海鳴海上。
四つの影が高速でぶつかり合っていた。
「でぇりゃあああ!!」
「盾よ」
<Panzerschild>
ヴィータが降り下ろしたアイゼンと闇の書の障壁がぶつかり火花を散らす。
ヴィータはさらに力を込めて押し込もうとするが、闇の書は逆に障壁の密度を落とした。
「なっ!?」
力を抜かれ、前に身体が流れたヴィータめがけて闇の書が拳を振るった。
とっさにアイゼンを間に挟もうとするが、一歩間に合わず、胴に拳が突き刺さり、
「ヴィータちゃん!!」
<Devine Buster>
「っ!?」
瞬間、横から桃色の砲撃が闇の書めがけて放たれた。
闇の書は素早く拳を引き戻すと、射線上から身を翻し、今度はなのはめがけて拳を打った。
なのはも素早く障壁を展開して受け止める。
だが、威力が大きかったらしい、障壁に皹が入り砕け散った。
さらに、
<Schwarze Wirkung>
本が新たな魔法を展開すると共に、闇の書の拳に闇のような靄を纏った。
その拳に危機感を覚えたなのははレイジングハートで受け止める。
だが、
「きゃああああ!?」
耐え切れず、なのはは吹き飛ばされてしまった。
一時的に意識を失っているのか、脱力したまま吹き飛ばされていく。
「なのは!? バルディッシュ!」
<Yes,Sir! Sonic Form!>
フェイトの意志を汲み、バルディッシュはカートリッジをロードすると同時にバリアジャケットを変形させた。
先ほど見せた、速度重視の姿になったフェイトは、カートリッジをロードした魔力を加速にまわしてなのはを追った。
フェイトのスピードのおかげで、なのはが着水する寸前に、その身体を引き上げることに成功した。
「なのは! なのは、大丈夫!?」
「・・・・・・だ、大丈夫・・・・・・ちょっとクラクラするけど」
抱き抱えながら呼びかけるフェイトに、言うとおり視界に星でも散っているのか頭を振りながら応えるなのは。
なのはがひとまず無事だったことに安堵したフェイトは闇の書の姿を探す。
闇の書はヴィータと戦っている。
なのはを抑え、フェイトがなのはのフォローに回っている現状では、脅威度が高い相手は残るヴィータだ。
だが、それは闇の書の意識は彼女だけに向けられているということ。
(何とか、隙を突ければ・・・・・・)
フェイトはバルディッシュを強く握り締める。
その腕の中、なのははレイジングハートに再び飛行魔法を展開してもらう。
<Flier Fin>
「フェイトちゃん! もう大丈夫!」
「だけど・・・・・・ううん、分かった」
僅かに心配そうにするが、フェイトはなのはの身体をゆっくり離した。
なのはは少しよろめいたが、すぐに体勢を整えると闇の書を見据え、街の様子に目をやった。
街では火の手が勢いを増している。
その様子に同じく気がついたフェイトはアースラに念話を繋いだ。
「<リンディ提督、エイミィ。戦闘位置を海上に移しました 市街地の火災の対処を>」
『<大丈夫、今災害担当の局員が向かっているわ!>』
思ったより対応が早い。
なら、こっちに集中しても大丈夫だろうと判断したフェイトは、なのはに伝えようとして、彼女も念話に繋いでいたことに気がついた。
「<リンディさん! 闇の書さんは駄々っ子ですが、なんとか話しは通じそうです! もう少しやらせて下さい!>」
「<駄々っ子って・・・・・・でも、私からもお願いします!>」
『<・・・・・・分かりました。許可します>』
「「<ありがとうございます!>」」
礼を言って念話を切ると、二人はカートリッジを装填したマガジンを取り出し、それぞれのデバイスに装填した。
<Reload>
<Reload>
「マガジン、残り二個。十二発か・・・・・・なのはは幾つカートリッジ残ってる?」
「私はマガジンが三個。カートリッジは十八発だね。スターライトブレイカー、撃てるチャンスあるかな?」
「私も、ザンバーを当てられれば・・・・・・」
二人は自分のもつ最大威力の技を撃つだけの隙が作れるかをシミュレートしていく。
その時、
<I have a Method>
「レイジングハート?」
<Me,too>
「バルディッシュ?」
デバイス達の言葉に首を傾げるのだった。
(何だろう・・・・・・?)
自分の家。
作った料理に箸を伸ばしつつ団欒を楽しみながら、雄一は迫り上がる違和感に戸惑っていた。
今まで、何度もこの光景はあったはずだった。
なのに、雄一はこの光景は久しいものであり、同時に、二度と手に入らぬものと感じていた。
(なんで、俺はそんなふうに感じているんだ? 父さんも母さんもここにいるのに?)
現状と感覚の乖離に思わず顔をしかめる。
すると、
――・・・・・・ォォ・・・・・・――
「ん?」
「どうかしたかい? 雄一?」
「いや、いま何か聞こえたような気がして」
「どれ?」
怪訝そうな顔をした春臣は耳に手をあて耳を澄ませるが、やがて首を傾げた。
「何も聞こえないようだけど?」
「気にしすぎかな・・・・・・」
胸中にしこりを感じつつ、その話題をひとまず終わらせる雄一。
ただ、一度溢れた違和感は先ほどの疑問に戻った。
(それで、俺は何に違和感を覚えていたんだ?)
両親の仕事を知らなかったこと?
興味を示そうとしてこなかったことは確かに疑問だが、そこまでおかしいことではないだろう。
いつの間にか料理を覚えていたこと?
物心つく前に始めたのか、それとも最初の頃は失敗も多かったことだろうから思い出そうとしていないだけだろう。
なら、
(両親がここにいること?)
まさかな、と考えついた可能性をすぐに破棄しようとして。
――・・・・・・ォオーン・・・・・・
「つっ!?」
何かの音が耳に届いたと思ったときには、雄一の頭に鋭い痛みが奔った。
とたん何かの光景が雄一の意識を駆け抜けた。
紅く染まった部屋。
倒れて動けない自分のもとへ駆けてくる人影と、降り注ごうとしている瓦礫。
人影は瓦礫も目に入らぬ様子で、雄一のもとへ駆けてきた。
その人影の顔を、雄一は動かぬ身体で必死に見上げる。
その顔は、紛れもなく春臣と彰子だった。
「っ!?」
「ど、どうしたの?」
「雄一?」
心配する二人に応えず、その光景に必死に意識を集中してその先を追いかける。
動けぬ雄一を抱き上げ、部屋を出ようとする二人。
だが、そこへ瓦礫が降り注いだ。
二人は、手に持つ物を操作し、何かを取り出した。
だが、それで何かをする前に瓦礫が降り注いだ。
彰子は取り出したものを放り出し雄一に覆いかぶさった。
さらに、春臣が二人を庇う。
その上に、一際大きな瓦礫が落ちてきて、
「っ、はぁはぁ・・・・・・」
「雄一! どうしたの!?」
「大丈夫か!? 応えられるか!?」
いつの間に倒れていたのか、床に倒れた雄一を覗き込みながら、必死に声を掛ける春臣達。
二人に応えず、雄一は荒い息をつきながら先ほど見た光景に意識を巡らせた。
(あれは、一体・・・・・・あれが本当なら、二人はもう・・・・・・じゃあ、この二人は誰だ?)
膨れ上がった違和感はこの現状への疑惑へと姿を変えていた。
自分を心配する両親の姿をした何かを睨もうとしたとき、雄一の頭の中で何かが弾けたような気がした。