リリカル世界を逝く影執事   作:ラッテンフェンガー

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第百四十話 侵入者と危惧

「もう一度聞くぞ? そこにいるのは誰だ?」

「<ばれてる!? ど、どうしよう、雄一!?>」

 

再度投げかけられた誰何に、ユーノが泡を食って雄一に詰め寄る。

 

「<どうしようって言われても、とりあえず騒ぐな>」

 

一応ユーノを窘めるが、雄一も内心動揺している。

<憑黄泉>のステルスはまず気がつかれることは無いはずだった。

さらに、はやてとの契約によって<憑黄泉>も何かしらの変化をしているはずなのだ。

 

(とりあえず、様子を見てみるしかない)

「・・・・・・答えず、か。仕方ない」

 

雄一達が思考も定まらず棒立ちになってしまっていると、エレミアはため息をつき雄一達の方へ歩いていく。

 

「リン? そこに何かいるのかしら?」

「屋敷の前で感じた気配と同じかは分からないけど、複数の気配を感じるね」

(なのは達のこともばれているのか!?)

 

リンの目線に映るものを見ようと目を凝らすシルヴィに、振り返らず答えたエレミア。

その答えに、雄一は焦りを加速させる。

 

(ど、どうする!? どうすれば)

 

必死で考えるが、思考はただ空転するばかりで、気がつくころにはエレミアが目の前にいて、

 

 

 

雄一達の傍を通り過ぎた。

 

「「<・・・・・・え?>」」

「気配は・・・・・・この分だと一階か?」

 

驚く雄一達に気がつくことなく、エレミアはそのまま扉へ足を向ける。

その様子に、雄一の頭はようやく事態を悟った。

やはり、雄一達、それこそ<憑黄泉>の影響も無いなのは達でさえ、リン達には見えていなかったのだ。

彼らが感じ取った気配は、雄一達とは別の侵入者のものだろう。

その証拠に、エレミアは僅かに扉を開け、廊下に目を走らせると、なのは達が隠れる廊下の反対、エントランスホールへ続く廊下に目を向けた。

その背に、シルヴィが槍を手に取りながら声をかけた。

 

「行くの?」

「ああ。さっきの騒動に紛れ込んでいたなら、腕利き。それも、暗殺を得意としている人間だろう。ああいった手合いは、君とは相性が悪い」

「そうかしら? 相手にもならないと思うけど?」

 

シルヴィはリンの懸念を笑い飛ばす。

彼女の魔力は多く、その潤沢な魔力を騎士甲冑に注ぎ込むことで鉄壁を生み出すことができる。

並大抵の攻撃では大したことにはなるまい。

だが、リンはシルヴィの考えを油断と斬り捨てる。

 

「確かに君の防御は硬い。それは認めるよ。だけど、その防御が抜かれる可能性は考えておくべきだ」

「あら? リンにしては、随分と弱気ですわね」

「茶化すな。君はどうにも搦め手に弱いところがある。その点でも、君を矢面に経たせる前に、俺が全滅させた方がいいだろう」

「っ!? わ、私が足手纏いだと言うのかしら!?」

今の(・・)お前は足手纏いだ」

 

リンの言葉に激したシルヴィだったが、リンに冷徹な目を向けられ言葉を呑んだ。

だが、リンもあっさり温度を取り戻すと、気まずげに頬を指で掻きながら、今度は言葉を選ぶようにしながらゆっくりと言い含めていく。

 

「シルヴィ、君を矢面に立たせるのは、チェスでキングを相手の陣地に突撃させるようなものだ。けど、誰もそんな悪手は打たない。そうだろ?」

「それは・・・・・・そうですけど」

「それに、今回はあっさり気配を掴ませるような連中だ。大した奴らじゃないから、君が動くまでもないよ」

「・・・・・・分かったわ。ただ、貴方も気をつけなさいね」

「ああ。それじゃ、ここで大人しくしておいてくれ」

 

そう言い、リンは扉を閉めると一転して鋭い視線になりながら足早に一階へ足を向けた。

 

 

 

 

「それで、どうするんだ?」

「そうだな・・・・・・」

 

雄一達は、一度なのは達のところまで引き返すと、どうするのかを話し合う。

 

「夜天の書はここにある。だから、ユーノはここに残るか?」

「どうだろう? 本体は確かにここにあるけど、解析データは(エレミア)のところなんだよね。それなら彼についていた方がいいのかな?」

「それはどうかな? 僕達の姿が見られないとはいえ、データをわざわざ広げるとは思えないんだが」

 

