リリカル世界を逝く影執事   作:ラッテンフェンガー

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第百三十七話 揺り籠と遭遇

「なっ!?」

 

逸早く異常に対して警戒したのはクロノだったが、彼も眼前に広がった光景に言葉を失った。

なのは達は怯えたように目を見開き、雄一とシグナム達が周囲に警戒を向ける。

 

「これは、一体?」

 

はやての隣に寄り添っていたリインフォースも呆然と呟いた。

一同の視線の先には、背の高い草が風になびく一面の草原だった。

先ほどまでいた海鳴の雪の公園の情景とは繋がらない。

 

「・・・・・・雄一、どういうことなんだこれは?」

「分からん」

 

クロノが代表し、一同が気にしていることを、事情を知っているであろう雄一に問うが、問われた雄一も眉をひそめて首を横に振った。

 

「だけど、あまりいい予感のする光景じゃないことは確かだな。さっきの、あの罅割れるような音もどこかで聞いた覚えがあるし」

 

例えば、半年前にアースラの医務室で聞いたみたいな。

雄一がまさかな、と引き攣りながら頭を振ろうとした矢先。

 

『マスターの思ったとおりだろう』

 

エルミナが割り入り、雄一の予想を肯定した。

 

「エルミナ、説明」

『マスターの思ったとおり、ここは揺り籠の中・・・・・・のようだね。夜天の魔導書が砕けた。かつて<アルス・マグナ>が暴走した際にも同様の現象が見られている』

「そ、そうや! 夜天の魔導書が砕けてしもて、この子達は大丈夫なんか!?」

 

直前の光景を思い出して雄一、というよりエルミナに詰め寄るはやて。

はやてを宥めつつ、同じくエルミナに問う雄一に、エルミナは問題ないと答えた。

曰く、あれは現実に砕け散ったわけではなく、戻れば元通りになっているらしい。

 

「よ、よかったぁ・・・・・・」

 

心底から安堵したらしく、深く車椅子に沈み込みながら息を吐くはやて。

 

「それはともかく、これからどうすればいいんだ?」

 

同じくエルミナの回答に安堵しつつ、気持ちを切り替えて今後の方針を問う。

だが、この問いにはエルミナも言葉を濁した。

 

『さて・・・・・・何かこの事象に関係するもの、持ち主やそれが置かれているところに何かあるのかもしれない』

「持ち主・・・・・・っていってもな」

 

雄一は眉間のしわを深くしながら視線をはやてに向けるが、特に何かがあるわけでもないよう。

そこへ、何かを見ている様子だったユーノが振り返った。

 

「雄一、もしかしたらそれははやての事じゃないのかもしれないよ」

「どういうことだ?」

「あれ見て。けど見つからないように身を低くしておいてね」

 

皆に少し離れることを伝え、ユーノが指差す方へ、言われたとおり身を低くしながら草の隙間から覗き見る。

すると、

 

「あれは・・・・・・兵隊か?」

「うん。それで、あれを見て」

 

遠目にではあるが、鎧の一団の姿が見えた。

雄一はユーノに促されて、その中の隊長なのだろう一際豪奢な騎士の傍にいる旗持ちが持つ旗に注目する。

 

「あれは?」

「あの旗は、古代ベルカの諸王の一人『雷帝』のものだと思う」

「『雷帝』? それってさっきの手記の?」

 

驚き振り返った雄一に、ユーノは頷いた。

雄一はもう一度その一団に視線を向けると、彼らの行き先に視線を向けた。

 

「ということは、あいつらの行く先に行けば何かがあるかもしれないってことか?」

「多分・・・・・・ただ気になるのは」

「あの一団が敵か味方か分からないってことか」

 

あの一団が敵ならば、彼らの行く先にいる者を味方として扱えるだろう。

だが、味方といえる者たちであったなら、彼らに先んじていけば一切手札の分からない敵を相手にすることになってしまう。

 

「悩ましいところだな」

「うん。せめて何かもっと情報があれば」

「とにかくここで悩んでいても始まらない。一度皆のところに戻って話し合おう」

「分かったよ」

 

雄一の提案にユーノは頷き、二人は皆の待つところに戻っていった。

 

 

 

 

 

「『雷帝』の一派か」

「ああ。たださっきも言ったように相手が敵か味方かも分からない」

「そうか・・・・・・」

 

