リリカル世界を逝く影執事   作:ラッテンフェンガー

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第百四十五話 年の瀬と新たな幕開け

『けれど、ホンマに驚いたんやで!』

「ああ、ああ、悪かったって。だから、その話は勘弁してくれ」

 

雄一は辟易した様子で、いまだに文句を伝えてくる携帯電話から耳を離した。

電話の相手ははやてであり、何の話かというと昨日の携帯電話購入についてだ。

 

携帯電話購入の保証人として、グレアムに来てもらった雄一だったが、彼は一つミスをしていた。

はやてとグレアムが関係を既に清算しているものと思っていたのだ。

だが、グレアムは拘留と手続きで動けず、はやても病院から離れられず、二人とも事件後それが初めての対面だったのだ。

雄一に連れられ姿を見せたグレアムの姿を見て顔を青褪めさせ怯えるはやての姿に、首を傾げる雄一の隣にいたグレアムは、自分のしようとした事の重さを思い知ったのか顔を歪ませると、彼女へと深く頭を下げた。

その様子に、はやてだけでなく、警戒していたなのは達も目を丸くした。

その間に、疑問から立ち直った雄一は、両者を押し留めると、事情の擦り合わせに入った。

その後、落ち着きを取り戻したはやてとグレアムは話し合い、はやてが独り立ちするまでは援助を続けることになったのだと、後ではやてから雄一は聞いたのだった。

 

「とっくに、決着がついていると思ったんだよ」

『せやかてなぁ・・・・・・』

「それより、明日はそっちにお邪魔するって事でいいよな?」

 

大晦日を明日に控え、雄一ははやてから大晦日八神家に呼ばれているのだ。

 

『うん! 御節とかたっぷり用意しとるから、楽しみにしとってな!』

「はやての料理は美味しいから期待している。ああ、それとこっちも手土産くらいは用意していくよ」

『うーん・・・・・・それは嬉しいんやけど、雄君かてまだ落ち着いてないんやから、気を遣わんでもええよ?』

 

雄一は、先の事件で家無き子となっており、アースラで一室を借りて起居していたのだが、グレアムから海鳴で使用していたセーフティハウスを借り受けることになったのだ。

そこがはやての監視のために使われていたことを考えると、少々げんなりしていたものだが、最低限ながらも生活環境が整えられていたのでありがたく使わせてもらっているのだ。

ただ、やはり最低限であるためそれほど手の込んだ調理はできないのだが、

 

「まあ、その辺は考えてあるから、楽しみにしておいてくれていい」

『そうなん? それなら、楽しみにしとるな?』

「ちなみに、今の案は甘酒だ」

『って、いきなりネタばれかいっ!? しかも甘酒とか、ウチら未成年やで!?』

「それなら心配はない。手間を掛けた物ならアルコールは含まないから」

『どういうことや?』

 

さて、甘酒を造るには大別して二種類の方法がある。

一つは、酒粕を水に溶くことで造るもの。

もう一つは、炊飯器などを使って米を発酵させて造るものだ。

前者はアルコールを含むが、後者には含まれず、雄一は今回はこちらを作るつもりだった。

 

(もっとも、いまから作るとなると、ちょっと寝る時間はなさそうだけどな)

 

ただ、その方法だと、発酵させるのに時間がかかるのだ。

量次第だが、およそ六から八時間くらいだろうか。

 

『もしもし? 雄君? 聞こえとる?』

「ん、ああ。聞こえてる。すまない、ちょっとボーっとしてた」

 

いつの間にか思考に沈んでいた雄一は、はやてに呼ばれ我に返った。

 

『気ぃつけなあかんで。音からして、雄君、部屋やなくて外に出とるんやろ?』

「ああ。けど、大丈夫だって。家まではすぐだし、今夜は空気も澄んでいるから。ボーっとしてきても、こうやって空を向いて深呼吸でもすればすぐに」

 

心配するはやてに軽く返しつつ、ヒョイッと空を見上げる雄一。

途端、

 

「っ!?」

『<主殿!>』

 

違和感が雄一の身体を駆け抜けると同時に、懐のカナメが鋭く警告を寄越した。

瞬時に、地を強く蹴ってその場を離れると、雄一はあたりに目を凝らす。

先ほど違和感を感じたあたりに目を凝らして、それを見つけた雄一は眉をひそめた。

 

「これは・・・・・・」

『雄君、どないした!?』

「なあ、はやて・・・・・・今目の前に結界ができたんだけどさ。そっちに、シグナム達っている?」

『? んー、ちょい待ってな? (シグナムー! 雄君が皆おるかって!)

