リリカル世界を逝く影執事   作:ラッテンフェンガー

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第百二十七話 幕引きと現れた最強の敵

「雄君、大技いくから下がり!」

 

追撃を入れようとしていた雄一は、はやての指示に彼女を振り返った。

既にはやては、防衛プログラムを見下ろす位置に移動している。

止めがなのは達三人による砲撃魔法であるなら、ここで一撃入れさせておくのもいいか、と考えた雄一は大人しく下がることにした。

雄一が下がったことを確認すると、はやては左手に携えた夜天の魔導書を勢いよく開き、眼を瞑って集中に入った。

 

「彼方より来たれ、宿り木の枝、銀月の槍となりて撃ち貫け!」

 

括目し、杖を振り上げると六つの魔力球が周囲に展開された。

そのまま、はやては杖を防衛プログラムめがけて勢いよく振り下ろす。

 

「石化の槍、ミストルティン!」

――Aaaaa、Laaaaa!?――

 

杖の動きに伴い、魔力球が撃ち出され、柱のように変化した光条が防衛プログラムに突き立った。

だが、この魔法の本領はそれからだった。

 

柱の突き立った部位から、防衛プログラムの皮膚の色が灰色へと変色していく。

触れた相手を石化させることがこの魔法の効果だったらしく、防衛プログラムの体表のほとんどを灰色へと変えていき、防衛プログラムが悲鳴を上げた姿のまま石化すると、途端に皹が入り砕け散った。

だが、防衛プログラムもそれで終わったわけではないらしい。

石化した皮膚を突き破り、新たな触手を生み出し、石化した身体を裡へと呑み込むと強引に再生してみせた。

 

「うわ、うわぁ・・・・・・」

「な、何か凄いことに・・・・・・」

 

その醜悪な姿に、顔をしかめるアルフとシャマル。

だが、言葉にしないだけで皆同じ思いだった。

そのとき、防衛プログラムをモニターしていたエイミィが悲鳴を上げる。

 

『<やっはり並の攻撃じゃ通じない、ダメージを入れた傍から再生されちゃう!?>』

「だが、攻撃は通っている・・・・・・プラン変更なしだ!」

「さすが執務官。てっきり呑まれたかと思ったぞ?」

 

その様子にも、一切士気を下げずにいるクロノ。

からかう様に雄一が声をかけると、クロノは珍しいことに

 

「何、これだけの面子が集まって負けることを想像できないだけさ。君こそ、手を抜いていないで本気でやれ」

 

にやりと笑うと、皮肉を返してきた。

不機嫌になるのではなく返されたことに、思わず目を丸くして驚く雄一の様子に、いつかの仕返しとして溜飲を僅かに下げたクロノは右手の杖を握り締めた。

 

「それじゃ・・・・・・いくぞ、デュランダル!」

<Ok,Boss>

 

師達から受け取った最強の氷結魔法。

その呪文を詠唱していく。

 

「悠久なる凍土、凍てつく棺の内にて永遠の眠りを与えよ!」

 

水色の魔力光を放つ魔方陣が展開され、防衛プログラムめがけて雪を思わせる銀粉が降り注いだ。

銀粉が触れた場所から氷に包まれていき、防衛プログラムを中心として広範囲が氷に囲まれていった。

だが、それはこの魔法の第一段階。

その防衛プログラムめがけて、クロノは鋭くデュランダルを突き出した。

 

「凍てつけ!」

<Eternal Coffin>

 

主の命令に、青い宝石部分を点滅させて応じたデュランダルがこの魔法の第二段階を発動させた。

周囲を囲んだ氷がその身を勢いよく伸ばし、防衛プログラムを凍りつかせていく。

その勢いは先ほどの比ではなく、防衛プログラムは悲鳴を上げる間もなく氷像と化した。

 

――Gaaaaaaa!?――

「しぶといな」

 

氷像と化した部分を強引に食い破って再生する防衛プログラムに顔をしかめる雄一。

だが、周囲を凍りに閉ざされ防衛プログラムはそれ以上の身動きが取れなくなっている。

この好機を逃さぬように、雄一は周囲に指示を飛ばした。

 

「やつが身動きできない今がチャンスだ! なのは・フェイト・はやての三人はとどめの準備! ユーノ、アルフ、シャマルはコアの捕捉と転移の準備! 残ったやつらは露払いだ! 収束の邪魔をさせるな!」

『おお!!』

 

雄一の指示に、一斉に頷く一同。

そのなか、なのははフェイト達を振り返った。

 

「いくよ、フェイトちゃん! はやてちゃん!」

「「うん!」」

 

頷きあうと、周囲に散開する三人。

防衛プログラムも、三人の動きに危機感を抱いたのか、新たな行動を取り出した。

それは、

 

『<防衛プログラムから、多数の生体反応発生!? 嘘、いったい何処から!?>』

「エイミィ、どうした!? 何が起きた!?」

 

モニターに現れた解析結果に目を丸くするエイミィ。

只ならぬ様子に、すぐに問いただすクロノ。

だが、エイミィが答えるより先に、答えが一同の目の前に現れた。

 

――ギィ・・・・・・――

「あれって!?」

 

防衛プログラムの身体から這い出した獣が鳴き声をあげると飛びあがった。

その姿に見覚えがあったヴィータが目つきを鋭くした。

 

飛びあがったのは獅子がベースとなった蝙蝠の羽を持つ複数の獣が合わさった見た目の生物、マンティコア。

大亀と共に共生していた生物であり、同じく雄一達に討たれた相手だった。

 

