リリカル世界を逝く影執事   作:ラッテンフェンガー

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第十二話 刺青と新たな能力

その夜。

俺は<デル・ドーレ>で強化しながら、町を練り歩いていた。

やっぱり転移で匂いが途切れたのは痛い。

方向はカナメが割り出したが、距離は分からず足での捜索を余儀なくされていた。

カナメ曰く、『転移の魔力痕は足跡のようなものじゃ。強く凹んでいればそれだけ遠くまで飛んだ、と分かる』とのこと。

時間が経てば匂いも薄れるだろうから、その日の内に行動を起こしたのだが、いまだ手がかりは掴めずにいる。

 

『すまぬな。私が距離もつかめていればこのようなこともさせずに済んだのじゃが』

「しょうがないって。むしろ方向が分かっているだけ御の字だ。そうじゃなきゃ、途方に暮れてたよ」

『そう言ってもらえれば救われるの』

 

悄然と呟くカナメに苦笑しつつ、再び周囲の匂いに集中する。

ところで、何故このような時間に子供が一人街をうろついて何もないのか。

その答えは、俺の姿が誰の眼にも映っていないからだ。

今俺の姿は<憑黄泉>で隠されている。

<デル・ドーレ>と<憑黄泉>の同時使用。

その芸当の種の説明は少し前にさかのぼる。

 

 

あの後なのはを抱えて屋敷まで戻った。

半狂乱になった恭也さんを忍さんが抑えている間にノエルさんになのはを運んでもらう。

事情を問い詰めようとするアリサ達にはユーノを探しに行った際、樹から降りられなくなっていたアインを見つけた際、助けようと樹に上ったら、助けたところでバランスを崩してしまい、その際に負った怪我を見てなのはは気絶した、と説明した。

怪我をした、といった瞬間アリサとすずかが治療をしようと迫ってきたので、問題ないと説明して事なきをえようとしたのだが、そのとき折悪しくなのはが眼を覚まし、怪我が肩を突き破るようなものだったといってしまった。

慌てて、肩をはだけさせられたのだが、

 

「何よ、怪我なんてないじゃない?」

 

肩を顔を紅くしながら覗き込んだアリサがなのはを振り返って言った。

同じく、顔を紅くしているすずかも首を縦に振る。

 

「うそ!? だって、そんなはずは」

 

なのはが飛び起きて駆け寄り、同じように覗き込む。

傷口は僅かな痕を残して既にふさがっている。

なのはは安堵したのか一息ついた。

 

「よかったー。あんなに血が出て驚いたんだからね? ・・・・・・ってあれ? 雄一君、これ何?」

「これ?」

 

なのはの言葉に、視線が再び肩に向けられる。

俺からは見えないが。

 

「肩のあたりに黒いものが・・・・・・これは何かの模様? 雄一、ちょっとごめん」

「おい! アリサ!?」

 

眼を鋭くしたアリサによって上着とシャツを剥ぎ取られ上半身が裸になる。

どうでもいいが、この光景見られたら洒落にならない気がするんだが。

そんな思いはアリサの言葉で立ち消えた。

 

「これって、刺青?」

「刺青だと?」

 

当然そんなものを入れた覚えはない。

何かの間違いじゃないか、と思いながら問う。

 

「すまない、見えないから分からないんだが、そんなのがあるのか?」

「うん。なんだろ、絡み合った蛇に羽と・・・・・・何か文字が描いてある」

「うん。これは、アルファベット? でもこっちは漢字だね? 何だろ? 『さなみ』、かな?こっちは『つきよみ』じゃないかな?」

 

さなみ? つきよみ?

すずかの言葉の何かが意識に引っかかった。

まさか・・・・・・。

 

「誰かそれをカメラか何かで撮って見せてくれないか?」

「「「え!?」」」

「鏡を使っても見えにくいだろうし、携帯のカメラなら小さいけど見えるだろうから」

「「「じゃあ、私がやる(の)!!」」」

 

勢いよく、携帯を構える三人。

何があった?

 

「誰でもいいけど、早くしてくれないか? いつまでも半裸ってのもどうかと思うし」

「「「ハイ、チーズ!!」」」

 

パシャパシャパシャ!!

背を向けた瞬間、フラッシュが焚かれた。

その後何枚も写真を撮られることになった。

満足そうだから何も言わないけど、どうする気だよ、その写真・・・・・・?

 

 

「これは・・・・・・」

 

その後、服を着直すと、なのはの携帯を借りて、撮った写真を見せてもらった。

確かに、俺の肩から背中にかけて何か模様が広がっていた。

黒い色で描かれた翼を生やし、背骨に沿うように絡み合った蛇。

その翼は背中の中ほどから肩まで広がっていた。

まるで、杖か逆さの剣のようにも見えるその紋章の翼の下、蛇の胴によって分けられた背中の右側には数行の赤い文字が刻まれていた。

 

(やっぱり)

 

写真に眼を凝らし読み取った文字は思ったとおり、<クフ・リーン><沙波><バーラ・ルー>など契約精霊の名前だった。

おそらく、この紋章も何か意味があるのだろう。

<クフ・リーン>やカナメなら知っているだろうが、傍になのはたちがいる状況で聞くわけにはいかない。

こういうときこそ念話が使えれば、と内心臍をかむ。

 

「それで、あんた・・・・・・これに心当たりはあるの?」

 

アリサが言いにくそうに聞いたことに、首を横に振る。

 

「いや。少なくとも、皆に言われるまで、これがあることも気がついていなかった」

「・・・・・・嘘をついているようには、見えないわね」

 

しばらく眼を見つめていたアリサが言うと、辺りの空気が緩んだ。

その空気に乗じて、話題を流してしまおう。

 

