リリカル世界を逝く影執事   作:ラッテンフェンガー

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第百九話 覚醒と絶望の始まり

「・・・・・・う、痛ってぇ・・・・・・」

 

瓦礫を掻き分けて立ち上がると、ヴィータはグラグラと揺れる視界を頭を振って正した。

吹き飛ばされ、ビルに飛び込んでしまった衝撃で意識を失っていたらしい。

ただ、それほど時間は経っていないと思い、アイゼンを握り締めてビルを飛び出す。

 

「まだ動けるな・・・・・・あいつら、やりやがって・・・・・・ユウ、今行くから」

 

屋上に飛び上がろうとしたとき、

 

『嫌ぁああああぁあああああ!!』

「っ、はやて!?」

 

突然響き渡ったその声にヴィータは凍りついた。

はやての声を彼女が聴き間違えるはずがない。

だが、はやての声が聞こえてきたのは、病室ではなくいままさに目指そうとしていた屋上。

だが、それははやての身柄が仮面の男達の手に落ちたということ。

 

「っ、そんなこと、あるはずがねえ!!」

 

焦燥感に衝き動かされたヴィータは速度を上げ、屋上に飛びあがり、状況を確認しようとして、

 

「また・・・・・・全てが終わってしまった」

 

そう言い涙を流す彼女と、向かい合いデバイスを構える雄一達を目にした。

 

 

 

 

(この者達は、何をしようとしているんだろうか?)

 

なのは達に姿を変えた仮面の男達が、何かの魔方陣を展開する傍、エルミナはその作業を見つめていた。

マスターである雄一が、気絶したまま目覚める様子がないいま、その状況を解析することが彼女の役割と考えていた。

 

(闇の書のページは埋まった、と言っていた。これ以上、何をしようというのか?)

 

ただ、闇の書を開放したいのなら、はやての身柄を押さえに行けばいい。

何故、なのは達の姿をとったのか。

 

疑問を覚えつつ、かといってエルミナが何か行動を起こし仮面の男の意識が雄一に向けられるわけにもいかず、エルミナはその作業を見つめていた。

 

その目の前で、魔方陣が起動し、

 

「・・・・・・ぇ? なのはちゃんに、フェイトちゃん? これ、一体どういう・・・・・・雄君!?」

 

転移魔法だったらしく、病室にいるはずのはやてが現れた。

突然視界が変わったことに戸惑いつつ、辺りを見回して、磔になった雄一と彼の両側で薄く笑う友人の姿に顔を青くした。

 

「雄君! しっかりせえ! なのはちゃん、フェイトちゃん! 何をしたんや!」

「君は病気なんだよ。闇の書の呪いっていう病気」

「もうね、治らないんだ」

 

はやての詰問に答えず、淡々と告げていく二人。

 

「闇の書が完成しても助からない」

「君が救われることはないんだ」

「それがどないしたんや!? 雄君は関係ないやん!!」

「そうじゃなかったら?」

 

思わぬ返しに、え? と固まったはやてにとっておきの事実を教えるように二人は言った。

 

「だって、彼は闇の書と繋がっていたでしょ?」

「それに守護者とも」

「!? まさか・・・・・・ヴィータ達にも何かしたんか!?」

 

守護者という言葉に、シグナム達が連想されたはやては叫んだ。

二人は薄く笑うと、すっと視線を動かした。

そちらに目を向けたはやては、そこにはためく衣服を目にして目を見開いた。

 

「あ・・・・・・あぁ!!」

「あの子達はね、もう壊れちゃってるの。私達がこうする前から」

「とっくの昔に壊された闇の書の機能を、まだ使えると思い込んで無駄な力を続けてたの」

「それだけでも問題だったけど、あの子達と繋がったこの人も壊れちゃったの」

「思い当たること、あるんじゃない?」

「・・・・・・ぁ!?」

 

フェイトの問いに、はやての頭が真っ白になってしまった。

思い当たる節があった。

雄一と皆が、はやての代わりに家事を分担した日。

そのとき、怪我をした二人が何かしたとき、雄一が倒れたこと。

なら、あの昏倒はただの疲労じゃない?

 

蒼白になって震えるはやての様子に頬を吊り上げて笑うなのは達。

 

「心当たり、あるみたいだね」

「彼も可哀想にね。君達に近づいた所為で、そうなっちゃった」

「ち、違」

「違わないよ」

「けどね、悲しまなくていいよ?」

 

突然の言葉に、え? と二人を見上げるはやて。

その目に、磔になった雄一めがけて、紫に光るカードを構えるなのはと、同じく紫に光らせた手刀を構えるフェイトが映った。

 

「壊れた機械は役に立たないよね」

「だから、壊しちゃおう」

「でもそれが人間だったら?」

「同じことだよね。その人が苦しむ前に・・・・・・コワシテあげないと」

「や、だめ・・・・・・やめてぇ!!」

 

二人が何をしようとしているのか、理解したはやては必死に手を伸ばす。

だが、彼女の足は動かず、手を伸ばし叫ぶはやてを見下ろす二人は、

 

