リリカル世界を逝く影執事   作:ラッテンフェンガー

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番外編です!
百話まで続けられたのも、読者の皆様の支えあってのことです。
本編とはまったく関係のない話ですが、お楽しみいただければ幸いです!
ではどうぞ!


番外 第百話投稿記念

「第百回記念、というわけで番外編として、彼を別の世界に放り込みますわ。

「この世界でも、あなたの望んだ能力は活きるでしょう?

「だから・・・・・・面白いものを期待しているわよ? 榊 雄一君?」

 

 

 

 

 

 

 

熱い。

辺りを焦がしながら巻き上がる炎に、顔を汗が伝うのを感じる。

だが、それを拭う暇はない。

手にした刀を握り直し、眼前で雄たけびをあげるそれを睨んだ。

それは異形だった。

身の丈は三メートル以上、あるいは四メートルに届くだろう巨体。

その肉体は、筋骨隆々としていて、高温を発しているからか陽炎が揺らいでいる。

首には数珠のような球が連なり、口には鋭い牙を、両の手には鋭い爪を備えていた。

そして、もっとも目を引くのが、それの米神から伸びる二本の角。

鬼、その言葉が脳裏を過ぎった。

 

『さあ、やつを打ち倒せ!』

『あやつの体を刻み、証を立てよ!』

(煩いな・・・・・・)

 

疲れと緊張からか、幻聴まで聞こえてきたらしい。

脳裏に響く声に悪態をつき、突進してくる鬼を紙一重でかわす。

だが、掠めたらしく衝撃で吹き飛ばされて、地面に叩きつけられた。

痛い。

体がバラバラになりそうな痛みだったが、体は立ち上がり鬼めがけて手にある刀を振り下ろす。

刀は鬼の皮膚の硬さに負けているらしく弾かれるが、気にせず二の太刀、三の太刀を繰り出す。

 

 

どれほど経っただろうか。

数分程度かもしれないし、あるいはもっと長かったかもしれない。

振り下ろした刀が僅かに鬼の腕に食い込んだ。

鬱陶しげに腕を振るう鬼の力に逆らわず、刀を引き抜き飛び上がる。

空中にいる獲物めがけて鬼が腕を突き出す。

それをかわし、伸び切った腕めがけて刀を全力で振り下ろし

 

 

「・・・・・・ぉぃ・・・・・・ぉい・・・・・・おい! 起きろって!!」

「・・・・・・ん?」

 

揺さぶられる感覚に目を覚ました雄一は顔を覗きこんでいる青年に目を瞬かせる。

青年は目を覚ました雄一に安心したのか、一息ついていた。

 

「魘されていたようだが、大丈夫なのか?」

「え、ええ・・・・・・大丈夫ですけど・・・・・・」

 

青年に答えながら、周りを見渡す雄一。

地面は板敷きで、振動から察するに何かの荷台に乗っているのだろう。

天井は幌が掛けられている。

おそらく乗り合い馬車のようだ。

だが、いまの状況への経緯が思い出せない。

 

「えっと、ここは・・・・・・?」

「おいおい、何を言ってるんだよ? まだ寝ぼけているのか?」

 

雄一の様子に苦笑する青年。

雄一は曖昧に笑うと、頷いた。

 

「ええまあ、どうやらそのようで」

「仕方ねえなあ。この馬車は霊山からウタカタの里に向かう隊商で、あんた達は霊山からウタカタの里に向かう旅行者だろ?」

「・・・・・・そう、でしたね」

 

もちろんそんな記憶はないのだが、雄一は頷いておく。

その様子を不審に思ったのか、青年は心配そうに雄一を見た。

 

「おい、本当に大丈夫か? なんか調子悪そうだが」

「い、いえ大丈夫ですよ? それより、さっき『私達』って言ってましたけど、同行者は?」

 

自分は一体誰と旅をしていたのか、それを聞く雄一だったが、青年はきょとんとしながら雄一の隣りを指差した。

 

「何言ってんだ? あんたの隣りにいるじゃねえか」

「へ?」

 

青年の指す方を見ると、

 

