リリカル世界を逝く影執事   作:ラッテンフェンガー

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第九十四話 覚悟と約束

はやてが入院して二日。

雄一は今日も、病室を訪れていた。

 

「はやて、起きてるか?」

「雄君、今日もおおきにな。せやけど、毎日来てくれんでもええんやで? 寒いし大変やろ?」

「なに、買い物のついでや気の向いたときといった風に、空いた時に来ているんだ。無理をしているわけじゃないから気にすることはないよ」

「せやけど・・・・・・」

 

なおも申し訳なさそうなはやてに、雄一は苦笑すると彼女の頭に手を伸ばした。

頭をゆっくりと撫でていく。

 

「気にするなと言うに。俺がはやてに会いたいから来ているんだから」

「え!? ちょ、雄君!? そんな・・・・・・いきなりすぎるわ・・・・・・」

「???」

 

突然取り乱すはやての様子に首を傾げる雄一。

その、分かっていない雄一の様子にはやては、茹だった頭を冷ます意味も込めて深くため息をついた。

ある程度落ち着くと、はやては一言文句を言ってやろうと息を吸い込み、

 

「はやてちゃん、シャマルさんが来て・・・・・・あら?」

「っ、げほげほっ!? い、石田先生!?」

 

石田先生の登場にタイミングを外されたはやては噎せてしまい咳き込んだ。

咳き込みながら、涙の滲んだ目を入り口に向けると、石田先生とシャマルが微笑ましいものを見るような目を二人に向けていた。

なんやろ、とはやてが思い首を傾げようとしたところで、

ぐい、

 

「おっと?」

「ん? っ!?」

 

雄一は僅かに引っ張られ、はやては妙な抵抗を感じた。

同時に頭の上に違和感を感じて、頭上を見上げるはやて。

雄一の腕がはやての頭上に伸びている。

二人の登場で有耶無耶になっていたが、雄一の手ははやての頭に乗せられたままだった。

それに気がついたはやては、雄一の手を振り払うと、顔を背けてベッドに飛び込んだ。

 

「は、はやて?」

「あらら、からかい過ぎちゃったかしら?」

「はやてちゃんも大変ね」

 

はやての行動の意味が分からず困惑する雄一と言葉にならぬ悲鳴を上げるはやての様子に、シャマルと石田先生は顔を見合わせると思わず笑いを漏らした。

 

 

 

「う~~・・・・・・」

「あー、はやて、いや、はやてさん? そろそろ機嫌を直してもらえると」

「ふんっ!」

 

雄一に答えず、そっぽを向くはやて。

怒っていると言うよりはふて腐れているような感じだが、

 

(触らぬ神に祟りなし、っと)

 

雄一は視線をはやてからすっと逸らすと、

 

「あら? ダメですよ、雄一君。はやてちゃんを構ってあげなくちゃ♪」

 

二人の様子を見ていたシャマルに向けた。

 

「それで、シャマルはどうしたんだ?」

「はやてちゃんのお見舞いよ。着替えと新しい本を持ってきたの」

 

ほら、と彼女は手に持った袋を少し開けて見せた。

確かに、着替えと新しい本が何冊か入っている。

だが。

 

「なあ、はやて? 俺の記憶が確かなら、一昨日どころか昨日も本を届けていたはずなんだけど?」

 

雄一がはやてを振り返ると、はやては先ほどとは違う理由で顔を背けていた。

 

「も、持ってきてもろた本はもう読んでしもたし・・・・・・」

「大方、消灯時間が過ぎても隠れて読んでいたな?」

「ぎくっ!?」

 

肩を震わせるはやての様子にため息をつくと、雄一はシャマルの目を向けた。

 

「どうしたもんかな?」

「うーん。はやてちゃん、あまり暗いところで本を読んでいると目を悪くしちゃいますよ?」

「うぅ・・・・・・せやけど、いつも何かしている時に何もせんとおるから退屈で」

「寂しくて目が覚めてしまったと」

「っ、うぅ・・・・・・」

 

雄一の予想にはやては否定できず、顔を俯かせた。

その様子に、雄一とシャマルは顔を見合わせて苦笑した。

 

「どうやら、もう少し見舞いに来る頻度を上げないといけないな」

「はい♪ ヴィータちゃん達にも来れるなら来てもらいましょう」

「ちょ、ちょお待って!」

 

ニヤニヤと企む雄一達に慌ててはやては割り込んだ。

 

「どうかしたか?」

「その・・・・・・来てくれるんは嬉しいんやけど、ホンマに無理せんでええねんよ。皆がやりたいこと見つけたんやったら、そっちに熱中してるんは悪いことやないし、それを邪魔したくないんや」

