「それで、何をすればええん?」
「とりあえず、二人とも。手を出してくれ」
雄一の指示に、はやて達は手を差し出す。
それを確認し、雄一はカナメを再び展開させると、二人の指を浅く切った。
「っ!」
「痛っ!」
「すまない。我慢してくれ」
二人に謝りつつ、傷から血が滲むのを確認する。
確認すると、
「次に・・・・・・カナメ、カートリッジ、ロード」
『承知した』
カナメに二発カートリッジをロードさせる。
そして、雄一は刀を返すと掌に突き刺した。
「ちょ、雄君!?」
「だから大丈夫だって」
「せ、せやけどなんでそんなことするん!? ウチらみたいにちょっと切るだけでええやん!」
「それが、そうもいかないんだ」
心配するはやてに苦笑を返しつつ、二人の手を取ると傷に血を垂らしていく。
血が触れ合うと同時に、強い光が起こり雄一の体を虚脱感が襲った。
「・・・・・・っ」
しかし、それは以前のものほど酷いものではない。
カートリッジの解放で魔力を底上げしつつ、その余剰分から契約に使用する。
それが雄一の策だった。
雄一の目論見は上手くいったらしく、以前のように昏倒することはないだろう。
「あ、あれ? 傷が、無い? どないなってるん?」
「契約したときに、体についている傷とかは治ってしまうんだ。ただ、はやての足までは効果が及ばなかったようだけど・・・・・・」
雄一ははやての両足に目を落とした。
おそらく、はやての足を治すなら、<アルス・マグナ>で干渉した方が魔力は少なくなるだろう。
はやては雄一の視線に、苦笑しながら手を振った。
「構へんよ。これからゆっくり治していけばええんやから。それより、これで終わりか?」
「これで第一段階。それじゃ次に行く前に、<クフ・リーン>」
雄一の呼びかけに、控えていた<クフ・リーン>が動いた。
はやて達に近づくと、鼻面を寄せ、じっと見つめる。
はやて達は、身の丈以上の犬に見つめられ、動くに動けなくなっていた。
やがて、<クフ・リーン>は一つ頷くと身体を引き戻し、雄一を振り返った。
――相棒、はやては<憑黄泉>、こっちの嬢ちゃんは俺だな――
「へぇ? そうか・・・・・・それじゃ、二人とも、いや」
二人に唱えてもらおうとしたところで、はた、と雄一は気がついた。
「どうした?」
「いや・・・・・・ふと、思ったんだけど、はやての魔力を強化したら、表の暴走体が吸い上げる分も上がるのか、と思ってな? どうしたものかと」
「っ、それは・・・・・・」
雄一の疑問に管制人格も眉をひそめた。
闇の書は、主の魔力を食い潰すまで暴走を続ける。
短い間とはいえ最大量を弄れば、最悪干渉とみなして転生機能が働き、はやてが死ぬ恐れがある。
「・・・・・・なら、主には下がっていただき、私を強化すればいい。そうすれば、リスクも避けられ、お前もこの後に魔力を温存できるだろう」
「そう・・・・・・だな。だけど、お前だけで暴走体を抑えられるのか?」
「それは・・・・・・いや、主に比べれば効率は落ちるだろうが、不可能ではないはずだ」
雄一の懸念に、管制人格は僅かに間を挟んだがしっかりと頷いて見せた。
(・・・・・・嘘、ではないと思うけど、真実でもないってところか? おそらく、『効率が悪い』どころじゃないってところか)
管制人格の意図を悟った雄一は、どうしたものか、と考え、
「・・・・・・分かった」
頷いた。
「雄君!?」
「ただし、不味いと思ったらすぐに介入するからな」
信じられない、と振り返るはやてを制し、条件を挟む。
管制人格は僅かに悩んだようだが、頷き
「そんなんあかん!」
はやてが遮った。
「主? ですが」
「そんなんあかん! 何で、貴女だけが背負わなあかんの! ウチかてやれる!」
「ですが、それでは暴走体が貴女を殺してしまいます」
「そんなことない! 外では戦ってくれている人たちもおるし、雄君もおる! ウチは、皆ならやってくれるって信じとる!!」
はやては断言すると、管制人格に車椅子を近づける。
管制人格も、はやてに合わせて膝をつき視線を合わせる。
管制人格の傍まで車椅子を近づけると、はやては身体を伸ばして管制人格の頬に手をあてた。
