リリカル世界を逝く影執事   作:ラッテンフェンガー

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第百四話 危機と奇襲

 

「答えなさい。貴方は誰なのかしら? ここには何をしに来たの?」

「・・・・・・」

「ああ、答える前に両手を後頭部で組みなさい」

「っ」

 

答える振りをして振り返ろうとしていた雄一は、動かしかけていた体をギクリと震わせると、大人しく、両手を組んだ。

 

(まずいな・・・・・・抜ける方法が思いつかない)

 

横目にプレシアを見ながら、思わず喉を鳴らす雄一。

先ほどのクロノと違って、狭い室内、しかも目的の体は眼前。

しかし、動こうとすれば、プレシアは容赦なく魔法を撃つだろう。

先ほどの廊下くらいの広さならともかく、この距離だと避けようがない。

さらに、本体の目を覚まさせる方法によってはどれほど時間がかかるか分からないことも痛い。

下手に時間をかけると、クロノ達が追いついてくるだろう。

 

(けど、逃亡失敗=ゲームオーバーだよな。やっぱり、何とかして抜かなきゃ!)

「それで、もう一度聞くわ。貴方は何者なのかしら?」

「・・・・・・」

「黙っていられては分からないわね」

 

眉をひそめると、プレシアはデバイスを突きつけたままツイ、と指を振るった。

瞬間、瞬時に形成された魔力弾が雄一の足下に放たれる。

 

「っ!?」

 

とっさに足を引こうと動きかけたが、それより先に魔力弾が床へと突き刺さった。

 

「・・・・・・」

「あら? これでも声を出さないとは大したものね」

 

感心したように言うプレシア。

だが、言われた雄一は、

 

(あ、危ねえ! 避ける暇さえなかったぞ!?)

 

今更ながら滲んできた冷や汗に、背筋を冷やしながら内心毒づいていた。

プレシアも威嚇のつもりだったのだろう。

再び雄一に問うた。

 

「それで? 貴方は何者?」

「・・・・・・」

「・・・・・・そういえば」

 

だが、雄一が答えず睨んでいるとプレシアが何事か語り始めた。

 

「先日もここに侵入した人がいたわね。そこで寝ている彼に何をしようとしたのか、片腕を吹き飛ばされていたけど」

「・・・・・・何?」

「あら? 口が利けない訳じゃないのね」

「・・・・・・っ」

 

思いもよらなかった情報に思わず反応してしまった雄一だったが、プレシアの言葉に顔をしかめた。

 

「それで? 貴方はその仮面の男の仲間なのかって聞いているんだけど・・・・・・いい加減答えてもらいたいものね」

(っ!? やばいな!?)

 

プレシアの声に苛立ちを感じ取り、雄一は急ぎ思考を巡らして、情報の打開を計るが、

 

「・・・・・・もういいわ。消し炭に変えて執務官に突き出すことにしましょう」

(~~!! 南無三!)

 

杖先に紫の魔力光が強まるのを視界の端に見て取った雄一は慌てて腹を決めた。

 

「さようなら」

「待った待った! プレシアさん、待った!」

 

杖を振り上げようとしたプレシアに雄一が慌てて叫ぶと、プレシアの手がぴたりと止まった。

 

「貴方に、プレシアさんなんて呼ばれる筋合いはないと思うけど?」

「いえいえ、そうでもないですよ? ときに、第三研究所所属だった頃の副主任と、当時のカーツ中将の癒着の証拠は役に立ちましたか?」

「なんですって?」

 

雄一の切ったカードに、プレシアが僅かに表情を揺らした。

その反応に雄一は畳み掛ける。

 

「だから、貴方の部下だった副主任と、次元航行エネルギー駆動炉『ヒュードラ』の開発を催促していたカーツ中将の癒着の証拠ですよ。金庫に納まっていたそれは役に立ったかと聞こうと思ったのですが、」

 

ふと、さっきのフェイトの言葉を思い出して笑いを溢す。

 

「何がおかしいのかしら?」

「いえ・・・・・・どうやらお役に立ったようで、と思っただけですよ」

「・・・・・・貴方、何故知ってるのかしら?」

 

得体の知れない様子の相手に、さすがのプレシアも緊張を表して雄一を睨む。

その様子に、付け込む隙を見出した雄一はもう一枚カードを切った。

 

「見てきたから、とでも言いましょうか。まずはお久しぶりですね、半年振りです」

「・・・・・・そう、そういうことなのね?」

 

