リリカル世界を逝く影執事   作:ラッテンフェンガー

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第九十七話 再会と違和感

「さて、何を借りるか・・・・・・」

 

図書館についた雄一は、真っ直ぐに西洋のファンタジー系の本の棚へ足を向けた。

『王道にするか、それとも奇抜さを狙うか、それが問題だ』、などと頭の中でふざけつつ、本のタイトルを一つ一つ目で追っていくと、

 

「ペインさん?」

「ん?」

 

聞き覚えのある声に聞き慣れない名前で呼ばれて振り返った。

そこには、本を手に持ったすずかがいた。

 

「ああ、すずか・・・・・・ちゃんか」

 

つい、いつものように呼び捨てで呼びそうになり、すぐに改める。

だが、すずかはきょとんとしながら首を傾げた。

 

「あれ? ペインさん、前はそんなふうに私のことを読んでました? 前は呼び捨てだったと思うんですけど」

「あれ? そ、そうだった、か?」

 

すずかの指摘に、思わず声が裏返るが何とか抑えこむ。

咳払いを一つして、軌道を戻す。

 

「久しぶりだな。前に、はやてを迎えに来た時に会って以来か」

「そうですね。はやてちゃんがお泊りに来たときにはお留守でしたし。ところで、ペインさんはどうして図書館に?」

「? はやてのことは聞いていないのか?」

 

はやてのことだから、伝えていると思ったのだが。

首を傾げながら問うと、すずかは慌てて補足した。

 

「はやてちゃんが入院したことはシャマルさんから聞きました。それなのに、ペインさんが図書館に来るのは珍しいなと思って」

「そうか? そんな日もあると思うが」

「私は結構図書館に来ていますから」

 

どこか誇らしげに言うすずかに、微笑ましさを感じて思わず噴出す雄一。

 

「どうかしましたか?」

「い、いや、なんでもない」

 

何がおかしかったのか分からず首を傾げるすずかに、さらに笑いを深くする雄一。

だが、このまま笑っているのも悪い、と思い話題を変えることに。

 

「そういえば、まだ制服のようだけど、学校が終わってから随分経つよな。まさか、ずっと図書館にいたのか?」

 

すずかが着ているのは聖祥の白い制服。

彼女の性格として、一度は家に戻っていそうなものだと疑問に思いながら問うと、すずかは笑いながら説明した。

 

「実は、今日友達の携帯を買うのに付き合っていたんです。日本の生活に慣れていない子だからって、アリサちゃんが言って。それになのはちゃんがやる気を見せて」

 

ああ、と雄一は思わず納得してしまった。

おそらく、というか確実にその『日本に慣れていない子』というのはフェイトだろう。

アリサが持ち前の面倒見の良さを発揮して、なのはもフェイトのためなら、と張り切ったと。

普段なら、押さえ役にまわるすずかも、今回の提案には乗り気で、皆で携帯を選んでいたのだという。

どうりで、翠屋になのはが現れなかったわけだ、と今さらながらに納得しつつ、話しに耳を傾ける雄一に、すずかが問うた。

 

「ペインさんは携帯電話は持っていないんですか?」

「携帯か・・・・・・買おうとは思っているな、あれば連絡に便利だし」

 

実際には念話があるから、それほど重要視していないのだが、魔法を知らない者相手には必要だろう。

ただ、現状では身分証明ができない以上、購入は諦めた方がいいと考えてもいるが。

 

「持っていないんですか? よかったら、ペインさんも今度一緒に買いに行きませんか?」

「ああ、いや・・・・・・誘いはありがたいんだが、いまはちょっと厄介な件を抱えていてな。その話が片付いたら、改めて誘ってくれ」

「そうですか・・・・・・はやてちゃんのことですか?」

「それもある。けど、それ以外にも何とかしないといけないことがあるんだ」

 

管理局のこととか、仮面の男達のこととか、本体にどうやって戻るのかとか、戻るときこの体はどうなるのかとか。

相も変わらず真っ暗な道行きに思わずため息をつきつつ、本の選別に戻る雄一。

 

「それで、ペインさんは何をしているんですか?」

「はやての暇潰しを用意してやろうと思ってな。持っていく本を片っ端から読んじゃうから、何かないかと借りに来たんだ」

「片っ端からって・・・・・・」

 

表現に苦笑するすずかだが、雄一としては冗談のつもりはなかったりする。

 

「消灯時間後も隠れて読んでいるらしくてな。かといって、暇潰しがないのも可哀想だし」

「ペインさんって、優しいですね」

「そうかな・・・・・・ああそうだ。よかったら、すずかも手伝ってくれないか?」

「? えっと?」

 

