『主殿よ』
フェイトと別れ、次の結界を目指して飛ぶ雄一に、カナメが声をかけた。
「なんだ?」
『何故、はやてが危ういと?』
守護騎士達やリインフォースもいるのだ。
そうそう窮地に陥ることはないだろうと、考えるカナメをしかし雄一はきっぱりと否定した。
「それは、はやての傍に守護騎士達がいれば、の話だ。おそらく、シグナム達は管理局の要請を受けて闇の欠片への対処のため方々に散っているはずだ」
だとすれば、はやての傍に残るのはリインフォースのみ。
もちろんリインフォースが弱いなどとは言わない、言わないのだが。
「そうすると、今度ははやての参戦が問題になる。はやてのことだ、家族が戦っていて自分もその場にいたなら、大人しく控えているとは思えない。そうすると、リインフォースははやてを庇いながらの戦いになるだろう。能力も経験も高いけど、融合機の機能が失われているのは大きい」
雄一が施した処置は、言ってみれば丸めた紙を延ばして再び平坦にするようなものだ。
平らになっても丸めた痕は残っている。
融合機の機能消失がその痕にあたるのだ。
それに、と雄一は苦虫を噛み潰したような表情に、より苦みを走らせた。
「たぶん、残っている三人の内、二人は収束砲撃と広域殲滅型だ」
『何故そう思うのじゃ?』
何故、マテリアルが四人だけと思ったのか。
そして、戦力が予想できるのか。
二つの意味を込めて問うカナメに雄一は仮説を説明していく。
「奴らは、闇の書が蒐集したリンカーコアから読みとった情報をベースにして存在いるはずだ」
さっき戦った雷刃の襲撃者は、<クフ・リーン>の制約を知っていた。
その情報の出所はどこなのか。
そして、フェイトを指してオリジナル、と呼んだのは何故か。
これらは、構造体がフェイトのリンカーコアをベースに闇の書の情報を記憶としている、と考えれば筋は通る。
「俺が知る限り、リンカーコアの蒐集を受けた魔導師は俺・はやて・なのは・フェイトの四人だ。後三人もコピーされていると考えられる」
『なるほどの。じゃが、リンカーコアを蒐集されたのは何もお主達だけではあるまい? それこそあの騎士達もされておるし、魔法生物からも蒐集しておったはずじゃ』
さらに、シグナム達が雄一に蒐集を隠していた時期もある。
そのときに管理局員から蒐集をしていたのでは、という可能性も否定できないのではないか。
「それはあるだろうな。だが、それでも、奴らがベースにするのは俺達だって断言できる。まず、魔力量。他の管理局員の魔力量じゃ、あいつらどころか魔法生物の方が上の場合だって少なくなかった。だから、管理局員が元になる可能性は削っていいだろう。そして、魔法生物を省いているのは人型かどうかだろうから、人外も除外。シグナム達は蒐集されたのは今回が初めてじゃないし、あいつら自身も闇の書の一部だ。わざわざリンカーコアから読み取る必要はないし、それでいいならさっきの奴もフェイトの姿をとる必要はないだろうな」
『なるほどの。じゃが、それが何故はやての危機へと繋がる?』
「マテリアルが読みとったのは記憶だけじゃない。さっきのマテリアルをみた限り魔力資質もコピーされているようだ。なら、なのは達のコピーもそれぞれの資質を使えるということになる。そうなったら、はやてとは相性が悪い」
はやての資質は、闇の書の暴走体が見せた広域殲滅。
広範囲を一度に攻撃するため、フェイトのような接近戦中心の魔導師に対して相性がいいのだが、なのはのような砲撃中心の魔導師が相手になると、一撃の圧力で競り負けてしまう。
「だから、はやてが相性がいいのは、さっきのフェイトのコピーなんだよ」
『だったら、はやてのコピーとぶつかればいいのではないかね?』
エルミナの疑問にも雄一は首を横に振る。
「そうでもない。すると、今度ははやてが魔法に触れてからの時間の短さが問題になる」
はやてが魔法を学びはじめてまだ一週間も経っていないのだ。
対するマテリアルは戦意も魔法運用も高い。
そんな敵相手に彼女が殺意を向けられて冷静に動けるだろうか。
「少なくとも、なのはやフェイトは非殺生とはいえ魔法を使った戦闘を経験している。だが、初陣のはやてには荷が重いだろう」
『言いたいことはわからんでもないが――主よ、お主は考え過ぎじゃ』
「・・・・・・何?」
だが、雄一の懸念は、カナメに否定された。
眉を寄せる雄一に、カナメはよいか、と前振り言った。
『確かに戦いで相性は重要じゃ。じゃが、それが全てではない。時に思わぬことで戦況はひっくり返るものじゃ』
「たしかにそうだが・・・・・・」
『それに、あやつとて、己の未熟さは知っておろう。引き際は間違えぬよ」
「むぅ・・・・・・」
『それとも、』
一泊置き、カナメが一段声を落とし問うた。
『信じられぬか?』
「っ、そんなわけあるか!」
『なら、それでよかろ?』