半年、という期間とプレシア達のことを知っている相手、という情報に相手の正体に気がついたのだろう、プレシアが杖を下げた。

ただし、頭痛を堪えるように額に手をあて、ため息をついていたが。

 

「どうしたんですか?」

「我ながら突拍子もない想像だ、と思っただけよ・・・・・・けど、確かにこれなら説明はつくのよね・・・・・・榊雄一?」

「御明察です」

 

<フィン・ターン>を解除し、いつものペインの姿になって頷く。

 

「・・・・・・説明しなさい」

「分かりました。とりあえず、いつクロノ達が来るか分からないので手短にですが」

 

そう断って、雄一はプレシアに事の次第を説明していった。

眠りに落ちた後、<アルス・マグナ>の影響か過去の光景を目にしたこと。

そのときに得た情報を目が覚めた後、匿名でクロノ達に知らせたこと。

目が覚めた後、守護騎士と闇の書の主と知人になったこと。

そこで世話になっていると闇の書の侵食が始まったこと。

侵食を抑えるために蒐集を手伝う内に、なのは達と敵対してしまったこと。

対策を立てようとしているうちに、違和感が浮かんできたこと。

違和感を確かめるために調べるうちに出会った完成人格から真実を聞いたこと。

蒐集の果てに、現れる暴走体を内側から主が、外側から押さえ込むために管理局と同盟を結びに来たこと。

そして、最終戦のために、本体を取り戻し万全の力を使えるようにしに来たこと。

 

一通り話しに耳を傾けると、プレシアは少しの間考え込むように目を瞑っていたがやがて目を開けると問うた。

 

「とりあえず聞くけど、起こすためには何をするのかしら? さっきも言ったように、仮面の男が腕を吹き飛ばされているのよ?」

「それなんですけど・・・・・・俺も知らなかったり」

「はぁ!?」

「や、俺のデバイス、エルミナっていうんですが」

『初めまして、プレシア女史。紹介にあずかったエルミナだ』

 

胸元から取り出したエルミナが律儀に挨拶を口にする。

 

『さて、ちょうど話題に出たことだ。方法について説明しよう』

「できれば事前にその情報が欲しかったんだが?」

『さてその方法は』

 

思わず問い詰めるように言うが、デバイスであるエルミナは小揺るぎもしない。

淡々と、説明がされ

 

「プレシア、無事ですか!?」

 

る瞬間、扉を破って杖を手にした女性が飛び込んできた。

女性、リニスは素早く医務室内に目を走らせ、二人の姿を捉えると雄一めがけて飛びかかった。

 

「はぁっ!」

「っ、ちぃ!?」

 

見慣れぬ女性の突然の登場と彼女の予想以上に素早い踏み込みに固まっていた雄一めがけて、リニスが杖を振るうが、すぐに我に返った雄一は背を反らすことで避ける。

だが、リニスも然る者。

すぐに追撃に移り、振るった杖を手の中で回転させると勢いを殺さぬまま振り下ろした。

 

「せっ!」

「くっ、づあ!?」

 

かろうじて避ける雄一だったが、ついでとばかりに放たれたフォトンランサーが掠めて苦鳴をこぼす。

 

(何だ、この人!? フェイト達と戦い方は似ているけど、遥かに巧い!?)

 

次々に放たれる攻撃に、雄一は徐々に追い詰められていく。

次第に避けきれなくなっていき細かい傷が増えていく。

 

(くそっ!? このままじゃ不味い!)

『<マスター、こんな時になんだが、方法を教えておく>』

「<こんな時になん>」

「隙有りっ!!」

 

突然の念話に反応してしまう雄一。

その隙を見逃さなかったりニスが必殺の一撃を放った。

杖はみるみる雄一めがけて吸い込まれていき、

 

「リニス、『止めなさい』!」

「!? くっ!? プレシア、何を!?」

 

主であるプレシアの命令の影響を受けて、杖の振りが僅かに鈍った。

その一瞬が、雄一を救った。

 

「くっ!?」

 

咄嗟の判断で、半歩下がった雄一の腹部付近を杖が空振った。

 

(避け、た!)

 

だが、その安心が油断に繋がった。

狭い医務室の中、リニスの攻撃を必死で避けていたため、雄一は自分の立っている場所を見失っていた。

奇しくも、彼は本来の体を背に立っていた。

下がった足がベッドの縁にぶつかり、バランスが後ろに流れる。

 

「うぁ!?」

「雄一君!?」

 

咄嗟に突こうとした手が、ベッドの上に横たわっていた体にぶつかり、

 

ガシャン、とガラスが砕けるような音を立てて、ペインの体が砕け散った。

 

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