病室での歓談の時間は急ぎ足で過ぎ去り、既に空は暗くなっている。
シャマルに見送られ、病院をあとにしたなのは達四人だったが、なのはとフェイトは頃合を見計らい、病院へと戻ってきた。
そしていま、曇天の下、屋上で二人はシグナム達と向き合っていた。
「はやてちゃんが、闇の書の主・・・・・・」
「雄一の、言うとおりだったね」
なのは達は、雄一の情報の裏が取れたことに、
「なるほど。雄一はお前達と接触できたようだな」
「けど、なんでここにいないのかしら?」
シグナム達は、雄一が彼女達と接触を取れていたことをお互いに確認しあった。
しかし、シャマルの疑問に、二人は鋭い視線をなのは達に向けた。
「まさか・・・・・・雄一は管理局の手に落ちたか?」
「考えられるとしたら、だけど・・・・・・」
「ま、待ってください!?」
シグナム達の予想をなのはが慌てて遮った。
「雄一君がここに来れないのには事情があるんです! 雄一君は今は!」
「っらぁあああああ!!」
だが、上空からアイゼンを手に奇襲をかけたヴィータに、なのはの言葉は遮られた。
なのはは、咄嗟に張った障壁でアイゼンを受け止めるが、勢いに負け吹き飛ばされてしまった。
「きゃぁああああ!?」
「なのは!?」
吹き飛ばされたなのはを案じて振り返ったフェイト。
その隙を突くように、シグナムがレヴァンティンを振り上げた。
「おおおおおお!!」
「っ!?」
大上段から振り下ろされたレヴァンティンをフェイトは身を捻ってかわした。
振り抜かれたレヴァンティンは、地面の石材に皹を入れて止まった。
「管理局に主の事は伝わっているだろう。そして、今日お前達はその確信を得てしまった。ならば、我らは闇の書の完成を急がなければならない」
「そんな・・・・・・雄一がいないのに、完成させることは危険です!」
「問題ないわ。闇の書を完成させることで、何が起きるのか。私達は雄一君から聞いて、知っているの。そして、その時にどうすればいいのか」
「だったら!?」
ゆらり、と立ち上がったシグナムに、バルディッシュを展開させながらフェイトは訴えるが、シャマルがそれを撥ねつける。
それでもめげずに訴えるが、シグナムは首を横に振った。
「確かに雄一はお前達管理局との同盟を提案していた。だが、その雄一が何故戻らない?」
「それは・・・・・・」
「あいつがどうなったか・・・・・・それはもちろん気にはなるところだ。だが、我らは守護騎士ヴォルケンリッター、主と雄一なら、我らは間違いなく主を取る。ならば、我らは、雄一の失敗を前提に動かなければならない」
「そんな・・・・・・」
シグナムの冷徹な言葉に、反論する言葉を持たないフェイト。
一方、吹き飛ばしたなのはに、ヴィータは騎士甲冑を展開させながら近づいた。
「ヴィータ、ちゃん・・・・・・」
ゆらりと幽鬼のように近づくヴィータを、体の痛みを堪えながら見上げるなのは。
「邪魔すんなよ・・・・・・あとちょっとなんだ・・・・・・あとちょっとではやてが元気になって私達のところに帰って来るんだ・・・・・・」
ヴィータの目に涙が湧き、アイゼンを握る手に力が篭っていく。
「もうあとちょっとなんだ・・・・・・だから、邪魔すんなよ」
「だったら・・・・・・話を聞いてよ・・・・・・雄一君から話は聞いているんだってば」
なのはとしては、状況を打開するためだった。
だが、この場で雄一の名を出したことは状況を悪化させた。
「っ、だったら・・・・・・だったら、あいつはどうしたって言うんだよ!!」
「っ!?」
ヴィータの気迫に、なのはは息を呑んだ。
「あいつが上手くやったなら、すぐにでも私達のところに戻ってきてるはずだ・・・・・・なのに、この二日、あいつからの連絡は、お前達と会うってことだけだ・・・・・・なあ、どうなってるんだよ・・・・・・」
「ヴぃーた、ちゃ」
「あいつも揃ってないと、はやてが悲しむんだ・・・・・・だから、ユウを、返せよ・・・・・・ユウを、返しやがれぇえええ!!」
激昂すると同時に、ヴィータはアイゼンにカートリッジをロードさせ、振り抜いた。
振り抜かれたハンマーヘッドに充填された魔力が爆発を起こし、屋上の一角が火に包まれた。
日に照らされる中、荒い息をつくヴィータだったが、眼前の炎が揺らぎ、その奥に揺らめく影を目にして、吐き捨てた。
「悪魔め・・・・・・」
「・・・・・・悪魔でいいよ」
<Accel Mode,Drive Ignition>
バリアジャケットを展開して防いだのだろう、なのはは傍に浮遊したレイジングハートに手を伸ばした。
主の意思に反応して、レイジングハートは杖に展開すると、カートリッジを装填した。
「悪魔らしい方法で、話を聞いてもらうから!」
「なのは!?」
「フェイトちゃん、話をしても今は聞いてくれない! 話を聞いてもらうためにも、いまは戦わなきゃ!」
「・・・・・・分かった」