「不味い! あの数が向かってきたら!」

 

次々に這い出してくるマンティコアの姿に、クロノは慌てて杖を構えるが、一匹二匹撃ち落されても向かってくるし、クロノ達は知る由もないが、そもそも、闇の書の特性上蒐集したものの能力を使えるということは、現れたマンティコアの本体は一部で、残りは海水を基にしてできた偽物であるだろうから、いくら撃退しても意味はあるまい。

 

「あれは!?」

「雄一、クロノ! 私達も迎撃に!」

「皆、ウチらも!」

「待て!」

 

収束を中止して迎撃に名乗り出ようとしたなのは達を雄一は慌てて止めた。

ここで三人に迎撃に出てもらっても、収束を再会すればまた妨害が入るだろうし、対策が立てられてしまうだろう。

だから、三人には一撃で仕留めてもらわなければならない。

そのためにも、

 

「あいつらの相手は俺達がする。三人は攻撃に集中してくれ」

「だけど」

「いいから。一応手もあるしな」

 

尚も渋ろうとするフェイトを押し止め、、雄一は戦域を振り返った。

やはり、次々に湧くマンティコアに皆も苦戦しているようだ。

いや、マンティコアだけならば、皆も苦労はしない。

問題は、マンティコアの処理を行うために、触手の処理が追いつかなくなりつつあることだった。

マンティコアだけでなく、触手の攻撃も加わっているため、マンティコアの処理に集中できないらしい。

その触手にも、目があることを確認し、雄一は唇を釣り上げると、クロノ達に指示を飛ばした。

 

「全員、聞け! 今から、こいつらを一時的に制圧する! それで、俺から一つ。『今すぐ、視界から外れろ、俺の目を見ようとするな』!」

 

不可解な指示に、だが、光明があるなら、とすぐに従って距離をとる一同。

一方、雄一は防衛プログラムに向けて距離を詰めていった。

近づいてくる雄一めがけて、一斉に目を向ける魔法生物達。

その様子に思惑が上手く嵌ったことを確信した雄一は、足場を構築させると、全体を視界に納めるように睥睨して叫んだ。

 

「<ハヌ・マーン>が命じる、『死ね』!」

 

途端、雄一と視線が合ったマンティコア、触手が次々と力を失って海面を揺らしていく。

だが、雄一も表情を歪めると、膝をついた。

 

『雄(一(君))!?』

「大、丈夫・・・・・・それより、道は開いた。後は頼む!」

 

膝をつく雄一の姿に駆け寄ろうとした一同を、雄一は遮ると、咆哮を上げて触手を振るう防衛プログラムに視線を向けた。

妨害の悉くを破られた防衛プログラムも、さすがに再生に時間がかかるのか、今がチャンスらしい。

 

<Star Light Breaker>

「全力全開っ!」

 

桃色の魔力光をレイジングハートの先端に集めたなのはが、

 

「雷光一線!」

 

金色の魔力光でできた刀身のバルディッシュを雷撃でさらに強化したフェイトが、

 

「ごめんな、おやすみな・・・・・・」

 

そして、掲げた杖に魔力を充填させながら、眼下の防衛プログラムに詫びていたはやてが、

 

 

「スターライトー――」

「プラズマザンバー――」

「響け、終焉の笛! ラグナロク――」

 

桃色の魔力球が解放を待ち、金色の刀身を雷と魔力でオーバーフローさせ、魔法陣の三点に黒い雷が這った魔力球が生みだされ、

 

一斉にその魔力を解き放った。

 

「「「ブレイカー!!」」」

 

解き放たれた、三つの砲撃が防衛プログラムに突き刺さり、相互干渉しながら、防衛プログラムを消し飛ばしていく。

 

その間、荒い息をつきながら膝をついていた雄一は、これで終わり、と回復に努めながら、カナメから説教を受けていた。

 

『<まったく、無茶をしおって! あれだけの数の死を見るなどと>』

 

<ハヌ・マーン>による死の強制。

その能力には当然リスクが存在した。

もともと、<ハヌ・マーン>の能力は思考の操作にあるが、それは思考を見ることの上に成り立っている。

そのため、『死』に思考を操作しようとすると、雄一は『相手の死』の感覚を読み取ってしまうのだ。

雄一でさえ知る由はないが、<ハヌ・マーン>の契約者であったある男にとっては、撃鉄の上がった拳銃のようでさえあったという。

 

「<上手くいったから良しとしてほしいんだけどね>」

『<無茶を言うでないわ>』

 

まだ続きそうな説教に、雄一はやれやれとため息をつこうと、

 

「きゃぁああああああ!?」

「っ、何だ!?」

 

突然上がった悲鳴に、慌てて雄一が振り返った先、

 

コアを狙って旅の鏡を開いていたシャマルが、ズタズタに引き裂かれた腕を押さえており、

 

旅の鏡から伸びた、シャマルの血でかろうじて姿が見える、幾筋かの銀線と、

 

繋がった先である、防衛プログラムの遺骸上にいつの間にか立っていた

 

皺一つない燕尾服に身を包み、両手に手袋をはめ、金色の髪を後ろに束ねた

鋭い、けれど感情のない相貌の人形のように無表情の青年の姿に、雄一は息を呑み、その名を呼んだ。

 

「ドミニク・・・・・・ハーケンス?」

 

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