「・・・・・・すぅ」

 

長く白い髪に、着物の少女が刀を抱くようにして眠っていた。

だが、雄一にはまったく見覚えがない。

じろじろと見ていると、青年は気の毒そうにため息をついた。

 

「・・・・・・どうやら、あまり寝られなかったみたいだな。もうすぐウタカタの里に着くだろうけど、着いたら起こしてやるから寝ておいたらどうだ?」

「・・・・・・御言葉に甘えさせてもらいましょうか」

 

青年の言葉に頷くと、雄一は腰の据わりを整え、目を閉じる。

そのまま眠ろうとして、ふと気になったことを尋ねた。

 

「そういえば、貴方はなぜウタカタの里に?」

「俺は霊山で修行を積んだ兵士なんだ。今度、ウタカタの里の『鬼ノ府(モノノフ)』に配属されることになったんだ」

 

モノノフ? と内心首を傾げるが、起きてから聞けばいいや、と雄一は睡魔に身を任せるのだった。

 

 

 

 

――――!!

 

「ん?」

 

耳に聞こえた騒がしい声に雄一は顔をしかめながら目覚めた。

目覚めた拍子に、肩に寄りかかっていた少女の頭がずり落ち膝に落ちる。

 

「(これじゃ動けないな。とりあえず起こさないと)おーい、起きてくれ」

「・・・・・・んん」

 

声を掛けると、むずがりながら体を丸める少女。

その様子に、このまま寝かせておきたい衝動に駆られたが、頭を振ってその誘惑を振り払うと、諦めず再度雄一は声を掛けてみることにした。

 

「起きてくれよ、カナメ」

「・・・・・・ん? ああ、おはようじゃな、主よ。なにやら騒々しいが、何かあったのか?」

 

すんなりと浮かんだ名前を雄一が口にすると、少女・カナメは眼を擦りながら体を起こした。

彼女も周囲の騒がしさに気がつき、周囲に気を払っている。

 

「分からない。けど、今がどういう状況で、何が起こっているのかも、なんでここにいるのかすらも分かっていない状態だから、注意しておいて」

「了解じゃ」

 

雄一がカナメに注意を促し、頷くカナメ。

そのとき、

 

「た、大変だ! 鬼の群れがこっちに向かっている!!」

「「鬼?」」

 

外から悲鳴が響いてきた。

その悲鳴に、雄一達は首を傾げる。

 

「主よ、今鬼と聞こえた気がしたのじゃが」

「俺にも聞こえたな。けど・・・・・・鬼って、あれか? 角の生えた、赤や青色をした」

「じゃろうな・・・・・・」

 

確認しあい、再び首を傾げる二人。

そのなか、ふと雄一は先ほど見た夢にも鬼が出ていたことに気がついた。

 

(何か関係が有るのかね?)

――考えても仕方ないと思うぞ、相棒?――

「そうだな・・・・・・?」

 

何気なく答えて、雄一は辺りを見渡した。

いつの間にか馬車の中には雄一達しかいなかった。

 

「どうしたのじゃ?」

「いや、なんか声が」

「ああ、そやつじゃろ?」

「ん?」

 

カナメが指差した先は雄一の足元。

雄一が視線を向けると、

 

「影?」

 

そこには何もおらず、ただ雄一の影が広がっていた。

 

(ん? 広がって?)

 

はて、と首を捻る雄一に影は山犬に形を変えると、口の影をを笑うように変えた。

 

「うあっ?」

――おいおい、何をやっているんだ?――

「何をしておるんじゃ、さっきから?」

 

慌てて飛び退った雄一に、呆れるような言葉を投げる一人と一体。

その言葉で頭が冷えたのか、落ち着きを取り戻した雄一は頭を掻いた。

 

「すまない、混乱していたようだ。<クフ・リーン>」

――別に構わねえが・・・・・・っ、気をつけろ! 何かくるぞ!?――

「「っ!?」」

 

突然の<クフ・リーン>の警告に、慌てて、腰を浮かせる二人。

だが、それは遅かった。

ズゥン、と鈍い音を立てて、馬車が大きく揺れた。

 

