リリカル世界を逝く影執事   作:ラッテンフェンガー

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第百三十四話 伏せていた問題と厄介事

「ちょっと待って」

 

はやてが答えようとしたとき、フェイトが険しい顔で割り入った。

そちらへ雄一が視線を向けると、フェイトだけでなくなのはやクロノ達も険しい視線を雄一に向けていた。

 

「っ、ど、どないしたんフェイトちゃん? なのはちゃんも?」

「はやてちゃん。雄一君ははやてちゃんに言ってないことがあるの」

「なのは。それは」

 

なのは達が何を言おうとしているのか。

それを察した雄一が遮ろうとするが、他の者達はそれを許さず、事情を知らぬ八神家は場の雰囲気に戸惑い様子を見守った。

 

「言ってない事?」

「うん・・・・・・雄一君の提案に出てきた<アルス・マグナ>。それを使うと雄一君に問題が起こるの?」

「なんやて?」

 

なのはの告発にはやて達は目を見開き雄一に視線で問う。

だが、雄一はその視線に答えず、ガシガシと頭をかきむしった。

それが、雄一が何かを失敗したときにする癖であることを知るはやて達は、なのはの言葉が真実であることを悟った。

 

「け、けど、ちょっと待て! ユウはたしか一切契約のデメリットを受けないんじゃねえのか!?」

「いや、そんなことは無い」

 

ヴィータが辛うじて出した反論にクロノが首を横に振った。

 

「闇の書・・・・・・いや、夜天の魔導書についてユーノに調査させていたとき、契約者についての調査もやらせていたんだ。それはカナメからの説明を裏付けていたんだが、契約者の能力の行使には、『対価』と『制約』がある。この内、雄一が影響を受けないのは『対価』らしい」

「なら、その問題っていうのはその、制約、ってことですか?」

 

シャマルの問いに、しかしクロノは否定する。

 

「いや、対価だ」

「しかし、いま執務官殿は雄一は対価の影響を受けないとおっしゃっていませんでしたか?」

「<アルス・マグナ>は例外らしい。なんでも<アルス・マグナ>は力が強すぎるらしくて、力の行使に代償がかかるらしい」

「それで、一体どんな問題が?」

「それは」

「待て」

 

答えようとしたクロノを、雄一が再度遮った。

だが、今回は遮った意図は違うようで、皆の視線に引き下がらずもう一度クロノを制した。

 

「クロノ、待ってくれ。俺から説明する」

「・・・・・・分かった」

「はやて、<アルス・マグナ>の代償は『寿命以外の全て』だ」

「寿命以外の・・・・・・全て、やて?」

「そうだ。<アルス・マグナ>に囚われ、眠りに落ちたまま一切の補助をすることもできない」

『っ!?』

 

代償の重さに息を呑む八神家。

そのショックが抜けると、はやては雄一に猛然と詰め寄った。

 

「な、なんでや!? なんでそんな重大なことを黙ってたんや!」

「・・・・・・いくつか理由があるけど、まず俺はお前達を助けることを契約で誓ったんだ。そのために切れるカードは切っていく」

「そんな・・・・・・そんな自分だけ犠牲にするようなやり方、認められるわけないやろ!」

 

はやての激しい拒絶に、だがシグナム達も反対せず雄一を睨む。

だが、睨まれた雄一は頬を掻くと、それに、と続けた。

 

「その代償だけど、何も一回使ったらすぐってわけじゃない。たしかに、以前の事件で俺は眠りに落ちたけど、あの時は何回も短期間で使ったのが一番の問題だった」

「それは・・・・・・そうかもしれないけど」

「うん・・・・・・」

 

その力に助けられたなのはやフェイトは複雑そうに雄一の根拠を受け入れた。

だが、雄一の根拠はそれだけではない。

 

「それに、契約書が完成したのもある。これで、<アルス・マグナ>のダメージは以前よりは抑えられる。それに」

 

と、そこで雄一は先ほど済ませた決別とそれに付随してきた厄介事に痛む頭を押さえた。

 

「雄一?」

「何でもない。それに、<アルス・マグナ>の処理能力も完全なものに戻っている。だから、負荷も以前よりは平気だ」

「処理能力が完全? それはどういう?」

 

