リリカル世界を逝く影執事   作:ラッテンフェンガー

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第九十二話 入院と不安

「異常なし?」

 

信じられない、とばかりに再度雄一が問うと、問われた石田先生は苦笑しながら頷いた。

 

「ええ。検査で異常は見られなかったわ。大丈夫みたいでよかったわ」

「はい、ありがとうございますー」

「はぁ・・・・・・ホッとしました」

 

胸を撫で下ろすシャマル。

隙と見たか、石田先生の尻馬に乗る狸が言う。

 

「せやから言うたやん、大したことないって」

「意識失ってまで苦しんで、胸元押さえていた癖して、なにを言っているんだ?」

「もー、雄く、やなかった、ペインさんも心配しすぎやって。ちょっと眩暈がして手と胸がつっただけやって言うたよ」

 

危うく言い間違いそうになったことを誤魔化すように、大仰に問題ないとアピールするはやて。

倒れていたはやてを発見してから、雄一は慌てる皆を落ち着かせながら、病院に連絡を取り救急車を回してもらうと、はやてを搬送してもらい、シャマルに付き添ってもらった。

残されたメンバーは頃合を見計らって、病院まで転移してきたのだが、救急車より早く着く様な事にならないよう焦れるシグナムとヴィータをザフィーラと共に押さえていたのだった。

病院についてすぐに、はやての病室を聞き出すと、病室に駆け込んだのだが、

 

「もー、皆して大事にするんやから」

 

待っていたのは異常無しという結果だったのだから、よかったと思えばいいのやら、人騒がせなと思えばいいのやら複雑な心境なのだった。

 

「でも、頭を打ってましたし・・・・・・」

「何かあっては大変ですから」

「はやて! 良かった・・・・・・」

 

口々に心配する三人に、苦笑しつつ、ヴィータの頭を撫でるはやて。

 

「まあ、来てもらったついでに色々検査もしたいから、もう少しゆっくりしててね」

「ぅ・・・・・・はぁい」

 

検査と言われ眉尻を下げて返事をするはやてに笑いかけると、石田先生は入り口に足を向けた。

 

「さて・・・・・・シグナムさん、シャマルさん、それにペインさん。ちょっと・・・・・・」

「? はい」

「??」

 

石田先生に促され、首を傾げながら病室を出て行くシグナム達。

一人動かぬ雄一に、首を傾げながらはやては問うた。

 

「どうかしたん、雄君? 行かなあかんやろ?」

「いや・・・・・・」

 

石田先生がどこかぎごちなかったように感じた雄一は、不穏なものを感じつつ考え込んだ。

考え込み、足を止めたままの雄一に再度はやては声を掛けた。

 

「雄君? あんまり先生を待たせたらあかんよ?」

「っと、そうだな・・・・・・それじゃ、ちょっと行ってくるよ」

 

我に返ると、雄一は病室をあとにした。

病室を出て、雄一は左右に目を向け、三人の姿を探した。

三人の姿はすぐに見つかった。

なにやら深刻な様子で話している。

その様子に、胸中に嫌な予感が広がっていくのを感じながら、三人に近づいていく。

 

「すみません、遅くなりました」

「っ、雄、ペインか」

「ペインさん・・・・・・」

 

顔を俯かせていたシグナム達が雄一を振り返ると、二人の顔が歪んだ。

 

「・・・・・・何があったんだ?」

「それは・・・・・・」

「ペインさんにも改めて説明しましょう」

 

厳しい表情を浮かべながら黙っていた石田先生が一歩踏み出した。

そういえば、この人がこんな表情を浮かべていたことがあったっけ、と思いつつ、耳を傾ける雄一。

 

「今回のはやてちゃんの発作・・・・・・恐らくですが、麻痺が広がり始めている可能性があります。用心のためですが、少しの間入院をしてもらいたいんです」

 

この人がこんな顔を浮かべていたとき。

それを見たのは、蒐集を決めたあの日。

はやての麻痺の進行を知らされたときだった、と思い出しながら、その話をどこか遠くに聞くのだった。

 

 

 

「入院?」

「ええ・・・・・・そうなんです」

 

その決定に目を丸くするはやてに、シャマルが僅かに顔を曇らせながら頷く。

聞き間違いではないことを知り顔を曇らせるはやてをヴィータが気遣うように見た。

 

「あ、でも検査とか、念のためですから! ね、シグナム?」

「はい」

 

花瓶を運んでいたシグナムが頷く。

それでも表情を曇らせていたはやてを身を乗り出したヴィータが励ました。

 