雄一の強い否定に、対照的に穏やかに言うカナメ。
その口調に、むしろ肩透かしを受けた雄一は、それでもと言い募ろうとする。
だが、
『二人とも、話はそこまでだ』
エルミナの言うとおり、遠目に見えてきた結界に雄一は言葉を吞み込み、スピードを上げた。
「くっ、スレイプニール!」
危機感に従って、はやては翼を操作する。
羽ばたきで、僅かに体が横へと動き、直後その空間を銀色の光線が突き抜けた。
辛うじて、かわせた一撃に背筋が冷たくなるのを感じながら、はやては手に持つ杖を振り上げた。
「クラウ・ソラス!」
はやてが気合を込めて杖を振り下ろすと、展開されたベルカ式の魔方陣から銀閃が奔った。
はやての撃てる魔法の中でも高威力の一撃だった。
だが、はやての表情に余裕はない。
なぜなら、
「甘いわ! アロンダイト!」
鏡に映すように撃ち出された銀光が、はやてのものとぶつかり食い破った。
慌てて斜線から身を逃そうとするが、挙動が一瞬遅れたはやて。
そこへ砲撃が迫り、
「我が主!」
直前、はやての前に飛び出たリインフォースが障壁で受け止めた。
「リインフォース! おおきにな!」
「いえ、主こそご無事で何よりです・・・・・・ですが」
口淀むリインフォースに、そうやな、と言葉にせず同意し、はやては相手を見据えた。
はやてと同じく、黒い三対の翼で飛ぶ少女。
はやてとそっくりでありながら、銀の髪であり表情も凛としている。
そして、手に持つ剣十字と本型のデバイス。
それが、はやてのマテリアルだった。
マテリアルは、はやてそっくりの顔で、しかしいやらしい嘲笑を浮かべた。
「どうした? もう終わりか? 小鴉と融合機よ」
「ま、まだまだや!」
「そうか。そうでなくてはな。この程度では興醒めだ。もっと我を楽しませよ!」
嘲笑に怒声を上げるはやてを、傲然と見下ろしながら新たな魔方陣を展開するマテリアル。
すぐさまはやても魔方陣を展開して迎え撃つ。
「ドゥームブリンガー!」
「バルムンク!」
ほぼ同時に、魔方陣から五本の魔力刃が放たれ、両者の間で衝突した。
その結果に、しかしはやては苦い表情を、マテリアルは余裕の表情をそれぞれ浮かべた。
はやてに対して、マテリアルはまだ余力がある。
はやて達もそれは判っているため、ジリ貧の状況を打開するための方策を探す。
その時、ふとマテリアルが表情を変えた。
浮かべたのは失望。
「それにしても・・・・・・やはり、この程度か。玉座を蹴ったばかりか、役にも立たぬ道具を生かそうなどと考える輩が我のオリジナルだとは」
「・・・・・・なんやて?」
ため息交じりの言葉に、はやての目が変わった。
いつもは、笑みが浮かぶ目に、明確な怒りが宿る。
「その言葉、訂正せぇ! リインフォースは役立たずでも、道具でもない、私の家族や!」
「我が主・・・・・・」
怒気も顕に言うはやてに、リインフォースは目を細める。
だが、一方のマテリアルは、一転してつまらなげな表情を浮かべた。
「言いたいことはそれで終いか? 本分を果たせぬ道具を役に立たぬということの何がおかしい?」
「くっ!」
マテリアルの言葉に、リインフォースは歯噛みする。
本来、ユニゾンデバイスである彼女は持ち主と融合することで、持ち主に絶大な力を与える。
それと同時に、融合相手の魔法使用の処理を一部引き受け効率化させると共に、夜天の魔導書をスムーズに活用する管制者としての機能があった。
だが、今の彼女はその融合機としての能力を喪失している。
マテリアルの言葉は、リインフォースも思っていたことだった。
だが、それをはやては真っ向から否定する。
「この子は家族や言うたやろうが! 戦うだけが本分とちゃうんや!」
「・・・・・・これ以上は聞き苦しいな。もういい。二人まとめて塵と消えるがよいわ!」
マテリアルは眉をひそめ、杖を掲げる。
「絶望に足掻け塵芥、エクスカリバー!」
マテリアルが展開した魔方陣から、魔力の奔流が二人を吞み込まんと奔る。
「リインフォース!」
「我が主!」
はやて達はお互いを庇おうと動き、障壁を重ねる。
だが、迫る魔力に感じる圧力に、二人の表情は強張る。
(あ、あかんか!?)
(このままでは・・・・・・せめて主だけでも!)
眼を瞑るはやてを庇うように抱き込むリインフォース。
そのため二人はそれを見逃した。
横合いから飛来した瓦礫が二人の前に飛び込むと、ピタリと止まり砲撃を受け止めた。
普通ならただの瓦礫など関係なく破壊されるところだが、瓦礫は砲撃を受け止め散らした。
「なんだと!?」
その結果にマテリアルは驚き、瓦礫が飛来した方向を睨んだ。
そこには、
「危惧したとおりだったけど・・・・・・なんとか最悪は免れたようだな」
「うぬは・・・・・・闇の書の闇を打ち砕いた、混ざり者か!」
瓦礫を割り込ませた榊雄一の姿があった。