リーン>!」
魔槍を撃ち放った。
sideなのは
「あれは!?」
ビルの上から、ジュエルシードを探そうとしたとき、何かがある方向へ飛び去った。
何が、誰がやったのかわからないけど、
「あっち! お願い、レイジングハート!」
なぜか、その先にジュエルシードがあると教えてくれた気がした。
そちらにレイジングハートを構える。
レイジングハートも主の意志を察した。
<Shootingmode Setup.>
杖の先端、本体の赤い宝石を囲んでいたフレームが分解され、別の形で再構成される。
二叉の槍のようになったレイジングハートをジュエルシードがある場所へ向けて構える。
「行って、捕まえて!」
先端に魔力が集まり、一直線に撃ち出される。
撃ち出された魔力がジュエルシードを捉えた。
<Standby ready.>
「リリカル・マジカル、ジュエルシードシリアル10・・・・・・封印!!」
再度レイジングハートから魔力が撃ち出された。
魔力がジュエルシードを包み、
<Sealing>
事態の終焉が告げられるのだった。
sideout
光と共に木が消え去った後。
俺は、魔力が撃ち出されたビルの屋上へ来ていた。
屋上にでると、なのはの物だろう呟きが風に乗って聞こえてきた。
「私、気づいてたんだ。あの子が持っているの。でも、気のせいだと思っちゃった」
悲しげに呟くと膝を抱えてしまった。
防げたかもしれない被害を見て、自責に駆られているようだ。
ユーノが必死に励まそうとしているが、なのはの表情は変わらない。
正直、その姿は見ていられなかった。
「なのは」
「雄一君・・・・・・。さっき、ジュエルシードの場所、教えてくれたのは雄一君?」
「・・・・・・」
答えずにいたが、なのはも答えを期待していたわけではなかったらしく、言葉を続けた。
「私ね、気が付いていたのに、でも気のせいだ、見間違いだ、って思って」
「そうか」
「でも、発動してないから違うんだって、自分で理由を付けて。でも浮かれてただけのかな、特別な能力があるんだって。私にも自慢できる物があるんだって」
「・・・・・・」
「わたし、どうすればいいのかな?」
「なあ、なのは。前に言ったことを覚えているか?」
なのはの言葉を遮る。
え、と見上げてくるなのはを見ながら言葉を続ける。
「前に教室で言ったな。おまえの支え程度にはなってやる、と。あの契約、実はまだ有効なんだ」
「どういう、こと?」
「だから、今の崩れそうなおまえを支えてやるよ」
なのはから視線を街に向ける。
木が消えても木が残した破壊は色濃く夕日に浮かんでいる。
なのはは沈痛な顔で見下ろした。
その顔を見て、俺はその言葉を口にした。
「―――届いていますか、私の歌は―――」
その途端世界が変わったような気がした。
歌に集中していた俺は気が付かなかったが、歌が広がると共に、街の破壊の痕が徐々に消えていったらしい。
歌が終わると、なのは達が信じられないような顔を向けていた。
「あ、あなたは一体・・・・・・?」
「俺は榊雄一でしかない、見ての通りの一小学生だよ」
「あ、そうですか、ってそんな問題じゃないですよ! まさか、世界そのものに干渉するなんて、一体何を!?」
「それはさておき」
無視!? と騒ぐフェレットをスルーしつつ、なのはに向き直る。
「なあ、なのは。諦めるな。今回は失敗した。だったら、次に同じ失敗をしなければいい。また失敗しそうになったら、俺が止めてやるから」
「ゆう、いちくん・・・・・・」
「なのは、まずおまえは、自分の理由を見つけな。その手伝いも、手伝ってやるから」
なのはの頭をなでてやりつつ、言い聞かせるように言うと、なのはは涙を浮かべながらも、笑顔で頷くのだった。
翌日。
学校で以前のように話している俺となのはの姿に、作戦成功とばかりに得意げに、昨日のサッカー代理が作戦だったことを白状してしまったアリサとすずかに、お礼とばかりに頭を撫でてやったら、またもクラスメイトが発狂した。
一体何故・・・・・・解せぬ。