「夜天の主の名において、汝に新たな名を贈る。強く支える者、幸運の追い風、祝福のエール・・・・・・リインフォース」
「・・・・・・っ」
はやてに名前を呼ばれ、管制人格、リインフォースの身体が光に包まれ、その暖かな光は徐々に広がると、周囲の闇を祓っていった。
雄一も、その優しく暖かい光に包まれて目を閉じた。
その光の中、リインフォースとはやての声が響く。
――新名称、『リインフォース』を認識。管理者権限の使用が可能になります――
――・・・・・・うん――
――ですが、防御プログラムの暴走は止まりません。管理から切り離された膨大な力が、直に暴れだします――
――うん・・・・・・まぁ、なんとかしよ――
そう応えるはやての前に、闇の書、いや夜天の魔道書となったリインフォースが現れる。
その本を、はやては優しく抱き締めた。
――行こか、リインフォース――
――はい、我が主――
なのはの砲撃は闇の書の暴走体自体を消失させたのか、静かに凪いだ海が眼下に広がっている。
だが、まだ終わっていないと察している皆が、海を油断無く見つめていると、突然強い揺れが響き渡った。
『!?』
何事か、と先ほど暴走体がいたあたりを注視する五人の眼前で、海を突き破り、様々な触手・触腕が突き出した。
それらは、かつてヴィータ達が蒐集した生物のパーツだった。
それらの中心には、先ほどの暴走体の魔力光と同じ、濃紫色のドーム状のものが広がっている。
だが、現れたのはそれだけではない。
その濃紫の魔力に紛れもう一つ、遥かに小さいが白い魔力光を放つものがあった。
それが何か、全員が理解し笑みを浮かべるがすぐに表情を引き締めた。
そこへ、アースラからモニターしていたエイミィが通信を入れた。
『<皆、下の黒い澱みが暴走の始まる場所になる! クロノ君が着くまで無闇に近づいちゃ駄目だよ>』
「あ、はい!!」
「分かった!」
なのは、フェイトは通信に頷くと、白い魔力光のもとにいるであろう二人、あるいは三人を助けに行こうとする気持ちを抑えつつ、闇の書の暴走体を見つめた。
――管理者権限、発動――
――防衛プログラムの進行に割り込みを掛けました。数分程度ですが、暴走の遅延ができます――
――うん・・・・・・それだけあったら、十分や――
そう応えたはやての周りに、三色の光、リンカーコアが出現する。
――リンカーコア、送還。守護騎士システム、破損修復――
リンカーコアが一際輝くと姿を消した。
白い魔力光、はやての身を守る結界の外である海鳴病院に、時を同じくして三つのベルカ式魔方陣が展開した。
魔方陣から同色の魔力が立ち上がると、それぞれから蒐集されて消えてしまったシグナム・シャマル・ザフィーラが現れた。
――おいで、私の騎士達――
「っ!?」
同時に、結界の外、なのは達と共に暴走体を監視していたヴィータがふと、鋭い視線を結界へ向けた。
「ヴィータ? どうしたんだい?」
「呼んでる・・・・・・はやてが、呼んでる!」
その反応に傍にいたユーノが声を掛けるが、ヴィータはそれに応えない。
その反応にどうしたものかと思った瞬間、ヴィータの姿が消えた。
「なっ!?」
「ユーノ君? どうし、あれ? ヴィータちゃんは?」
「わ、分からない・・・・・・突然消えて」
異常に気がついたなのはが振り返るが、ヴィータの姿がないことに首を傾げた。
だが、ユーノも何が起こったのか分からず、首を傾げるばかりである。
それでも、起こった事を伝えようと、ユーノは言葉を搾り出す。
その矢先、白い魔力球から閃光が天地に伸びた。
「「くっ!?」」
「「きゃ!!」」
突然の光に、なのは達は腕で目を覆った。
だが、光はすぐに治まり、なのは達は何が起こったのか確認しようとし、
「あれは、ベルカ式の魔方陣?」
「それに、その上にいるのは、」
「ヴィータちゃん!?」
「シグナム!?」
ユーノとアルフの視界の先、魔法陣の上で魔力球に背を向けるように四方に立つ守護騎士達の姿があった。
「我ら夜天の主の元に集いし騎士」
「主有る限り、我らの魂尽きる事なし」
「この身に命ある限り、我らは御身の元にあり」
「我らが主、夜天の王・・・・・・八神はやての名の元に!」
シグナム、シャマル、ザフィーラ、そしてヴィータによって為された宣誓が力強く響き渡った。
――リインフォース、私の杖と甲冑を――
――はい!――
リインフォースははやての要望に、黒地に金糸銀糸が施されたインナーと先端に十字のついた杖を出現させ、はやてに装着させる。
その杖をはやてが掴んだ瞬間、
卵が割れるように、結界が砕け散った。
結界が砕けると、そこには、はやてだけでなく雄一の姿もあった。
ただ、
「あはは・・・・・・これは、役得と思ってええんかな?」
「阿呆な事言ってないで、早くカナメとエルミナを返してくれ」
