リリカル世界を逝く影執事   作:ラッテンフェンガー

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第九十五話 方針と苛立ち

シャマルの存在を思い出した二人が姿を探すと、すっかり忘れられていたシャマルはいつの間に買ってきたのかコーヒー片手に苦笑いしながら壁際から二人を見ていた。

気まずくなる前に、とすぐに雄一は話題を変えにかかった。

 

「そ、それでさっきの話しに戻るけど、はやては今何かしたいことはないか?」

「せやな・・・・・・」

 

問われたはやては唇に指を当てると宙に目を向け、

 

「・・・・・・そや、もうすぐクリスマスやん! うん、これや! 24と25日の二日、皆で集まって祝おう!」

「ふむ・・・・・・いい考えだけど、それは病院でか?」

 

はやての願いとあっては、シグナム達も断らないだろう。

算段をつけつつ雄一が問うと、はやては首を横に振った。

 

「ちゃうで! 会場は八神家や!」

「・・・・・・えと、それは外泊願いを出すって事か?」

「そういうことやな」

 

あっさり頷くはやてに、雄一は口元をひきつらせた。

 

「えっと・・・・・・なあ、はやて? それがどういうことか、分かって言ってるよな?」

「当たり前やん」

「そうか・・・・・・分かっているのか」

 

あっけらかんと答えるはやてに、雄一は崩れ落ちそうになるのを必死に堪える必要にかられた。

はやての願いは、もちろん雄一にも異論はない。

だが、そのために必要な手続きには一つ難題がある。

それは、

 

(石田先生に、外泊を納得させる必要があるんだよな)

 

痛む頭を押さえながら、シャマルに助けを求めると、

 

「我が侭を言え、って言ったのは雄一君よ? 大丈夫、君ならできるって信じてるわ」

 

シャマルは苦笑しながら首を横に振った。

 

「いや・・・・・・それは、言ったけど・・・・・・ハァ」

 

援軍を断られた雄一は、肩をガクリと落とすのだった。

 

 

 

「それじゃ、また来ますね。はやてちゃん」

「おおきにな、シャマル。雄君もまた来てな」

「ああ。次は、図書館で何か借りてきてやるよ」

「ありがと。それなら、ウチのカード使ってええから。場所はシャマルに聞いてな。雄君も、外泊願い、頼んだからな?」

「う・・・・・・分かった分かった。なら、少しでも有利になるよう体調は整えておけよ」

「了解や」

 

そういうと、病室をあとにする二人。

病室から離れたところで、シャマルが念話を繋いだ。

 

「<それで、雄一君は何でここに? 囮になるはずじゃなかったの?>」

「<それがな・・・・・・>」

 

雄一は顔をしかめながら、説明した。

始まりは二日前、はやての入院後八神家に戻ってきたときに遡る。

 

 

 

 

八神家に戻ってきた雄一達は改めて方針を決めるために話し合いを開いた。

 

「はやての入院は状況を好転させる一助にはなりそうだな」

「一助だと? 貴様、どういうことだ!? 主はやての困難が我々の助けとは何事だ!」

 

雄一の言葉に激昂するシグナム。

雄一はシグナムを落ち着かせると、改めて意図を説明した。

 

「言葉が足りなかったな。確かにはやての入院は、時間制限が近づいてきている証拠だ。決して喜べるものじゃない。だけど、その一方ではやての目を気にする必要がなくなったことは大きいだろう?」

「なるほど・・・・・・確かに、移動に時間を取られず、主の目のない時間に蒐集をしていた頃より、効率は上がるだろう」

 

意図を早速理解したザフィーラの言葉に、意を得たりと、頷く雄一。

 

「そして、その間に俺も動くつもりだ」

「どういうことだ?」

「今朝の話し合いでも言ったけど、管理局と話し合う場を持ちたい。そのために、あえて管理局の目に留まるよう動くつもりだ」

「ん? えっと、つまり?」

 

雄一が何を言いたいのか分からず、首を傾げるヴィータ。

雄一は苦笑すると、噛み砕いて説明する。

 

「少なくとも、なのはもフェイトもこの街を行動の中心にしている。そこで、闇の書の主として現状一番疑わしい俺が暢気にしているのを発見したら、確実に飛び込んでくるはずだ。そのときに戦意がないことを示せばなんとかなると思っている」

「それは、少々楽観的過ぎないか?」

 