戦意を示したなのはを振り返ったフェイトだったが、なのはの言葉に同じくバリアジャケットを展開した。
その姿は、いつものものと違い、肌を覆うのはインナーだけの状態だった。
そのまま、バルディッシュを鎌型で展開させ、カートリッジをロードさせて構える。
「薄い装甲をさらに薄くしたか」
「その分、速く動けます」
「緩い攻撃でも、当たれば死ぬぞ? 正気か、テスタロッサ?」
「貴女に勝つためです」
「・・・・・・」
短い言葉にフェイトの覚悟を感じ取ったシグナムは、応じるように騎士甲冑を展開させた。
そのまま、レヴァンティンを正眼に構える。
二人は四肢に力を込め、いざ激突戦と踏み込み、
「ああ!?」
「っ、なのは!?」
悲鳴になのはを振り返ると、なのはをバインドが縛り上げていた。
「あれは!?」
「っ、シグナム!」
「ああ、テスタロッサ! 今は預けるぞ! シャマル!」
「割り出し待って! どこ、どこどこ?・・・・・・見つけた!」
この状況で干渉してくる存在に心当たりのあったシグナム達はすぐに、戦闘を切り上げると周囲の警戒を行った。
シャマルが周囲を調べ上げ、不審な点を割り出した。
「ヴィータちゃん!」
「おう! アイゼン!!」
<Jahoul!>
シャマルの指示した場所にアイゼンを叩きつけるヴィータ。
叩きつけられた虚空に揺らぎが生まれ、胸を押さえる仮面の男が弾き出された。
「やっぱりお前らか! だったら、まずお前らから潰して」
「っ駄目! 戻って、ヴィータ!」
追撃をかけようとするヴィータを慌てて呼び止めようとするフェイト。
(あれがリーゼさんだとしたら、足が無事だからロッテのはず。なら、魔法が得意なアリアがまだどこかに潜んでいるはず!)
「でぇりゃああ!!」
考えている間に、ヴィータが振るったアイゼンが仮面の男に迫り、
「ふんっ!」
「ぐ、ぁああああ!?」
横合いから放たれた蹴りを受け、屋上に叩きつけられた。
そちらにも、五体満足の様子の仮面の男が立っていた。
「なっ!?」
その姿にフェイトは驚いた。
雄一の予想通りなら、彼らのどちらかは足を負傷しているはずだし、聞けば腕を失っているはずだった。
その損傷がない。
(まさか、雄一が間違えていたの!?)
「テスタロッサ、逃げろ!」
「っ、しまった!?」
驚いている隙を突かれ、シグナムの忠告も間に合わずフェイトもバインドに捕らわれてしまった。
見れば他の者達も、バインドで捕らわれている。
「これだけの人数だと、バインドも通信妨害も長くは持たん。早くしろ」
「ああ」
カード型の魔法具を使う方の言葉に、もう一方が頷き掲げた手には一冊の本が握られていた。
その本に、シャマルが目を見開いた。
「や、闇の書!? いつの間に!?」
「・・・・・・」
仮面の男は答えず、闇の書を起動させると、シグナム達へ向けた。
「「「ああ、あぁああああ!!」」」
「最後の頁は、不要になった守護者自らが差し出す・・・・・・これまでもそうだったはずだ」
<Sammlung>
リンカーコアが摘出され悲鳴を上げる三人に構わず、闇の書に蒐集を命ずる仮面の男。
シャマルとシグナムのコアが小さくなるに連れて、二人の姿が薄れていった。
「壊れ呪われたロストロギア・・・・・・こんなもので誰も救えるはずもない」
「シャマル! シグナム! 何なんだよ、何なんだよお前ら!!」
「・・・・・・プログラム風情が知る必要はない」
「あ、ああああああ!!」
シグナムとシャマルの姿が消え、彼女達の服がパサリと地に落ちると、闇の書はヴィータの蒐集を開始した。
コアの蒐集が進むにつれて、ヴィータの姿も薄れていく。
そこに、
「でぇりゃあああ!!」
八神家から、異常を察して急行したザフィーラが仮面の男めがけて突撃をかけた。
ザフィーラが振るった拳は、しかし男の張った障壁に受け止められた。
「そうか・・・・・・もう一匹いたな」
捉えたヴィータから、標的をザフィーラに変える仮面の男。
ザフィーラの胸からもリンカーコアが現れる。
「奪え」
<Sammlung>
「ぐぅっ・・・・・・ぁああああああ!!」
ザフィーラは、リンカーコアを蒐集される苦痛に呻くが、渾身の力を込めると再度拳を撃ち放った。
だが、障壁は堅固として揺るがず、ザフィーラの姿も消えた。
「あ・・・・・・あぁ・・・・・・」
「さて・・・・・・これで終わりだ」
瞬く間に仲間が消えたショックに呻くヴィータ。
再び、仮面の男は闇の書にコアの蒐集を再開させようとして、
「ヴィータ!! 受け取れ!!」
「「っ!?」」
響いた声に振り向いた。
瞬間二人の間を抜け、一本の杖が飛び去った。
杖はヴィータの足元に突き立った。
「「榊・・・・・・雄一!?」」
振り向いた仮面の男達の視線の先、投擲の構えを取っていた、元の九歳児の姿の榊雄一の姿があった。
期末試験始まったんで、今後投稿が滞ると思います。
ご了承ください。