リリカル世界を逝く影執事   作:ラッテンフェンガー

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第九十三話 考察と侵入

「・・・・・・気を取り直して、エイミィ、あの仮面の男の映像を出してくれ」

「・・・・・・はいはーい」

 

回復に時間はかかったが、気を取り直してエイミィに画面の変更を頼むクロノに、エイミィは疲れた声を出しつつコンソールに指を走らせた。

画面が切り替わり、先日の仮面の男の姿が映される。

 

「ん? 何か考え事?」

「まあね」

 

はっきりと答えず、画面の男を睨むクロノ。

 

「前に見たときから、何かあるとは思っていたけど・・・・・・エイミィ、こいつが何者かデータはあったのか?」

「それがさっぱり。顔が分からないことには探し難いのもあるけど、この人の能力もスゴイというか、結構ありえない気がするんだよね」

 

画面の映像は二種類に分かれている。

砂漠を背景としたものと、もう一つ森と谷を眼下に空を背景としたもの。

その両方に移っている仮面の男の映像を次々に入れ替えながら、エイミィが説明する。

 

「この二つの世界・・・・・・最速で転移しても二十分は掛かりそうな距離なのに、なのはちゃんの新型バスターの直撃を防御。その上長距離バインドをあっさり決めて、それから僅か九分後にはフェイトちゃんに気づかれずに後ろから忍び寄って一撃」

 

仮に、その能力をランク付けすれば、クロノやなのは達を上回るSランク以上になるだろう。

その様な人物は軒並み空振りだった。

ふと、クロノは疑問を口にする。

 

「けれど、あのペインの出現も突然だったんだろ?彼も、突然あの世界に転移してきたそうだけど」

「あの人の転移魔法もかなり独特なんだよね。基本は守護騎士たちの使うベルカ式なんだけど、何かそれ以外の力が干渉しているみたいなんだ。だから、私達からすれば常識外れのものになっているんだよ」

 

捕捉不可能という結論に、エイミィは肩をすくめた。

ロッテが画面を睨みながら、軌道を修正する。

 

「てことは、この仮面はかなりの使い手ってことになるね」

「ああ・・・・・・僕でも無理だろう。ロッテ、君ならどうだ?」

 

長距離魔法を可能とする魔法運用能力と連続転移を可能にする魔力・体力。

だが、ロッテは苦笑しながら手をひらひらと振った。

 

「ああ、無理無理。私、長距離魔法とかは苦手だから」

「アリアは魔法担当、ロッテはフィジカル担当できっちり役割分担しているもんね」

「そうそう♪」

 

エイミィのフォローに気を良くするロッテ。

そのロッテの姿に、遠い目をどこかへ向けながら深いため息をつくクロノ。

 

「・・・・・・昔はそれで酷い目に遭わされたものだ」

 

何があったのか、しみじみと呟くクロノは若干責めるような視線をロッテに向ける。

対して、視線を向けられたロッテは口を尖らせた。

 

「その分強くなっただろ? 感謝しろっての」

「まあまあ」

 

むっ、と睨みあう二人にエイミィが仲裁に入る。

エイミィの仲裁とクロノ達の遣り取りに空気が解れ、

 

突然、視界が赤く染まると同時に警報が辺りに響き渡った。

 

 

 

 

「っ!? 何事だ!?」

「これは・・・・・・侵入者!? けど、なんで!? センサーに反応がないのに!」

「反応がないなら、誤報じゃないの?」

「そんなはずは・・・・・・まさか!?」

 

暢気に首を傾げるロッテの発言に眉を寄せたエイミィは何か思いついたのか猛然とコンソールに指を走らせた。

画面が仮面の男のものから切り替わり、アースラの警備システムにアクセスする。

システムの状態をチェックしていると、エイミィが悲鳴を上げた。

 

「っ、やられた!? ロッテ、違う! これは誤報じゃない! システムがダウンされてる!」

 

突然響いた警報にエイミィがセキュリティを改めるが、どういう手段をとったのか、セキュリティが黙らされている。

鳴った警報は不正なアクセスを感知したシステムのせめてもの抵抗だったようだ。

 

「エイミィ、目的地は分かるか!?」

「ちょっと待って、まずはセキュリティを・・・・・・よし、戻った!」

 

セキュリティを再起動させたエイミィが歓声を上げる。

映像に次々にノイズが走ったかと思うと、一つの画面に侵入者の姿が映った。

 

「こいつは!?」

「どうやら、早速のようだね・・・・・・」

 

画面に映った侵入者の姿に、クロノは視線を鋭くしロッテは呆れたように呟いた。

そこには、周囲の警報など気にせぬように一心にどこかを目指す仮面の男の姿があった。

 

「こうしちゃいられない・・・・・・エイミィ! 君はやつの侵入経路と目的地を割り出してくれ! ロッテ! 君はエイミィが割り出した先へ急いでくれ!」

「分かったよ!」

「師匠に命令とはいい度胸だ! けど、いまは聞いてあげるよ!」

 

クロノの指示にエイミィは仮面の男の進む先にある場所の中で重要な場所をピックアップしていく。

ロッテは、からかう様な目をクロノに向け、ふと首を傾げた。

 

「あれ? なら、クロスケはどうするんだい? ここで待っているのかい?」

「まさか。僕は」

 

