リリカル世界を逝く影執事   作:ラッテンフェンガー

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第百二十八話 前哨戦と覚悟

ドミニク・ハーケンス。

かつて、ヴァレンシュタイン家で執事、そして家令を勤めた彼が何故ここにいるのか。

時は、なのは達のブレイカーが防衛プログラムに撃ちこまれた時に遡る。

 

「「「ブレイカー!!」」」

 

なのは達の声と共に、三色の砲撃が防衛プログラムに炸裂する中、シャマルは旅の鏡を使ってコアの位置を特定しようとしていた。

そして、その瞬間が訪れた。

 

「っ・・・・・・本体コア露出、捕まえ、た!」

 

本体コアの光を見つけ、それに手を伸ばすシャマル。

あとは、ユーノとアルフの二人が、コアを軌道上に転送すれば終わる。

そう半ば安堵した瞬間、光の中から現れた銀線がシャマルの腕を切り刻んだ。

 

「きゃぁあああああ!!」

 

走った痛みと衝撃に反射的に飛び下がりながら、悲鳴を上げていた。

シャマルの悲鳴に、大技を撃って荒い息を吐いていたなのは達、はやての周囲で警戒を続けていたシグナム達が何事かと振り返った。

シャマルの怪我に目を見開くなのは達に対し、シャマルの様子と展開していた旅の鏡から伸びる銀線に、シグナム達は目を見開いた。

その銀線の正体に、心当たりがあったからだ。

それは、雄一が使う鋼糸だった。

慌てて、雄一の姿を探すと雄一は防衛プログラムのいた辺りに目を向け驚き固まっている。

そちらへシグナム達が目を向けると、防衛プログラムだろう球体を片手に防衛プログラムの肉片を足場に立つ男性の姿があった。

 

(なんだ、あれは?)

 

男性ことドミニクが先ほどの攻撃の犯人だと考えたシグナムは、ドミニクを敵として捉え、経験に則り観察しようとして、

シグナムに向けられた目に思わず息を呑んだ。

何の感情も浮かばない、機械のように観察する目。

その視線が、傍にいたヴィータに向けられたとき、シグナムは大きく息を吐いた。

同じく視線を向けられたヴィータもその目の温度の無さに凍りついたように息を詰めた。

そのまま、膠着するかと思われたその場に、クロノが石を投げ込んだ

 

「貴様! 何者だ! それをどうするつもりだ!?」

「・・・・・・」

 

クロノの詰問に、だがドミニクは僅かに視線を向けただけで無言で返した。

 

「くっ!?」

『<クロノ君! 落ち着いて!>』

「分かっている!」

 

エイミィの通信に応じながら、クロノは杖を構えるが、それ以上のアクションは起こさない。

彼とて半年前の醜態を繰り返すつもりはない。

だが、闇の書の闇を逃すつもりも無かった。

では、何故彼がドミニクに仕掛けないのか。

 

(仕掛けようにも隙がない・・・・・・さっきから、仕掛けようとする度に自分が落とされるイメージしか湧かない)

 

何度シミュレートしてみても撃墜される結果しか出てこないのだ。

『やってみなければ分からない』という理屈をごねる気はクロノにはない。

十分な勝算が無ければ、無茶を通そうとはしない。

だからこそ、勝算が見えない今、仕掛けようにも動けないのだ。

さらに、ドミニクは何気ない様子だが、その実周囲を威圧している。

その威圧は、小学生のなのは達はもちろん、戦場に慣れているシグナム達をも圧倒するほどに濃度の濃いものだった。

 

(だけど、このまま見過ごすわけにもいかない、か)

 

それでも、クロノが覚悟を決めて気合一閃『スティンガー・レイ』を撃ち込もうとした瞬間、

 

「<魔琴>を掻き鳴らせ、<クーア・ルンゲ>!!」

 

雄一が、鋼糸を奔らせドミニクに仕掛けた。

それに、ドミニクは大した動きを見せず、ただ防衛プログラムを持たない方の手を軽く揺らめかせただけ。

とった、とクロノが思った瞬間、

 

 

雄一の鋼糸はあらぬ方向へ飛び、周囲の空間を薙ぎ払った。

 

「「「なっ!?」」」

「ちっ!? いなされたか!?」

 

雄一の勝利を確信していたクロノや、<魔琴>の威力を知るヴォルケンリッター達は驚愕の声を洩らし、雄一はドミニクの防御に気がつき舌打った。

彼がしたのは、雄一の鋼糸を彼の鋼糸で逸らしたのだ。

 

雄一も知らぬことだが、鋼糸の技術は元々ドミニクのものであり、宣教師が彼の襲撃を受けたときに<キー・アーン>の契約者グレリオ=スパロゥが盗み、部下であったヨハエルに伝えた技術だった。

源流、それもおそらくは最盛期のものと、模倣、それも模倣の模倣のものでは比べ物になどなるはずはない。

雄一は直感で不利を悟ると、一気に距離を詰めようと強く宙を蹴り、

 

『いかん! 離れよ、主殿!!』

「っ!?」

 

カナメの警告と背筋を一瞬で冷やした悪寒に軌道を強引に捻じ曲げて回避しようとする。

だが、

 

ドゥンッ!

