眠るはやてをヴィータに任せ、なのは達への伝言をシグナム達に任せたリインフォースは、海鳴へ向かおうと医務室を出たところで待ちかまえていた雄一と出くわした。
「雄一か。その様子では、もう話は聞いたようだな? なら、お前にも協力を」
「断る」
「・・・・・・何?」
聞き間違えたか、と胡乱な眼差しをするリインフォースに、再度雄一は首を横に振った。
「断る。お前の消滅の手伝いなんてお断りだ」
プレシアの話とは、夜天の魔導書に残されていた問題だった。
確かに、雄一達は防衛プログラムを撃破し、はやて達を救い出すことに成功した。
だが、管制プログラムだったリインフォースと防衛プログラムは密接に繋がっており、リインフォースが存在すれば防衛プログラムもまた再生し、再びはやてを取り込もうとするらしい。
そのため、リインフォースは自らのそして夜天の魔導書の消滅を願い出たそうだ。
ちなみに、同じく夜天の魔導書の端末であった守護騎士達は防衛プログラムと同じく、夜天の魔導書から切り離され、はやてと繋がっているため、夜天の魔導書とともに消滅することはない。
「だが、それでは主はやてが再び呪われてしまう」
「そうだな。今回は勝てたとはいえ、次も勝てる保証はない。今回だって全員魔力切れという辛勝だった以上、次は負けるかもしれない」
「なら」
その危険を冒さずに済むように自分を消せ、と促すリインフォースに、けれど雄一の返事は否。
「だけど、そんなことはどうでもいい。なあ、リインフォース。お前ははやてのものだ。ならはやての許しなく、どこかへ行こうとするんじゃねぇよ」
それははやてへの不忠だ、と指摘すると、リインフォースは苦い顔で呻いた。
彼女にもその意識はあったらしく、言葉に詰まった。
「だが・・・・・・なら、どうしろというのだ? 私が残っていては主を危険に晒し、消えようとすれば不忠だという。なら、不忠の泥を被ってでも主を守ろうとすることの何が間違っている?」
「さっきも言っただろうが。はやてと話して、納得させてから行けばいい」
「っ、だがそれでは主が悲しむ」
「それは黙って消えても同じ、いや別れを言えないだけそっちの方が辛いと思うぞ」
「くっ・・・・・・」
「それに、そう言うって事はお前自身も、はやてが絶対に消滅に賛成しない、って分かっているからじゃないのか?」
「・・・・・・」
反論を次々に封じられ、言葉を失うリインフォース。
「だが、そうしなければいずれ防衛プログラムが主を」
「そう、それなんだけど。いつかであって、今日明日の話じゃないよな?」
何とか出した反論に、雄一は唐突な疑問を返した。
雄一の問いに、眉を寄せながらもリインフォースは仕方なく頷く。
「ああ、だがそれほど長くはない。おそらく一週間もしないうちに防衛プログラムは再生し暴走するだろう」
「一週間、か・・・・・・いけるか?」
リインフォースの予想に、雄一は拳を口元に当てるようにして考え込む。
「いったい何を?」
「よし、ならリインフォース。その時間、三日ほどくれないか?」
「何?」
やがて、考えが纏まったのか、そう口にする雄一。
その言葉に、リインフォースは柳眉をつり上げる。
「雄一! 聞いていなかったのか、それでは主を」
「危険に晒すって? さっきお前が自分で言っただろうが。少なくとも数日は大丈夫だろ」
「だ、だがそれはあくまで予想でしかない!」
「夜天の魔導書と一番深く繋がっている奴の予想だ。信じるのには十分な根拠だろ。その三日で俺は試してみたいことがあるんだ」
「試してみたいこと、だと?」
「上手くいけば、お前もはやても皆助かる」
「っ!? そ、そんなこと、あるはずがない」
雄一の提案に目を見開くも、夢物語と切り捨てるリインフォース。