はやてが雄一の身体を抱き締めるようにして支えながら飛行する形だったが。
何故かというと、デバイスを二つとも渡してしまったため、雄一は独力で飛行魔法を展開できないのだ。
もちろん、ユーノやアルフ、ザフィーラのように、デバイス無しでの魔法発動は可能だ。
そもそも、デバイスはあくまで補助具であるのだから、無くても魔法の使用を阻害することにはならない。
つまり、どうなるかというと、
「雄一・・・・・・貴様、何をしている?」(チャキッ)
「ユウ・・・・・・中で何をしてやがった?」(ガチャッ)
「あらあら・・・・・・」(ニヤニヤ)
「・・・・・・」(フイッ)
シグナム、ヴィータにデバイスを突きつけられ、シャマルには意味ありげに笑われ、ザフィーラには目を逸らされた。
「ま、待て待て! これは、あくまで飛べないことへの対応であって、特に疚しいところはない!」
「嘘つけ! お前も普通に飛んでたじゃねえか!」
「デバイスがあれば、の話だ! 今は両方とも、はやてが持っているんだ!」
「あら? それはおかしいわね? デバイスが無くても、魔法は使えるものよ?」
「俺はあいつらの補助が無ければ魔法が使えないんだよ!」
「んなわけが!」
『主の言っていることは本当だ』
反論しようとしたヴィータだったが、カナメに制され口を閉ざした。
一連の流れを笑って見ていたはやては、顔を引き締めると杖を掲げて叫んだ。
「夜天の光よ、我が手に集え! 祝福の風、リインフォース、セーットアップ!」
掲げた杖が光を発し、バリアジャケットが装着され、その背に先ほどの闇の書に六枚三対の翼が広がった。
「て、ん? はやて、その髪は?」
見れば、はやての茶色の髪が色を変えている。
その応えはリインフォースから為された。
『私は融合機、ユニゾンデバイスですから』
「ユンゾンデバイス?」
『詳しい説明は後にしましょう。それよりも』
「ううん、リインフォース、ちょう待って」
雄一を抑えるリインフォースをさらに遮るはやて。
『主? いかがしましたか?』
「急がなあかんのは分かってるけど・・・・・・その前にしとかなあかんことがあるんよ」
そう言ってはやては、守護騎士達を穏やかな目で見つめた。
その目に、守護騎士達は表情を曇らせ俯く。
「・・・・・・はやて」
「・・・・・・すみません」
「あの・・・・・・はやてちゃん 私達」
だが、はやてはそれでも穏やかに微笑んで言った。
「ええよ、みんな解ってる。リインフォースが教えてくれた・・・・・・そやけど、細かい事は後や。今は」
目を瞑り、万感の思いを込めて言う。
「おかえり、みんな」
「うっ・・・・・・ぅ、うわぁああああん!!」
その言葉で堰が切れたのだろう、ヴィータは目を潤ませると、はやてに抱きつき泣きじゃくった。
その光景を雄一が静かに眺めていると、はやては雄一を振り返った。
「雄君も、巻き込んでしまってごめんな? 私の所為で雄君にも闇の書の影響が出て」
「気にしなくて・・・・・・ん? すまない、はやて。今何て言った?」
「え? せやから、私の所為で雄君にも闇の書の影響が出てしもた、って」
心当たりのない様子の雄一に戸惑いながら答えるはやて。
雄一は、記憶を詳しく探るが、やはり思い当たる節は無く、聞く。
それ以上に周りが動揺する。
「主! それは本当ですか!?」
「そんな!? ち、治療を!?」
「ユウ! なんで言わなかったんだ!」
「ゆ、雄一君も闇の書さんに呪われてたの!?」
「エイミィ、早く雄一をアースラに! 母さんならきっと何とかできるから!」
「落ち着け、お前ら!!」
口々に騒ぐシグナム達といつの間にかこっちに向かってきていたなのは達を一喝して黙らせる雄一。
呼吸を整えると、はやてに再度問うた。
「はやて、まったく心当たりがないんだけど?」
「せ、せやから! 前に雄君が突然倒れたことがあったやろ! あれが闇の書の影響やって言われて」
「倒れた? それって、もしかしてはやてが休めるように皆で家事を分担した日のことか?」
ようやく思い当たった出来事を問うと、はやては無言で頷いた。
雄一はため息をつくと、はやての頭を帽子越しに撫でた。
「あれは、ヴィータとの契約が原因で、闇の書には関係がないから違うぞ」
「け、けど倒れたやん。ウチらのときには倒れへんだのに」
「あれが最初だったからな。まだ、今回みたいな対処法を思いついていなかっただけだ」
「そ、そうなん? ・・・・・・よかったぁ」
「だけど、そんなことなんで思ったんだ?」
深く安堵しているはやてに情報源を問う雄一。
すると、はやては言い難そうに答えた。
「病院の屋上で、雄君を吊るしとったなのはちゃん達の偽物や」
「・・・・・・そうか」
はやての答えに、雄一は仮面の男達への怒りをさらに募らせるのだった。