「・・・・・・行ったみたいだね」
「ああ。二人のおかげで助かった」
なのは達の姿が通路の向こうに消えてから少しして、雄一達は隠れていた部屋から出た。
なのは達の機転とアルフの情に救われた。
「けど、あまり長くは誤魔化せないと思う。アルフも私の匂いがしないと、おかしいことに気がつくだろうし」
「ああ。それに、ユーノがいる。いつ気がついていてもおかしくないと思っておいた方がいいだろうな」
フェイトの懸念に同意すると、雄一達は道を急ぐことにした。
だが、その足もすぐに止まることになった。
「あ! フェイトちゃん、ヤッホー!」
「ん? ああ、フェイト。ちょうどよかった」
通路の角を曲がったところで、よりにもよってクロノとエイミィと出くわした。
「ク、クロノ、エイミィ・・・・・・」
「っ・・・・・・」
ユーノ達を安心した矢先であったため、深く動揺する二人。
二人の反応に首を傾げつつ、クロノは雄一に目を向けると眉をひそめた。
「見ない顔だな。君は?」
「初めまして、ハラオウン執務官。私は今回の件で増援として派遣されたアガット・ガスパーです」
「増援? そんな話は聞いていないが?」
「おや? おかしいですね? そんなはずはないのですが?」
さも、自分にミスがないように振る舞う雄一だったが、クロノは視線の温度をどんどん下げながら、雄一に胡乱気な目を向けた。
「・・・・・・妙だな。エイミィ、確認を」
「そ、それよりクロノ! 私に何か用があったんじゃないの!?」
雄一の動きを見張りながら、エイミィに確認を促そうとしたクロノの言葉を遮り、フェイトが割り入った。
クロノは、ああ、と視線の温度を戻し、フェイトに向き直った。
「そうだった。用は二つあって、一つはアルフを知らないか? この前の戦闘についてもう一度話を聞いておきたかったんだが」
「アルフなら、さっきユーノと艦橋に行ったよ」
先ほど、なのはがつれていった先を思い出しながら告げるフェイト。
クロノは特に不審がることもなく頷いた。
「そうなのか。それに、ユーノもいるなら手間が省けた」
「何かあったの?」
「ああ。調査で何か進展はなかったかと思ってね。それと、前に見つけた手記の解読も進んだか聞こうかと思っているんだ」
「手記?」
首を傾げるフェイト。
同じく何事か分からぬ雄一も、内心で聞き耳を立てる。
「ん? ああ、そうか。君はあの時いなかったな。ユーノが無限書庫で契約者の資料を見つけたんだ」
「そうなの?」
「ああ。ただ、読むのにものすごく疲れるけど・・・・・・」
何故か表情を暗くするクロノに、フェイトと顔を見合わせる。
そうしていると、クロノが顔を上げて不思議そうにフェイトを見た。
見られているフェイトは戸惑いながら問うた。
「え、えっと・・・・・・何かな、クロノ?」
「いや・・・・・・思ったよりも冷静だったからどうしたのかと思って。これで雄一を起こす手がかりになるって喜ぶと思ったんだけど・・・・・・」
「そ、それは・・・・・・」
言葉を詰まらせたフェイトが視線を向けるのは、苦笑している雄一。
(ここに雄一がいるし、医務室までいけばなんとかなるって話だから、探さなくていいんだよ?)
そう言えればどれほど楽か。
顔を引きつらせながら,フェイトは話題を変えにかかった。
「で、でも、エイミィならアルフ達を探せたんじゃないの?」
彼女ならアースラのシステムを使って、二人を探せたはずなのだが。
フェイトの疑問に、クロノはそれなら、と説明する。
「ああ。ちょうどエイミィに頼もうとしたところに君が来たんだ。あっさり済んで助かったよ」
「ううん。気にしないで」
クロノからの追求が逸れたことに、内心冷や汗をかきながら、安堵する二人。
だが、
「それで、君は誰なのかな?」
横合いから掛けられたエイミィの声にギクリ、と背を震わせた。
慌てて振り返ると、端末を手に、油断ない視線を向けるエイミィの姿があった。
(しまった!?)