だが、その反応も予想していた雄一は苦笑しながら言う。
「不可能だって言われてた暴走だって食い止めたんだ。だったら、もう一回くらい奇跡を信じてもいいじゃないか」
「・・・・・・分かった。だが、なぜ三日も?」
「まず、調べなきゃならないことがあるんだ。それに、はやてが目覚めるのを待つ必要がある。俺が試そうとする方法はリスクがないわけじゃないし、成功を確約できるものじゃない。だから、はやてにも話してあいつに選んでもらう必要があるんだ」
それだけじゃないけど、と雄一はリインフォースを盗み見てため息をつく。
三日という期限には、もう一つ理由がある。
リインフォースは一週間以内に暴走すると予想した。
そこで安全期間を五日と仮定し、三日を実験にあて、一日を回復に費やし、万全の体制で五日目に事態に備える状態を作る、というもの。
その腹案まで伝えるつもりはない。
「分かった。雄一、お前の案に賭けよう」
「思いとどまってくれてよかったよ。なら、はやての側にいてやれ。目が覚めたときにお前がいなかったら取り乱す」
「そうだな・・・・・・ああ、そうだ。すまないが食堂にいる皆を止めてきてくれないか? シグナム達にあの二人への伝言を頼んでいたのだ」
「分かった。俺も用事があるから引き受けるよ」
リインフォースの頼みを引き受けると、リインフォースは頼んだ、といって医務室に戻っていった。
その姿を見送ると、雄一は食堂ではなく転送ポートへと足を向けた。
(たぶん、さっきの問答の間に、移動しているだろうから食堂目指しても擦れ違いそうなんだよな。だったら、ここで待ってれば来るだろ)
そう思いつつ、転送ポートへ着いた雄一の目に映ったのは、いままさに転送しようと操作するユーノと転送待ちのなのは達だった。
「って、ちょっと待った!」
「「あ、雄一(君)!?」」
突然の制止に驚くなのは達に構わず、雄一はユーノをどかせると、転送処理を中断させた。
「ちょ、雄一! 何をするんだよ!」
突然の暴挙に、文句を言うユーノ。
雄一は彼に落ち着くよう両手で押さえるようにしながら、説明する。
「落ち着け。いいか、リインフォースの件なら俺も聞いた」
「うん、だから私達はリインフォースさんが待っているから行かなきゃ」
「だから、リインフォースなら今ははやてのところだ」
え? と動きを止める一同に雄一は事の推移を説明していく。
リインフォースの消滅に反対であること。
防衛プログラムの再生までに時間の猶予があること。
その時間を使ってある試みをすること。
「それで、一体何をするの?」
「それは今から説明する。まず、準備なんだけど、ユーノに頼みたいことがある」
「僕?」
フェイトの疑問に応えず、雄一はユーノを振り返った。
「ユーノに頼みたいのは――――」
「――――なんだ。できそうか?」
「・・・・・・どうだろう。やるだけはやってみるけど、時間の無さがネックだね」
雄一の確認に、腕組みしながら難しい顔で言うユーノ。
そこに、助け舟が出された。
「それなら、私達も手伝うよ」
「うん! あとクロノ君達にも頼んで手伝ってもらおうよ!」
「んー・・・・・・分かった。そっちは任せる」
フェイトとなのはの提案を雄一は斟酌し頷くと、そのまま転送ポートを再起動させた。
「あれ? 雄一君、何してるの?」
「ちょっと海鳴に用があるんだ。遅くても明日には戻るからそっちは任せた」
「え、あ、ちょっと!?」
雄一が来ない事に気がついたなのはが、慌てて止めようとするが時既に遅く。
雄一は、海鳴の地を踏んでいた。
丁度雪が降り出したらしく、ヒラヒラと雪の花が舞っている。
その空を見上げて、雄一は重い気持ちを吐き出そうと白い息をはくと、
「それじゃ、少しでも今のうちに決着をつけておくか」
重い足取りである場所へと足を進めた。