「さて、何を借りるか・・・・・・」
図書館についた雄一は、真っ直ぐに西洋のファンタジー系の本の棚へ足を向けた。
『王道にするか、それとも奇抜さを狙うか、それが問題だ』、などと頭の中でふざけつつ、本のタイトルを一つ一つ目で追っていくと、
「ペインさん?」
「ん?」
聞き覚えのある声に聞き慣れない名前で呼ばれて振り返った。
そこには、本を手に持ったすずかがいた。
「ああ、すずか・・・・・・ちゃんか」
つい、いつものように呼び捨てで呼びそうになり、すぐに改める。
だが、すずかはきょとんとしながら首を傾げた。
「あれ? ペインさん、前はそんなふうに私のことを読んでました? 前は呼び捨てだったと思うんですけど」
「あれ? そ、そうだった、か?」
すずかの指摘に、思わず声が裏返るが何とか抑えこむ。
咳払いを一つして、軌道を戻す。
「久しぶりだな。前に、はやてを迎えに来た時に会って以来か」
「そうですね。はやてちゃんがお泊りに来たときにはお留守でしたし。ところで、ペインさんはどうして図書館に?」
「? はやてのことは聞いていないのか?」
はやてのことだから、伝えていると思ったのだが。
首を傾げながら問うと、すずかは慌てて補足した。
「はやてちゃんが入院したことはシャマルさんから聞きました。それなのに、ペインさんが図書館に来るのは珍しいなと思って」
「そうか? そんな日もあると思うが」
「私は結構図書館に来ていますから」
どこか誇らしげに言うすずかに、微笑ましさを感じて思わず噴出す雄一。
「どうかしましたか?」
「い、いや、なんでもない」
何がおかしかったのか分からず首を傾げるすずかに、さらに笑いを深くする雄一。
だが、このまま笑っているのも悪い、と思い話題を変えることに。
「そういえば、まだ制服のようだけど、学校が終わってから随分経つよな。まさか、ずっと図書館にいたのか?」
すずかが着ているのは聖祥の白い制服。
彼女の性格として、一度は家に戻っていそうなものだと疑問に思いながら問うと、すずかは笑いながら説明した。
「実は、今日友達の携帯を買うのに付き合っていたんです。日本の生活に慣れていない子だからって、アリサちゃんが言って。それになのはちゃんがやる気を見せて」
ああ、と雄一は思わず納得してしまった。
おそらく、というか確実にその『日本に慣れていない子』というのはフェイトだろう。
アリサが持ち前の面倒見の良さを発揮して、なのはもフェイトのためなら、と張り切ったと。
普段なら、押さえ役にまわるすずかも、今回の提案には乗り気で、皆で携帯を選んでいたのだという。
どうりで、翠屋になのはが現れなかったわけだ、と今さらながらに納得しつつ、話しに耳を傾ける雄一に、すずかが問うた。
「ペインさんは携帯電話は持っていないんですか?」
「携帯か・・・・・・買おうとは思っているな、あれば連絡に便利だし」
実際には念話があるから、それほど重要視していないのだが、魔法を知らない者相手には必要だろう。
ただ、現状では身分証明ができない以上、購入は諦めた方がいいと考えてもいるが。
「持っていないんですか? よかったら、ペインさんも今度一緒に買いに行きませんか?」
「ああ、いや・・・・・・誘いはありがたいんだが、いまはちょっと厄介な件を抱えていてな。その話が片付いたら、改めて誘ってくれ」
「そうですか・・・・・・はやてちゃんのことですか?」
「それもある。けど、それ以外にも何とかしないといけないことがあるんだ」
管理局のこととか、仮面の男達のこととか、本体にどうやって戻るのかとか、戻るときこの体はどうなるのかとか。
相も変わらず真っ暗な道行きに思わずため息をつきつつ、本の選別に戻る雄一。
「それで、ペインさんは何をしているんですか?」
「はやての暇潰しを用意してやろうと思ってな。持っていく本を片っ端から読んじゃうから、何かないかと借りに来たんだ」
「片っ端からって・・・・・・」
表現に苦笑するすずかだが、雄一としては冗談のつもりはなかったりする。
「消灯時間後も隠れて読んでいるらしくてな。かといって、暇潰しがないのも可哀想だし」
「ペインさんって、優しいですね」
