リリカル世界を逝く影執事   作:ラッテンフェンガー

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閑話 その五 人と人外

「どういう意味かしら?」

「あの結界に入れたからだ」

 

首を傾げるアリサ達に雄一は言う。

だが、アリサ達だけでなくなのはやはやても、雄一の言わんとするところが判らない。

ただ一人、フェイトが、あっ、と口を押さえた。

 

「どういうことなの、フェイトちゃん?」

「あの結界の効果で、私達だけが切り離されていたなら、すずかやアリサも消えていたはずなんだよ。なのに、二人があそこにいたことを疑問に思うべきだったって事だよね?」

「その通り。あの結界は俺達を逃がさないようにするためのものだったけど、あの中にはリンカーコア、もっといえば魔力がないと他の人と同じく、消えていたはずなんだ」

 

フェイトの言葉を肯定して説明する雄一に、アリサ達は自分達が体験したものを思い出す。

何処を探しても人っ子一人いない世界。

今思い出しても背筋が冷える光景だった。

 

「それで、あそこにいられるのはその、魔力がある人だけだ、って言うのね?」

「はっきり調べていたわけじゃないから断言はできないけどな。ただ、少なくとも、シグナム達が獲物を燻り出すために使っていたものと同じものだと思う」

 

物騒な言葉に、眉をひそめるアリサ。

そこへ、フェイトが割り入った。

 

「でも、それだけじゃ根拠には弱くないかな? 結界の展開によっては他の人が紛れることは無くはないと思うよ?」

「うん。私もそう思う。前にプールで同じことがあったもん!」

 

フェイトの言葉に追従するなのは。

だが、雄一は二人の疑問に、難しい顔で首を傾げた。

 

「確かに俺もその可能性も考えた。だけど、それならアリサ達以外の人間もいないと不自然だ。それよりは、結界の対象が魔力持ちで、二人に素質が在ったからって方がまだ納得がいく。だけど、そうなると、ユーノの念話に引っかからなかったことが問題になる」

「ユーノ君の念話?」

「四月の、あいつと初めて会った時のやつな。あの時のユーノの状態からして、あれはなのはに集中して送られたものじゃない。むしろ、届くやつには無差別に送ったはずなんだ。その方が助かる可能性はあるしな。けど、それが聞こえなかったって事は、二人にはその時点で素質は無かったはずなんだ。それなのに、八ヶ月経って素質が開いている、っていうのはどうなんだろうな?」

「あー・・・・・・ちょっと、ええかな?」

 

おずおずと手を挙げるのははやて。

 

「よう分からへんけど、魔法に触れたから、っていうのはないん? ウチも夜天の書が起動するまでは魔法なんて知りもせえへんだよ」

「それだと順番が逆だ」

 

結界に囚われたことで素質が見つかったのではなく、素質が在ったから結界に囚われた。

 

「それに、はやての場合、夜天の書に魔力資質もリンカーコアも蒐集されていたんだから」

「あ、そっか。それなら、なのはちゃんやフェイトちゃんの傍におったからってのはどうやろ? 二人とも魔力は強いんやろ? 魔力の強い人の傍にいて、魔力に目覚めるっていうの、よく在るやん?」

「それだと、今度は八ヶ月じゃ短すぎないか、って問題があるんだ。何も、なのは達はアリサ達と四六時中傍にいたわけじゃない。影響が皆無とはいわないけど不十分だと思う」

「んー・・・・・・そんなものやろか?」

 

雄一の説に首を傾げて難色を示すはやて。

見れば、なのはやフェイトも同様だ。

 

「もちろん、いままでの話はあくまで推論に過ぎない、あてつけのようなものだ。だから、」

 

ふと、雄一は言葉を区切ると振り向き、

失策に顔を歪ませながら言った。

 

「それほど深く考えなくてもいいんだぞ、すずか?」

「「「「え?」」」」

 

雄一の言葉になのは達がすずかを振り返ると、彼女は顔を青くして身を震わせていた。

 

「す、すずかちゃん?」

「ど、どうしたのよ?」

 

ただならぬ様子に、心配そうに声をかける二人。

だが、声を出せずにいるすずかの様子に、雄一は代わりに言った。

 

「心当たりがある、ってことだな」

「っ・・・・・・そ、それは・・・・・・」

 

思わずだったのだろう、勢いよく顔を上げるすずかだったが、すぐに我に返ったか勢いを失い再び俯いてしまった。

その様子に、フェイトは顔をしかめると雄一を睨んだ。

 

「雄一、ちょっとやりすぎだよ」

「フェイトちゃんの言う通りやで、雄君。これは触れたらあかん話題やと思うよ」

「二人の言うことも分かるんだけどな。ま、理由の如何を問わずに魔法に関わってもらうつもりだったけど」

 

