(雄君、遅いなぁ・・・・・・・どないしたんやろ?)
海鳴大学病院の病室で、はやては雄一が来ないか首を長くして待っていた。
彼が約束していた外泊届け。
それとなく石田先生に聞いてみたところ、彼は一昨日、二十二日に来てから病院には来ていないらしい。
そのため、いまだ未提出のままらしい。
(ほんまに何してるんや・・・・・・はよ出さへんと、許可が下りへんのに・・・・・・)
実は、書類は本来、前日までに提出しなければならないのだが、石田先生が上手くやってくれるということで、今日中に出せばよい、ということになっているのだが。
すると、
コンコン。
「っ、はーい!」
「こんにちはー」
響いたノックに姿勢を正して、入室を許可したはやてだったが、入ってきた人を見てつんのめった。
「シャ、シャマルやったんか・・・・・・」
「あー!! はやてちゃん、ひどーい!! せっかくお見舞いに来たのに~!!」
はやての反応に大げさな悲しみを表現するシャマル。
だが、すぐに立ち直ると、シャマルは頬を膨らませた。
「もう! せっかくはやてちゃんに良いものを持ってきたのに!」
「あ~、ごめんやシャマル。それで、どないしたん?」
「これですよ、これ」
シャマルが取り出したのは一枚の紙。
書かれているのは、
「外泊願い? って、なんでシャマルが!?」
「えっと・・・・・・雄一君なんですが、ちょっと都合がつけられなくなったから、はやてに渡してやってくれって」
「・・・・・・そうやったんか・・・・・・ありがとな、シャマル」
「いえ・・・・・・」
外泊願いの紙に、喜びを示すも、陰りのある笑みを見せるはやてに、言葉を詰まらせるシャマル。
はやてはなんでもないように振る舞っているが、雄一が持ってくることを期待していたのだろう。
シャマルもそれが分かるだけに、ここにいない雄一に内心文句をこぼさずにはいられなかった。
(もう、雄一君ったら・・・・・・まだ戻れないのかしら。それとも、考えたくはないけど、失敗しちゃったのかしら・・・・・・万が一の場合もつめておくべきだったかしら?)
「そ、そういえば、皆はどないしてるん?」
「え? ああ、えっと! シグナム達なんですけど・・・・・・」
はやての言葉に、シャマルは我に返ると、ちらちらと病室の外に視線を向けた。
そんなシャマルの様子を怪訝に思ったはやては首を傾げると彼女に問うた。
「シャマル? どないした? 部屋の外に誰かおるんか?」
「あぅ・・・・・・皆、出てきて」
観念したシャマルが言った途端、
「はやて!」
扉を勢いよく開け、ヴィータが病室に飛び込んだ。
その勢いのまま、ベッドに飛び込んだヴィータにはやては驚く。
「ヴィ、ヴィータ!? ちょ、危ないって!?」
「ヴィータ、少し落ち着かないか!」
「シグナム!」
遅れて病室に入り、ヴィータを叱りつけるシグナムにはやてはシャマルを振り返った。
「シャ、シャマル・・・・・・どういうことや?」
「皆、はやてちゃんが大切なんですよ? 私達がはやてちゃんを寂しがらせるわけないってことです!」
「はやて・・・・・・ごめんね。あまり会いに来れなくて」
シャマルの言葉を裏付けるように、はやてを心配するヴィータにはやては頭を撫でながら微笑んだ。
「ううん。元気やったか?」
「むちゃくちゃ元気!!」
頭を撫でるはやてに、目を細めながら満悦のヴィータ。
久方ぶりの光景に、シグナムとシャマルは目配せすると、その穏やかな時間を噛み締めた。
だが、その時間は唐突に終わりを迎えた。
コンコンっ。
「ん?」
「あら?」
突然響いたノックに、眉をひそめる二人。
それでもまだ、石田先生の巡回だろうか、程度に思っていた。
だが、
