リリカル世界を逝く影執事   作:ラッテンフェンガー

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第百三十三話 記憶と過去

「あー・・・・・・雄一、大丈夫か?」

 

クロノが雄一の顔色を心配し、声をかけた。

あの後、雄一は数時間程度で戻ってきた。

そして、アースラに戻るためゲートを開いてもらった。

その際、ちょうど近くにいたクロノが出迎えにきたのだ。

そして、ゲートをくぐって戻ってきた雄一は、戻るや否や顔色の悪さで心配された、というわけだ。

 

「大丈夫だ。ただ、覚悟していた厄介事を片づけたと思ったら、予想していなかった厄介事に出くわしただけだ」

「それは大丈夫と言っていいことなのか!?」

「大丈夫だ。一応解決法も考えなきゃいけないけど、こっちのほうが重要だから。はやてももう目覚めているんだろ?」

「え? ああ」

 

はやては雄一が出ていってから二時間ほどで目覚めた。

守護騎士達とともにいたリインフォースの姿に安堵して涙を流し、落ち着いた頃に聞いた彼女の消滅には猛反対しているらしい。

 

「だったら、早く消滅以外の選択肢を教えて安心させてやるべきだろ」

「・・・・・・そうだな。ついてきてくれ。食堂に集まってもらっている」

 

そのまま先導するクロノ。

雄一もその後に続こうとし、

 

『<厄介事とは控えめじゃな、主殿よ>』

『<まったくだね>』

「<やかましいわ>」

 

デバイス達の揶揄に、眉間に寄った皺を揉み解しながら食堂へと足を向けた。

 

 

 

「それじゃ、俺の考えている案を教える」

 

食堂のテーブル。

既に席に着いていた皆の視線が集まるなか、雄一達は空いている席に腰掛けて口を開いた。

 

「なあ雄君。雄君の方法なら本当にリインフォースは消えんでええん?」

 

話の核心を一番に問い質したのははやて。

はやてに雄一は、頷くと人差し指を立てた。

 

「上手くいけば、だけど可能だよ。俺が提案するのは二つ。一つ目はプレシアさんに協力してもらいます」

「私が?」

 

雄一の指名に、場の視線がプレシアに向けられる。

どういうことか、と眉を寄せるプレシアに、雄一は説明する。

 

「以前プレシアさんは記憶をコピーさせることで死者を復活させようとしましたよね」

「・・・・・・っ」

「・・・・・・ええそうね」

「その技術を使います」

 

事情を知る者が表情を険しくさせて見守る中、雄一は身を硬くしていたフェイトを安心させるように撫でると言葉を続けた。

 

「方法はこうです。まず、プレシアさんが夜天の魔導書からリインフォースの記憶についてのデータをサルベージし、完了次第<アルス・マグナ>を使って改悪以前の形、それこそ元の形の『旅する魔導書』まで戻します。そのあと記憶を戻しリインフォースとして扱うというもの」

 

この案は、リインフォースを含め、夜天の魔導所を一つの機械と捉えて、データのバックアップをとった上で初期化するということ。

手順として、大きな危険も無く安全といえるだろう。

ただし、問題もある。

 

「ただし、この方法だとまず記憶が馴染むかどうかが問題になります」

 

フェイトにアリシアの記憶が馴染まなかったように、別の個体としての魂を確立することも考えられる。

そうなったとき、元のリインフォースは死んだ、と言えるだろう。

 

「それに、こっちの方が深刻ですが、そもそもとして人型で顕現できるかどうかが未知数、って問題もある」

 

聞けば、夜天の魔道書は収蔵している魔法式が膨大であるため、それらを監視している管制人格システムは搭載されているらしい。

だが、果たしてそれは今のリインフォースのような存在だったのか。

もしそうで無いなら、人型でいられなくなる可能性がある。

 

「だから、果たして施術後の管制人格が本当にリインフォースなのかは分からない」

「そんな・・・・・・」

「それで二つ目」

 

顔を青褪めさせるはやての様子に手を差し伸べそうになるが、雄一は説明を優先するため、もう一本指を立てた。

 

「正直俺としてはこっちが本命だ。こっちはまだやれるだけの情報が見つかってないから正直成功率は微妙だけど、賭けの部分は大分少なくなる。こっちは、いま無限書庫で頑張っているだろうユーノの協力が不可欠だ」

 

実は、この場にはユーノが欠席している。

彼は今、無限書庫に篭って雄一に頼まれた資料を探している。

なのは達も手伝うつもりだったが、ユーノがこちらに送り出したらしい。

 

