リリカル世界を逝く影執事   作:ラッテンフェンガー

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閑話 その一 面会と伝言

これは、リインフォースを救う手段を探していた三日間の間の話。

雄一は管理局を訪れ、ある人物と面会をしていた。

 

「わざわざ来てもらって済まないね。榊雄一君」

「いえ。こちらも貴方とは会ってみたかったので。ギル・グレアム提督」

 

 

 

 

無限書庫へ行く途中、雄一はクロノから頼みがあると言われたのだ。

グレアムが面会を希望しているのだが、よかったら時間を取れないかと言われ、雄一も、人伝にしか彼のことを知らないことに気がつき、会ってみるのも一興かとその頼みを快諾したのだ。

そのまま、資料の調査をなのは達に任せて本局の一室に案内されたのだ。

監視をしていた武装隊魔導師に会釈をしつつ、クロノと別れて一人入室したのだが、

 

(帰りたい・・・・・・)

 

始まって早々に雄一は来たことを後悔し始めていた。

原因はグレアムの背後に控えているリーゼ姉妹にあった。

控えたまま、特に動きを見せる様子は無い。

だが、その視線は雄一を射ぬかんばかりに鋭く、特にリーゼロッテは苛烈な視線を向けており、その視線に雄一は居心地の悪い思いをしていた。

 

(ま、無理も無いことだけどな)

 

ちらり、と同じく控えているもう一人、リーゼアリアに目を向ける。

彼女の片袖には中身がなく空調の風に揺らいでいる。

そうなったのは、眠り続ける雄一の身体に触れ、<アルス・マグナ>によって消去されたという経緯は雄一も聞いた。

確かに、<アルス・マグナ>は今は雄一の異能だ。

雄一の意思がなかったとはいえ、その威力を身を持って味わった彼女達からすれば雄一は怨敵なのだろう。

そのことを咎める気は無い。

だが、

 

(こっちにとっても知ったことじゃないんだよ)

 

雄一達とて、はやてはもちろんシグナム達が蒐集されるという事態に遭っている。

ヴィータとて、雄一が居合わせなければ同じ状態になっていたことだろう。

 

「それにしても、驚いたよ」

「っ、何が、ですか?」

 

沈思していた雄一は、グレアムの言葉に我に返ると、すぐに問い返した。

 

「まさか面会を受けてくれるとは思わなかったからだ。君達にとって私は彼女を殺そうとしていた仇だろう?」

「・・・・・・確かにその考えが無いといったら嘘になりますね。しかし、私はそちらの事情は人伝でしたし、貴方に会ったこともなかったので。なら、これはいい機会と思っただけのことです」

 

そうか、と唇を歪めるグレアムに、雄一はその姿を観察していく。

彼も地球の人間であり、管理局員と出会ったことで関わるようになったのだとか。

穏やかそうな壮年の人物、というのが雄一の印象だった。

 

「それで。貴方は何故今回の件に?」

「クロノから聞いていないのかね?」

「聞きましたけど、時間がなかったので概略ですよ。あくまでクロノが必要と思った部分を教えられただけです。だからこそ、貴方からも聞いてみたかった」

「なるほど。それなら、少々長い話になるがいいかね?」

 

 

 

 

グレアムはクロノに話したことと同じことを雄一に話した。

グレアムの話は十一年前、前回の闇の書の暴走に遡った。

闇の書の封印に成功(・・)し、護送する最中、封印が解けてしまい闇の書は再び暴走したこと。

その結果、管理局は護送船を放棄、アルカンシェルによる撃墜を決意したこと。

その際、艦に残った人物がいたこと。

クライド=ハラオウン。

クロノの父であり、リンディの夫であった彼は暴走を最後まで抑えようとし、艦と最期を共にしたこと。

そのとき、アルカンシェルの発射を行ったのは上官であったグレアムだったのだということ。

一人を犠牲に艦隊を護ったこの判断は彼の胸中に暗雲を落としたこと。

そして、彼は闇の書の完全封印を決意し行動を開始したこと。

執念が実を結び、闇の書の転生先を突き止めたこと。

天涯孤独の身の上を知り、はやての父の友人を騙り、援助を申し出たこと。

 

「その後は、君も知るとおりだ」

「・・・・・・なるほど」

 

グレアムの話を聞き終え、雄一はそれだけを呟いた。

 

「つくづく、貴方は何でこんな手段をとったのかと思わざるをえませんね」

「そうだな。思えば、随分と目が曇っていたようだ。クロノに諭されるまでそんなことも分からないとは」

 

