アースラでの対談が失敗した翌日。
雄一は海鳴臨海公園で人を待っていた。
『<しかし、よかったのかね、マスター?>』
「<何がだ?>」
念話で会話を行う雄一とエルミナ。
その間も雄一は手に持った本のページをめくっている。
『<昨日の今日だ。彼女達に会うのは危険なのではないかね?>』
「<エルミナの懸念ももっともだけど、あの二人には事情を説明しておきたい。そうしないと、管理局と繋がりがなくなってしまうし、その後の交渉に繋がる糸がなくなってしまう。それは避けなきゃいけない>」
『<それは分かるが・・・・・・>』
雄一は今日、なのは達に事情を説明するつもりだった。
昨日の騒動で、彼女達はともかく管理局はペインに対して強い警戒を抱いているはずだ。
ノコノコ出向いて無事で済むと思うほど、雄一は管理局を信用していない。
だが、二人なら話は別だ。
「<あいつらは話を聞いた上でなら、納得してくれるはずだ>」
『<マスターがそういうなら信じるが・・・・・・>』
「<それに、サーチャー対策もしてきているじゃないか>」
そういうと、雄一は自分の格好に目を落とした。
その姿は普段着の格好でもなくバリアジャケットの軍服様の衣装でもなく、管理局員の制服を模したもの。
鏡を見れば、顔も変えている。
フェイトが見れば驚くことだろう。
ふと、雄一は人の気配を感じてそれとなく目を向ける。
公園の入り口から、なのはとフェイトがそれぞれ緊張した様子で公園に入ってくるところだった。
二人はそれぞれペインの姿を探して歩いていく。
そのまま、雄一の側まで来るが、
「あ、こんにちは」
「どうも」
一礼すると、そのまま素通りしていく。
「って、ちょっと待った二人とも」
苦笑しながら、雄一は立ち上がると二人を呼び止める。
驚いた二人が足を止めて振り返る。
「なんですか?」
「いや、二人とも。まだ気がつかないのか?」
「? フェイトちゃん、この人知ってる?」
「管理局の人だと思うけど・・・・・・こんな人いたかな・・・・・・?」
人差し指で自分を指す雄一だったが、なのはもフェイトも首を捻るばかり。
しかし、肩を落として雄一が答えを言おうとしたとき。
「あれ? でも、どこかで見たことがあったような?」
フェイトが眉をひそめた。
テンションを取り戻した雄一が期待を込めてフェイトを見つめ、
「・・・・・・でも、思い出せないや」
「って、期待させてそれか! もういい! 俺だ、アガット・ガスパーだ!」
特徴的な赤い髪を振り乱し、雄一は叫ぶ。
その叫びに、フェイトは目を見開いた。
「あ、ああ! そうでした! あの時にいた人ですね!」
「フェイトちゃん? 知ってるの?」
思わず手を打つフェイトになのはは問う。
なのはが知らないのも無理はない。
フェイトがアガットに会ったのは、なのはが襲われ蒐集されたあの時なのだから。
「けど、それがどうしたんですか?」
「・・・・・・まさか、俺ってまったくノーマークだったのか?」
「それってどういう?」
意味深な物言いに首を傾げながら問うなのは達に、雄一はため息をつきながら説明する。
「こういうことだ。『アガット・ガスパー』なんて名前の管理局員は存在しない。エルミナ」
『承知した。封時結界、展開』
雄一の指示にエルミナが結界を展開する。
結界の展開に警戒してデバイスを手に取る二人の眼前で、雄一は姿を変える。
「戻れ、<フィン・ターン>」
赤い髪が色を変え、顔に傷が浮かび上がり目は鋭さを増す。
現れた顔に、二人は驚き叫んだ。
「「ペインさん!?」」
「そういうことだ。それより、結界を展開したついでだ。二人に伝えなきゃいけないことがある」
「そ、そうです! 私達も貴方達に伝えなきゃいけないことがあるんです!!」
「そうか・・・・・・だが、まずはこっちからいかせてくれ。少なくとも本題はいい気分にはならない話だから」
「・・・・・・分かりました。それで、どういうお話ですか?」
勢い込むなのはを遮る雄一に、フェイトは顔を引き締めて問うた。
雄一は、一息をつくと、二人に微笑んで言う。
「まずは・・・・・・改めて、久しぶりだな。なのは、フェイト。そして、<クフ・リーン>、カナメ」
「・・・・・・え?」
「それって・・・・・・」
雄一の告げた名に、なのは達は固まった。
久しぶりという言葉、そして<クフリーン>とカナメ。
まさか、と思いつつ凝視する二人に雄一は頷く。
「二人の思ったとおりだ。俺が榊雄一だ」
『やはりか』
「カナメ!?」
雄一の言葉に、真っ先に納得を示したカナメをフェイトが取り出した。
「久しぶりだな。なんで分かった?」
