雄一はユーノになのは達を呼んできてもらうと、エレミアの追跡を始めた。
エレミアは、慣れた様子で草に紛れるように隠れながら私兵弾を迂回するように抜けて先を急ぐ。
雄一達もその後に続くのだが、
「ま、待って・・・・・・」
「ちょ・・・・・・これはキツイな」
なのはとはやてが肩で息をしながら訴え、一同は足を止めた。
「さすがに、体力が限界だったか」
「仕方ないだろ。なのはは元々身体を動かすことには不向きだし、はやての方は俺達が草を踏み固めているから車輪に草を巻き込むことはないだろうけど、車椅子じゃ重労働だろう。ユーノ、アルフ。すまないけど、先行して後を追ってくれ」
「うん」
「分かったよ」
「「うぅ・・・・・・ごめんなさい」」
自分達のせいで見失うかもしれない申し訳なさに肩を落とす二人。
その様子に、雄一はふむ、と僅かに考えると、
「なのは」
「雄一君?・・・・・・ごめん、ちょっと待っ」
「悪いが我慢してくれよ」
息を少しでも整えようと深く呼吸するなのはをひょいと抱き上げた。
「て、ってええ!?」
「「「なっ!?」」」
抱き上げられたなのははきょとんとしていたが、状況を理解すると素っ頓狂な声を上げた。
その一方、状況を見ていたフェイト・はやて・ヴィータはその光景に目を吊り上げた。
「ゆ、雄一君!? 何!? なんで!?」
「そうだよ、雄一! なんで突然その、お姫様抱っこなんて」
「せや! そんな羨ま・・・・・・やなくて羨ま・・・・・・やっぱ羨ましいわ!!」
「ちくしょー! やっぱりお前は敵だ! 高町なぬは!」
それぞれ激しい反応を見せる。
その様子に雄一は首を傾げると、
「なのは達の回復を待つ時間は無いし、こっちの方がおんぶよりも対応しやすいだろ? はやて、隠しきれてないというか何が羨ましいんだ? あと、ヴィータ、なのはな?」
「えーと、なんかごめんなさいなの」
「あれ? それだけ?」
「分からんのかい!?」
「言い難いのが悪い!」
何一つ変わる様子の無い雄一の様子に勢いを削がれるなのは・フェイトに対して勢い豊かなはやて・ヴィータ。
その様子に首を傾げつつ、雄一ははやてのことをシグナム達に任せる。
「シグナム、はやてを頼む。ヴィータは車椅子を」
「む、構わないが・・・・・・その、いいのか?」
「何が?」
言葉を濁してはやてを見るシグナムに雄一は首を傾げる。
雄一の様子に、シグナムはしばし動きを止めると呆れたようにため息をつくとはやての前で跪いた。
「・・・・・・いや、何でもない。その場合、いざ何かあったときに反応できないのでは、と思っただけだ」
「それは大丈夫・・・・・・と言いたいところだけど、はっきり分からないものを言い切ることはできないか」
事実さっきエレミアは僅かにだが反応して見せていた。
確実とは言い切れないものに具えておくのが無難かと頭を悩ませる雄一にリインフォースが申し出た。
「なら、主は私が。車椅子は湖の騎士が持つのはどうだろうか?」
「リインフォースとシャマルが?」
「ああ。それなら、将と鉄騎の手が空くだろう」
「だけど・・・・・・」
雄一は言葉を濁し、シャマルをちらりと見る。
彼女の腕で、車椅子を持っていくことが出来るだろうか?
その視線にシャマルは苦笑しながら、雄一をたしなめる。
「あの、雄一君? 私だって守護騎士なんだけど?」
「・・・・・・そういえば」
「忘れられてた!?」
「・・・・・・そんなことはない、ぞ?」
「・・・・・・まあいいですけど」
「それでは主、失礼します」
「・・・・・・おおきにな、リインフォース」
はやてはしばらく膨れていたが、ため息をつくと大人しく両腕を広げる。
リインフォースがはやてを抱き上げると、シャマルは車椅子を畳むと車体に手を掛け、
「っ、あ、あら?」
「・・・・・・おいおい」
力を込めるが、持ち上がらないらしくシャマルは目を瞬かせた。
「あー・・・・・・ウチの車椅子って自走機能とかのバッテリーとかで普通のより重いから」
「・・・・・・ザフィーラ、頼んだ」
「・・・・・・分かった」
「そ、そんなぁ・・・・・・」
「あー、もういいか? あの男を追わなければいかないんじゃないのか?」
『す、すみません・・・・・・』
一連の状況を一歩引いてみていたクロノの呆れたような言葉に、一同は大人しく反省するのだった。
「雄一、こっちだよ」
一同がユーノ達の通った痕を辿るようにしてついたのは洋館だった。
その周囲を囲む塀の門の傍から手招きするアルフのもとへ、雄一は一同を茂みの傍に待機させ駆け寄った。
「アルフ、待たせた。ユーノは?」