「な、何だ!?」

「これは・・・・・・いかん! 主よすぐに脱出を」

 

雄一の手を引き、荷台を飛び降りようとするカナメだったが、一歩遅く、馬車の横っ腹に何かがぶつかり、横合いが崖だったらしく、激しい振動と共に馬車が転がり落ちていった。

 

「ぐぅっ!?」

「カナメ!!」

 

転がる馬車の中、雄一は咄嗟にカナメを抱きしめると、床や側面を問わず叩きつけられていき、地面に叩きつけられた衝撃で意識を失った。

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

ウタカタの里から少し離れた荒野。

その荒野を崖の上から見下ろす影があった。

身の丈ほどの長さの太刀を腰に差した彼女は名を桜花と言った。

 

――キュァアアア!!――

「!?」

 

響いた甲高い声に桜花が頭上を見ると、四枚二対の羽を羽ばたかせ、角の生えた鳥が飛び去っていく。

ヒノマガトリと呼ばれる大型の鬼だった。

できれば仕留めたい相手だったが、彼女の受けた御役目は防衛の任。

離れるわけにはいかず、見逃すことにする。

それに、ヒノマガトリが現れたということは・・・・・・。

ヒノマガトリの習性を思い出し、ため息をつく桜花。

その背に、声が掛かけられた。

 

「美人は憂い顔も様になるね」

 

声を掛けたのは槍を背負った青年だった。

飄々とした印象を与えるその青年、息吹に桜花はちらりと目を向けると荒野に目を戻して問うた。

 

「数ヶ月前まで、ここは緑溢れる森だった。そう言って、誰が信じるのだろうな」

 

その視線の先、次々と現れた影が地を駆ける様が映った。

小型の鬼、通称『餓鬼』。

さらにその奥から獣型の大型の鬼が現れ地を闊歩していく。

カゼキリと呼ばれる獣型の鬼だった。

 

「やはり、来たか」

 

ヒノマガトリの習性。

それは自分より下位の鬼を使役するというもの。

あれが現れた以上、何かはあると思っていたが、

 

「まさか、カゼキリまで現れるとはな」

「それも俺達二人だけで、しかも抜かれることなくな」

「富嶽と那木は、別の御役目に出ているし・・・・・・息吹、初穂はどうした?」

 

此処にはいない同僚について、息吹に問う桜花。

だが、息吹は肩をすくめた。

 

「あいつなら、未熟ってことで里の守りだ。速鳥が物見に出ているからな」

「援軍はなし、か。だが、退く訳にはいかんな」

 

里を守っている妹を思い出し、桜花は覚悟を新たにして眼下の鬼を見据える。

 

「ああ、鬼達の跳梁を許せば、世界は歪んで消える。だから、俺達『モノノフ』が鬼を討つ、だろ?」

 

鬼達目掛けて、槍を構える息吹。

 

「ふっ、そうだな」

 

息吹に、笑みを返すと桜花は鞘を割り白刃を取り出すと、一振りして霞の型を取り、切っ先をカゼキリに向ける。

 

「では・・・・・・行くぞ!」

「おお!」

 

気合を込めると、桜花は崖から飛び降りる。

その後に息吹も続く。

二人が標的に選んだのはカゼキリ。

迫る気配に振り仰いだカゼキリが、二人に気がつくがもう遅い。

 

「はぁあああ!!」

 

カゼキリ目掛けて桜花は白刃を振り下ろした。

 

 

 

 

――ギィッ・・・・・・――

――・・・・・・オォ――

 

桜花が最後の餓鬼を斬り捨てると同時に、息吹が止めを刺したカゼキリが地響きを立てて倒れこんだ。

僅かに残心すると、桜花は刀を鞘に納め背を向けた。

 

「私はウタカタの里に戻る。始末は任せたぞ?」

「ああ。新人が来るんだったか? 使える奴だといいな?」

 

楽ができるから、という本音を隠しながら払う準備に入る息吹に、桜花は彼の伏せた意図を察してため息をついた。

 

