リリカル世界を逝く影執事   作:ラッテンフェンガー

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第百二十九話 人間の限界と幾重の策 

 

(これはどういう状況でしょうか?)

 

青年こと、ドミニクも周囲の状況に狼狽していた。

かつて暗殺を請け負い、失敗したドミニクを屋敷に置くようにしたリカルド・ヴァレンシュタイン。

彼と結婚した『精杯の姫』であったヴィオラ・ノクターンに仕え、そして彼女が眠りに落ちてからは彼女が遺した双子を淑女として育て上げることを彼女に誓い、日々を過ごしていたはず。

だが、その一方で、彼女が眠りに落ちてから、いや眠りに落ちる以前からその眠りを覚ます方法を探し続けていた。

 

そのなか、新たな情報を手に入れ、確かめに行くため準備をしていたはずだが、

 

(気がつけば見慣れない景色の中、空を飛ぶ敵性体に敵意を向けられている、か)

 

海の上だろうか、酷く不安定な足場。

遠目に見える街の光は記憶にあるラチナスの灯りとは異なるもので、建物も遥かに高い。

近くに視線を向ければ、杖を手に空を飛ぶ者が三人、武器を手にした者が四人、無手が四人。

そのいずれもが空を飛んでいる。

真っ先に契約者を疑ったが、それにしては飛行で統一されているのはおかしい、と斬り捨てる。

 

(愚問・・・・・・不可思議な現象を契約によるものと考えるのはナンセンス。分析を続けながら柔軟な対応をするべき)

 

彼らへの警戒を怠るつもりは無いが、それにしても、と苦笑する。

 

(杖を持って飛ぶ少年少女に、足元のこれは化物ですか。ヴィオラが見たらどう思うでしょう)

 

自分が仕えていた女性のことを思い起こす。

感受性豊かな彼女のことだ。

きっと目を輝かせて一目散に向かっていくことだろう。

 

そして、とドミニクは手に持つ球体に目を落とした。

 

(おそらく、彼らの目的もこれのよう。何かは分かりませんが、強力な何かを感じます)

 

手に持つ球体からは、周囲への破壊や悪意が放たれているが、その程度の悪意ではドミニクの心は小揺るぎもしなかった。

正直、彼には、暴走体のコアが何かは問題ではない。

ただ、そこから感じ取れる力、蒐集によって溜め込まれ、暴走寸前まで膨れ上がった膨大な魔力を重要視しているのだ。

 

(この力が何かは分かりません。ですが、この力ならあるいは・・・・・・)

 

眠り続けるヴィオラ。

その原因である、<アルス・マグナ>を破ることも叶うのではないか。

かつて、ヴィオラを連れて出向いたオルダー教の施設。

そこで目にした<アルス・マグナ>の力を思い出し、球体を持つ手に力が篭った。

 

そのとき、

 

「っ!」

 

相手の一人、金色の光で出来た剣を持つ少女が吶喊し、十字の杖を持つ翼の少女と杖を持つ栗色の髪の少女が、最後に先ほど鋼糸を交えた少年が続いた。

先ほどの戦闘では折れなかったらしい。

今度こそ確実に仕留めるため、考えるより先に体が銃口を先頭の少女に向ける。

染み付いた動きにそのまま引金を引き絞り、

 

『できれば、人を殺さないで』

「・・・・・・っ」

 

かつてされたヴィオラからの頼みに、銃口を僅かにずらす。

確殺から無力化への変化だが、戦意を折れると判断し、少女の手足めがけて引金を引いた。

回転弾倉拳銃の大型の銃弾が轟音を上げて弾頭を撃ち出す。

撃ち出された銃弾はそのまま、少女ことフェイトの手と膝を撃ち抜く、はずだった。

だが、銃声と同時にドミニクは目を見開いた。

銃声の一瞬前に、フェイトが弾道から身を翻し銃弾を回避して見せた。

回避した先めがけて再度引金を引くドミニク。

だが、結果は同じであり、更なる加速をみせたフェイトによって弾丸は明後日の方向へ飛び去っていった。

 

「っ!?」

 

その結果に動揺しつつ、瞬時に銃身を空へ向けてシリンダーをスライドさせ空薬莢を捨てると、弾丸固定具で固定された銃弾六発を装填する。

 

今度は四人めがけて一発ずつ撃ち込むドミニク。

ドゥンッ!!」

響いた銃声は一発分だが、四発の銃弾が四人に襲い掛かった。

だが、瞬時に四人は散開すると、銃弾を回避してみせる。

その動きに、ドミニクは自分の行動が何らかの方法で読まれていることを悟った。

 

(けど、一体どうやって?)

 

真っ先に浮かんだのは、ヴァレンシュタイン家当主リカルドの能力。

一切を見通せるその異能ならば、銃弾も回避して見せるだろう。

だが、それならばその光景を知ることのできる能力者は一人だけのはず。

なら、先ほどの四人の回避の説明ができない。

会話もサインも無く、統率の取れた動きができる。

そんな方法はドミニクの知識には無かった。

 

(厄介だな)

 

動揺が表情に出ないことをありがたく思いつつ、ドミニクはまず相手がどうやってこちらの動きを察しているのか、それを知る方針に切り替えて鋼糸を振るった。

 

 

 

 

 

 

「<次は・・・・・・鋼糸か! フェイトは右に避けつつバルディッシュを振り上げろ。はやては一歩下がって牽制を入れろ。なのはは障壁で受け止めつつ砲撃だ>」

「「「<分かった(の)!>」」」

 

雄一の指示に三人はすぐに対応して、ドミニクの鋼糸を避けてそれぞれの攻撃を入れる。

 

「はあああああ!!」

「ブリューナク!」

「アクセルシューター!」

 

バルディッシュの斬撃、はやての魔力弾、なのはの誘導弾群がドミニクに向かう。

だが、ドミニクは最小限の動きで回避すると三人めがけて再び銃口を向けた。

 

(銃か! 見通せ、<ブーリ・クリウ>!)