「裏の方へ回ったよ。念のため他に出口が無いかを見てくるって」
「そうか。それで様子は?」
「あれを見なよ」
「?」
アルフの示す方へ、雄一は念のため、可視になってもいいように門の影から覗き見る。
そこにいたのは、こちらに背を向ける形の先ほどの私兵団と、彼らと対峙する二人の人物だった。
一人は先ほどの男性。
そしてもう一人は、輝くような金の髪を首元で束ねた女性だった。
女性は豪奢な鎧姿で猛然と
だが、相手も然る者で、女性の猛攻にも怯まず反撃を繰り出している。
エレミアはその反撃を弾き、強烈な一撃を入れて確実に私兵団を無力化していく。
流れは次第に二人に傾いていき、やがて私兵団は隊長だろう男一人を残すばかりとなっていた。
「くっ! おのれ・・・・・・!?」
「ここまで、ですわ」
隊長めがけて、勝利を確信しながら斧鎗を突きつける女性。
その様子に、隊長は腹立たしさを覚え得物の片手直剣を握るがしかし攻め込めなかった。
それは偏に、彼女の傍にいる男性、エレミアの存在によるものだった。
黒のエレミア。
己の五体で人体を破壊することを究めた彼らの一族が継承する武術。
その恐ろしさは、いままさに彼の部下が証明したところだ。
だが、このまま引き下がったところで任務失敗で始末されるのは分かりきっている。
「それでは、キリキリはいていただきましょうか?」
「くっ、嘗めるなよ小娘が!」
いずれに転んでも死ぬしかないなら、一太刀でも入れんと、隊長は地を蹴った。
「あら? でも、これで終わり」
「どうだかっ!」
降伏を選ぶと思っていた女性は、面食らいながらもすぐに突きで迎撃を図った。
だが、隊長は一歩上を行き、前進しながら武器を持たない方の手で斧鎗を弾き飛ばした。
「なっ!?」
「とった!」
その様な方法を取るとは思わなかった女性は動揺してしまい、武器を跳ね上げられたこともあって胴が開いてしまった。
そこへ隊長の直剣が突き出される。
迫る死に女性は反射的に強く眼を瞑り、
剣が下からの一撃に弾き飛ばされた。
「が、あぁ!?」
「まったく。シルヴィは詰めが甘い」
「え?」
女性、シルヴィが目を開けるとそこには、剣を弾き飛ばされたショックで痺れた腕を押さえて下がる隊長と振りぬいた拳をゆっくりと引き戻すエレミアの姿があった。
咄嗟に前に出たエレミアがシルヴィを守ったのだが、重力に従い落ちてきた剣に眼を向け目を丸くした。
雄一もそれを目にして驚いた。
(なんだよ、あれは!?)
落ちてきた剣は中ほどから削り取られたように消失していた。
一体どういう攻撃をすればあのようなことになるのか、想像もつかなかった。
「それで? どうするんだ?」
「くっ・・・・・・」
エレミアの問いに、隊長は憎々しげに表情を歪めた。
何かしようにも、武器を失った彼には何かをしようにも火力が無かった。
魔法程度では、エレミアどころかシルヴィことシルヴィアン=ダールグリュンでさえ仕留めることはできない。
「・・・・・・」
隊長の様子から、これ以上の抵抗は無いだろうとエレミアは一息つき、
「このっ!?」
「シルヴィ!?」
「四式『瞬光』!」
エレミアが気を僅かに緩めた瞬間を突く様に、シルヴィが斧鎗を構え鋭く突き出した。
エレミアが止める間もなく隊長めがけて鋭い突きが奔り、
「がぁっ!?」
「え?」
「ふんっ!」
石突きで吹き飛ばされた隊長が呻く様子にエレミアが目を丸くする横でシルヴィは鼻を鳴らすと斧鎗を突きたてた。
「これで借りは返しましたわ」
「・・・・・・殺すのかと思ったよ」
「そんなことするわけないじゃない。人をなんだと思っているのよ」
知らず詰めていた息を吐くエレミアにシルヴィは呆れた目を向ける。
その間に、身を起こした隊長は僅かに首を動かすと身を翻し姿を消した。
「・・・・・・行ったわね」
「ああ。それにしても君は危ない真似をするな」
「あら。貴方がいるから私は安心して無茶ができるのよ? リン」
「・・・・・・やれやれ」
シルヴィの返しにリンことリンドヴルム=エレミアは苦笑し、
突如顔を引き締め、シルヴィを背に庇うように構えた。
「リン?」
「・・・・・・おかしい。確かに何かの気配を感じたんだけど、何の姿も見えない」
鋭い視線を走らせながら言うリンの様子にシルヴィも警戒を抱き、屋敷へ向けてじりじりと下がっていく。
「リン、貴方も!」
「・・・・・・分かった」
リンも構えたままゆっくりと下がり、シルヴィが僅かに開けた扉に身体を滑り込ませた。
二人が下がったことを見届けると、雄一とアルフはユーノを回収すると一同の潜んでいる茂みへ引き返していった。