リリカル世界を逝く影執事   作:ラッテンフェンガー

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新しく始めたバイトがきつくて、昨日は帰るなり爆睡でした。
その分、今夜中にもう一話上げる予定です。
今夜爆睡して、予定止まりにならなければ、ですが。


第百十二話 聴取と師弟

 

「リーゼ達の行動は貴方の指示ですね、グレアム提督」

 

管理局本局の一室。

武装局員二名が室外に控える中、クロノは対座したグレアムに言った。

リーゼ達を拘束した後、正当な手続きを踏み、グレアムの身柄を押さえたクロノは、真意を問うため尋問を名乗り出た。

 

「違う、クロノ!」

「あたし達の独断だ! 父様には関係ない!」

「ロッテ、アリア」

 

クロノに訴える二人だったが、グレアムに静かに呼ばれ、それ以上の言葉を飲み込んだ。

 

「いいんだよ。クロノはもう粗方の事を掴んでいる」

 

違うかい? と問われたクロノは頷いた。

それを見たグレアムは僅かに頬を緩めたが、すぐに表情を改めた。

 

「ならば、最初に聞かせてくれないか? いつから、二人を怪しいと思っていたんだい?」

「・・・・・・最初に疑問に思ったのは、アースラが仮面の男の襲撃を受けたときです」

 

アースラに侵入を許し、医務室に収容されていた榊雄一の身柄に接近された事件。

あの時、<アルス・マグナ>がなければ、雄一の身柄は押さえられていただろう。

 

「あの時、仮面の男の襲撃を迎撃したのはロッテです。では、そのときアリアは何をしていたのか?」

「父様の指示で用事があった、って言ったはずだけど?」

 

すぐに答えるアリアに、クロノも頷く。

 

「そう。だけど、君とロッテの繋がりがあって、君に情報が伝わっていないはずはないんだ。少なくとも、ロッテから提督に襲撃の情報は伝わるだろうし、闇の書に関わりがあると見られているはずの仮面の男を誰が軽視しても提督が見逃すはずはない」

 

グレアムと闇の書の間の因縁。

それを知るからこその断言に、リーゼ達は反論しようとしたが抑えるとクロノの言葉に耳を傾けた。

 

「そのときは疑問に思わなかった。そのあと、君達は教導を理由に一度戻っていたしね。だけど、それが引っかかった。だから、調べてみたんだ。君達が教導している生徒にも話を聞いたよ」

 

その言葉に、リーゼ達の表情が変わった。

二人の様子に気がつきつつ、クロノは言葉を続ける。

 

「そのとき、アリアの怪我について話題になった。だけど、誰もその件を知らなかったんだ。教導中に教官が大怪我を負った事件なのに」

「そんなの、ガキ共がど忘れしただけかもしれないじゃないか!」

「考え難いけど、それもあるかもね。だから、念のため記録も調べてみた。確かに、教導中の事故として処理された記録が出てきたよ」

「なら」

「だけど、その資料をエイミィに解析させたら、その資料が記録日以降に追加されたものであることが分かった」

「「!?」」

「そのあと、別の生徒にその記録について聞いたら、その日の教導は君達が担当した日じゃなかったらしい。ならなんでそんなことをしたのか?」

 

それは、と一拍置くと、クロノは二人、特にアリアの足に目を向ける。

彼女の片足は回復魔法の過度の使用をせず、自然治癒に任せることになっていたため、解放骨折の影響でまだ不自由だったはず。

だが、いま彼女は両の足でしっかりと立っていた。

 

「怪我の事実を利用して、裏で暗躍するため。おそらく、闇の書の監視ですか?」

「その通りだ」

 

クロノの追求に、あっさり頷くグレアム。

その反応に戸惑うクロノに構わず、グレアムが続ける。

 

「もちろん私は反対した。だが、アリアは回復魔法を使用し強引に怪我を回復させた。そして、不自由な振りをすることで、警戒が向くことを防いでいた」

「そのまま、順調にいくかと思っていた矢先に、あんなことになったんだ」

 

グレアムの言葉を継いで、ロッテが忌々しそうに言った。

その出来事にピンときたクロノは先回りして言った。

 

「アースラ襲撃のときか」

「そうだ。あの時、榊雄一に触れたアリアの腕が消し飛ばされた。あんなことになるなんて、知ってたら絶対に手は出さなかったのに」

「なんで、雄一を狙ったんだ?」

「彼ら、契約者は契約を裏切らないのだろう? だったら、彼を味方として引き込めないか。彼を目覚めさせたことを代償に持ち出せる、と考えていたんだ」

 

ロッテへの問いに、グレアムが代わりに答えた。

だが、とグレアムは沈痛な表情を浮かべると、アリアの片腕、中身を無くして揺れる袖に視線を向けた。

 

「結果は君が知っての通り失敗だった。そして、姿をくらませつつ戻ってきたアリアに回復を施そうとしたが、効果が無かったんだ」

「効果が無かった? それはどういう?」

「・・・・・・君も分からない、か。それは私達でも分からないことだ。だから、彼を押さえる機会を待つことにし、闇の書の監視に戻るはずだった」

「・・・・・・」

「その矢先、ペインという契約者が榊雄一の身柄を求めている、という報告がリーゼ達から来た。彼はリーゼ達と敵対している。そうなっては、アリアの回復も望めないだろう。そこで、ロッテに彼の姿をとってもらい、アリアが撃退するという芝居を打った。そして、管理局と彼の間で不信感を煽り、時間を稼ぐつもりだった」

 

グレアムの話にクロノは黙って耳を傾ける。

 

「だが、彼の動きは速かった。翌日には、アースラに潜入し、目的を果たしてしまった。そこで、私達は本来の策に切り替えることにしたんだ」

「ですが、アリアは腕を失っていたはずです。あの義手は一体?」

 

あの件から一月も経っていないのに、何処から手に入れたのか、そして、どうやって短期間で合わせたのか?