「それで、あの猫は大丈夫だった?」

「うん! あの子には怪我はなかったよ。雄一君もなのはちゃんもアインを助けてくれてありがとう!」

 

すずかは笑顔を浮かべて頭を下げたので、俺はそれを止めた。

 

「そこまでしなくていい。友人の大切にしているものに傷を付けるわけにはいかない、と思っただけだ」

「・・・・・・そっか。でも、ありがとう、雄一君」

「どういたしまして。それで、もうお茶会はお開きでいいのか?」

「そのつもりよ。なのはは恭也さんを待たなきゃいけないだろうけど」

「そうか。なら、俺は先に失礼するよ」

 

服は? と聞くと、すずかがファリンさんに頼んで持ってきてもらった。

もちろんしっかり乾いている。

 

「それじゃあ、着替えたら帰るよ。すずか、脱衣所借りていいかな」

「うん。ファリン、案内をしてあげて」

「は~い、すずかちゃん」

「一人で大丈夫?よかったら鮫島に送らせるわよ?」

「いや、大丈夫だ」

 

アリサの提案はありがたいけど、紋章について二人?に聞かなきゃいけないし、あの少女、フェイトを追う必要もある。

すぐにでも行動を起こさなければいけないし、鮫島さんに二度手間をかけるわけにもいかないだろう。

 

「それじゃ、なのは、アリサ、すずか。また学校で」

 

三人にそう言うと返事を待たずに部屋を後にした。

慌てて追いついてきたファリンに先導され脱衣所に着いたら、服を着替えて執事服をファリンに預けて月村家を後にした。

 

 

その後、カナメの示した方向へ<デル・ドーレ>で身体能力、特に嗅覚を強化しながら進んでいたのだが、思っていた以上に時間が経っていたらしく、辺りはとっぷりと日が暮れていた。

 

「まずいな。このままじゃ、警察に補導される」

『<憑黄泉>で姿を隠せば問題なかろ?』

「そうすると、今度は<デル・ドーレ>が解けちまう。・・・・・・仕方ない、補導の危険はあるけどこのまま<デル・ドーレ>で探索を続けるか」

―――待て、相棒―――

「<クフ・リーン>? どうした?」

―――ああ、実は、って待て待て、そう睨むなって―――

 

覚悟を決めて捜索を続けようとしたところで、出鼻をくじくように待ったをかけた精霊に思わず強い視線を向けていたらしい。

 

「・・・・・・それで、なんだ<クフ・リーン>?」

―――一つ、解決策があるぜ―――

「解決策?」

―――相棒の背中にある紋章。おそらくそれは、『空白の契約書』だ―――

「『空白の契約書』?」

―――それが何か、って説明は省くが、それを使えば複数の能力を展開できるはずだ―――

「なんだよ、それ!? そんな都合のいいものなのか、これ!?じゃあさっそく」

 

だが、影は首を横に振った。

 

―――待った。もちろん、話はそううまくはいかない。複数能力を展開する代わりに能力は限定的なモノになる。俺のは『触れた相手を止める』能力に。<バーラ・ルー>なら『見たいものを探し出す』能力に。<デル・ドーレ>と<憑黄泉>だったら、『身体能力の強化』と『姿を隠す』能力ってところだ―――

「前半はともかく、後半は今と変わらないんじゃ?」

―――そうでもない。<デル・ドーレ>からは治癒能力が消えて、<憑黄泉>からはステルスが消える―――

「げ・・・・・・」

 

言われた内容に引きつった声が漏れた。

<憑黄泉>のステルスも痛いが、<デル・ドーレ>の治癒能力が失われるのは痛い。

これの有無がそのまま生存率に繋がっている。

少なくとも昼間のような無茶はできなくなるだろう。

腕を組んで思わず唸った。

 

「やっぱ、デメリットのない能力はない、か」

『当然じゃな。契約者は異能であっても万能ではない。よく覚えておくことじゃな』

―――デメリットがあるといっても、今は敵はいないんだ。探す間使うくらいなら問題はねえよ―――

「・・・・・・そうだな。じゃあ使ってみるか。<デル・ドーレ><憑黄泉>」

早速、複数の能力を使って捜索を始めた。

 

 

かくして冒頭に戻るわけだ。

そうして、捜索を続けるうちに隣町に入ったところで、ふと覚えのある匂いが鼻についた。

 

「!? 待った。これは・・・・・・何処だ?」

『感じたか?』

「ああ・・・・・・こっち・・・・・・で、こっちからで・・・・・・」

 

徐々に匂いの強まる方へ、ゆっくりと確かめながら足を進めていく。

匂いは強まり、やがて

 

「・・・・・・ここだな」

 

とある高層マンションにたどり着いた。

 

『ふむ・・・・・・確かに、微弱ながら魔力を感じるの』

 

カナメのセンサーも捉えた。

どうやら当たりらしい。

早々に見つかったのは運がよかった。

だが、

 

―――で、どうするんだ? 仕掛けるか?―――

『どうするのじゃ? 向こうも油断しておるじゃろうから制圧も容易かろう』

「いや、そうもいかない」

 

俺の否定に、好戦的な連中が不満を挙げるが黙らせる。

 

「今日は場所が掴めただけ良しとしておこう。少なくとも、『契約書』の能力を確かめてから仕掛けようと思う」

『むぅ、そういうことなら、よいのかの?』

―――遅すぎねえか? 逃げられでもしたら―――

「確かに、悩み所だな。・・・・・・分かった。なら、とりあえず明日一度訪ねてみよう。攻撃的なら、その場で戦闘も止むなしってことで」

『うむ。了解じゃ』

―――方針も決まったことだし帰るとするか―――

「そうだな」

 

部屋の位置を確かめると、俺はそのまま踵を返し、夜の街を駆け抜けていった。

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