 

雄一の問いに、はやてが受話器の向こうでシグナムに尋ねるのを耳にしつつ、雄一は耳を欹てて待つ。

はやてはそれほど経たずに戻り、受話器を手に取った。

 

『お待たせ。それで、皆おったけど、どうしたん?』

「その結界なんだが・・・・・・どうにもベルカ式のものなんだよ」

『・・・・・・なんやて?』

 

はやての声を聴きながら、注意して結界を精査していく雄一。

 

(術式はやっぱりベルカのもの・・・・・・だけど、ベルカ勢は全員動いていないはず。だが、事件は終わって、闇の書は夜天の書に戻った。だとしたら、別にベルカ式を使える魔導師が海鳴に入ったのか?)

『雄君!? 聞こえとる!?』

「はやて。とりあえず、俺は結界に踏み込んでみるつもりだ。一度電話を切るぞ」

『あ、ちょ!?』

 

はやてが何か言う前に、携帯は切ってしまう。

そして、雄一は結界へと一歩踏み込んだ。

 

 

 

「あ、ちょ、待ちぃ! って、あんのアホ、切りよったな!?」

 

電話に叫んだところで、聞こえてきた電子音に回線を切られたことを悟り、はやては受話器を叩きつけた。

ベルカ式の結界といわれたはやての脳裏を過ぎったのは、自分に隠れて蒐集を行っていたシグナム達。

だが、彼女達にはもうその必要はない。

それに、彼女達は今そこに・・・・・・・。

 

「主、ちょっと宜しいでしょうか?」

「あれ? リインフォース?」

 

シグナム達の姿を探していると、ヴィータと共にソファで座っていたリインフォースがはやてに歩み寄ってきた。

見れば、一緒にいたはずのヴィータの姿がない。

そのことに、まさかと思いつつ、はやてはリインフォースに尋ねようとした。

 

「な、なあリインフォース? ヴィータはどうしたん?」

「それも含めて、お話したいことが在るのです。実は――」

 

それから少しして、はやては八神家を飛び出していくのだった。

 

 

 

「・・・・・・あれは?」

 

結界の中を進む雄一の目に映った戦闘に雄一は目を細めた。

戦っているのは魔導師が二人、撃ち放たれる魔法の魔力光は桃と橙。

その色に思い当たる人物の組み合わせに、雄一は眉を寄せた。

 

(なのはにヴィータ? なんであの二人が戦っているんだ?)

 

首を捻りつつ、戦闘空域へ急ぐ。

近づく雄一の目にやがて姿を現していったのは、予想通りなのはとヴィータの姿。

 

「やぁああああ!!」

「っらぁああああ!!」

「っ!? 危ねぇっ!」

 

レイジングハートを振り上げるなのはとアイゼンを振り上げるヴィータ。

その姿に、雄一は両者の間に飛び込み、

 

「カナメ、エルミナ!」

『承知!』

『ああ』

 

レイジングハートとアイゼンを展開したカナメとエルミナで受け止める。

そのまま、二人を問い詰めようと、雄一は口を開き、

 

「雄一君、危ない!」

「があっ!?」

 

なのはの悲鳴と同時に、脇腹に走った激痛に雄一は身体をくの字に折った。

見れば、ヴィータのブーツが突き刺さっている。

迫る追撃を叩き落し、雄一はなのはの傍へと下がった。

 

「雄一君、大丈夫!?」

「~~っ! な、なんとかな。それより、どういうことだヴィータ!」

 

心配するなのはになんとか答えると、雄一はヴィータを問いただす。

だが、

 

「あぁ!? テメェなんざ知るかよ!」

「何?」

「駄目なの、雄一君」

 

敵でも見るような目で睨むヴィータの様子に疑念が膨れ上がる中、なのはが首を横に振った。

雄一はヴィータから目を離さずに、なのはに問うた。

 

「どういうことだ?」

「ヴィータちゃん、まるで私達のことを知らないみたいで・・・・・・はやてちゃんのことも」

「知らないってことか・・・・・・」

 

その話に思いつくのは、偽者という可能性。

さっきまでの電話で、ヴィータは八神家にいたことが確認できている。

なら、ここにいるヴィータは偽者ということなのだが、

 

(問題はなんでそんなことになっているのか、だな)

「何、ごちゃごちゃやってんだ! アイゼン!」

 

考え込んでいると、痺れを切らしたヴィータが叫んだ。

見れば、手に鉄球を生み出し、撃ち出そうとしていた。

 

「っと、考えている場合じゃないか! なのは、とにかくまずはヴィータを無力化するぞ!」

「う、うん!」

 

雄一は、なのはを促すと迎撃に出るのだった。

 

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