リリカル世界を逝く影執事   作:ラッテンフェンガー

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第九十一話 無限書庫と資料

 

一方その頃。

アースラの通信室で、クロノ達は無限書庫に篭っているユーノの中間報告を受けていた。

 

「分かっているのは以上か?」

『うん。停止や封印の方法についてはもう少し探してみるよ』

 

ユーノが調べ上げたのは、雄一が管制人格から聞いた情報と同じものだった。

元の名を夜天の魔導書ということ。

主とともに各地を旅しながら他の魔導師の技術を蒐集して研究する魔導書であったこと。

改変の結果『旅をする機能と破損の修復機能』が『無限再生と転生機能』に変わっていること。

そして、持ち主の魔力資質への侵食や、完成後の無差別破壊について。

 

『けれど、完成前の停止はたぶん難しい』

「何故?」

『闇の書が真の主と認識した人間でないとシステムへの管理者権限が使用できない。つまりプログラムの停止や改変ができないんだ』

 

それに、と顔をしかめながら続けるユーノ。

 

『無理に外部からの操作をしようとすると、主を吸収して転生しちゃう機能もついてる』

『そうだね・・・・・・だから、闇の書の永久封印は不可能っていわれてる』

 

離れた場所で資料を探していたアリアが同意する。

この無限書庫では特殊な空間をしているようで、浮遊状態にあるため、足の負担も軽いだろうということでアリアがユーノのサポートに回されていた。

もう一人、ロッテはというと、

 

「元は健全な資料本が、なんというか、まあ・・・・・・」

 

椅子の背もたれに肩肘をつきながら、呆れたようにクロノと共に報告を聞いていた。

ロッテがクロノのサポートに入り、合間を縫って捜査に協力している。

一人椅子に座るエイミィは報告に、両肘をついて手を組むとあごを乗せてこぼした。

 

「闇の書・・・・・・夜天の魔導書も可哀想にね」

「・・・・・・調査は以上か?」

 

チラリとエイミィに視線を向けるが、クロノは何も言わずユーノに視線を戻して問うた。

 

『現時点では。まだ色々調べてる。けど』

 

ユーノは言葉を切ると、背後を振り返った。

その目の先には、まだ目を通していない資料が見えぬ先まで広がっている。

 

『さすが無限書庫。探せばちゃんと出てくるのがスゴイよ』

『というか、私的には君がスゴイ。スゴイ捜索能力』

『いえ、そんな・・・・・・』

 

謙遜するユーノだが、アリアの評価は決して過大なものではない。

そもそも、無限書庫の利用はチームを専門に組んで年単位の捜索をする必要があるのだ。

それをたったの二・三人、いや、ほぼ一人で調べ上げたのだから快挙といっていいだろう。

 

流石は、スクライアの調査能力だと、アリアは舌を巻いていた。

一族のほとんどが遺跡などの調査を行う彼らスクライアは調査・研究に秀でているとは聞いていたが、実際に彼が使う調査魔法は大したものだった。

 

「じゃあ、すまんがもう少し頼む。アリアも頼んだ」

『うん』

『はいよ。ロッテ、あとで交代ね?』

「オッケー、アリア。頑張ってね♪ 足に気をつけてよ?』

 

お互いに言う事を言い、通信を切ろうと、

 

『あ! ちょっと待った! もう一つ報告があるんだった!』

「っ、もう一つ?」

 

幸いにも切る寸前に止めることに成功したユーノは胸を撫で下ろして、一冊の本と紙束を引き寄せる。

クロノはその二つと、『もう一つ』の頼みを思い出して驚いた。

 

「まさか、見つかったのか!?」

『うん、正直僕も驚いたよ・・・・・・』

 

契約者の資料がまさか無限書庫から出てくるとは。

この機会に探さなければ、あと数年は資料の山に沈んでいたに違いない。

 

「それで、内容はどうだったんだ?」

 

逸る気持ちを抑えながら問うと、何故かユーノは苦笑を浮かべる。

 

『あー、クロノ。先に言っておくけど、期待した情報はまだ見つかってないよ』

「そうなのか? ならその二つは?」

『僕もまだ全部に目を通したわけじゃないけど、まずは』

『あー、待った待った!』

 

本を手に、内容を説明しようとしたユーノをアリアが突然遮った。

 

「アリア? 突然何だ?」

『どうしたんですか?』

『あー、悪いんだけど、私はちょっと席を外すよ。父様に仕事を頼まれてるんだ』

『ああ、そうなんですか? 分かりました。今は一人で大丈夫ですから、どうぞ行って来てください』

『ごめんね? ロッテ? そういうことで、よろしくね?』

「・・・・・・。はいはーい。気をつけてね」

 

アリアを見送ると、ユーノは改めて本を開いた。

 

『まず本の方。こっちは、前にカナメから聞いた「先代の精杯の姫」ことエルミナ=ヴァレンシュタインの手記だったよ』

「なんだって?」

 

眉をひそめると、クロノはエイミィに目を向けた。

エイミィは首を横に振る。

 