「せやから、忘れたらあかん! あなたのマスターは今は私や! マスターの言う事は、ちゃんと聞かなあかん!」
はやての強い宣言と共に、足元に白いベルカ式の三角形の魔方陣が広がった。
「これは・・・・・・」
『管理者権限の使用が可能になったようだね』
「マジか。はやて!」
エルミナの応えに、雄一は慌ててはやてを呼んだ。
「え、なんや?」
「管理者権限を使う前に、ブーストをかけろ。二人ともだ」
「っうん!」
「雄一・・・・・・だが」
「はやても言っていただろ。俺達を信じろ」
「・・・・・・分かった」
管制人格を納得させると、カナメに新たなカートリッジを装填させ、再度数発ロードさせる。
「それじゃ、二人とも。これを持ってくれ」
カナメを待機状態に戻し、エルミナを首から外すと二人にそれぞれ渡した。
「これは?」
「デバイス? どういうことだ?」
「その説明は後回しだ。それより、はやては<憑黄泉>、管制人格は<クフ・リーン>って唱えてくれ」
「そうすればええんやね? <憑黄泉>!」
「<クフ・リーン>」
首を傾げながらはやてが、はやてに比べあっさりと管制人格が言うと、再び雄一の体を虚脱感が襲った。
「くっ・・・・・・」
先ほど以上に魔力を吸われ雄一が呻くが、はやて達には気がつかせないように振舞う。
「名前をあげる。もう闇の書とか呪いの魔導書とか言わせへん・・・・・・私が呼ばせへん!」
「・・・・・・っ」
「私は管理者や。私にはそれができる」
「っ、はいっ」
目を涙で潤ませながら、涙声で頷く管制人格。
彼女に、はやては頷いて見せ、
「止まって」
はやての呟きに、足元の魔方陣が一際強く輝いた。
『・・・・・・という具合やねん』
「<そう・・・・・・雄一も一緒にいるんだね?>」
『<せや。ただ、外に向けて話すことはできへんみたいや>』
「<・・・・・・そう>」
「<はやて! 二人とも、大丈夫なのか!? 無事!?>」
『<ヴィータ・・・・・・ウチらは大丈夫や! けど、>』
はやての声の様子が突然変わり、闇の書が本へと手を伸ばす。
『<くっ!? ちょっと抑えるのに精一杯やねん! ごめん、なのはちゃんにフェイトちゃん! なんとかその子を止めてあげてくれる? 魔導書本体からはコントロールを切り離したんやけど・・・・・・その子が止まらんと管理者権限が使えへん・・・・・・今そっちに出てるのは自動行動の防御プログラムだけやから!>』
「え?」
はやての言葉を理解しきれなかったのか、固まるなのは。
その様子にすかさず、フェイトがフォローを入れる。
「あのね、なのは。分かりやすく言うと、あの子を動けなくすればいいの」
「なるほど! 分かりやすい!」
「それでいいのかよ!?」
あまりな要約に、思わず突っ込むヴィータ。
だが、なのははウンウンと頷くと、レイジングハートを再度構える。
一方、状況も進んでいく。
闇の書も抵抗しているのだろう、鈍くなった動きを補うように、先ほどの触手をさらに召還する。
だが、
「露払いは任せろ! いくぞ、アイゼン!」
<Ja! Schwalhe Fliegen>
ヴィータが鉄球を複数生み出すと、片っ端からアイゼンで弾いていく。
弾かれた鉄球は触手を根元から食いちぎっていく。
さらに、
「バルディッシュ!」
<Yes Sir,Haken Saber>
フェイトはバルディッシュをハーケンフォームに変更すると、魔力刃を撃ち放ち、ヴィータが撃ち洩らした触手を切り刻む。
さらに、魔力刃を操作し闇の書へ向けると、
「セイバーブラスト!」
一気に爆発させる。
魔力刃が一度収縮したかと思うと瞬時に膨張し、衝撃を撒き散らした。
その衝撃を闇の書は防御する。
その結果、闇の書は鈍った動きも合わさり、完全に足を止めることになった。
「エクセリオンバスター、バレル展開! 中距離砲撃モード!」
<All Right,Ballel Shot>
レイジングハートの先端から、不可視の魔力が発射され、闇の書を磔に固定する。
さらに、なのははレイジングハートの前方と後方にそれぞれアンカーとして魔法を展開し、先端に魔力を収束させていく。
「ブレイク、シュート!!」
なのはの叫びと共に、桃色の本流が奔り、闇の書を吞み込んで爆発を起こした。