「こんにちはー」
「あれ、すずかちゃんや。はい、どうぞ!」
「「!?」」
声の主に思い至って顔を強張らせたシグナム達と同じく、相手が分かったはやてが入室を許していた。
「「「「こんにちは!」」」」
「っ!?」
病室に入ってきた面々を振り返ったヴィータは目の色を変えた。
始めに入ってきた二人は、ヴィータにも見覚えがあった。
一人ははやての友人と紹介されていたし、もう一人は以前スパで話したことのある少女だ。
「わぁ! 今日は皆さん、お揃いですか?」
「こんにちは、初めまして!」
だが、後から入ってきた二人は、別の意味で因縁のある相手だった。
「ぁ!?」
「っ!?」
後から入った二人、なのはとフェイトも、不味いタイミングで出会ってしまったことに言葉を失って、目を見開いた。
「・・・・・・」
二人の登場に、すぐに戦意を練り上げて鋭い視線を飛ばすシグナム。
場の空気が一気に張り詰めた。
「あ、あれ?」
両者の雰囲気を察したはやてだったが、状況が分からず踏み込めずにいた。
代わりに、アリサが踏み込んでいった。
「あ、すみません。お邪魔でしたか?」
「っ・・・・・・あ、いえ」
「いらっしゃい、皆さん」
アリサに聞かれ、すぐに表情を取り繕うと、シグナム達は歓迎を示した。
だが、
「・・・・・・」
「っ・・・・・・うぅ」
視線を感じ、ヴィータに視線を向けたなのはは鋭い視線を向けられ、たじろぎ肩を縮こまらせた。
「なのはちゃん、フェイトちゃん? どないしたん?」
再び流れた不穏な空気に、今度ははやても問うた。
「あ・・・・・・ううん、なんでも」
「ちょっとご挨拶を・・・・・・ですよね?」
「・・・・・・はい」
咄嗟にフェイトが発した誤魔化しにシグナムが乗った。
さらにシャマルが手を鳴らすことで自分に目を向けさせた。
「み、皆、コートを預かるわ?」
「「あ、はーい!」」
シャマルの提案に、コートを手渡すアリサ達。
クローゼットをシャマルが開ける後ろ、手伝いという形でシグナムとフェイトが続いた。
フェイトは、念のため、アースラに通信を入れようとしたが、失敗し僅かに顔を歪めた。
「念話が通じない・・・・・・通信妨害を?」
「ああ。シャマルはバックアップのエキスパートだ。この距離なら、造作もない」
小声で問うフェイトに、同じく小声で応じるシグナム。
そのとき、はやてと喋っていたすずかがふと発した問いでさらに場は混迷することとなった。
「そういえば・・・・・・ペインさんは?」
『!?』
その問いに、ペインの正体を知る者は顔を引き攣らせた。
特に、ペインこと雄一の現状を知っているなのは達は思わず肩を震わせた。
「・・・・・・」
その反応に、さらに視線の圧力を強めるヴィータ。
「さあ、どこをほっつき歩いてんのやろな?」
すずかに不機嫌そうに答えるはやて。
一方、ヴィータはなのはを害さんばかりに強まった視線を向けていた。
「えっと・・・・・・そんなに睨まないでほしい、かな?」
「睨んでねえです、こういう目つきなんです」
取り付く島もないヴィータの様子に、雄一の提案していた同盟が真実か疑いそうになったなのはだったが、ヴィータのその対応にはやてが動いた。
「ヴィータ! 嘘はあかん! 悪い子はこうやで!」
「んー! んー!」
「えっと」
はやてに鼻を抓まれて唸るヴィータの姿に、戸惑いと若干の微笑ましさを覚えて苦笑するなのは。
その様子を見ながら、フェイトはシグナムに問うた。
「<雄一から皆さんの話は聞いています。ですから、あとでお話を聞かせてもらえませんか?>お見舞い、してもいいですか?」
「・・・・・・ああ」
念話と実際に発せられた問い。
その両方に、シグナムは頷くことで応じるのだった。