雄一の予想に難色を示すシグナム。

だが、雄一も苦笑しながら同意した。

 

「確かにな。俺としても上手くいけばいいけど、一応何戦かする覚悟はある。ちなみに、最悪の場合向こうの主力一同対俺になりかねない、とも考えている」

 

なのは達にクロノやアルフ、ユーノ。

5対1の状況を考えて、雄一は思わず体を震わせた。

その様子に、ヴィータが心配そうに言った。

 

「なあ、大丈夫なのか? やっぱり、私も一緒について」

「いや、俺だけでいい。ヴィータは蒐集を頼む」

 

ヴィータの提案を遮って首を横に振る。

むっと、表情を歪めるヴィータ。

 

「俺はさっきの方針で蒐集に出れないし、シャマルにははやてについてもらう必要がある。だから、これ以上こっちに戦力を割いて、蒐集を遅らせるわけにはいかない」

「それは・・・・・・そうかもしれねえけどよ・・・・・・」

 

咄嗟に反論しようとするが、言葉が出ずに黙るヴィータ。

代わりにシャマルが口を開いた。

 

「ちょっといいかしら? はやてちゃんに、食事の件を頼まれていたはずだけど、そっちはどうするの?」

「あー」

 

シャマルの指摘に頬を掻く雄一。

 

「実は俺もそこをどうするか、が悩みどころなんだ。基本、弁当を用意しておくから、それをシャマルに持っていってもらうのがいいと思うんだけど、シャマルはどうだ?」

「ええ、そういうことなら大丈夫。けど、管理局と話し合いになったら動けなくなるんじゃないかしら?」

「ってことは、雄一の飯も食えなくなるのか!?」

 

シャマルの疑問に、猛反応を見せるヴィータ。

ヴィータの反応に苦笑しつつ、雄一は頷く。

 

「管理局と接触したらそうなるだろうな。ただ、そのときはシャマルを通じて伝えるから。そのときは」

「私が作ればいいんですね!」

「各自で調達してくれ」

「・・・・・・クスン」

 

意気込むシャマルを無視して告げると、シグナム達は真剣な顔で頷き、周りの反応にシャマルはさめざめと涙を流したのだった。

 

 

 

「<正直、昨日の内に動くと思っていたんだけどな。まさか、まったく動きがないとは思わなかった>」

「<うーん・・・・・・遠くの管理外世界の監視に集中しているってことなのかしら?>」

 

監視に引っかからないことに、苛立ち混じりに吐き捨てる雄一にシャマルは苦笑しながら予想した。

事実、管理局は守護騎士が先日の戦闘からこの街を活動範囲から外している、と考えて管理外世界への監視を強めていた。

 

「<だからといって、嘱託魔導師のホームグラウンドだぞ? それも、なのはの襲撃と遭遇戦の二回この街で戦っているんだから、何かあると思っていてもいいだろうに>」

「<まあまあ。こればかりはこっちで色々言ってても始まらないわ。その分、有意義なことを考えましょ?>」

「<・・・・・・そうだな。蒐集は何処まで来た?>」

 

シャマルの提案に乗って、話題を変える。

 

「<もうすぐ六百頁に届くみたいよ。複雑な気分だけど、やっぱりペースが大きく上がったわ>」

「<そうか・・・・・・この分なら、クリスマスには間に合いそうだな。シグナム達にも伝えておいてくれ>」

「はいはい。それじゃ、私は買い物をして帰るわね。はやてちゃんの図書カードは後で送っておくわね」

「ああ」

 

送る? と首を傾げつつ、シャマルに答えると、シャマルは雑踏の向こうに消えていった。

その姿を見送り、雄一は歩きながら一人方針を見直していく。

 

(蒐集は残り六十頁程度。そろそろ、ペースを調節してもらわないとな。早く管理局との話し合いを持たないと・・・・・・このままじゃ、シグナム達だけで臨む事になる。万難を排するためにもそれは避けないと・・・・・・それもこれも、管理局の動きが鈍い所為だ。何か手を打たないと)

 

考えながら、どうやって管理局に捕捉されるかを考え、

 

「・・・・・・仕方ない。あそこにいけば、確実だろう」

 

思いついた場所に足を向けた。

歩くことしばし、駅前の繁華街の一角。

そこにある一つの店を前に、雄一はため息をつくと、深く息を吸い込み覚悟を決めて、扉に手をかけた。

その店は、「翠屋」という名前だった。

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