「使える者に来て欲しいのは同感だが、サボるなよ?」

「了解、了解」

 

飄々と答える息吹に再度ため息をつくと、桜花は今度こそ里へと足を踏み出し、

 

――ギュァアアアア!!――

「この音は!?」

「っ!? 桜花、後ろだ!」

 

息吹の注意に桜花が振り返った先には彼女目掛けて飛来する火の玉があった。

 

「くっ!?」

 

咄嗟に全力で地を蹴る桜花。

その判断が功を奏し、直撃を避けられた。

火の玉は速度を落とすと、畳んでいた翼を伸ばした。

広がる二対の翼に、桜花は息を呑んだ。

 

「ヒノマガトリ! 戻ってきたのか!?」

 

先ほど見逃したヒノマガトリは既に別の領域へと姿を消したと考えていたが、実際はまだこの領域に残っていたらしく、戦闘の音に呼び寄せられてきたのだろう。

さらに、こいつが現れたということは、もっと状況は悪くなるだろう。

 

「桜花! あれを見ろ!!」

 

カゼキリ達を払い終えた息吹が指差した先、ヒノマガトリが現れた方から、砂塵が上がっている。

見れば、多数の小型の鬼が群れを成して押し寄せてきていた。

 

「まさか・・・・・・途中にいた鬼を全て引き連れてきたというのか!?」

「あの大群は不味いな・・・・・・桜花、ここは一度退け!!」

「っ駄目だ! ここを抜かれたら、結界が・・・・・・橘花が!!」

 

息吹が撤退を提案するが、桜花は頑として譲らない。

その理由を知る息吹は、説得を諦めて槍を構える。

 

「だったらどうするんだ? さすがにあの量と鳥を相手に二人はきついぞ?」

「・・・・・・私がヒノマガトリを抑える。その間に息吹、お前は餓鬼共を頼む」

「それは無茶だって言ったばかりだろうが!」

「だが、そうする他あるまい! 餓鬼の一匹でも結界に近づけるわけには行かないんだ! 頼んだぞ!!」

「あ、おい!?」

 

息吹が止める間もなく、ヒノマガトリに斬りかかる桜花。

息吹もすぐに、援護に入ろうと槍を構え、

 

「ちぃっ!」

 

傍を抜けようとした餓鬼の姿に、慌てて穂先を突き刺した。

餓鬼の死体をぶら下げた槍を振るい、柄で餓鬼を打ち据える。

途中、穂先から死体が抜けると、すぐに槍を持ち直し、近づく端から突きで打ち抜いていった。

だが、

 

(くそっ! 完全に桜花と分断されちまった! こうなっちまったら、どっちかがさっさと片付けてもう一方の救援に向かうしかねえ! 大型のヒノマガトリ一体と小型の餓鬼数十体から百体・・・・・・どっちが早いか分からないが、こっちが片付き次第すぐに向かうから、無事でいてくれよ、桜花!)

 

 

 

 

「はあっ!」

――ギィイイイイッ!!――

 

駆け抜け様に振るった太刀がヒノマガトリの足を斬り飛ばし、バランスを崩したヒノマガトリが倒れる。

一見、桜花に有利な状況だが、

 

「くっ!? はあ、はあ・・・・・・」

 

実際には天秤は徐々にヒノマガトリに傾きつつあった。

先ほどの戦闘の疲労が尾を引き、桜花の体力は限界に迫っていた。

白刃を踏むような変化を乗り切ってはいるが、いつ足を斬るかは分からない状況にさらに疲労が積み重なる。

だが、桜花はさらに苛烈にヒノマガトリを睨んだ。

 

「貴様を倒して、私は里に戻らないといけないからな」

 

刀を握り直し、再び霞の構えを取ると、一気呵成に突き込んでいく。

だが、

 

――ギィイイイイイイ!!――

 

鋭く鳴いたヒノマガトリが、体を起こすと、頭の横に生えている小翼を伸ばし、鞭のように振り下ろした。

 

「っ、ガァアアアア!?」

 

避けようとした桜花だったが、疲労で足が鈍り直撃を受けてしまった。

吹き飛ばされ、難度も転がって桜花は止まったが、立ち上がれず、自分に迫るヒノマガトリを睨んだ。

鬼は体力を消費すると、タマハミと呼ばれる状態に変わり凶暴化する。

今のヒノマガトリもそのタマハミへの変化の影響だ。

逆に言えば、この姿をとったという事はもうすぐ倒せるということだ。

なのに、

 

(くっ・・・・・・足も腕さえも動かないとは・・・・・・動け、動け動け! 私は・・・・・・絶対に橘花のもとへと帰るんだ!!)