すずかなら、と期待を向けられ、戸惑うすずか。

 

「すずかなら、はやてがどんな本を読んでいたか。そして、どの本を借りればいいか分かる・・・・・・と信じている!」

「期待が重過ぎますよ・・・・・・えっと」

 

雄一の期待に苦笑しながら、すずかは本棚に向かうといくつかの本を選んでいく。

 

「これと・・・・・・これと、あとこっちも」

「おお・・・・・・」

 

思った以上の成果を出すすずか。

どんどん積み上げられていく本の山に、驚きながらその様子を見ていた雄一は、自分も手伝おうと本に手を伸ばし、

 

「これと・・・・・・あ、ペインさん! その本ははやてちゃんはもう読んでましたから駄目です!」

「う・・・・・・そうか」

 

すずかの言葉に、手を引っ込めると大人しく席に戻る。

しばらくして、すずかに選んでもらった本を前に雄一は呻くことになった。

 

「け、結構あるな・・・・・・」

「・・・・・・ちょっと、張り切りすぎちゃって」

 

積みあがった本の塔を見ながら思わずこぼすと、すずかは顔を紅くして俯いた。

ジャンルはファンタジーでくくってもらったのだが、そうでなければもっと多かっただろう。

 

「この図書館って、貸し出し数の上限って何冊だっけ?」

「六冊までです。どれを借ります?」

「んー・・・・・・」

 

一冊を手にとり、パラパラと捲ってみる。

すずかが選んだだけあって、面白そうだ。

他のも期待が持てそうな分、選別はなかなか難問だろう。

 

「そうだ、すずかのお薦めはどれだ?」

「えっと・・・・・・それなら」

 

問われたすずかは、少し考えると二種類の本を取り出した。

 

「こっちの本は、王道系のファンタジーですが設定が詳細に造りこまれているのもありますけど、展開がとても丁寧で思わず引き込まれそうになるんです」

「ほう」

「それとこっちは、状況の二転三転する様子が面白いですね。腐敗した王政、利権に擦り寄る貴族、横柄な騎士に生きるためなら何でもする民衆。思わず考えさせられる場面もあるから、飽きることがない作品です」

「ほうほう」

 

どちらも期待できそうだ。

ただ、

 

「二つともは、無理そうだな」

 

前者は五冊、後者は三冊の計八冊。

二冊オーバーとなる。

 

「いっそ、そっちは三冊だけ借りて、こっちは三冊とも借りるか」

「でも、それだと続きが気になりませんか?」

「む・・・・・・」

 

 

すずかの意見ももっともと思い、五冊纏めて借りることにし、後者の三冊は次の機会にすることにした。

 

「それじゃあ、残りの本は棚に戻しておきますね」

「いや、そっちは俺がやっておくよ。色々紹介してもらって助かったし、それに」

 

本を片付けるために立ち上がったすずかを呼び止めると、雄一は入り口の方を示した。

すずかがそちらを見ると、迎えに来たのだろうノエルの姿があった。

 

「迎えが来ているからな。あまり探させるわけにもいかないだろ?」

「あ・・・・・・そうですね。名残惜しいですけど・・・・・・」

「ん?」

「っ!? い、いえ!? なんでもないです!」

 

最後に呟かれた事が聞こえず、聞きなおすがすずかは顔を紅くさせて教えなかった。

その反応に首を傾げながら、雄一はメモ帳とペンを取り出すと、本のタイトルをメモしていく。

 

「俺はもう少し残るし、本は気にしなくていい」

「・・・・・・分かりました。それじゃ、お願いしますね」

 

後ろ髪をひかれる様子でノエルのもとへ向かうすずか。

その途中、足を止めると振り返った。

 

「あ、明日友達を連れてはやてちゃんのお見舞いに行きますね」

「おー」

 

雄一はすずかの言葉に生返事を返しつつ、メモしていくが、

 

「・・・・・・ん? 見舞い? 友達?」

 

脳裏に何かが引っかかり、雄一は聞きなおそうとすずかを振り返る。

だが、すずかは既にノエルと共に図書館を出て行くところだった。

聞きなおすことは諦め、雄一は席に戻るが棘が刺さったような違和感に顔をしかめた。

 

「なにか・・・・・・不味いことになったような・・・・・・それでいてチャンスが来たような・・・・・・」

 

違和感がはっきりとせず、微妙な気分を抱き首を傾げる雄一。

その違和感の正体を雄一が知るのは、翌日シャマルの念話を聞いたときだった。

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