リリカル世界を逝く影執事   作:ラッテンフェンガー

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第百話 誤解と猫騙し

 

「な、何故貴方がアースラのことを!?」

「それも含めて、答えてやるから落ち着いてくれ」

 

思わず詰め寄ろうとしたフェイトを両手で押し返すようにして留める雄一。

なのはも、フェイトを窘めた。

 

「落ち着いて、フェイトちゃん。聞きますけど、不意打ちとかは」

「安心しろ。なのはが蒐集されたのはこっちとしても予想外だったんだ。もともと、俺としては、魔導師に手を出すことなく済ませたかったんだから」

「それってどういう」

「その前に、こっちからも聞かせてくれ」

 

問い詰めようとしたなのはも同じように押し留めると、雄一は逆に彼女達に問いを投げた。

怪訝な顔をする彼女達も、落ち着いて問いを待った。

 

「さっき病室で妙な反応をしていたけど、俺の言葉の何が引っかかったんだ?」

「「・・・・・・」」

 

雄一の問いに、二人は微かに顔を見合わせる。

念話で結論が出たのか、頷くと、フェイトが口を開いた。

 

「私達が気になったのは、グレアム提督の名前が出たことです」

「まて、提督だと?」

「はい。ギル・グレアム提督。管理局で歴戦の勇士と呼ばれる地球出身の魔導師です」

「イギリスの出身だとは聞いていたんですけど・・・・・・」

 

フェイトとなのはの言葉に、雄一は眉をひそめた。

はやての傍に守護騎士や雄一がいることを知れる立場に管理局の人間がいた。

なのに、なのは達にはその情報がまったくいってなかった。

その先にある予想に、雄一は思わず顔をしかめた。

一方、なのは達も冷静とはいかなかった。

先ほどのペインの言葉通りなら、グレアムはペインの存在も知っていたことになる。

なのは達の胸中には、何故グレアムはペインのことを知っていて黙っていたのか、という疑問が渦巻いていた。

彼だけではない。

グレアムが知っていたなら、彼の使い魔のリーゼ姉妹が知らないはずはないはずだ。

 

「嫌な予感がするな。急ぐとしよう。すぐに転移できるか?」

「あ、ちょ、ちょっと待ってください! フェイトちゃん、私がエイミィさんに連絡するからちょっと待ってて!」

 

なのはが携帯を取り出すと、エイミィに掛けた。

その間、フェイトが油断なく雄一を見つめる。

その視線に、雄一は思わず苦笑した。

 

「そこまで警戒しなくてもいいぞ?」

「そう、かもしれませんけど・・・・・・」

 

分かっていても、肩の力が抜けずにいるフェイトに、苦笑を深くする雄一。

 

「少なくとも、会談を申し出たのはこっちなんだから、わざわざそれを壊そうとはしないよ」

「・・・・・・」

「それに、この会談には別の目的もあることだし・・・・・・」

「!? それはどういう」

「フェイトちゃん!」

 

聞き捨てならぬ言葉に真意を問おうとしたフェイトの言葉になのはの声が割り入った。

 

「エイミィさんに聞いたら、すぐにゲートを開くって! 向こうでも何かあったみたい!」

「「!?」」

 

なのはの言葉に顔を引き締める二人。

なのはに状況を問う。

 

「なのは、一体何が起きているかは言っていたか?」

「それが、アースラに侵入者があったって!」

「侵入者? 前にもあったよね。それなら、今回の狙いも!」

「なんだ? どういうことだ?」

 

フェイトが己の予想に鬼気を滲ませた。

前回の侵入騒動と同一犯なら、犯人は仮面の男であり、狙いは医務室で眠る雄一だ。

何としても守らなくては、バルディッシュを握ると、フェイトは強く思った。

 

「それで、転移までは?」

「すぐとしか・・・・・・あ!」

 

雄一が聞いた瞬間、魔方陣が足元に展開した。

転移魔法、と気がついた瞬間には視界が切り替わり、

 

多数のデバイスの矛先に出迎えられた。

それを構えるのは多数の局員達だった。

 

「・・・・・・な?」

「「・・・・・・え!?」」

 

さすがに動揺する雄一に、二人も思わぬ光景に驚きの声を上げた。

 

「二人とも、いったいなんて報告したんだ?」

「た、ただペインさんが会いたいって、言ったって!」

「い、いったいこれはどういうことですか!?」

 

なのはは慌てて雄一の疑念を否定し、フェイトが一歩前に出て局員達に問う。

そのとき、

 

『フェイトちゃん、なのはちゃん! 早くそいつから離れて!!』

 

集団の向こう、艦内放送から、エイミィの声が響いた。

 

「エイミィさん!」

「エイミィ! どういうことなの!? ペインさんは話し合いに」

『そいつはさっきまで、アースラ内で大暴れしていたの! アリアが撃退したのか、姿が見えなかったのに!』

 

 

 

 

なのはの連絡に遡り、アースラ。

通信室に詰めていたエイミィは、先日の襲撃の映像を注視していた。

何度も繰り返し見つめていた映像を停止させると、疲れた目を揉み解し、固まった体を伸ばした。

 

「~~!! っはあ・・・・・・駄目だぁ、何も手がかりが見つからない」

 

停止させた映像、そこに移る仮面の男をエイミィは睨みつけた。

彼女がこの映像を繰り返し見つめていたのは、何か手がかりがえられないか、という考えからだったが、依然として手がかりはないままだった。

 

「ホント、何者なのよ・・・・・・あんたは」

 

呟いたその瞬間だった。

紅く染まる視界に鳴り響く警報。

まさに先日の襲撃の映像を見ていたエイミィはすぐに反応し、警備システムにアクセスし、侵入者を洗い出す。

だが、

 

「え!?」

 

そこに映っていた姿に目を丸くした。

カメラに映っていた侵入者は、軍服を思わせる格好に目下から首までを覆う覆面をつけた青年、ペインの姿だった。

 

 

 

 

 

「「!?」」

 

二人が信じられない、と雄一を振り返るが、当然雄一に覚えがあるはずもない。

だが、それでも状況を整理していく。

 

(何か知らないが、俺の偽者が暴れていたって考えるべきだな・・・・・・じゃあ、その偽者は誰だ? この状況で、俺達と管理局が手を結ぶのを好まない連中・・・・・・あの仮面どもか!)