 

桜花は動かぬ体を動かそうと足掻きながら、迫るヒノマガトリから目を逸らすまいと睨む。

だが、ヒノマガトリは翼腕を振り上げ、

 

「ふっ!!」

 

両者の間に駆け込んできた影が、手にした刀で翼腕を斬り飛ばした。

 

――ギャァアアアア!!――

「ふん、随分と奇怪な鳥じゃな」

 

勝利を確信していたところに、腕を斬り飛ばされ、痛みに悲鳴を上げるヒノマガトリを見据えながら、血振るいをして吐き捨てる少女。

 

「き、君は?」

 

呆然としつつも、少女の素性を問う桜花。

だが、振り返った少女は逆に問いを返した。

 

「すまぬが一つ聞きたい。おぬしはウタカタの里のもので良いのか?」

「・・・・・・そうだ。そういう君はいったい何者だ?」

「おお、名乗らずすまぬ。私はカナメという。霊山から来たのじゃが途中こやつらの襲撃にあっての。そやつらが突然、引き上げていったのが気になって追いかけてきたのじゃが正解だったようじゃの」

「霊山から? なら君は・・・・・・!?」

 

里に戻ろうとした理由を思い出し、カナメを問い詰めようとした桜花の視線の先。

再度腕を振り上げるヒノマガトリの姿があった。

 

「危ない!」

 

咄嗟に飛び込み、盾になろうとした桜花だった。

だが、

 

「戯け。この程度なら」

「え?」

 

だが、それより早く、カナメが姿を消した。

瞬間、ヒノマガトリの体勢が崩れ、地響きを上げて倒れた。

見れば、振り上げられていた腕はもちろん、いつの間にやら両足も斬り飛ばされていた。

 

「まったく。随分と鈍いの」

 

詰まらなそうに鼻を鳴らすカナメ。

だが、ヒノマガトリは斬り飛ばされた足を気にせず立ち上がると再び腕を振り下ろした。

よく見れば、斬り飛ばした部位を透明な何かが形作っているらしく、カナメが凝らした目にはうっすらと輪郭が映っていた。

 

「なるほど。この再生能力、というか活動能力には驚かされるな。だが、」

 

瞬間、カナメの姿がぶれ、鍔を鳴らした途端、ヒノマガトリの体が細切れになった。

 

「この程度ならば相手にはならんの」

 

桜花を振り返り、へたりこんでいた彼女に手を差し出すカナメ。

だが、桜花は同じ刀を使う身なのに一切の技量が読み取らせなかったカナメの力に引き込まれていた。

 

(彼女ほどの援軍が派遣されるとは!? 霊山も随分気前がいいようだが、橘花に危険を近づけずに済みそうだ)

「ふむ。これで仕舞いじゃな。ならば話を聞かせてもらおうかの?」

 

促すカナメに思わず頷きそうになり、桜花は息吹のことを思い出し慌てて遮った。

 

「ま、待ってくれ! もう一人が大群と戦っている! こちらが片付いたなら、向こうの救援に向かわなければ!」

 

大分時間が経っているが、息吹ならば大丈夫だ、という信頼があった。

だが、息吹をしても殲滅までは無理だろう。

だが、カナメが加わってくれるなら、すぐに方がつくだろう。

そう思った桜花だったが、

 

「ああ。そちらなら大丈夫じゃ。主が向かっておるからの」

 

カナメの言葉に固まった。

 

「何?・・・・・・主?」

 

 

 

 

