「管理局と手を組む、だと?」
「ああ。それが俺の考えつく最善だ」
「ユウ!!」
頷く俺に、ヴィータが詰め寄った。
詰め寄ったヴィータは雄一の胸倉を掴むと捻り上げた。
「どういうことだよ! お前、やっぱりはやてを管理局に売り渡すつもりなのか!?」
「・・・・・・そんなわけないだろ。というか、やっぱりってなんだよ!? 俺、そこまで信用ないのか!?」
「だったらどういうつもりなんだよ!」
「それを今から説明するって、ああもう! シグナム、ヴィータを抑えてくれ!!」
「ああ。ヴィータ、落ち着かないか!」
「放しやがれシグナム!?」
雄一はヴィータの手を振り払うと、再度掴みかかろうとするヴィータをシグナムに任せる。
シグナムに抑え込まれたヴィータを横目に、雄一は意図を説明した。
「まず、『なぜ今まで闇の書の完成がなかったのか』。これについて考えてみよう」
「我らが未熟故に主を討たれたのではないのか?」
シグナムが僅かにムッとしつつ言うが雄一は首を横に振った。
「俺はそれだけじゃないと思っている。なあ、シグナム。今の魔導師を見てどう思った?」
「? ミッド式の者達はあのようなものだと思うが・・・・・・ああ、テスタロッサ達のような者もいるか」
雄一の問いの意図が分からず首を傾げながら答えるシグナム。
その返答に苦笑しながら、雄一は質問を変える。
「そういう事じゃなくて・・・・・・こう聞こうか、フェイトやなのはといった一騎当千は別にして、現代の一般的な魔導師は昔の魔導師と比べて弱いと感じているんじゃないのか?」
「む・・・・・・」
雄一の質問に思い当たる節があったのか、表情を変えるシグナム。
先日、管制人格の元で見た、古代ベルカの戦乱。
その中で、当時の騎士達相手に蒐集をしていたシグナム達は、ベルカの騎士達の弱体化を嘆いていた。
何年前の記憶なのかは分からないが、当時でさえそうなのだ。
現代の魔導師の魔法ではシグナム達に歯が立たないだろうし、多少遡ったところで結果は同じはずだ。
その考えを裏付けるのは、ジュエルシード事件の時に、リンディさんから聞いた話だ。
リンディさん曰く、「Aランク以上の魔導師は貴重」とのこと。
彼らの魔導師としてのランクがどれほどかは分からないが、けして弱くはないはずだ。
「なら、いったいどういうことだ?」
「考えられるのは、お前達でも対処しきれない一騎当千の騎士が現れて撃破されたか、多勢に無勢の理屈で押し込まれたか」
「どっちもありえねえ、というか雄一、私達のことを嘗めてんのか?」
睨むヴィータに雄一は手を振って否定を示した。
もちろん雄一とてそういうことではないと思っている。
シグナム達ならば、どちらの状況でも切り抜けてみせるだろう。
改めて、二本指を立てるが説明する前に断りを入れる。
「こっちはかなり悪辣な想像だぞ? 一つは、闇の書のマスターではなく、闇の書自身に恨みを持つ勢力によって。もう一つは闇の書のマスターによって、お前達自信が蒐集されてしまっていた場合だ」
「「「「っ!?」」」」
雄一の予想に、大小様々ながら、驚きを返すシグナム達。
だが、雄一はこの二つ、特に後者が正解だと睨んでいた。
異形のもののように牢で暮らすことを強要されていたシグナム達。
そして、闇の書の完成を第一とする彼女達の記憶に完成の瞬間がないのに、闇の書の被害はごまんと悲惨な前例がある。
「だが・・・・・・そう、我らが蒐集されていたとして、蒐集は一人につき一度のはずだ。闇の書が起動したのは一度や二度ではないはず。ならば、完成を覚えてないだけではないのか?」
シグナムの疑問ももっともだが、もちろんその答えも用意している。
「これは推測になるけど、シグナム達は闇の書の起動に伴ってリンカーコアも含めて再構成されているんじゃないのか? だから、蒐集のルールから外れるんだと思う」
ヴィータやシグナムはショックが大きいようだが、シャマルも口を押さえるもやはりというように納得の色も浮いている。
ザフィーラも目を丸くするがすぐに落ち着きを取り戻した。
「シャマル達は納得がいったのか?」
「・・・・・・ショックがない、って言ったら嘘になるわ。けれど、かつての主様の私達への対応を思えば、それもおかしくはないかなって」
シャマルが顔を曇らせながら言った言葉にザフィーラも頷いて同意を示した。
「なるほど・・・・・・だったら、もう俺が言いたいことは分かるよな?」
「その『恨みを持っている勢力』かもしれない仮面の男達よりテスタロッサ達を味方にした方が動きやすい、ということか」