クロノの指摘に、そうだよなぁ、と思わず唸る雄一。

今の状況でどうやって問題のデータを手に入れるか、その手段が手詰まりになりつつある。

しかし、現状それを考える余裕は無く。

 

「とにかく、様子を見るしかないか。ユーノはこっちに残っていてくれ。クロノ・なのは・フェイト・アルフもこっちに」

「「「「「分かった(の)」」」」」

「残った面子でエレミアを追おう。それで、データを広げることがあったら、ユーノはエルミナで、俺はカナメで撮影しよう」

「それはいいけど、雄一は大丈夫なの? エルミナを持っていかなくて」

 

ユーノの懸念に、雄一は僅かに眉をしかめるが、すぐに頭を振った。

 

「大丈夫だ。魔法はカナメがアシストするし、契約の異能もある。そもそも、戦うことは無いんだから」

「あ・・・・・・それもそうか。分かったよ、預かっておくね」

 

今の状態の前提を思い出させると、ユーノはハッとして苦笑した。

彼方(あちら)からはもちろん、此方からも触れることはできないのだ。

警戒するだけ無意味といっても過言ではあるまい。

それを思い出したユーノは、エルミナを持ち直す。

 

「もういいか? それじゃ散開するぞ」

 

それ以上問題が無いことを確認すると、雄一は別行動の指示を出す。

 

「雄一君達も気をつけてね!」

「分かってるよ。それより・・・・・・なのは達こそ気をつけろよ?」

「? うん、大丈夫なの!」

 

雄一の危惧に気がつかず、なのはは首を傾げつつ頷いた。

 

雄一はなのはの返事にしばらく彼女を見つめていたが、不意に視線を切ると階段へと歩いていく。

 

「雄君? さっきのは何やったん?」

「ああ。この世界なら、大した危険も無いんじゃないのか?」

 

慌ててその背に追いついたはやてとヴィータが雄一に問う。

シグナム達も同じことを疑問に思ったのか、雄一の答えを待つ。

雄一は、少し考えたが振り返らずゆっくりと語った。

 

「この世界に来る前に、どんなリスクがあるのか話したことは覚えているか?」

「ん? それってたしか、過去であるこの世界に干渉してまうことで、未来である元の世界に影響してまう、ってやつのこと?」

 

はやての確認に雄一は頷く。

 

「なら心配は無いんじゃねえのか? 干渉が無いことはさっき確かめられたじゃねえか」

 

ヴィータは、なんだと言いたげに両手を後頭部で組みながら言った。

シグナム達も同様なのだろう、空気が緩みをみせる。

だが、雄一は首を横に振った。

 

「確かにその通りだけど、それが絶対じゃないのも確かだ」

 

かつて、実際に干渉が起きている。

その鍵になるのは、意志の強さだろう。

魔法も、魔力量だけでなく術者の意思が関わっているようで、魔力量の少ない者が勝つ、という事例は五万とある。

そして、契約も魔法もどちらも異能の力。

ならば、強い意志をもって放たれた魔法もこの世界に干渉してしまうのではないか。

それが雄一の危惧するところだった。

 

 

 

 

 

(雄一君はいったい何を気にしていたんだろう?)

 

雄一達と別れた後、なのは達は再び部屋に戻り、シルヴィがデータを広げないか注視していた。

その間、なのはは先ほどの雄一にされた問いについて考えていた。

 

(問題ないってことは雄一君だって分かっているはずなのに)

 

彼自身が実演して見せたことだ。

あのリンと呼ばれていた男の人はとても強い。

その人にも気がつかれないのだから、自分達のことが見つかる心配はないだろう。

 

それなのに、わざわざ雄一がした注意。

その意図を知ろうと、なのはは自分の内に沈んでいく。

だから、部屋の残る一同の中、それに気がつくのが一番遅れた。

 

部屋の中央、テーブルに座り夜天の書を手慰みに捲るシルヴィの頭上。

そこに現れた短剣が、シルヴィめがけて振り下ろされた。

 

それに一番早く反応したのは、奇しくも気づくのが一番遅れたなのはだった。

クロノ達は、雄一の危惧に気がつき、反応しても自分を押さえつけていた。

だが、なのはは素早くレイジングハートを構えると、

 

「危ない!」

<Devine Buster>

 

短剣めがけて砲撃を撃った。

 

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