時を遡って。

息吹の張った防衛線は、崖の隙間を利用することで鬼の進行を制限することで膠着状態に持ち込めていた。

一定の距離まで来た餓鬼を次々と一撃で仕留め、死体のバリケードを築いていく。

餓鬼の波も、死体が邪魔になって満足に進めずにいる。

だが、こちらも息吹の体力が減ずるにつれて、徐々に天秤が傾いていった。

 

「こ、のぉ!!」

 

槍の狙いをミスり、首ではなく肩を突いてしまった餓鬼を、今度こそ首を突いて絶命させる。

だが、その一瞬でまた僅かに縮まった防衛線に、息吹は舌打った。

 

(このままだとジリ貧だ。そろそろ限界だが、桜花はまだか!?)

 

考えながら、再び槍を突く。

だが、考え事をした分狙いがずれ、深く死体が刺さってしまった。

 

「しまった!?」

 

突然のアクシデントに固まってしまった息吹に餓鬼の群れが迫る。

 

(死体を抜かなくては。駄目だ、近すぎる。だったら、薙いで距離を稼ぐ。駄目だ、この距離では振り回すにも近すぎる。下がって距離を稼ぐ。駄目だ、ここ以外じゃ飲み込まれる)

 

思考にの落とし穴に嵌ってしまった息吹に餓鬼の爪が迫り、

突然降り注いだ何かに粉砕された。

 

「がぁああああ!!」

 

至近距離で炸裂した衝撃に吹き飛ばされ、地面を転がる息吹。

 

「あの、すみません」

 

その傍に、降り立つ影があった。

 

「もしかして、ウタカタの里の方ですか?」

 

どこかで聞いたような流れで問う影こと雄一。

その問いに、頷きで答える息吹に、雄一は胸を撫で下ろした。

 

「やっぱりそうでしたか。あ、俺、雄一です。霊山の方から来たんですけど、いきなり鬼の襲撃にあいまして」

「霊山から!? ってことはお前が今日来る新入りか!?」

 

突然現れた援軍に顔を輝かせる息吹。

一方、話が妙な方向に転がりだしたことに気がついた雄一は息吹を止めようとする。

 

「あれ? なんだか変な誤解が生まれてません?」

「って、話し込んでいる暇はないんだった! 新入り! 今から、あの大群を止めるぞ!」

「聞いてくれません!? ああもう! 話を聞いてもらうためにも、まずはあいつらを殲滅するぞ! <クフ・リーン>!」

「おい、何をして」

 

武器も構えずに何かを口走る新入りの姿に息吹は怒鳴ろうと振り返り、

 

「駆け抜けろ、<クフ・リーン>!!」

 

雄一が抜き撃った短刀が突き進み、群れの背後にいた僅かに体格の大きい餓鬼に突き刺さった。

だが、問題はそこではない。

 

(何だ、あれは?)

 

その短刀に繋がる様に伸びた雄一の影。

その影に何かが寄り添った。

 

「行け!」

 

雄一の号令に従って駆け抜ける何か。

息吹は目を凝らしてその正体を見た。

それは犬の形をとった影。

影は進路上の影に喰らいつくと、次々に破壊していった。

だが、息吹が目を疑ったのは次の瞬間だった。

 

影が破壊した部分が、実際に破壊されていくのだ。

次々と深刻な破壊をされた餓鬼が倒れていく。

 

(なんだ? こいつはいったい何をしているんだ?)

 

息吹が警戒心を抱くその傍ら、雄一が餓鬼を殲滅するのに時間がかかるはずもなかった。

 

 

 

その後合流した二組は、お互いが連れてきた者に目を見開いた。

 

「息吹、何者だその男は?」

「霊山からの新人だろ? そっちの娘も誰だ?」

「霊山からの新人・・・・・・だと思っていたんだが」

 

ちらり、と二人はお互いの連れに視線を向ける。

 

「どうやら、そちらも片付いたようじゃな」

「ああ。あの程度なら十分戦えるな。こっちはザコばかりだったけど、そっちは?」

「デカブツが一体じゃ。じゃが、厄介なのはあの再生能力くらいじゃな。正直に言って、足を斬り飛ばしても立ち上がるとは思わなんだ」

「何それ怖い」

 