「そうかな・・・・・・ああそうだ。よかったら、すずかも手伝ってくれないか?」
「? えっと?」
すずかなら、と期待を向けられ、戸惑うすずか。
「すずかなら、はやてがどんな本を読んでいたか。そして、どの本を借りればいいか分かる・・・・・・と信じている!」
「期待が重過ぎますよ・・・・・・えっと」
雄一の期待に苦笑しながら、すずかは本棚に向かうといくつかの本を選んでいく。
「これと・・・・・・これと、あとこっちも」
「おお・・・・・・」
思った以上の成果を出すすずか。
どんどん積み上げられていく本の山に、驚きながらその様子を見ていた雄一は、自分も手伝おうと本に手を伸ばし、
「これと・・・・・・あ、ペインさん! その本ははやてちゃんはもう読んでましたから駄目です!」
「う・・・・・・そうか」
すずかの言葉に、手を引っ込めると大人しく席に戻る。
しばらくして、すずかに選んでもらった本を前に雄一は呻くことになった。
「け、結構あるな・・・・・・」
「・・・・・・ちょっと、張り切りすぎちゃって」
積みあがった本の塔を見ながら思わずこぼすと、すずかは顔を紅くして俯いた。
ジャンルはファンタジーでくくってもらったのだが、そうでなければもっと多かっただろう。
「この図書館って、貸し出し数の上限って何冊だっけ?」
「六冊までです。どれを借ります?」
「んー・・・・・・」
一冊を手にとり、パラパラと捲ってみる。
すずかが選んだだけあって、面白そうだ。
他のも期待が持てそうな分、選別はなかなか難問だろう。
「そうだ、すずかのお薦めはどれだ?」
「えっと・・・・・・それなら」
問われたすずかは、少し考えると二種類の本を取り出した。
「こっちの本は、王道系のファンタジーですが設定が詳細に造りこまれているのもありますけど、展開がとても丁寧で思わず引き込まれそうになるんです」
「ほう」
「それとこっちは、状況の二転三転する様子が面白いですね。腐敗した王政、利権に擦り寄る貴族、横柄な騎士に生きるためなら何でもする民衆。思わず考えさせられる場面もあるから、飽きることがない作品です」
「ほうほう」
どちらも期待できそうだ。
ただ、
「二つともは、無理そうだな」
前者は五冊、後者は三冊の計八冊。
二冊オーバーとなる。
「いっそ、そっちは三冊だけ借りて、こっちは三冊とも借りるか」
「でも、それだと続きが気になりませんか?」
「む・・・・・・」
すずかの意見ももっともと思い、五冊纏めて借りることにし、後者の三冊は次の機会にすることにした。
「それじゃあ、残りの本は棚に戻しておきますね」
「いや、そっちは俺がやっておくよ。色々紹介してもらって助かったし、それに」
本を片付けるために立ち上がったすずかを呼び止めると、雄一は入り口の方を示した。
すずかがそちらを見ると、迎えに来たのだろうノエルの姿があった。
「迎えが来ているからな。あまり探させるわけにもいかないだろ?」
「あ・・・・・・そうですね。名残惜しいですけど・・・・・・」
「ん?」
「っ!? い、いえ!? なんでもないです!」
最後に呟かれた事が聞こえず、聞きなおすがすずかは顔を紅くさせて教えなかった。
その反応に首を傾げながら、雄一はメモ帳とペンを取り出すと、本のタイトルをメモしていく。
「俺はもう少し残るし、本は気にしなくていい」
「・・・・・・分かりました。それじゃ、お願いしますね」
後ろ髪をひかれる様子でノエルのもとへ向かうすずか。
その途中、足を止めると振り返った。
「あ、明日友達を連れてはやてちゃんのお見舞いに行きますね」
「おー」
雄一はすずかの言葉に生返事を返しつつ、メモしていくが、
「・・・・・・ん? 見舞い? 友達?」
脳裏に何かが引っかかり、雄一は聞きなおそうとすずかを振り返る。
だが、すずかは既にノエルと共に図書館を出て行くところだった。
聞きなおすことは諦め、雄一は席に戻るが棘が刺さったような違和感に顔をしかめた。
「なにか・・・・・・不味いことになったような・・・・・・それでいてチャンスが来たような・・・・・・」
違和感がはっきりとせず、微妙な気分を抱き首を傾げる雄一。
その違和感の正体を雄一が知るのは、翌日シャマルの念話を聞いたときだった。