リリカル世界を逝く影執事   作:ラッテンフェンガー

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第百十五話 蒐集の影響と歪んだ願い

 

『<皆、クロノ君から連絡! 闇の書の主に・・・・・・はやてちゃんに投降と停止を呼び掛けてって!>』

 

エイミィからの通信に頷きあった三人の後ろ、壁に凭れながらそれを聞いていた雄一は、カナメを待機状態に戻すと、エルミナを手に取った。

 

「くっ・・・・・・エルミナ、回復を頼めるか?」

『可能だが、それほど劇的な効果があるわけではないよ?』

「構わない。<デル・ドーレ>も併用するから、大きく回復するはずだ」

『分かった』

 

了承したエルミナが回復魔法を展開すると、傷が徐々に消えていく。

その速度は、プレシア事件のときとは比べ物にならない速さであり、雄一はもう一方のデバイスにからかいを投げた。

 

「カナメの時とは段違いだな」

『喧しいわ。私はエルミナほど魔術的サポートに特化しておらんからな』

「そういう問題か? だって、お前って俺の魔法部分をサポートするためのデバイスじゃなかったっけ?」

 

出会った頃を思い出して雄一が確認すると、カナメは数秒黙り、何事もなかったように言った。

 

『それより、主よ。先ほどのあやつの攻撃、気がついたか?』

「・・・・・・ああ。あれがスターライトブレイカーってことは、ヴィータとの挟み撃ちを避けたのはフェイトの速さだろうな」

 

カナメの強引な話題の変換に、気がつきつつもスルーする雄一。

だが、その話題も無視できるものではない。

似た魔法が闇の書に記載されている、というわけではない。

間違いなく、なのはやフェイト本人の魔法だろう。

その証拠に、なのはの魔法には桃色の魔力光が、フェイトの能力には金色の魔力光が確認されている。

 

『おそらく、リンカーコアを蒐集されたときにコピーされたのだろう』

「だろうな。闇の書、いや夜天の魔導書の本来の用途の、『貴重な魔法技術の記録・研究』の部分は正常に生きている、ってことだろう」

『じゃろうな。だが、そうなると・・・・・・』

 

カナメが言葉を濁らせる。

だが、雄一にはカナメが何を言いたいのか、検討がついていた。

 

「・・・・・・あー、やっぱりあのとき、契約の異能も蒐集されている、かな?」

『・・・・・・おそらくは。されている前提で動いた方が良かろう。だが、今の主の身体に宿っておった精霊はおらぬはずじゃ』

「というと?」

『主が蒐集させたのは、ペインの姿であろう? ならば蒐集されたのは、そちらの身体に宿っておった精霊だけであるはずじゃ』

 

カナメの説明に、雄一も得心がいった。

確かに、それなら<クフ・リーン>や<沙波>はもちろん、<ハヌ・マーン>や<憑黄泉>は使えないと見ることができる。

 

『じゃが、油断はするな。ペインの身体に何が宿っておったかは、私も全ては分からぬが、分かっておるだけでも、<ダー・グッザ>や<キー・アーン>がおる』

「たしかにな。とにかく、なのは達にそれを伝えて」

 

くれ、と言おうとした瞬間。

地面を突き破り、植物のつるのようなものが伸び、雄一の身を捕らえようとその身を伸ばした。

 

「な、何だ、これ!?」

『これは・・・・・・マスター。この植物はバラの蔓だ。おそらく』

「<ダー・ナーン>か!?」

 

飛行魔法で宙に逃げながら、エルミナの報告に、改めて蔓を注視して見る雄一。

しかし、

 

「一体、何があったんだ?」

 

 

 

 

 

時は遡り。

説得を請け負った三人は闇の書めがけて念話を繋いでいた。

 

「<はやてちゃん、それに闇の書さん! 止まって下さい! シグナムさん達を傷つけたのは私達じゃないんです!>」

「<そうだ! 裏で糸を引いているやつがいる! このままだと、はやてが危ないんだ!>」

「<それに、シグナム達と私達は>」

「我が主は」

 

口々に言い募る三人。

だが、闇の書は俯きながら、フェイトの言葉を遮ると何事かを呟いた。

何を言おうとしているのか、三人は耳を傾ける。

闇の書は目を伏せながら、右手を左肩に触れるように引き寄せた。

 

「この世界が・・・・・・自分の愛する者達を奪った世界が、悪い夢であってほしいと願った・・・・・・我はただ、それを叶えるのみ。主には穏やかな夢の内で・・・・・・永久の眠りを。そして、愛する騎士達を奪った者には」

 

カッと、目を開け、右手を振るう闇の書の足元に、魔方陣が展開する。

 

「永久の闇を!」

「っ、闇の書さん!」

 

とっさに読んでしまったのだろう、なのはの叫びに闇の書は眦を下げた。

 

「お前も・・・・・・その名で、私を呼ぶのだな」

「ぁ・・・・・・」

 