それらの疑問も込めてクロノはグレアムに問うた。

 

「あれは特殊な義手でね。とある一族にのみ作れるものなんだ。君なら聞いたことがないかね、『月皎家』のことを」

「『ツキシロ』?」

 

クロノは、聞き慣れない名前に眉を寄せた。

名前の雰囲気からして雄一と同じ日本人のようだが。

 

「そうか・・・・・・知らないのも無理からぬ話だな。その家は、かつては人形を操る術を練磨してきた家でね。その技術を使った義肢を製作していたんだ。その一族から、あるとき次元漂流者が出てね。彼、ああ男性だったそうだ。彼は、管理局の保護を受けて、ひっそりと暮らしたらしい。その技術は連綿と受け継がれているようでね。私も、知ったのは偶然だった。だが、その実力は噂以上だったがね」

「なるほど・・・・・・お話は分かりました。ですが、提督は先ほど『本来の策』と仰いました。ですが、主を捕らえようと闇の書を破壊しようと、すぐに転生してしまうはず」

「・・・・・・」

「見つけたんですね。闇の書の永久封印の方法を」

「・・・・・・両親に死なれ、身体を悪くしていたあの子を見て、心は痛んだが・・・・・・運命だと思ったよ」

 

語気を沈ませながら、吐き出すように、グレアムは話した。

 

孤独なはやてならば、それだけ悲しむ人は少なくなると思ったこと。

彼女の父親の友人を名乗り、援助をしていたのは、永遠の眠りに就く前くらい、不自由な思いをさせないつもりからだったこと。

 

「・・・・・・偽善だな」

「封印の方法は、闇の書を主ごと凍結させて次元の狭間か氷結世界に閉じ込める・・・・・・そんなところですね」

 

グレアムの独白に答えず、自分の予想を告げるクロノ。

クロノの予想に、グレアムは頷いて返した。

 

「そうだ。それなら闇の書の転生機能は働かない」

「・・・・・・」

 

その言葉に、クロノは顔を僅かに俯けた。

その様子に、ロッテはより必死に訴えた。

 

「これまでの闇の書の主だって、アルカンシェルで蒸発させたりしてんだ! それと何にも変わらない!!」

「クロノ。今からでも遅くない。私達を解放して。凍結がかけられるのは、暴走が始まる瞬間の数分だけなんだ」

 

ロッテの言葉にアリアも続いた。

だが、

 

「・・・・・・その時点では、まだ闇の書の主は永久凍結をされるような犯罪者じゃない。違法だ」

 

クロノは静かに、だがはっきりと告げた。

グレアムもそれは分かっていたのだろう。

クロノの言葉に、瞑目しつつ深く息を吐き出した。

だが、ロッテは納得できず身を乗り出した。

 

「その所為で! そんな決まりの所為で悲劇は繰り返されてんだ・・・・・・クライド君だって・・・・・・あんたの父さんだって、それで!」

「ロッテ」

 

クライド=ハラオウン。

クロノの父であり、かつてグレアムの部下であった彼は、十一年前に発生した闇の書事件の際、暴走した闇の書ごと、グレアムが撃ったアルカンシェルによって艦と運命を共にした。

その判断は英断といえる。

だが、その判断を下さざるをえなかった父の無念を知っているロッテはさらに語気を強めようとしたが、グレアムに止められ、背を伸ばした。

室内に沈黙が下りる。

そのなか、クロノは静かに立ち上がると、三人に背を向けた。

 

「・・・・・・提督のプランには法以外にも問題はあります」

 

凍結の解除の方法はさして難しくないこと。

何処に隠そうと誰が守ろうと、誰かが見つけ出し使おうとすること。

グレアムも思い当たるのだろう、いや他ならぬ彼自身、十一年前の事件からランダムに転生するはずの闇の書の新たな主を探し出してみせたのだ。

同じことができない保障は、何処にもない。

 

「・・・・・・現場が心配なので。すみません、一旦失礼します」

 

クロノは、振り返り一礼すると部屋をあとにしようとした。

 

「クロノ」

 

その直前、グレアムは立ち上がるとクロノを呼び止めた。

 

「はい?」

「アリア、デュランダルを彼に」

 

クロノを呼び止めたまま、振り向かずアリアに告げる。

 

「父様!?」

「そんな・・・・・・」

 

反対する二人に、グレアムは首を横に振りつつ告げた。

 

「私達にもうチャンスはないよ。持っていても役には立たん」

 

グレアムの言葉に顔を俯ける二人。

やがて、アリアはポケットから一枚のカードを取り出すとクロノに差し出した。

それは、待機状態のデバイスのようだった。

 

「どう使うかは、君に任せる。氷結の杖、デュランダルだ」

「・・・・・・分かりました。ありがたく頂戴します」

 

カードを受け取ると、クロノは扉へ向かい、

 

「お世話になりました、グレアム先生」

 

今度こそ振り返らず部屋をあとにした。

その背に、届かぬと知りつつ、グレアムは言った。

 

「行きたまえ。君は最高の生徒だった、クロノ」

 

 

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