「がぁっ!?」

 

轟音と共に肩に走った衝撃に、雄一はもんどりうった。

すぐに体勢を整えて、ドミニクから距離を取りつつ、今度は襲ってきたものを迎撃する。

それは銃弾だった。

見れば、いつの間に取り出したのかドミニクの手には無骨な拳銃が握られており、銃口から硝煙が上がっていた。

 

(けど、なんで当たった?)

 

雄一は、警戒を保ちつつ、肩に空いた銃創に内心首を捻った。

カナメ曰く、雄一だけでなく契約者というものは勘が鋭いらしい。

銃弾程度なら避けれないはずはないのだが。

すると、カナメが言った。

 

『主殿。確かに、契約者は勘が鋭い。じゃが、あやつ相手にそれはむしろ弱点となるのじゃ』

「どういうことだ?」

『契約者は勘が鋭いが、その一方で勘が鋭すぎるのじゃ。だから、最初の一発を避けてしまう』

「っ、そういうことか!?」

 

カナメの言わんとするところを察した雄一は、頭を抱えそうになった。

確かに先ほど、ドミニクの射撃を雄一は避けた。

だが、ドミニクはその動きを読んで間髪いれず二発目を撃っていたのだ。

 

(厄介な)

 

だが、それでは雄一も戦い方を変えざるをえない。

今の彼は、その間を頼りに危機管理を行っている。

それを読まれるとあっては迂闊に頼ることはできない。

 

「単刀直入に聞くけど・・・・・・勝てるか?」

『不可能じゃ』

『無理だね』

 

思わずこぼれた弱音に、だが、デバイス達の答えは無情だった。

 

「即答だな」

 

思わず恨めしげに睨みながら言うと、カナメは当然じゃ、と前置きして理由を言った。

 

『あやつは、人間の身で契約者を圧倒した男じゃ。全盛期の私でも、あやつに勝てるかは分からんじゃろう。それなのに、契約者となって一年も経っていないそなたに勝てる道理はない』

「エルミナもか?」

『そうだね・・・・・・やはり厳しいだろう。彼は人を壊すことにかけても一流だ。マスターがどんな能力を持とうと、対応してみせるだろう。それに、彼はおそらく蒐集されたときにマスターと私の記憶を読み取った中から作られた存在だ。一筋縄ではいかないだろうな』

「そんなにか!?」

 

デバイス二機の予測に、雄一は肩を落とすが、すぐに頬を叩いて気合を入れ直す。

ここで諦めては、はやてが死ぬことになるのだ。

諦めるわけにはいかない。

 

「雄一君、大丈夫!?」

「撃たれたの!?」

「雄君、生きとる!?」

 

雄一が覚悟を決めていると、銃声に血相を変えたなのは達が傍に飛んでこようとする。

三人を手で制しながら、三人に銃創が見えないように隠して、雄一は答えた。

 

「心配ない、掠り傷だ! あと、はやて勝手に人を殺すな!」

「あはは、冗談やって! ・・・・・・それで、勝算はあるん?」

「・・・・・・さてな」

 

はやては顔を真剣なものにして雄一に問うた。

見れば、なのは達も同様だった。

彼女達から見ても、ドミニクは圧倒的なのだろう。

事実、彼は先ほどの一合でまったく足を動かしていない。

雄一も、勝てるヴィジョンは見えてこない。

 

(って、ん? “ヴィジョン”?)

 

脳裏を掠めたアイデアを捕まえると、雄一は現実可能な形に整えていく。

幸い形にはなった。

だが、

 

(なのは達も危険に晒すことになるな)

 

この方法は雄一一人では火力が足りない。

雄一の他に、攻撃を引き受ける人間が必要になる。

 

「雄一君、何か思いついたの?」

 

雄一の様子に気がついたなのは。

気がつかれると思っていなかった雄一は、なのはの問いに答えられず言葉に詰まってしまった。

それが如実な答えとして、伝わってしまった。

 

「雄一、何かあるなら教えて!」

「どんな案かは知らんけど、出し惜しみはせんといて!」

 

なのはと共に言い募るフェイト・はやて。

三人に詰め寄られた雄一は搾り出すように答えた。

 

「・・・・・・死ぬかもしれないぞ?」

 

本来ただの女の子であるなのは達なら引き下がるだろう、と雄一は考えていた。

だが、予想に反して、なのは達は引き下がらなかった。

 

「足手纏いにはならないの!」

「死ぬつもりはないし、雄一も死なせない。私が雄一を守る」

「雄君のこと信じとるよ。あとフェイトちゃん、雄君を守るのはウチの役目や!」

「フェイトちゃんもはやてちゃんも違う! 雄一君は私が守るの!」

「「「っ~~!!」」」

「・・・・・・くっ、あはははは!!」

 

三人の遣り取りに、我慢しきれず笑う雄一。

しかし、おかげで心中も晴れ、腹も据わった。

笑いを押さえると、角をつき合わせている三人に告げた。

 

「それじゃ、三人とも、協力してくれ。あいつを、ドミニク・ハーケンスを倒すぞ!」

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