「ぺ、ペインさん・・・・・・どういうことですか!?」

 

考えていると、なのはが雄一を問い詰めた。

すぐに我に返ると、首を横に振る。

 

「俺にも分からんが・・・・・・少なくともいい状況には見えないな」

「暢気に言っている場合じゃないですよ!」

『二人とも! 早く離れて! そいつを拘束しないと!』

 

エイミィの言葉に、周囲を固める局員たちがデバイスを僅かに揺らめかせた。

緊張の糸がどんどん張り詰めていくのが見て取れる。

このままでは、いずれ暴発するものも出てくるだろう。

周囲を油断なく見つめるなのは達に、雄一は考えると、フェイトに囁いた。

 

(このままじゃ不味い。それは二人にも分かるな)

(っ、は、はい。けど、どうすれば・・・・・・こうなったら、すみませんがペインさんに大人しく捕まってもらうしか)

(せっかく考えてもらっといて悪いけど、そういうわけにもいかない。だから、俺は一度退く)

(け、けどどうやって?)

 

この状況から逃げるだけの時間を稼ぐというのか。

思わず振り向いたフェイトの目に、ナイフを取り出す雄一の姿が入った。

まさか、自分達を人質にする気か、と体を固くしたフェイトたちだったが、雄一は一歩下がると、ナイフを掲げた。

 

「<先に言っておくぞ。絶対にお前らは俺を見るなよ!>」

「「<!?>」」

 

念話の忠告に、なのは達はペインから目を背けた。

すぐに、背を向けてしまったことに気がつき、振り返ろうとし、

 

ゾバッ!!

 

『あああああぁああああぁああああ!!!!』

「「え!?」」

 

周囲の局員達の首や額などから血が吹き出たことに、慌てて正面に向き直った。

雄一を振り返ると、彼はナイフを振り下ろした姿で荒い息をついていた。

何が起きたのか分からないが、彼が何かしたのは間違いない。

 

「「っ、キャァアアアアア!」」

『っ、何!? どうしたの皆!?』

 

凄惨な光景に悲鳴を上げる二人。

そして、何が起きたのか分からず放送で声を張り上げるエイミィ。

そのとき、息を整えていた雄一が周囲を見渡すと、顔をしかめてこぼした。

 

「ああクソ、やりすぎたな・・・・・・」

「っ、何てことを!」

「よくも!」

 

雄一の言葉に、我に返った二人はデバイスを展開すると、雄一に飛びかかった。

雄一もエルミナを杖に展開し、ナイフと共に、二人の一撃を受け止めた。

 

「よくも、よくも皆を!」

「やっぱり・・・・・・私達を騙したんですね!?」

「あー・・・・・・何が言いたいかは分かるけど、ひとまず落ち着け」

 

激昂する二人に構わず、雄一は気怠そうに言う。

その姿が、さらに二人の怒りに油を注いだ。

 

「落ち着けですって!? こんなことをしといて何を!」

「いいから、落ち着け。落ち着いて見てみろ」

「何を!?」

「!? な、なのは! ちょっと待って!」

 

さらに撃ち込もうとしたなのはだったが、フェイトの声に踏み止まった。

 

「!? フェイトちゃん!? なんで止めるの!?」

「いいから! 皆を見て!」

「何が・・・・・・え!?」

 

振り返った先。

その光景になのはは目を見開いた。

血を噴き出していたはずの彼らが、荒い息をつきながら押さえている箇所には一筋の傷もなかったのだ。

見れば、噴き出たはずの血も見当たらなかった。

 

「こ、これは?」

『ねえ!? 皆、いったいどうしたの!? なんで動かないの!?』

 

エイミィは、傷もないのに膝を折った彼らの姿に解析を走らせながら、必死で呼びかける。

雄一がやったのは、一種のまやかしだった。

剣を極めた者は殺気を放つことで、相手に斬られる自分を幻視させるという。

かつて見た記憶の中、白髪のメイドが『猫騙し』と呼び、使っていた技だったのだが。

 

「まったく・・・・・・加減が分からないし、やたら疲れるし・・・・・・使い所が難しいな」

 

呼吸を整えると、雄一は立ち上がりゲートへ向かう。

その背中に、フェイトは必死に手を伸ばした。

 

「ま、待って!」

「・・・・・・安心しろ。今日は諦めるだけだ。また日を改めるよ」

 

フェイトが近づく間もなく、雄一はゲートを起動させずに、転移魔法を展開して海鳴へ戻る。

ゲートへ向かったのはフェイク。

ゲートから出られればよかったのだが、ゲートなどエイミィなら封鎖してみせるだろう。

それに気がついたから、雄一はゲートを使わずに出てみせたのだったが、

 

(転移で出られることを見せたのは失敗だったかな・・・・・・最悪、次に行くときは潜入になるかもな)

 

冗談めかしつつ、雄一は姿を消すのだった。

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