『先ほどまではペインではないかと思っておったよ。だが主殿、おぬしは先ほどデバイスをエルミナと言うたであろ? ペインなら、別の名で呼んだであろうからな』
『なるほど・・・・・・そうだろうね』
何か二機の間で通じるものがあったのだろう。
三人が割り入ることのできない会話が流れた。
そのなか、口を開いたのはなのはだった。
「で、でも!雄一君が無事だったならなんで今まで出てこなかったの!? フェイトちゃんだって凄く心配してたし、すずかちゃんもアリサちゃんも必死に探してたんだよ! 真一君も雄一君に見せる絵を描き続けているし、それに」
「言いたいことは分かる。だけど、そういうわけにもいかなかったんだ」
雄一は、なのは達に身柄を伏せていた理由を説明した。
リンディのサーチャーによる監視。
それを覆し、自分を榊雄一と証明する手段が思いつかずにいたこと。
その内に新たな契約を結んでいたこと。
その契約を守るため管理局、なのは達と敵対することになったこと。
「正直、なのはを蒐集したのは俺にも予想外だった。俺は皆を巻き込まないように海鳴から遠ざけつつ、魔法生物からの蒐集で間に合わせるつもりだったからな」
「そうだったんだ」
「でも、雄一君、闇の書は」
「完成と同時に主を食い殺す破滅の書、だろ?」
「知ってたの!?」
「俺が管理局に持ち掛けたかった話もそれだ」
驚くなのはに頷く雄一。
その上にさらに言葉を続ける。
「俺が管理局に持ちかけようとしたのは、闇の書の危険性とその先。闇の書の暴走を押さえ込むために同盟を提案するつもりだった」
「「同盟?」」
問う二人に、雄一は管制人格から聞いた情報を伝える。
「管理者権限・・・・・・」
「そうすれば、雄一も死なずにシグナム達も救われる!」
考え込むなのはと、拳を握り締め意気込むフェイト。
ただ、フェイトは何か勘違いしているような。
『<マスター、それは彼女達が君を闇の書の主だと思っているからではないかね?>』
「<ん?・・・・・・ああ、なるほど>ああ、フェイト」
「何、雄一?」
「勘違いしているようだから言っておく。闇の書の主は俺じゃないぞ?」
「「え?」」
フェイトだけでなく、同じく勘違いをしていたらしいなのはも驚く。
「闇の書の主は八神はやて。あの娘だ」
「はやてちゃんが!?」
「そんな!」
「そして、それが俺が管理局と関わろうとしなかった理由でもある」
「どういうこと?」
「はやては闇の書の主とはいえ、魔法に触れたばかりの元一般人だ。守護騎士がついているとはいえ、管理局なら、鴨がネギを背負っているように見えることだろう。契約を結んだ相手が危険な目に遭うことをよしとするわけにもいかなかった」
「で、でも、クロノ君達はそんなことは」
必死に言うなのはに、雄一は苦笑しながら頷く。
「そう、しないかもしれない。だけど、僅かでもその可能性があった以上危険な橋は渡れない。それに、もう一つ管理局を警戒していた理由がある。仮面の男のことだ」
「雄一はあの人が何者か知っているの?」
同じく蒐集されていたフェイトの問いに、だが雄一は首を横に振った。
「正体は分からない。ただ、俺も一度襲われた。だけど、見当はついてきた。二人組みであそこまで似ているってことは変身魔法も使っているんだろう。そして、おそらく、ギル・グレアムと繋がっているはずだ」
「グレアム提督と!?」
驚くなのはだったが、逆にフェイトは驚き少なく受け止めていた。
「フェイトは驚かないんだな?」
「雄一はグレアム提督のことは知らなかったんでしょ? なのに、昨日の雄一の話に出てきた。なら、何かあると思う方が自然だと思う」
「そうだな」
「あ、だから管理局が信用できなかったの!?」
思い至ったなのはにその通りだと頷く。
「だったら、昨日の騒ぎは」
「十中八九、仮面の男の仕業だな。おそらく、俺達と管理局に近づかれると困る勢力。そこで最も怪しいのは」
「グレアム提督ってこと?」
「そうだ。二人に逆に聞くけど、グレアムの側に二人組みで魔法運用や体術に優れているやつはいる?」
「「あ!?」」
雄一の問いに、二人の脳裏に思い当たる人物がいた。
「だ、だけどそんなはずは・・・・・・」
「でも、なのは、動機もあるよ。だって、前の闇の書事件の被害者は」
二人は二人で何か掴んでいるらしい。
だが、それを問い質すのは後回し。
「それが誰かは後回しだ。今回、二人に話したのは協力して欲しいことがあるんだ」
それが本題。
「今回の件。少しでも勝率を上げるためにも、俺の本体を押さえておきたい。けど、昨日の騒ぎで管理局の警戒は高いだろう。だから、二人には俺がアースラに侵入するのを手引きして欲しい」
それが雄一の頼みだった。
それに対し、二人は僅かに迷ったものの強く頷いて返すのだった。