リリカル世界を逝く影執事   作:ラッテンフェンガー

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第百二話 潜入と囮

 

「うぅ・・・・・・」

「フェイト、落ち付けって。大丈夫大丈夫」

「だ、大丈夫じゃないよ・・・・・・」

 

アースラ艦内通路。

きょろきょろと辺りを気にしているフェイトに、雄一が緊張を解そうと軽く言うが、フェイトは若干涙目で応じた。

 

「だって、もしクロノ達に会ったら・・・・・・」

「そのときは俺が上手くやるって。フェイトは合わせられるよう緊張を解しておいてほしいんだけど・・・・・・」

 

雄一はフェイトをちらりと見ると、無理そうだなと苦笑した。

雄一の作戦は、アガットに変身した雄一の転移でアースラに侵入。

しかし、それだけなら、不審人物として見咎められる恐れがあった。

そこで、二人を伴って行動すれば局員の不審も買いにくいだろうと言う思惑だった。

さらに、二人にはいざというときに、ユーノやアルフなどの顔見知りを引きつけておく囮の役割もある。

その際には、ペインから得た情報という形で、対闇の書の同盟の提案があったことを話すようにしてもらっている。

しかし、元々根が素直な彼女には腹芸は厳しいものがあるようだ。

もっとも、同じく素直なはずのなのははというと、

 

「二人とも、早く早く! 医務室に急がないと!」

 

こちらは周囲の警戒もなんのそのとばかりに先行している。

 

「分かったから、なのははもう少し落ち着いてくれ」

「でも、雄一君の体を取り戻すにも、何が起きるか分からないし、リーゼさん達が何かしてくるかもしれないの!」

「それはそうだけどな・・・・・・」

 

なのはの言い分に雄一は顔をしかめる。

作戦を説明した後、改めて二人に仮面の男達の正体について尋ねたのだが、そこで明らかになった相手が問題だった。

 

(ギル・グレアムの使い魔、リーゼロッテとリーゼアリアか。フィジカルとマジカルに役割が分かれていて、

教導も担っていることから戦闘能力は高い。あげく、クロノの師匠ときた。おかげで、クロノを味方に引き込めないのが痛いな)

「けど、雄一。ホントにいいの?」

 

いつの間にか考え込んでいたらしい、雄一はフェイトの唐突な問いに我に返った。

 

「っと、何がだフェイト?」

「リーゼさん達のこと、本当に何もしなくていいの? クロノ達やリンディさんに話して拘束してもらえば」

 

フェイトとしては問題が広がる前に、と思っての提案だったが雄一は首を横に振った。

 

「そうできればいいけど、証拠がない。そいつらが怪しいっていうのは、あくまで状況証拠を集めた結果でしかない」

「けど・・・・・・」

「それに、下手につついて雲隠れされると面倒だ。俺達があいつらの正体に気がついているっていうのは、今の状況の中で大きなアドバンテージだ。藪を突いて雲隠れされて、いざって時にいらないちょっかいを仕掛けられるより、それを利用して向こうが動く瞬間を押さえよう」

「・・・・・・分かった」

 

渋々ながら同意するフェイトから視線を外すと、雄一は内心続けた。

 

(それに気になることもある。あいつらはいったい闇の書をどうするつもりなんだ?)

 

なのは達が掴んでいる情報は、驚くことに雄一の持っていたものとほとんど同じものだった。

なのはの話によると、情報を集めていたのはユーノということだったが、大した者だと舌を巻いたものだ。

だが、その情報収集にはリーゼ姉妹も手伝っていたらしい。

それはリーゼ姉妹にも同じ情報がいっていることになるし、クロノへの報告にも同席していただろう。

そして、前回の起動時に闇の書と因縁があったのなら、その情報はとっくに掴んでいたはずであり、クロノ達より持っている情報は一歩先んじていることだろう。

つまり、闇の書の起動前の破壊が無意味であることを知っているはず。

また、起動後であったとしても転生機能で逃げられることは明らか。

ならば、どうするつもりなのか?