顔をしかめるカナメの言葉に辟易したように舌を出す雄一。

二人に、改めて確認しようと、桜花が問うた。

 

「すまないが話を聞きたい。君達は一体何者なんだ?」

「まずは、おぬしから名乗るのが筋じゃろ?」

 

スパンと、カナメに切り返され、桜花は一つ咳払いをすると名乗った。

 

「すまない。私は桜花。ウタカタの里のモノノフだ。こっちは息吹」

「よろしくな、二人とも」

 

にこやかに二人に言う息吹を視線で制する桜花。

そんな様子を気にせず、雄一達も名乗った。

 

「俺は榊雄一。雄一でいいですよ」

「私はカナメじゃ」

 

自己紹介が済んだところで、本題とばかりに桜花は表情を改めた。

 

「さて、二人に聞きたいんだが、二人は霊山から来たんだな?」

「・・・・・・ええ、そのはずですよ」

「おいおい、桜花。こいつらが新人なら、霊山以外の何処から来るんだよ?」

「新人ならな。私は今日新人が『一人』来る、としか聞いていないんだ」

 

桜花の言いたい事を理解したのか、息吹が疑わしげな視線を二人に向ける。

だが、事情を理解した雄一達は、気まずい思いでそれを口にした。

 

「たぶんですけど、その新人さんと俺達は同じ馬車に乗っていたはずです」

「もっとも、私達が戦場に出てきたときには姿が見えんかったがな」

 

二人が思い出すのは乗り合わせた馬車の中、雄一に話しかけてきた青年だった。

寝る前に聞いたことだからうろ覚えだが、たしかウタカタの里に派遣されたと言っていたはずだった

二人の証言に桜花達は顔を曇らせた。

二人の証言が本当ならば、おそらくその新人はやられたのだろう。

新たな戦力に期待していた分、桜花の落胆は大きかった。

そのとき、息吹が二人に声をかけた。

 

「だったら、二人ともウタカタの里に来る気はねえか?」

「息吹!?」

 

慌てて止めようとした桜花だったが、息吹は首を横に振る。

 

「何だよ? 戦力として十分だと俺は思うぜ?」

「それは私も同感だが、二人は得体が知れないんだぞ!?」

「今はそんなこと言える状況じゃねえだろうが。霊山から一人新人が来るだけで御の字の中、二人戦力が増えるなら大収穫だろ。それに」

 

呆れたように返していた息吹の様子が変わり、桜花は言葉を呑み込んだ。

 

「今の世の中じゃ、そんなの珍しくもねえしな」

「っ、それは」

 

八年前のオオマガトキで大勢の人が亡くなり多くの里が滅ぼされた。

富嶽などもそのクチだ。

その里の出身であることを示すのは自己申告だけなのだから、息吹の言うことも間違いではない。

それでも反論しようとし、

 

「あー、ちょっといいですか?」

 

雄一が割り込んだ。

 

「なんだ? こっちは今忙しいんだが」

「まあまあ。それで、雄一だったか? どうした?」

 

息吹は桜花を抑えると、雄一を促した。

 

「さっきの話ですけど、俺達は別に構いませんよ。な、カナメ」

「ああ」

「お、本当か?」

「ですが、」

 

雄一は、僅かに躊躇うと苦笑しながら言った。

 

「さっきの鬼とか、そのモノノフって・・・・・・いったい何なんです?」

「「は?」」

 

あまりに予想から外れた、というか幼子でも知っていそうなことを聞かれて思わず口が開いてしまった桜花達。

しかし、すぐに雄一達が大真面目に聞いているのだと知ることになった桜花達。

そのなか、息吹は、早まったかもしれないな、と痛む頭と御頭である大和にこの状況をどう報告したものか、と痛む胃を押さえるのだった。




続きません、たぶん。
冒頭の語りは久々登場の方です。こういうときくらいしか使えませんし。
次回からは本編に戻します。
ではまた次回!
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