 

<ブーリ・クリウ>を使い、何処を狙っているのか探り、フェイトとはやてに回避を、砲撃で隙ができているなのはは雄一が防御した。

<ブーリ・クリウ>を使った先読み。

それが雄一の策だった。

<ブーリ・クリウ>は見ようとする未来が遠いほど精度は落ちる。

だが、逆に言えば、数秒程度ならば絶対の精度を誇るのだ。

だが、声で伝えていては、ドミニクにも対処されてしまう。

そこで役に立ったのが念話だった。

魔法を知らないだろうドミニクを相手取るのには大いに役立った。

 

(だけど、まだ足らない)

 

火力が足りないのだ。

そもそも、全員が防衛プログラムを倒すのに全力を使い切っている。

シャマルやユーノはサポートがメインだし、アルフやザフィーラは防御力はともかく攻撃が格闘中心で相性が悪い。

シグナム達もカートリッジを使い切ってしまっているし、なのは達もトリプルブレイカーの影響が出ている。

だからこそ、組打ちは避けて回避に徹しているのだ。

 

(だから、チャンスは一度きり・・・・・・頼んだぜ?)

 

そう思い、止めを入れる人物にちらりと視線を向ける。

 

「<あと七秒後に、鋼糸を牽制に入れてドミニクが装填するから、その時にフェイトは一度下がれ。はやては援護、なのはは本命・・・・・・準備いいな?>」

「<本命って何!?>」

「<でかい砲撃を入れろってこと!>」

 

なのはに答えつつ、牽制の鋼糸を鋼糸で捌く雄一。

指示通りにはやての援護を受けながらフェイトが下がり、なのはがバスターの収束に入る。

集まる桃色の魔力に、危機感を覚えたドミニクは銃口を向けると引金を弾いた。

早撃ちの連続で高温を持ち始めている銃身に構わず放たれた銃弾は、なのは一人に向けられていた。

 

「させねえよ!」

 

雄一は銃弾を鋼糸で受け止める。

障壁で受けられればいいが、銃弾などは障壁では止められない。

カナメで受け止めようとしたら、刀身が砕けるだろう。

なら、攻撃の手段を潰してもエルミナで受けるしかなかった。

だが、雄一の庇護を受けるなのはが雄一の切り札だと察したドミニクはさらに攻撃を重ねた。

鋼糸を振るうと、足場にしていた防衛プログラムの肉片を蹴り、なのはに肉薄した。

だが、一歩早くなのはの収束が完成した。

 

「間に合った! ディバイン、バスター!」

 

なのははすぐに発射シークエンスをこなすと、轟音を上げて砲撃を放った。

 

「いっけー!!」

「いったれ、なのはちゃん!!」

 

フェイト、はやての応援を受けたなのはの砲撃がドミニクに迫る。

 

 

だが、

 

「ふんっ!」

 

迫る砲撃に、ドミニクは僅かに身を逸らすことで対応した。

瞬時に軌道を読み最小限の移動で回避したドミニク。

なのは達は作戦の失敗に呻く。

だが、雄一はまだ終わらせていなかった。

 

「いまだ、シグナム! ヴィータ!」

「っ!?」

 

雄一が呼んだ名前の相手が分からず、残りの七人に視線を走らせるドミニク。

その隙を突くように、

 

「うりゃああああ!!」

「はあああああ!!」

 

ヴィータとシグナムがドミニクめがけてアイゼンとレヴァンティンを振るった。

最小限とはいえ、空中での回避に身体が流れていたドミニクを捉えた。

二人だけでなく皆がそう思った矢先、ドミニクはその上をいった。

 

「っぁあああああ!!」

 

叫び、強引に体勢を整えたドミニクはそのまま宙を蹴って跳んだ。

 

「なっ!?」

「跳んだ!? くっ!?」

 

ドミニクの予想外の回避、突然現れた同士討ちの危機への対処に、ヴィータとシグナムは急制動をかけ、動きを止めてしまった。

ドミニクは鋼糸の一本を足場にしたのだ。

その隙を突くように、空中で銃を構えたドミニクは二人めがけて引金を引いた。

 

ドドゥン!!

 

「うわっ!?」

「くっ!?」

 

轟音と共に撃たれた銃弾に武器を大きく弾かれた二人が呻く。

だが、ドミニクも無事とはいかなかった。

激しい音と共に、銃が爆発したのだ。

原因は早撃ちによる過熱と暴発だった。

銃身が変形してしまい、六発目が暴発したのだ。

 

「ぐっ、ぅ・・・・・・」

 

反射的に、怪我を負った手をもう一方の手で庇おうとするドミニク。

だが、その手には防衛プログラムのコアを持っており、コアを守るかどうかで一瞬ドミニクの思考が固まった。

その隙を突くように雄一は叫んだ。

 

「今だ、クロノ!」

「喰らえ!」

<Eternal Coffin>

 

陰で、ユーノ達による回復と呪文の詠唱を進めていたクロノが、デュランダルを振るう。

水色の魔方陣が展開し、ドミニクに氷の結晶が降り注いだ。

ドミニクははっとするが、既に鋼糸はなく、ドミニクを氷が吞み込んだ。

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