「はやてちゃん・・・・・・」

 

はやての心中を聞き、シャマルは表情を揺らした。

はやての病、いや闇の書の呪いの進行を知っているだけに、はやての優しさにシャマルの心は痛みを感じずにはいられなかった。

言葉が咄嗟に見つからず、雄一に視線を向ける。

さすがの雄一も今回は茶化す様子もなく真面目に頷くと、再びはやてに手を伸ばした。

 

「はやて」

「なんや?」

「はやてはもう少し我が侭でもいいと思うんだ」

「我が侭?」

 

首を傾げるはやてに、頭を撫でてやりながら頷く。

 

「そう。いま、はやてはシグナム達がバラバラだと思った?」

「・・・・・・そうやね、そう思ってない言うたら嘘になる。せやけど」

「それは悪いことじゃない? たしかにそうだけどね。はやてが今の皆をバラバラに感じるのは、はやてが皆の要だからだ」

「要?」

「この場合は、本来の意味で扇の留め具のことだ。扇は複数の骨を要で留める。けど、要が外れると、扇はバラバラになってしまう」

「まるで今のウチらみたいにか?」

「そうかもな。だけど、要が填まればまた扇は形を取り戻す。だから、今のバラバラな状況を嫌だと思うなら、はやてはなんとしても元気になって家に帰らないといけない」

「せやけど・・・・・・私は」

「『治ると思っていない』?」

「っ!?」

 

心中に沈めていた思いを言い当てられ、はやては目を丸くして雄一を見つめた。

話の流れに不穏なものを感じ取ったシャマルが雄一を咎めようとしたが、雄一に視線を向けられて口を閉ざした。

シャマルが下がったのを確認し、はやてに向き直ると、雄一はため息をつき呆れを示した。

 

「はやて。俺はお前に誓ったはずだ。『神にも悪魔にも邪魔されない、家族との一時を守って欲しい』という、お前の願いに応えることを。そのために、俺ははやてがたとえ死にそうになっていても、死神だろうと殴り飛ばしてお前を生き返らせてやる」

「雄君・・・・・・」

「契約者は契約を違えない。だから、契約を守るためなら、俺はなんだってする。たとえ、はやてが死を願っても、その願いを否定して家族との時間を限界まで過ごさせるだろう」

「・・・・・・それは・・・・・・傲慢やね」

「ああ、そうだな。だけど、俺達契約者はそんなもんだ」

 

にやりと笑む雄一。

その雄一の言葉に、はやては手を伸ばした。

雄一は伸ばされた手を取る。

 

「・・・・・・雄君」

「何だ、はやて?」

「・・・・・・その言葉、信じてもええんやね?」

「当然だ」

 

誤解の余地がないよう端的に頷く。

はやては彼の言葉に、目を潤ませると雄一の手を握り締める。

 

「・・・・・・この病気、病院じゃ治らんっていう予感があったんや。せやから、楽しい時間も終わってまうんやと覚悟してた・・・・・・やのに、そんなこと言われたら、揺らいでまうやんか・・・・・・」

「そんな覚悟、捨てちまえ。今のはやてに必要なのは、絶対に(呪い)に負けないっていう意思と、皆のところに戻るっていう意思だ」

「うん・・・・・・私、死にたくない・・・・・・絶対、皆のところへ帰るんや」

 

涙をこぼしながら頷くはやて。

雄一は、ふと、空いた手をはやての前に差し出した。

その手は小指が立てられている。

 

「・・・・・・なんや?」

「何、ただの指きりだ。いちいち言葉を重ねるより、はやてにはこっちの方が分かりやすいだろ?」

「それもそうやな! ほな、やろか!」

 

はやては涙を拭うと、腕を伸ばした。

 

「それじゃ、俺は改めて誓う。『絶対にはやて達との契約を果たす』ことを」

「私も誓うよ。『絶対に治って、また皆で楽しい時間を過ごす』って」

 

お互い誓いを口にすると、小指を絡めた。

 

「ほな、いくで。指きりげんまん、」

「嘘ついたら、針千本呑ます」

「「指きった!!」」

 

拍子を取りながら歌い、歌の終わりと共に二人とも手を離す。

雄一を見るはやての目には先ほどの影は消えていた。

それを見て取った雄一は、満足そうに頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私・・・・・・すっかり、お邪魔虫ですね。映像に収めておいて、シグナム達に見せてあげようかしら?」




作中で触れた我が侭については次回の取っ掛かりとして。
ではまた次回!
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