闇の書の様子に、なのはは己の失敗を悟った。

『闇の書』というのは、改変され主を破滅に追い込む、『呪い』としての名前だ。

主の破滅が、管制人格の意思によるものでない以上、『闇の書』という呼び名は彼女にとっても呪いだった。

魔法陣が広がると、地面を突き破り、何かの根や蔓が伸び上がり近くのビルの壁を突き破った。

さらに、胴が広げた地割れから、それらより細身の蔓が次々に伸びなのは達に襲い掛かった。

 

「っ、ああ!?」

「きゃあああ!!」

「こ、のぉ! 放しやがれ!!」

 

蔓を迎え撃とうとした三人だったが、四方から伸びられては多勢に無勢であり、拘束されてしまった。

 

「くぅ!? こ、こいつは!」

 

その蔓の正体に気がついたヴィータが目を見開く。

以前雄一が使って見せた植物を操る異能だと、ヴィータは気がついた。

そして、ヴィータも雄一達と同様に、『闇の書が、蒐集した相手の能力を使用できる』ということに気がついた。

 

「「「くっ、うぁああ!!」」」

 

三人は、蔓に体を締め付けられ、苦鳴をこぼした。

その三人を見下ろしながら、闇の書は本を開き構えた。

 

「それでもいい・・・・・・私は、主の願いをかなえるだけだ」

「願いを叶えるだけ?」

 

闇の書の言葉に、なのはが反応した。

締め付ける蔓の圧力を堪えながら、闇の書に鋭い視線を向ける。

 

「そんな願いを叶えて、それではやてちゃんはホントに喜ぶの!? 心を閉ざして何も考えずに、主の願いを叶える為の道具でいて・・・・・・貴女はそれでいいの!?」

「・・・・・・我は魔導書、ただの道具だ」

「違う!!」

 

闇の書の言葉に、ヴィータが強く反論した。

 

「そんなことは無え!! 私達だって、闇の書の端末だ。今までは、私達も自分達は主の命令で蒐集を行うただの道具だって思ってた。けど、違ったんだ! はやて達と一緒に暮らしていて、嬉しいことや幸せなこと、哀しいことや腹立つ事。とにかく色々あったんだ! それで、私達はそれをそのままに感じることができたんだ! 私達は、心の無い道具なんかじゃねえんだよ!!」

「・・・・・・お前達は、私とは違う。主と共に変わったのだろう・・・・・・だが、私は道具だ」

「なら、なんでお前は泣いてるんだよ!? 認めちまえ! お前にだって、優しい心はあるんじゃねえか!」

 

ヴィータの訴えに、闇の書は指で頬に触れる。

確かにそこを伝う雫があることを知り、瞑目した。

 

「この涙は主の涙・・・・・・私は道具だ 悲しみなどない」

「だったら、なんでお前は救いを求めた?」

「「雄一(君)!」」

「ユウ!」

 

声に振り返ると、<キー・アーン>で迫る蔓を粉砕しながら雄一が飛んでくるところだった。

 

「雄一、傷はもういいの?」

「問題ない。それより、」

 

身を案じるフェイトに応じつつ、<キー・アーン>で蔓の根元を吹き飛ばす。

三人を解放し、雄一は闇の書を振り返った。

 

「さっきから話を聞いてたけど・・・・・・ただの道具だって言うなら、主の破滅なんてただ見ていればいいだろ?」

「それは・・・・・・」

「それどころか、自分からは何もせず、持ち主のいうままに従っていればいい。けど、お前は違うはずだ」

「・・・・・・」

「お前ははやてだけじゃなく、ヴィータ達の救いも求めていた。苦しみから解放してくれ、と。お前だって苦しんでいたのに、周りを救おうとしたんだ。優しいじゃないか。それにな、お前もはやての家族だ。はやてを救う以上、お前だって救ってやる」

「私は・・・・・・道具だ」

 

雄一の言葉に、首を横に振る闇の書。

その様子に、僅かに眉を寄せた雄一はため息をつく。

その瞬間、地鳴りと共にあちこちで火柱が立ち上がった。

 

「っ!? なんだ!?」

「早いな、もう崩壊が始まったか・・・・・・私もじき意識を無くす・・・・・・そうなればすぐに暴走が始まる。意識のある内に、主の望みを叶えたい」

<Blutiger Dolch>

 

闇の書は、四人を見下ろすと、再び魔方陣を展開した。

なのはとフェイトの周囲を先ほど見た紅い短剣が取り囲んだ。

 

「なのは、フェイト!?」

「闇に・・・・・・沈め」

 

二人を助けようと手を伸ばした雄一の目の前で短剣が爆発を起こした。

爆風を堪えると、雄一は闇の書を振り返った。

 

「このっ、言葉が届かなければ力尽く、っていうのは好きじゃないんだけど・・・・・・そうも言ってられないみたいだな!」

 

ダン、と強く宙を蹴り闇の書へ迫る雄一。

だが、闇の書は魔法で迎撃せず、拳を打った。

対処を外された雄一に拳が迫り、

その胸を貫いた。




お知らせです。活動を再開して間がありませんが、再び筆を置くことになるかもしれません。
理由は、家族の入院です。危ないらしく、予断を許さない状況です。
なので、拙作の更新を待たれている方には申し訳ありませんが、ご理解ください。
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