自嘲するように言ったグレアムだったが、その表情はさながら憑き物が落ちたように穏やかであった。

 

「・・・・・・」

「どうだったかね? これが私の事情だよ」

「さっきも言ったとおりですよ。それこそ、はやてに事情を話して協力を申し出ることもできたでしょう。それなのに、貴方は我々と管理局を分断することを選んだ」

「それは・・・・・・」

「「待て!」」

 

糾弾するように言う雄一に、グレアムは表情を変え何事かを言おうと口を開いた。

だが、それより早く叫びが上がった。

グレアムが振り返ると、控えていたリーゼ達が雄一を睨んでいた。

 

「あれは本当に私達の独断によるものだ」

「この件で父様を侮辱するつもりなら許さない」

「・・・・・・と言っていますが、本当ですか?」

「・・・・・・ああ。彼女達の言うとおり、アースラで君の姿をとって離間を図ったのは私も与り知らぬ出来事だった」

 

苦い顔で頷くグレアムの様子に、雄一も引き下がった。

グレアムによる策なら、リーゼ達がどう言ったとしても、それを隠そうとする人物ではないはず、と読んだためだった。

 

「・・・・・・いいでしょう。先ほどの発言は取り消します。ですが、先ほどの意見が私の意見と思ってくれれば」

「・・・・・・そうか。いや、時間を取らせてしまったな。ただ、最後に君に頼みたいことがある」

 

話はついた、と立ち上がろうとした雄一を押し留め、グレアムは一通の手紙を取り出した。

 

「それは?」

「これをはやて君に渡してほしい。私は、今回の件の責任を取り隠居するつもりだ。彼女が独り立ちできるまでは援助を続けるつもりだが、おそらくもう遭うことは無いだろう」

「詫び状、とでも?」

 

問うと、グレアムは頷き雄一にそれを差し出した。

 

「クロノに渡すことも考えたが、君に頼むべきと思ったんだ。そして伝えてくれないか? 済まなかったと」

「断る」

 

グレアムが頭を下げようとした瞬間、雄一は手紙を二つに破いた。

突然の凶行に、グレアムだけでなくリーゼ姉妹も目を丸くした。

 

「なっ!?」

「何を!?」

「そんなことを人に頼むんじゃない。はやての人生をお前の都合で閉ざそうとしたことが手紙に収まる程度の言葉で、いや、そもそも言葉で済むと思っているのか」

「そ、それは・・・・・・」

「いや、それだけじゃない。はやてが天涯孤独と知って喜んだと言ったな。その彼女から、もう一度手に入れることができた家族を、理不尽に奪い去ったお前達は、クロノの父親を奪った闇の書と何が違う」

 

グレアムの語った理由では、部下を見捨てざるをえず、その決断が部下の家族を悲しませたことに起因している。

だが、クロノはグレアムを恨むわけでもなく彼に師事し、リンディもクライドの死はグレアムの所為ではない、と語っていた。

つまり、グレアムの理由はその根元を失っているのだ。

 

「いわば、この件は貴方の復襲劇でしかない。それにはやてを巻き込む道理は無いはずです」

「だ、だが、闇の書をはやてごと凍結することもそれまで安らかに過ごせるよう整えてきたのも父様の優しさによるものだ!」

「そうだ! 闇の書が奪った命は一つや二つじゃ足りない、いや千や二千でも足りないだろう! つまり、それだけの恨みが向くということだ! はやてから闇の書を切り離す方法を探すのじゃなく彼女ごと封印することを選んだのは、生き延びたとしても彼女が受けるだろう迫害から護るためだ!」

 

青褪め言葉を失ったグレアムに代わってリーゼ達が必死に切り返す。

だが、

 

「だからどうした? それもお前達の理由だろ」

 

雄一はその反論も取り合うつもりはなかった。

 

「それも、穏やかな状況はよりはやてを絶望させて暴走させるため。迫害から護るためというのも、はやてにその意を問うたわけじゃないだろう」

「そ、それは・・・・・・」

「はやては守らなきゃいけないほど弱くはない。あいつはシグナム達を家族と呼ぶことがどういうことか、その重さを知った上で言っている」

「「「・・・・・・」」」

 

現実を突きつけられ、反論を失い顔を俯ける三人。

その三人をしばらく睨んでいたが、これ以上はお互い無益になると、雄一はふと肩の力を抜いた。

そのとき、

 

「やはり、春臣さんと彰子君の子だね」

「っ!?」

 

グレアムがポツリとこぼした呟きに雄一の思考が止まった。

 

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