クロノの問いに、雄一は先ほどのことを思い出した。

 

 

 

 

 

海鳴に戻った雄一が向かったのは彼の自宅、榊家だった。

雄一が扉を開けると、駆け寄ってくる両親。

その姿を注視した雄一はやがて、唇を引き結ぶと強く眼を瞑り、覚悟を決めた。

 

「やっぱり・・・・・・そうだったのか」

 

呟くと、雄一は母に向けて手を伸ばした。

雄一の手は伸びていき、母に触れ、

 

母の姿は硝子の様に砕け散った。

その様子に手を引き戻すと、再び母親の姿が結像する。

二人の姿はどこか現実味が無く、まるで映像のようであった。

 

「エルミナ、カナメ。これはやっぱり、<アルス・マグナ>なのか?」

『然様』

『ああ』

 

雄一の問いに、デバイス達は端的に答えた。

 

『ここは「揺り籠」の中だ。彼女達は、その再生された記憶が結像したものだろう』

『揺り籠は「精杯の姫」の願いにしか反応せぬ。おそらく、その様な行動を引き起こすような願いを主殿が抱いたのだろうが』

 

心当たりはあるか、というカナメの問いに、雄一が思い出すのは闇の所の内部で見た記憶。

火事とそのとき降ってきた瓦礫に押し潰される両親の姿。

 

「おそらく、火事のときかその後に<アルス・マグナ>は反応したんだろうな。父さん達に会いたいっていう俺の願いに」

 

だが、そのときの雄一は不完全な契約でしかなく、死者の蘇生ができるほどの力を振るえなかった。

その結果、できたのは両親の在りし日の姿を組み合わせて日々をこなす映像だった。

もちろん、その状態で家事ができるはずもない。

今までの雄一の食事などは、その実雄一が自分でしていたことであり、母親のしたことだと雄一が記憶を歪めて整合性を保っていただけであった。

 

雄一が真実を知らなければ、それで良かった。

だが、雄一は既にあの日に何があったのかを、両親がどうなったのかを知ってしまった。

雄一が自分で記憶を消しでもしない限り戻ることは無い。

だから、

 

「だから・・・・・・もういい、<アルス・マグナ>。その人達を、父さん達をもう眠らせてやってくれ」

 

彰子の言葉に則り、彼らにも眠ってもらうことを雄一は選んだ。

雄一の願いを受け、<アルス・マグナ>はその通りに計らい、記憶の投影を停止した。

それにつれ、彼らの姿は薄れていく。

 

『・・・・・・――』

「え?」

 

消え去る一瞬、記憶の母が僅かに口を動かしたように見えたが、確認する間もなく二人は消えていった。

しばらく呆然としていた雄一だったが、ふと彼の耳が異音を捉えた。

 

始めは何かが軋むような音だったが、次第にその音は大きくなっていく。

 

「な、何だ?」

『これは・・・・・・いかん、家を出よ、主殿!』

「っ!?」

 

カナメの警告に、雄一はすぐに背後の扉から外へ飛び出した。

瞬間、轟音を上げて家が崩れ落ちた。

埃が勢いよく巻き上がるなか、衝撃に雄一は必死に耐えた。

やっと、埃が治まり視界が戻ると雄一は立ち上がって何が起きたのかを確認した。

 

「それで、一体なんだったんだ、今のは? なんでウチがこんなことに?」

『おそらく、マスターによってこの家に掛かっていた<アルス・マグナ>の保護も一緒に解けてしまったのだろう』

「そういうことか・・・・・・まあ、焼けたはずの家が残っていたんだからむしろよく持ったもんだと考えるべきか」

『だが、悪いことばかりではない。保護が解けたことで<アルス・マグナ>の処理領域が回復した。その結果、主殿の策の成功率も上がるじゃろう』

「そうか。それは朗報・・・・・・というか、そうとでも思わないとやってられない」

 

周囲の惨状に目を向けて、ふと雄一は厄介なことに気がついた。

 

「これ、何処で寝ればいいんだよ」

 

一気に家も両親も失い、許容量異常のショックが却って心を麻痺させたのか、そんなことを一番に心配する雄一だった。

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