「それで、ユーノに何をやらせているんだ?」

「聞いてないのか?」

 

クロノの問いに、むしろ意外そうに問い返す雄一。

頷くクロノからなのは達に視線を向けると、二人は苦笑している。

 

「そういえば、説明・・・・・・」

「忘れてたね・・・・・・」

「ユーノは何を探していたんだ?」

「闇の書時代にどういう改悪がされたのか、その推移についての資料と聞いているけど」

「あー、合ってるな、一応」

「それで、一体何をするんや?」

 

目的は見失ってなかったことに安心し、雄一は焦れているはやてに説明する。

 

「こっちは、<アルス・マグナ>を使って改悪以前の夜天の魔導書から『再生機能』と『旅する魔導書』としての機能をコピーして、直接上書き、あるいは余分な部分、つまり暴走体の部分を削除する」

「? それはどういう」

『それについては私から説明しよう』

 

一同の疑問を遮ったのは雄一のデバイスの一つエルミナ。

雄一はエルミナをテーブルに置き、皆に聞こえるようにした。

 

『<アルス・マグナ>は知ってのとおり、因果に干渉する精霊だ。そして、その際にある現象が確認されることがある』

「現象?」

『過去の映像が再生されることがある』

「過去の、映像?」

 

いまいちピンとこない様子の一同に、エルミナはそうだね、と例を挙げることにした。

 

『かつて、<アルス・マグナ>が暴走した際、過去にあった祭りの風景があたりに広がったらしい。あるいは誰かの視点で過去を追体験したり、その場で行われた会話を見ることもあった』

「てことは、それで改悪以前のデータを盗み見て改変し直そうって事かい? そんなに上手くいくかね?」

 

例にアルフは納得がいかないように首を捻った。

だが、それは雄一も懸念していた。

そこまで都合のいいものとは思えないのだが。

だが、エルミナはさらに爆弾を落とした。

 

『この程度なら、まだ比較的問題は浅い。厄介なのは、過去に干渉してしまう場合だ』

 

エルミナの説明に、一同が目を丸くするなか、エルミナは詳しい話をした。

曰く、屋敷に大時計が運び込まれたらしい。

家令が『初老の男性から譲ってもらった』その時計の修理の最中に<アルス・マグナ>が発動し、気がつけば見知らぬ屋敷の中にいたらしい。

戸惑う中、鍵が大時計だと仮定し探すと、一階のホールにそれはあった。

すると、その時計によじ登ろうとする子供の姿があった。

子供がよじ登ろうとしたことでバランスを崩してしまった大時計はあわや子供を押し潰しかけたが、咄嗟に干渉し救ったのだそうだ。

そのとき、<アルス・マグナ>が解け、元に戻ったらしく、大時計も問題なく修理された。

その後日、その時計を引き取りたいという人物が現れた。

その女性は、家令に時計を譲った男性の娘だという。

大時計はその女性が引き取っていったのだが、その後家令が言うには、『男性が大時計を手放したのは娘さんをその大時計で喪ったからだ』と。

 

「つまり、過去に干渉した結果未来が変わった、ということなの?」

「ええ、おそらく。だからこそ、もしこの案を採用してこの現象が起きたら、下手なことをすると歴史が歪む可能性もあるんです」

 

険しい顔で確認するプレシアに頷く雄一。

 

「正直、どっちの方法を選んでもリスクはある。それに、融合機の機能もたぶん維持できなくなると思っておいたほうがいい」

 

再生機能を戻した場合の弊害として、おそらくリインフォースは死ねなくなる。

守護騎士達がはやての心臓と繋がっている以上、はやての死と共にリインフォースは一人取り残されることになるだろう。

そこで雄一は、リインフォースも守護騎士プログラムの一環としてコンバートすることを提案するつもりだった。

融合機の機能の消失はその提案の弊害といえる。

 

(俺が決めていい話じゃないかもしれないけど・・・・・・)

 

傲慢な考えに思えた雄一は僅かに躊躇う。

だが、悩むのは後だと割り切り、はやてに問うた。

 

「それで、話を聞いてはやてはどうするつもりだ?」

「わ、私は・・・・・・」

「主・・・・・・」

 

途方も無い話を聞かされ戸惑っていたはやての手をリインフォースが優しく握り締めた。

はやてが振り向くと、安心させるように微笑み頷いてみせる。

それで心が決まったのだろう。

はやては一同を振り向くと、口を開いた。

 

「私は――――」

 

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