「止めて欲しかったら・・・・・・」

「力尽くでどうぞ?」

 

僅かも響いた様子もなく、さらに魔力を強めたそれらを振り上げた。

 

「なんで!? なんでやねん!? なんで、そんな!?」

 

届かないと分かりつつも、必死に手を伸ばすはやて。

 

「ねえ、はやてちゃん?」

 

そんな彼女に見せ付けるように、ゆっくりと振り上げた手を

 

「運命って、残酷なんだよ」

 

雄一めがけて振り下ろした。

瞬間、

 

「嫌ぁああああああ!!」

 

悲鳴を上げたはやて。

その悲鳴に反応するように、彼女の足元に三角形の白い魔方陣が展開された。

そこに、闇の書が転移し現れた。

 

<Guter Morgen,Meister>

「っ、あぁあああああ!!!!」

 

はやての絶叫にあわせるかのように、白かった魔方陣が濃紫色に変わり、紫の雷を天へと放った。

 

「はやてちゃん!」

「はやて!」

 

そのとき、仮面の男による四重のバインドとケージ型のバインドを破壊したなのは達が飛び出した。

ただならぬ様子に、はやての元へ近づこうとした二人だったが、

 

「われは闇の書の主なり。この手に力を・・・・・・」

 

機械のように抑揚なく呟くはやての手に闇の書が現れる。

 

「封印、解放」

<Freilassung>

 

はやての指示に闇の書が、噴き上げていた魔力を操作した。

はやての体が変わっていく。

手足は伸び、成人女性の姿に。

髪が伸び、色は茶から銀に。

黒いバリアジャケットが展開され、最後に四枚二対の漆黒の羽が広がった。

 

「あれは!?」

「っ! 凄い魔力! なのは、まずは雄一と合流を!」

「う、うん!」

 

はやての様子に呆然としたなのはだったが、先に我に返ったフェイトの指示で、磔のままだった雄一に駆け寄った。

ぐったりとした雄一の様子に眉を寄せると、なのはは雄一を縛るバインドを破壊すると、彼の体を揺さぶった。

 

「雄一君! 起きて! はやてちゃんが! はやてちゃんが!!」

『こうしてはいられないね。なのは、離れたまえ』

「っ、うん!」

 

パニックになっていたなのはは、エルミナに言われ、下がった。

なのはが十分に離れたことを確認したエルミナは、

 

『君は彼女を助けると契約したのだろう? なら、早く目覚めたまえ』

 

バヂッ!!

強い電流を発し、気付けを図った。

ショックに、雄一の身体が跳ね、衝撃に意識を取り戻した雄一は咳き込みながら立ち上がった。

 

「~~!! ゲホッ、ゲホッ!! あー、クソ! あいつら、よくもやりやがったな!!」

「雄一君!」

 

悪態をつく雄一に駆け寄ろうとしたなのは。

だが、彼は駆け寄ろうとしたなのはにちらりと視線を向けると、手で遮った。

 

「なのは・・・・・・状況は?」

「そ、それが・・・・・・はやてちゃんが、私達に化けたリーゼさん達に雄一君を傷つけられて、それで!」

「・・・・・・そういうことか。くそっ!」

 

なのはの説明を咀嚼し、理解した雄一は再び吐き捨てた。

今度の苛立ちは自分に向けて。

仮面の男達の思惑に利用され、最悪の状況になってしまったことに対する苛立ちだった。

 

「また全てが終わってしまった」

「っ!」

 

声に振り返り、デバイスを向けた先。

天を仰ぎ、両手を広げた闇の書の意思が、哀しげに呟いていた。

 

「一体幾度、こんな悲しみを繰り返せばいいのだろう?」

「「「はやて!」」」

「はやてちゃん!」

 

雄一達、そして、屋上に戻ってきたヴィータの眼前で、涙を流した闇の書の意思は唇を噛み締めた。

 

「我は闇の書・・・・・・我が力の全ては」

 

闇の書の意思はゆっくりと右腕を掲げた。

それに合わせるように、闇の書がページを開き、光を放った。

 

<Diabolic emission>

 

途端、彼女が掲げた手に現れた黒い雷の塊。

塊は周囲に小さい雷を走らせながら一気に膨張した。

それが秘めた魔力に、四人は息を呑んだ。

 

「主の願いを・・・・・・そのままに」

 

俯いていた彼女が涙に濡れた目を雄一達の方へ向けた。

 

「デアボリック・エミッション」

 

闇の書の意志の言葉に、塊は圧縮されていった。

 

「っ!?」

「空間攻撃!?」

「な、なんだ!?」

「なんか、ヤバイの来るぞ!!」

 

なのは達と雄一、さらに三人と合流したヴィータが、その魔法の特性に気がつき息を呑む先、闇の書の意思が魔法を解き放った。

 

「闇に、染まれ・・・・・・」

 

途端、圧縮されていた雷が破裂し周囲に広がり、四人を飲み込んだ。

 

 

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