雄一が、二人の身柄を押さえる事に反対したのは、相手の出方が分からないことも一因だった。

 

(ま、今一番の問題は・・・・・・)

「あぅ・・・・・・」

(フェイトの緊張だよな・・・・・・)

 

いまだ緊張で一杯一杯になっているフェイトに、気づかれないようため息をつく雄一。

今のフェイトでは簡単な誘導にも引っかかりそうだし、下手に共謀がばれたら彼女の立場が後々厄介なことになるかもしれない。

巻き込んだのは失敗だったか、と考えつつ、せめて何か話題を振るか、と雄一は脳内で検索を掛けて口を開いた。

 

「そういえば、俺が揺り籠に囚われてから、プレシアやアリシアとはどうだ?」

「え?・・・・・・う、うん。母さんもすっかり元気になったし、アリシアも元気だよ。ただ、アリシアはまだリハビリの途中だけど・・・・・・あ、あと母さんも優しくなったんだ! まだアルフは警戒しているみたいだけど」

(それは、単にどう接していいか分からないだけだと思うな)

 

プレシアにどう接していいかわからず威嚇するアルフの姿が浮かび、思わず噴出す雄一。

怪訝な顔をするフェイトだったが、雄一になんでもないと言われて再び言葉を連ねていく。

 

「そういえば、母さんの体調が良くなったから、使い魔を呼び戻したんだ」

「使い魔? いたのか?」

「うん。リニスっていうんだ。私の家庭教師でバルディッシュを作った人なんだ」

「へえ?」

 

本当にその人のことが好きなのだろう。

先ほどまでの緊張も忘れたように饒舌になったフェイトに、雄一は今度は柔らかく微笑むとフェイトを撫でようと手を伸ばし、

 

「<二人とも!>」

「っとぉ!?」

「なのは!? <どうしたの!?>」

 

先行していたなのはの突然の念話に、思わずつんのめった雄一とすぐに応じるフェイト。

 

「<向こうから誰か来たみたい!>」

「<誰か分かるか?>」

「<えっと・・・・・・あ、ユーノ君とアルフさん!>」

「雄一、こっち!」

 

鼻が利くアルフを警戒してか、雄一を近くの部屋に引っ張り込むフェイト。

僅かに扉を開けて様子を窺うと、なのはに近づく二人、人間形態のアルフとユーノの姿が見えた。

 

「やあ、なのは」

「こんなところで一人でどうしたんだい?」

「え、えっとそのあの、フェ、フェイトちゃんとはぐれちゃって」

「ああ、ここも広いから」

 

咄嗟になのはが出した言い訳に、納得を示すユーノ。

上手く誤魔化せたことに胸を撫で下ろしたなのはだったが、

 

「それなら、あたしが探そうか?」

「え゛!?」

 

アルフの提案に顔を引き攣らせた。

そこにユーノの追撃が入った。

 

「ああ、そうだね。使い魔の精神リンクを使えばすぐに見つかると思うよ」

「そうだろ? それじゃ早速」

「ま、待って待って!」

 

精神リンクに集中しようとするアルフを慌てて止めるなのは。

 

「っと! ちょ、なんだってんだい!?」

「なのは!?」

「え、えっと・・・・・・そう! 二人も忙しいでしょ!?」

「まあ、調査も佳境に来ているから、忙しいっていえば忙しいけど」

 

なのはの様子に首を傾げながら同意するユーノ。

念のため、もう一押ししておこうと口を開こうとして、

 

「このくらい、大した手間じゃないから大丈夫さ! えっと、フェイトは?」

(ああ!?)

 

止める間もなく、精神リンクでフェイトの居場所を探し始めたアルフに、内心悲鳴を上げるなのは。

だが、

 

「あれ? 妙だね?」

「どうしたの?」

「それが、フェイトの位置が掴めないんだ。何かあったのかな?」

(・・・・・・え?)

 

絶体絶命かと諦めかけた時に聞こえた声に、なのははハッと顔を上げた。

怪訝な顔を見合わせるアルフ達に胸を撫で下ろすなのは。

どうやら、フェイトが上手くやったらしい。

 

「もしかしたら、あのペインって人が来たのかも?」

「!? そうかもしれない!」

 

ユーノが口にした言葉に過敏に反応するアルフ。

彼女は拳を握りこむと、ペインの姿を幻視しているのか牙を剥き出した。

 

「こうしちゃいられないね! なのは! フェイトとは何処まで一緒だったんだい!?」

「ふぇ!? えっと、あ、あっちの通路なの!」

「あっちか! 今行くよ、フェイト!」

 

咄嗟になのはが指差したのは十字路の先、艦橋へ向かう通路だった。

アルフはそちらへと猛然と駆け出していく。

なのはの手を掴んで。

 

「ふぇえええ!!」

 

アルフの勢いに引きずられ、遠ざかっていくなのは。

 

「な、なのは!? アルフ、ちょっと待って!」

 

遠ざかっていく二人に、呆然としていたユーノは再起動を果たすと急いで跡を追って駆けていった。

 

(けど、何でフェイトは艦橋にいったんだろう? 彼女の方がアースラには慣れているだろうに?)

 

その疑問を抱くが、ユーノはすぐにその疑問を押し込めると足を急がせた。

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