「毎日会いに来るよ! だから・・・・・・大丈夫」

「ヴィータはいい子やなぁ。せやけど、毎日やなくてええよ? やることないし、ヴィータ退屈やん?」

「うぅ・・・・・・」

 

だが、すぐに勢いを無くすヴィータ。

その姿に、ヴィータも寂しがっていることを悟ったはやては彼女の頭を撫でてやりながら、彼女達を心配させまいと、別の話題を振った。

 

「それはええねんけど、私がおらんだら皆のご飯は誰が作るんや?」

「うっ!?」

 

しばらくの間、はやての料理が食べられないことを悟ったヴィータが表情を歪める。

シグナム達も、思い至るとはやてを心配させまいと、言葉を捻り出した。

 

「そ、そこはまあ、なんとかします」

「そ、そうですよ! 大丈夫です、私が」

「俺が作るから心配するな。俺の料理の味ははやても知っているだろ?」

「んー、せやな。それなら頼むな、雄君」

「はやてちゃん!?」

「任せろ。八神家の食卓は俺が守ってやるから」

「その意気や!」

「二人ともひどい!?」

「「冗談だ(やって)」」

 

はやてと目配せして、シャマルを弄っている内に、僅かに空気が晴れたような気がした。

はやては、目尻に浮いた涙を拭うと、体を伸ばし、

 

「ほな、私は三食昼寝つきの休暇をのんびり過ごすわ」

「そうしろ。普段から働きすぎなんだ。たまにはゆっくり体を休めろよ、お母さん?」

「あらあら? そういうことだったら、雄一君はさながらお父さんですか?」

「「ぶっ!?」」

 

雄一の言葉を、先ほどの仕返しのつもりか拾ったシャマルの発言に、はやてとヴィータが噴き出した。

 

「はやて? ヴィータ? 二人ともどうした?」

「な、なんでもあらへん・・・・・・だから、心配せんといて?」

「ユウの馬鹿・・・・・・」

「???」

 

顔を背けるはやてと、小さく毒づくヴィータに雄一は首を傾げ、気がつかぬ雄一に不発を悟ったシャマルは肩を落とした。

その様子をシグナムはため息をついて見つめるのだった。

 

 

 

すっかり解れた空気の中、はやてがふと、何かを思い出したのか表情を変えた。

 

「あ、あかん! すずかちゃんからメールとか来るかもしれん!」

「ああ、そういえばすずかと仲が良かったな。なら、俺が」

「あかん」

 

雄一が買って出ようとしたら、はやてが即断で拒否した。

その素早さに、聞き間違いかと思った雄一は再度申し出た。

 

「俺が」

「あかん。シャマル、お願い」

「は、はい」

 

はやては、雄一の申し出を撥ねるとシャマルに頼んだ。

頼まれたシャマルは、チラチラと雄一を気にしながら頷く。

 

「・・・・・・はやて」

「なんや、雄君?」

「俺、何かしたか?」

「・・・・・・だって、すずかちゃんが」

「ん? すずかが何だって?」

「~~!! 知らんっ!」

 

聞き取れず雄一が問い返すと、顔を紅くして顔を背けるはやて。

その反応が分からず、シグナム達に説明を求めようと雄一は振り返ったが、

 

「む~!!」

「・・・・・・はぁ」

「あらあら♪」

「・・・・・・こっちはこっちでなんだよ?」

 

頬を膨らませるヴィータ、深くため息をつくシグナム、楽しそうに頬に手を当てて微笑むシャマルに雄一は眉をひそめる。

シグナムは一つ咳払いをして、軌道の修正を図った。

 

「それでは主。私達は戻って着替えと本を取ってきます。何か御希望がありましたら」

「うーん、何にしよかな? まあ、任せるわ」

「畏まりました」

 

その後、雄一達はつれだって病院を後にした。

病院を出たとき、ヴィータが足を止めて、はやての病室のあたりを振り仰いだ。

それに気がついた雄一が同じく足を止める。

 

「ヴィータ?」

「・・・・・・なあ、ユウ。はやて、助かるよな?」

 

不安そうに病室を見上げたまま、雄一に問うヴィータ。

その様子に、雄一は内心の不安を隠しながら彼女の頭を撫でた。

 

「当然だ。まだ、時間はある。だからこそ、俺達はできることをやるぞ」

「・・・・・・ああ、そうだな!」

 

励まされ、元の調子を僅かに取り戻すヴィータ。

その彼女に、遅れて二人の不在を悟ったシグナム達が気がついて呼んだ。

 

「ヴィータ、雄一」

「ああ! 今行く!」

 

二人に駆け寄っていくヴィータ。

その姿を見送りながら、雄一はもう一度病室を見上げると、背を向けて歩き出していった。

 

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