クロノはS2Uを展開すると、部屋の入り口に足を向ける。

 

「僕も前線に出る」

「・・・・・・上等だ」

 

弟子が腑抜けていないことに、ロッテはにやりと獰猛に笑うと、同じく入り口に足を向け、

 

「待って! 割り出しできたよ! 場所は・・・・・・え!?」

 

エイミィの声に足を止めた。

 

「エイミィ? どうしたんだい?」

「場所は何処だったんだ、エイミィ?」

 

様子の変わったエイミィを訝しむと、二人は声を掛けた。

二人に声を掛けられたエイミィは、割り出した結果に間違いがないことを何度も確かめると、別の危機感を滲ませながら叫んだ。

 

「場所は、場所は第二医務室!」

「なんだと!?」

「ク、クロスケ!?」

 

告げられた場所に目を丸くしたクロノは駆け出した。

突然の行動に目を丸くしたロッテが慌てて後を追う。

猫の身体能力を活かした走行は、すぐに彼女をクロノに追いつかせた。

脇目も振らず第二医務室へ急ぐ彼に併走しながら、ロッテは彼に問うた。

 

「クロスケ! 一体どうしたって言うのさ!」

「アースラ第二医務室は現在特定の人間以外は侵入禁止になっている。だけど、現在そこには一人だけベッドを使っているやつがいるんだ」

「クロスケ?」

「仮面の男が第二医務室を目指すのは、あいつの力を狙ってのものだろう。だけど、そのためには現状眠りについているあいつを目覚めさせる必要がある」

 

<アルス・マグナ>。

その力の異常性を見たクロノは、あの能力がどのようなものをも惹きつけてしまうことも理解している。

 

「なら、あの仮面はそのお友達を起こす方法を持っているってことじゃないのかい?」

「だといいんだが・・・・・・」

 

クロノは走りながら表情を歪めた。

その表情に、ロッテはからかうように言った。

 

「しっかし、クロスケも変わったね。まさか、お友達が心配で飛び出すなんて」

「違う」

「・・・・・・え?」

 

だが、即答で否定され、思わず振り返った。

クロノは首を横に振って言う。

 

「違う。僕が心配しているのは、仮面の男が雄一を起こす手段を持っていると勘違いしていることだ」

「勘違いだって?」

「これは僕の推測だけど、仮面の男は雄一を起こそうとするリスクを知らない可能性があるんだ」

「リスクだって? 何があるって言うの?」

 

同じく、それを知らぬロッテは苛立たしげに問い返す。

クロノは、ちらりとロッテに目を向けると、すぐに前を向く。

第二医務室はすぐそこだった。

 

「それは、」

 

第二医務室のドアまで駆け寄ると、開き切るのももどかしく飛び込んだ。

途端、

 

「あぁぁああああああああ!!!!」

 

医務室の中から絶叫が響き渡った。

そこには、

 

「こういうことだ」

 

呆然とするロッテの眼前、クロノが指差す先で、

肩口まで削り取られた、けれど血の出ない傷口を抑えながら声を張り上げて絶叫を上げる、仮面の男の姿があった。

 

「な、なんだよ、これ?」

「リスクだ。眠っているあいつは絶対の防御が巡らされているらしい。触れる程度ならいい。体を拭くことも着替えさせることもできる。だけど、もし危害を加えようものなら。たとえ、針の一本でも突き刺そうとしたら、目的の如何を問わずに削り取られるらしい」

「な!? そんなのどう起こせっていうんだ」

「さあね。だけど、いまはそれを議論している場合じゃない。今は」

 

クロノは言葉を切ると、激痛と片腕を失ったショックに悶える仮面の男にS2Uを突きつけた。

 

「彼を捕獲することだ」

「!? あ、ああ! そうだね!」

「っ! くっ!?」

 

ロッテが我に返り構えを取ると同時、仮面の男は魔力弾を地面に叩きつけた。

クロノは落ち着いてS2Uを構えると、先ほど仮面の男がいるであろう場所にバインドを放

 

「うりゃあああ!!」

「っ、馬鹿!?」

 

つ寸前、雄たけびを上げてロッテが殴りかかっていった。

クロノは舌打つと、すぐにバインドの術式を解除して援護の魔力弾を展開する。

その間にも、ロッテは薄まった煙の向こうに仮面の男の影を見つけ出して拳を放ち

 

「っ! 待て、ロッテ、罠だ!」

 

その腕の先、拳に光る魔力光に気がついたクロノが叫んだときには遅かった。

仮面の男の張っていた魔方陣にロッテの拳が突き刺さり、

轟音と閃光を撒き散らした。

 

「ぐぅっ!?」

「きゃ!?」

 

あまりに強い光と音に二人が耳と目を覆ってやり過ごす。

やがて、それらが収まったときには、

 

「・・・・・・逃げられたか」

 

仮面の男は姿を消していた。

 

「うー、ごめん、クロスケ。油断してた」

「みたいだな。どうしたんだ? あんなトラップに引っかかるなんて」

「相手が怪我人だと思って油断した。それより」

「ああ。問責は後だ。エイミィ、追跡を!」

 

エイミィに連絡を取るクロノを尻目に。

ふと、ロッテは騒ぎに関わらず眠り続ける雄一に、惜しむような目を向けるとクロノに続き医務室を出て行った。

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