「どういう、ことですか?」
「? ・・・・・・そうか、聞いていなかったんだね」
辛うじて搾り出した雄一の問いに、グレアムは怪訝な顔をしたが、やがて眉を寄せて溜め息をついた。
居住まいを正すと、真剣な顔で手を組み雄一に問うた。
「君はご両親の仕事について何か聞いているかな?」
「・・・・・・遺跡の発掘をしているってことは一応。あと、魔法に関わりがあることはなんとなくですが」
聞いていたのではなく、<アルス・マグナ>を通して見たものだったが、それを伏せておき伝える雄一。
ただ、グレアムは特に疑問に思った様子もなく、そうか、と頷くと話し出した。
「それも間違いではないが、それが全てではない。春臣さんと彰子君は、私達と同じ、地球の生まれだったのだよ。だけど、ある時発生した次元震に巻き込まれてしまい、ミッドチルダに飛ばされてきたんだ」
「・・・・・・」
「日本では神隠し、と言うのだったか。とにかく、管理局員が地球へと来た私や君達とは逆の形だったが、彼らは魔法というものを知った。当時のミッドチルダには、もう次元漂流者への対応が整備されていたんだ。それに則る形で二人も管理局の保護を受けることになったんだよ。その際、彼らも検査を受けてリンカーコアがあることが分かったんだ。その後、彰子君の方は管理局へと入局したんだ」
「母の方、ということは父は違ったんですか?」
「春臣さんは、思うところがあったらしくて入局はしなかったよ。けど、フリーランスの魔導師、嘱託魔導師として有事の際に手を借りていたよ。ただ、縁に恵まれていたのかその後知り合ったスクライアと行動を共にして遺跡を巡っていたらしい」
見た光景の中に、スクライアの名前が出ていたからそこに驚きは無い。
頷くと、グレアムはさらに話を進める。
「その後、管理局員となった彰子君は才能を発揮したんだろうね。あるとき、私の部下だったこともあったくらいだ。その最中、発掘品の護衛の任務を引き受けることになって、そのときに春臣さんと出会ったんだ」
「あ、その辺はいいです」
両親のロマンスを聞いたところで、どういう反応をすればいいのか分からず、雄一はその話を制止する。
それより、と話の筋を変える雄一。
「単刀直入に聞きます。グレアムさんは両親の死について何か知っていますか?」
「何?」
唐突な雄一の問いに、グレアムは眉根を寄せる。
「どういうことかね?」
「はっきり言うと、俺は両親の死に魔法勢力、もっと言えば管理局が絡んでいると思っています」
「「「なっ!?」」」
雄一の推測に思わず立ち上がるグレアム。
背後に控えていたリーゼ達も、さすがに聞き逃せず目を丸くした。
「・・・・・・何故そう思うのかね」
さすがに立ち直りが早く、グレアムは目を鋭くさせながら低く問うた。
雄一は、両親の死因である火事の不自然さを説明していく。
「あの火事は夜中に起きたものでしたが、火元は不明。家の外縁部に出火の後はなく、そもそも何から火が出たのかも不明ときている。さらに、犯人は不明、と言うか捕まった実行犯らしき男はその方法について記憶が無いときている。考えられるのは、心神喪失でしょうけど、魔法を知った今なら記憶消去も考えられる」
「いや、それはありえるかもしれないが・・・・・・いや、やはり突飛だろう。それなら、管理局員でなくても犯人足りえることだ」
「だけど、管理局が犯人でないとする証拠も無い。ただ、俺は管理局にとって、不都合なものを知ったか見つけたかしたことがあの火事の原因だと思うんです」
「それは・・・・・・だが・・・・・・」
雄一の推測に、否定しようとして言葉に詰まるグレアム。
管理局が潔白であると言うほど、グレアムも夢想家ではない。
グレアムも、管理局ならそれ位するのではないか、と考えてしまった。
言葉に詰まったグレアムの様子に、雄一は僅かに冷静さを取り戻すといまだ動揺しているグレアムに声をかけて意識を戻した。
「グレアムさん、取引をしませんか?」
「・・・・・・どういうつもりかね?」
「そちらの、リーゼアリアさんでしたよね。彼女の腕を治します。その代わりに二つ頼みたいことがあるんです」