「前にエイミィに探させたときには見つからなかったはずだが?」

『たぶんだけど、そのときエイミィさんは契約者の線から探したんじゃないかな?』

「あー、ユーノ君正解。確かに、契約者の情報もあわせて集めようとそうしてたと思う」

『これらはおそらく、契約者の誰かが次元漂流者になった結果、管理世界に辿りついて残ったものだと思うんだ。それに、軽く読んだ限り彼女は契約者というわけではなかったようです。彼女自身は精霊と契約したわけではない』

「なんだって?」

『<アルス・マグナ>と契約していたのは彼女の妹らしい。それで、彼女達はそっくりだったらしくて、<アルス・マグナ>が混同していたからその異能を使えていたって書いてある』

「そうか・・・・・・だが、彼女達が先代、ということはそこに雄一を起こす方法は書いていないのか?」

『正確には、書いてなくもないってところだね』

「? どういうことだ?」

 

言葉を濁すユーノに、続きを促すクロノ。

言葉を選ぶように、僅かに間をおくと、ユーノは口を開いた。

 

『彼女達が取った手段は、「精杯の姫」自身を「契約書」に署名させ、契約させることだった。そうやって、<アルス・マグナ>の力を写し取ることで<アルス・マグナ>の力を打ち消そうとしたらしい』

「何? だが、その契約って」

『そう・・・・・・血が必要。だけど、「眠り仔」から血を取ることは・・・・・・』

 

ユーノの言いたいことを察して、クロノとエイミィは顔を歪めた。

眠りに囚われた彼女達に刃物は通らない、いやそれどころか、傷つけようとすれば腕ごと消し飛ばされることになる。

 

「? どういうこと?」

 

ただ一人事情を知らぬロッテが首を傾げるが、クロノは説明を後回しにすると、ユーノに先を促す。

 

「なら、その本には何が書いてあるんだ?」

『彼女の一生を書いたものらしいね。ただ、分からないことも多いんだ。複数の、時代の違う『精杯の姫』が出てくるけど、どうやって彼女達に会ったのか。眠りに落ちている間に何があったのか』

「それは気になるが、置いておこう。そっちの紙束はどうだったんだ?」

『こっち? こっちは』

 

紙束の方をクロノが示すと、何故か疲れた笑みを浮かべるユーノ。

 

「ユーノ? どうしたんだ?」

『・・・・・・ああ、ごめん。これを読むのに体力を使ったというか、なんというか』

「体力を? そういうトラップか?」

『そういうのじゃなくて・・・・・・これは、「精杯の姫」を追い続けていた「宣教師」っていう組織の報告書を纏めたものらしいんだ』

「十分有用な資料だと思うんだが?」

 

『精杯の姫』を追い続けていたということは、それだけ<アルス・マグナ>への対処法を持っているということではないのか?

だが、ユーノはさらに疲労の色を強くする。

 

『・・・・・・そうだね。しかも、この束はまさに対<アルス・マグナ>戦で力を振るったメンバーの一人のものらしいんだ』

「それなら尚更貴重な資料じゃないか!?」

『・・・・・・うん、それだけならね』

「それだけ?」

 

よく分からず首を傾げるクロノ達。

彼らに、ユーノは読むのもヤダとばかりに報告書の一枚を突きつけた。

 

「何々?」

『〇年◇月△日 記録者 ヨハエル=パトリック

 今日もいい日で悲しくなります。教会の設備も老朽化が進んでおり、十分な費用も得られずギャングの取立てに怯えております。悲しいです。表向き切り捨てられたからって、資金の援助くらいはしてくれてもいいと思うんですよ、というか哀れな子羊を見捨てると主からも見捨てられますよ。ああ、けれど、現状私達の方が見捨てられてますよね。悲しいです。先輩は今日もディーノファミリーの店へ連れて行かれました。そのまま帰って来なければいいのに。ああ、でも先輩は殺しても死なないような人でしたね。悲しいです。

 そういえば、今日は<姫>を街で見かけました。ああ、彼女の姿を思い出すたびに体の震えが止まらず、寝ても彼女の夢を見るともうちょっとで殺されるところで目が覚めるんです。それでやっぱりガタガタ震えてたまらないんですよね、これは隙間風の所為じゃないですよね。

 ああ! 寝ても覚めても貴女のことが頭から離れない! この体の奥底から来る震え、これはまさしく恋!!(以下鬱陶しいので削除 グレリオ=スパロウ)』

「・・・・・・なんだ、これは?」

 

クロノが痛む頭を押さえつつユーノに問うと、ユーノは報告書を下げると、気持ちは分かるとばかりに頷いた。

 

『どうやらこの人、哀しい以外の感情が対価になっていたらしいんだ。それでこんなことになっていたらしいんだけど・・・・・・ねえ、クロノ? この報告書、使えると思う?』

 

ユーノの問いに、エイミィとロッテの視線がクロノに向けられる。

書類の重要さは読まねば分からない。

ならば、この書類の束も読まなくてはならない。

クロノは覚悟を決めて深く息を吸い込むと、

 

「・・・・・・すまん。別の資料を探してみてくれ」

 

深くため息をつきながら、それだけを言った。

先にある程度この束に目を通していたユーノは、それ以上何も言わずにただ頷くと静かに通信を切るのであった。

 

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