皆のところに戻った二人は改めて先ほど見たものを伝え、方針を話し合うことにした。

だが、クロノ達も未知の勢力相手にどの程度踏み込むかを決めかね、結論は出ずにいる。

そのとき、ふと何かに気がついた様子でフェイトが手を上げた。

 

「あの、ちょっといいかな?」

「どうかしたのか?」

「うん、ちょっと気になったんだけど、ここでの私達はどういう存在なのかな?」

「うん? ああ、そうか。その辺どうなんだ?」

 

この世界でどの程度まで振舞えるのか。

その程度によってやれることはガラリと変わる。

改めてエルミナに問うと、エルミナは少し考え、

 

『これは以前の事例からの判断だが、おそらく我々の姿は向こうからは見えないはずだ。さらに、お互いに干渉することはできず、干渉しようとしても極僅かなものになるだろう』

「なるほど・・・・・・見られずに済むなら、さっきの人達について」

 

ついていくか、と言おうとした瞬間。

 

ガサリと音を立てて一同の傍の草が音を立てた。

音を耳にした途端、なのは・フェイト・はやてを庇うように雄一達がそちらに構え、

 

「おかしいな・・・・・・何かがいるような気がしたんだけど」

 

草を掻き分けて、フードのついたマントを羽織った人物が姿を見せた。

その人物は、フードを上げて視界を確保すると、きょろきょろと周囲を見渡した。

フードの人物は黒い髪の男性だった。

二十歳前後の青年で、どこか抜けたような印象を覚える。

だが、体つきはその印象から一変して鍛え抜かれたもの。

そして、その両の手に特徴的な篭手をつけている。

おそらく、徒手空拳の使い手、それも達人級の人物だろう。

 

「<ユーノ、もしかしてこの人>」

「<たぶん、そうじゃないかな・・・・・・>」

 

雄一の確認にユーノも確信が無いながらも同意した。

おそらく、この男性こそ手記に名前があったもう一人。

『エレミア』なのだろう。

それより、現状もう一つ重要なことがある。

それは、

 

「<ちょ、ちょっと雄一!?>」

(やっぱり、見えてないみたいだな)

 

エレミアの視界にあえて姿を晒してみても反応がない事から、そう結論をつける雄一。

先ほどのエレミアの様子は、おそらく彼の鍛えられた感覚をもってして辛うじて捉えられたものだろう。

やはり、こちらが気がつかれる事は無いと思っていいようだ。

 

「<雄一君! 無茶しすぎだよ!>」

「<なのはの言うとおりだよ! もし見られたらどうするつもりだったの!>」

「<あんまり心配させんといてや!>」

「<まったく肝を冷やしたぞ!>」

「<ユウ、あまり無茶するんじゃねえ!>」

「<やれやれ・・・・・・お前は自分を軽視しすぎだ>」

「<何かあってからじゃ遅いのよ?>」

「<っ、頼むから一斉に喋るな。頭に響くから>」

 

なのは・フェイト・はやて・シグナム・ヴィータ・ザフィーラ・シャマルからそれぞれ投げられた叱責に、雄一は申し訳なく思いつつも顔をしかめた。

それよりも、検証したことを伝えると、皆は安堵した。

万が一、こちらの者達と戦うことになっていたら、と不安だったのだろう。

そうしていると、エレミアは感じた気配の捜索を諦め、再びフードを被ろうとし、

 

「ん?・・・・・・!?」

 

遠目に見える『雷帝』の一団に気がつき、顔を険しくしてそちらを睨んだ。

 

「あれは・・・・・・シグムント殿の私兵・・・・・・となれば狙いはやはり、シルヴィの持つあの本か?」

『!?』

 

エレミアの呟きに、聞き逃せない言葉が出てきて一同は動揺した。

 

「<ゆ、雄君、もしかして?>」

「<多分そうだろうな。可能性は高いだろう>」

 

エレミアに関わる二人、おそらくシグムントとシルヴィというのは『雷帝』の一族なのだろう。

だとすれば、本というのはおそらく、

 

「<夜天の魔導書、いやこの時点では闇の書か>」

「<それでどうするんだ?>」

「<決まってるじゃないか>」

 

雄一は、私兵の一団を迂回するように急ぐエレミアの背中を見据えながらニヤリと笑う。

 

「<尾行(つけ)るに決まってるだろ>」

 

 

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