「っ!?」
雄一の提案に、グレアムは今度こそ冷静さを失った。
「ほ、本当なのか!?」
「ええ」
グレアム以上に取り乱し、ソファーを超えて雄一に掴みかかろうとするリーゼロッテを雄一は押し留めつつ、グレアムを見つめた。
グレアムは、しばし呆然としたがやがて我に返ると首を振った。
「ありえない。アリアの腕はどんな」
「『どんな方法でも戻せなかった』ですか?」
グレアムの言葉を先取りし、ニヤリと笑いかける。
対するグレアム達は、警戒した様子で口を閉ざして雄一を注視した。
「そうでしょうね。ところで、グレアムさんは因果律というものをご存知ですか?」
「たしか、ある時刻における事象から、それより未来の時刻における別の事象が必然的に生じることだったかね?」
「その通りです。あるいは、ある時刻のできごとは、それより過去のできごとの影響しか受けないという原理が自然を支配している、と言うことでもあるんですが、それはともかくとして。クロノから聞いているでしょうが、私の能力はその因果に干渉するものです」
「確かにそう聞いていたが・・・・・・」
「リーゼアリアさんの腕は、いわば最初から無いことになっているわけです。無いものを治すことはできません。だから回復魔法は効果が無いんです」
「なるほど・・・・・・だが、君の希少能力は使うのにリスクがあるんじゃなかったかね?」
「まあ、ありますけど・・・・・・そもそも、頼み事はこっちも厄介なものを吹っ掛けるつもりですからそれくらいは払うつもりです」
雄一の身を案じるグレアムに、苦笑しながら言う雄一。
「そうか・・・・・・それで君は何を頼むつもりなのかね?」
「一つは、私の身元保証人になってほしいんですよ」
「私がかね? だが、私でなくても、リンディ君やテスタロッサ君でもよかったのではないかね?」
「それは考えないでもなかったんですけど、クロノやフェイト達と兄弟(妹)になると言うのはちょっと、と思ってしまって」
「・・・・・・深くは聞かないが。それで、もう一つというのは?」
「そうですね。もう一つは」
促すグレアムに、雄一は僅かに顔を強張らせつつ言った。
「両親の死について、探れる限りの情報を探し出してほしいんです」
「・・・・・・それは、確かに厄介ごとだね」
グレアムも事の厄介さを理解し顔を険しくする。
管理局へ疑いを深くする雄一には表向きの情報だけでは納得しないだろう。
だが、もし深く調べるうちに、闇を覗く事があったならば・・・・・・。
「それで、どうしますか?」
そのグレアムの迷いを悟り、雄一は一気に畳み掛けることを選ぶ。
「私は・・・・・・」
グレアムは迷いつつ、リーゼ姉妹を振り返るが、二人はグレアムの判断を信用しているようで、疑いなくグレアムを見つめている。
三人の視線を受けながら、グレアムはゆっくりと口を開き、
『主殿は悪党じゃな』
「いきなり酷いな、オイ」
部屋を後にして、海鳴へと繋がっているゲートを目指して歩いていく最中、カナメの暴言に雄一唇を歪めた。
『いや、あれは悪党と言われてもおかしくない』
「エルミナもか。何が悪党だって言うんだ?」
『何って』
『分からんのか?』
思わず反論すると、二機は呆れたように言った。
『<アルス・マグナ>で腕を治すのに、リスクはなかったのだろう?』
「・・・・・・さて何のことやら?」
『誤魔化しきれておらんぞ』
目を泳がせる雄一に二機の冷たい指摘が突き刺さる。
だが、雄一のその反応は二機の言葉を肯定しているようなものだった。
<アルス・マグナ>は確かにリスクがある。
だが、今回は小規模の、それも歌を必要としない程度の防衛反応への揺り戻しでしかない。
その程度ならば、大したリスクには繋がらないのであった。
『<アルス・マグナ>については君以上に詳しいのだよ。分からないはずもないだろう』
「御尤もだね。けど、取引は双方の合意だよ」
『この詐欺師め』
「違いない。だけど、」
カナメの言葉に、思わず苦笑した雄一はふと顔を引き締めた。
「もし、父さん達を殺した誰かが分かったのなら、どんなことをしてでも潰してやる」
そう、拳を握り締め、呟くのだった。