エイミィから注意を逸らしてしまっていたことに歯噛みする雄一から、間合いを取ってデバイスを展開するクロノが問うた。
「確認とれたのか?」
「うん。本局からも地上本部からも、そんな連絡はないね。そもそも、アガット・ガスパーなんて局員は存在しないよ」
「だ、そうだ。改めて聞く。お前は何者だ?」
「っ!?」
「動くな。武装を解除して大人しく投降しろ」
隙を見つけようと重心を移動させようとした雄一の動きに、目敏くデバイスを突きつけるクロノ。
舌打ち、動きを止める雄一にフェイトが念話を繋ぐ。
「<ゆ、雄一・・・・・・どうするの?>」
「<正直、細工は潰されちまった・・・・・・>」
「<そんな!?>」
だが、雄一もこの状況を打開しようと頭を捻り続ける。
クロノを相手に楽に抜けるとは思えない。
かといって、このまま睨みあっているわけにもいかない。
時間をかけすぎると、局員が集まってしまうし、問題のリーゼ姉妹が出てきかねない。
現状、不審者は雄一達の方だ。
正規の手段で身柄を押さえられては、身元の証明ができない雄一は身動きが取れなくなってしまう。
そうなっては、はやてを救うことは・・・・・・。
「<・・・・・・一か八か、強行突破を図るしかない、か>」
「<そんな!? 無茶だよ!?>」
「<そうも言ってられない。クロノ達になら説明してもいいかもしれないけど、正直説明している時間も惜しい。フェイトは抵抗せずに大人しくしててくれ。ここまで巻き込んで言う台詞じゃないかもしれないけど>」
「<でも・・・・・・>」
「<合図を出したら、全力で障壁を張ってくれ>・・・・・・今!!」
尚も言い募ろうとしたフェイトを遮って指示を出し、合図と同時に<キー・アーン>で生み出した炎の鳥を複数クロノ達めがけて撃ち出した。
「エイミィ下がれ! プロテクション!!」
「うん!」
エイミィを庇い障壁を張るクロノ。
障壁に突き刺さった鳥が爆轟を撒き散らしたが、障壁は小揺るぎもしない。
だが、雄一もただでは終わらない。
「もういっちょ!」
爆発と共に広がった煙に紛れて、再び生み出した鳥を今度は己の足元に撃ちこむ。
床に突き刺さり撒き散らされた爆風に乗って、二人を飛び越えると、一目散に駆け出した。
「くっ!? 待て!」
煙の動きで雄一の動きを察知したクロノがすぐに反転し跡を追おうと駆け出す。
だが、
「クロノ君、駄目!」
「!?」
エイミィの悲鳴のような叫びに慌てて急制動をかけた。
その先で、突然空中に黒い花が咲いた。
「うわっ!?」
「クロノ!?」
「クロノ君大丈夫!?」
驚き尻餅をついたクロノにフェイトとエイミィが駆け寄る。
クロノは二人に、無事を示すと、重力場が消えた先を睨む。
雄一が消えた先、その途上には床に点々と赤いものが続いていた。
「これは・・・・・・血か?」
「そうみたい・・・・・・どうやら血を媒介に発動する能力みたいだね」
能力の正体は分かったが、迂闊に進めなくなってしまった。
エイミィが迂回路を算出する傍ら通信機に手を伸ばす横で、クロノはフェイトに向き直る。
「それで、一体どういうことなのか説明してもらえるかい?」
「それは・・・・・・」
問い詰めるクロノに、しばらく躊躇していたフェイトだったが、やがて意を決した。
念のため、念話を繋いでクロノ達に伝える。
「<実は、あの人は雄一なの!>」
「「・・・・・・は?」」
予想を超えた回答に、さすがにクロノ達も動揺し、ただそれだけを言うのが精一杯だった。
「・・・・・・はぁ、はぁ・・・・・・つぅ!?」
『マスター、追跡はなし。今のうちに止血することを提案する』
「・・・・・・その時間はない」
医務室に急ぎつつ、雄一はいまだに血を流す右腕を押さえながら、エルミナの提案を拒否する。
<キー・アーン>で脱出できたが、代償は大きかった。
<キー・アーン>で生み出した爆弾は、生み出した雄一にも牙を剥くため、本来至近距離で発動させることは大怪我に繋がる。
今回は発動させていた右腕一本が犠牲になった。
走るたびに傷口に振動が伝わり、鋭い痛みが伝わる。
正直、エルミナの提案どおり応急処置をしたいところだが、クロノ達から脱出したからといって油断はできない。
<キー・アーン>の爆発に他の局員も集まってくるだろう。
「だから、急がないと!」
『・・・・・・分かった。次の角を右へ、そこから二ブロック抜けた先が目的地だ』
「オーケー!」
不自由な体制で、脚を急がせる。
幸いなことに、局員達と出会うことなく、辿りつけた。
局員の動きの鈍さに疑問を覚えつつ、医務室の扉を開ける。
問題なく開いた扉に、室内を警戒しながら入るが室内から攻撃はなし。
安全と判断して、記憶の中、最後に倒れこんだベッドの元へ駆け寄る。
カーテンで覆われたベッドに近づくと、カーテンに手をかけ一気に開き、
「そこまでよ」
「!?」
カーテンの陰に隠れていたらしい女性によって、デバイスが米神に突きつけられた。
(しまった! ここまで来て!?)
成功を前にして油断してしまった後悔に内心臍を噛む雄一。
せめて、相手が何者か確認しようと視線を向け、
(なっ!?)
「何者か知らないけど、ここまでよ。大人しくしなさい」
目を見開く雄一に、デバイスを突きつける女性、プレシアの宣告が医務室に響いた。