踏み込んでいる自覚は雄一にも在るため、雄一もあっさりと下がると本題を言う。

今回は間に合うことができたが、知らぬ内にまた巻き込まれるようなことになったら、さらに、万が一のことが在ったら。

それを避けるためにも、二人にも最低限防御形の魔法を使えるようにはなってもらいたい、というのが雄一の思いだった。

 

「ならなんで聞いたのよ?」

「方針を立てるのに役立つかと思ったんだよ」

 

半眼を向けるアリサに、さすがに居心地悪く答える雄一。

すると、

 

「ま、待って!」

 

突然、すずかが一同を制した。

その声に一同の目がすずかへ向けられた。

 

「皆、聞いてもらえるかな」

 

 

 

 

「・・・・・・吸血鬼」

「それに夜の一族に龍の一族、か」

 

すずかの話を一通り聞くと、なのはが呆然と呟いた。

アリサはもちろん他の魔法関係者も思わぬ話に皆言葉を失う。

すずかの家、月村は吸血鬼の一族であり、すずかも血が薄いとはいえ吸血鬼なのだという。

そして、彼女が属する夜の一族は龍の一族と敵対しているのだという。

 

「だから・・・・・・私は、人間じゃない・・・・・・化け物で」

「・・・・・・すずかちゃん」

 

沈痛な表情でこぼすすずか。

彼女の様子に、はやても同じく表情を沈ませる。

だが、

 

「それで?」

 

雄一は真顔で問い返していた。

その調子に、かえってすずかの方が戸惑った。

 

「それで、って、え?」

「吸血鬼といっても、伝承どおりってわけじゃないんだろ?」

 

雄一の知る限り、すずかは日光やにんにくに拒否感が在るわけでもなく、十字架や流水を苦手としているわけでもない。

そもそも、

 

「第一、すずかは人を襲うのか? 俺達を襲って血を吸いたいって思うのか?」

「そんなの、思うわけない!」

 

雄一の問いに、眦に滴を滲ませながら叫ぶすずか。

その様子に、雄一は変わらず肩を竦めた。

 

「だろうな。それなら、俺達がすずかを怖がる理由が在るのか?」

「そ、それは・・・・・・でも、私は、化け物で」

「すずかが化け物だったら、俺は何なんだよ」

「え? それって?」

「少なくとも、俺の異能は人を簡単に殺せる。それどころか、その人が存在した、って情報そのものを消すこともできてしまう」

 

精霊の異能は容易く人を傷つけられる。

それこそ、<アルス・マグナ>なら、対象の因果そのものを弄ることもできるだろう。

 

「そんな俺だけど、すずかは俺が怖いと思うか?」

「そんなことないよ!」

「なら、問題ないよな?」

 

激しい否定をするすずかに、笑みを浮かべる雄一。

その笑みに、すずかは毒気を抜かれてしまい、ポカンとしてしまった。

 

『すずか、おぬしは自分が人でないと言うたな』

「そうで・・・・・・え、今のは?」

 

突然の声に、応えてから声の主に聞き覚えがないに気がついたすずかは周囲に目を動かした。

その中、雄一は懐から懐中時計を取り出すと、机の上に置いた。

 

『ここじゃ』

「え? 懐中時計から声が?」

「これがデバイス。そして、こいつは俺の相棒でカナメっていう」

 

すずかとアリサに、雄一はデバイスについて説明する。

すずか達は、雄一の説明やなのは達の補足を聞きながら、カナメの言葉に耳を傾ける。

 

『先ほど主殿が言ったとおり、契約者の異能は容易く人を殺せる。私も人を斬ったことがある』

「「・・・・・・」」

 

人を斬った。

それがどういう意味か、分からぬすずか達ではない。

 

『だから、私も惑うた。契約者は人ではないとな。じゃが、そんな時、ある契約者に言われたのじゃ。「たとえ誰が否定しようとも、私がそうであることを否定しない限り、私は人間です。貴女は本当はどちらでいたいのですか」とな』

「本当はどちらでいたいのか・・・・・・ですか」

『すずかよ、おぬしはどうなのじゃ?』

「私は・・・・・・私は人間です!」

『ならば、それでよいのではないかの?』

「それで・・・・・・いいんですか?」

 

カナメの断言に、すずかはなのは達へと問うた。

 

「皆は・・・・・・それでいいの?」

 

すずかとしては、崖から飛び降りるような思いの問いだった。

だが、

 

「当たり前じゃない!」

「もちろんなの!」

「すずかはすずかだよ」

「それにすずかちゃん、吸血鬼っぽくないやん♪」

「約一名、空気読め。具体的にはそこの狸」

「ヒドイ!?」

 

変わらぬ遣り取りを交わすなのは達。

その様子に、すずかは初めは呆然としていたが、やがて柔らかに微笑んだ。

 

「皆・・・・・・ありがとう!」

 

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