確認するように言ったシグナムに頷く雄一。
それに、と言葉を続ける。
「この案にはもう二つ狙いがある。一つは戦力としてだ」
「戦力? それって、仮面の人たちに対しての?」
シャマルの予想を、首を横に振って否定する。
「違う。闇の書を完成させたときに現れる闇の書の暴走体。それとの戦いだ」
「だが、闇の書を完成させると主の命に危険があるのではなかったのか?」
眉をひそめるザフィーラに、管制人格から聞いた情報と推察を纏めてえた考えを説明する。
「管制人格が言うには、闇の書の完成と同時に暴走体が活動を始めるが、それと同じくして闇の書のマスターには管理者権限を使えるようになる。それを使えば、はやては助かるはずだ」
「けどよ、ならなんで今までの暴走をあいつは抑えられなかったんだよ!」
シグナムの拘束を振り払うと、ヴィータが苛立たしげに吐き捨てた。
どうやら何か因縁があるようだが、今は藪を突いている場合ではないと、雄一は流して予想でヴィータの疑問に応じる。
「多分だけど、管理者権限よりも、暴走体の力の方が強いんだろう。今まで、シグナム達が闇の書の完成のために蒐集されていたとしたら、そのときに暴走体を抑えようとするやつはいないだろうし」
殺そうというやつはいても、と内心言葉を続ける雄一。
かつての蒐集の光景でも、シグナム達、特にヴィータは相手が死んでも構わない、とばかりに苛烈な攻撃を振るっていたはずだ。
それを極端な例としても、騎士達の生き残りや、その後の闇の諸事件の被害者の遺族にとって、現れた暴走体も仇であることに変わりはないだろう。
進んで、主を助けようとする者などいる訳もなかったはずだ。
だが、今代の事情は違う。
はやてはシグナム達に優しく、基本的に周囲を巻き込まない蒐集を行っていたから、なのは達との軋轢さえ解消できれば協力体制を築けるはずだ。
そうすれば、
「闇の書の暴走体の力を削ぐことで、管理者権限を発動できる状況に持っていくことが出来るはずだ」
「本当か!」
一転して期待に目を輝かせるヴィータに頷くと、雄一はもう一つの狙いを説明する。
「もう一つは、管理局が持っている俺の本来の体を穏便に受け取るためだ。最悪の場合になっても、あっちの体に宿っている精霊を使えば、帳尻は合わせられるはずだ」
ここでいう精霊は<アルス・マグナ>のことであり、雄一の台詞に間違いはないが、雄一はあえてリスクのことはシグナム達に伏せた。
今の体で<アルス・マグナ>を使用したことはもちろんない。
だが、一度暴走を起こしている以上、再びの使用で何事かが起きる可能性は否めない。
一通り話を聞くと、シグナムはしばし考え込むと一つ頷いた。
「雄一の提案は分かった。私もその線でいくことに異論はない」
「本当か?」
「だが、管理局との折衝は雄一一人に任せることになるのではないか?」
「どういうことだ?」
シグナムの質問に問い返す。
「我々が突然講和を申し出ても、管理局はそれを受け入れられまい。だが、雄一ならば積極的に敵対をしていないはずだから問題はないと思うのだが」
「敵対・・・・・・していないかなあ?」
クロノとユーノ相手に立ち回ったことを思い出しながら遠い目をする雄一。
さて、あれを敵対と思っていないならいいのだが。
「それに、闇の書の蒐集も進めねばならない。なら、雄一には管理局との交渉に専念してもらい、我等は蒐集に専念するのがいいだろう」
「・・・・・・」
整然と説明するシグナムの姿に、雄一は驚きを隠しきれず、ポカンと口を開けていた。
正直に言うと、雄一のシグナムへの印象は戦闘狂の上でどちらかというと脳筋と思っていた。
その彼女がここまで考えていることを意外に思っていると、シグナムは視線を鋭くして雄一を睨んだ。
「・・・・・・何か、不快なことを考えていたようだが?」
「い、いや? そんなことはないぞ?」
雄一はすぐに否定するが、シグナムは追及を緩めない。
シグナムの無言の追求に、雄一は流れを変えるべく、シグナムの提案に頷いた。
「と、とにかく、その方針で行こう。ここからは時間の勝負に」
なるはずだ、と続けようとしたそのとき。
天井で鈍い音と同時にガシャン、と激しい音が響いた。
「っ、はやて!?」
何かが起きたと思った瞬間、雄一はリビングを飛び出し、階段を駆け上がると、はやての部屋へ飛び込んだ。
そこには、
車輪をカラカラと回している倒れた車椅子と、胸元を握り締めながら苦悶の表情で意識を失ったはやての姿があった。